2022年10月31日月曜日

「現代社会と福祉」は難しい?

社会福祉士のカリキュラムは,平成19年度改正を経て,令和元年度改正がありました。


令和元年度改正のカリキュラムの「社会福祉の原理と政策」は,


社会福祉原論

 ↓  ↓

現代社会と福祉

 ↓  ↓

社会福祉の原理と政策


と変遷しています。


第36回国家試験までは,平成19年度改正のカリキュラムの内容によるもので実施されます。


具体的には,第35回と第36回が「現代社会と福祉」です。


以前のことや今後のことを考えても,「今」受験する人には意味がないかもしれませんが,「現代社会と福祉」は,「社会福祉原論」や「社会福祉の原理と政策」と比べると,おそらく若干取り組みやすい科目となっています。


第32回・問題24 1950年代から1970年代にかけての社会福祉の理論に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 木田徹郎は,社会事業を,資本主義の維持という側面から,賃金労働の再生産機構における「社会的問題」の緩和・解決の一形式と捉えた。

2 三浦文夫は,政策範疇としての社会福祉へのアプローチの方法として,ニード論や供給体制論を展開した。

3 岡村重夫は,生活権を起点に据えた実践論・運動論を組み入れた社会福祉学が総合的に体系化されなければならないと論じた。

4 孝橋正一は,社会福祉の固有の機能を,個人とそれを取り巻く環境との間の不均衡を調整し,環境への適応を促すことと論じた。

5 一番ヶ瀬康子は,政策論よりも援助技術論を重視すべきと論じた。


こういった問題は,平成19年度カリキュラムでは,ほとんど出題されて来なかったですが,「社会福祉原論」の時代ではよく出題されてきたものです。「社会福祉の原理と政策」でも出題されていきます。


なお,この問題の正解は,選択肢2です。


「現代社会と福祉」も決してやさしい科目ではありません。


しかし,10問出題される問題の半分は教科書には載っていないものですが,正解できる可能性のある問題です。


今日から科目は「現代社会と福祉」に取り組んでいきますが,一つひとつを確実に覚えていけば,決して怖くない科目です。


※今日の問題はお休みします。

2022年10月30日日曜日

ラベリング理論

 今回は,ラベリング理論を取り上げます。


ラベリング理論は,周りが逸脱者だとレッテルを貼ることで逸脱すると考えるものです。


ラベリング理論で着目するのは,レッテルを貼られる側ではなく,レッテルを貼る側の問題です。


それでは今日の問題です。


第29回・問題21 ラベリング論の説明として,正しいものを1つ選びなさい。

1 機能主義的な立場から順機能・逆機能,顕在的機能・潜在的機能といった概念を導入しつつ,逸脱や逸脱行動を説明する立場である。

2 地域社会にある文化摩擦に着目し,社会解体がその地域の犯罪などを生み出すとみる立場である。

3 資本主義社会における生産関係の矛盾から派生してくるものが社会的逸脱であるとみる立場である。

4周囲の人々や社会統制機関などが,ある人々の行為やその人々に対してレッテルを貼ることによって,逸脱は作り出されるとみる立場である。

5 犯罪や非行などの社会問題は,下位集団文化の中で学習され,その文化を通じて世代から世代へと伝承されていくとみる立場である。


正解はすぐわかりますが,それ以外は難しく,今まで出題されなかったものを含んで出題しています。


そのように出題すると問題の難易度が上がります。


それでは,解説です。


1 機能主義的な立場から順機能・逆機能,顕在的機能・潜在的機能といった概念を導入しつつ,逸脱や逸脱行動を説明する立場である。


これは緊張理論(アノミー論)を述べたものです。解説を見ているので緊張理論だと書けますが,国試が実施された当時は,ラベリング理論ではないことはわかりましたが,それでは何のことを述べたものであるのかまではわかりませんでした。


しかし,順機能・逆機能について述べたのはマートンです。緊張理論を述べたのはマートンなので,そこから緊張理論ではないかと推測することは可能です。


2 地域社会にある文化摩擦に着目し,社会解体がその地域の犯罪などを生み出すとみる立場である。


これは社会解体論を述べたものです。


国家試験には脈々と流れる文脈が存在します。試験委員が変わってもこういったものが正解になることはめったにありません。


国家試験問題よりも模擬試験の方が点数が取れないのは,そういった文脈を無視して(あるいは知らない?)問題を作っているからだと考えています。


3 資本主義社会における生産関係の矛盾から派生してくるものが社会的逸脱であるとみる立場である。


これはコンフリクト理論を述べたものです。


国家試験問題は,5つの選択肢が必要なので,「その他」みたいなものを出題する必要があります。これは数合わせで出題したものだと考えられます。覚える優性度合いはかなり低いと言えるでしょう。


4 周囲の人々や社会統制機関などが,ある人々の行為やその人々に対してレッテルを貼ることによって,逸脱は作り出されるとみる立場である。


これが正解です。


レッテルを貼る」というところから,ラベリング理論であることがすぐわかります。


5 犯罪や非行などの社会問題は,下位集団文化の中で学習され,その文化を通じて世代から世代へと伝承されていくとみる立場である。


これは文化学習理論(分化的接触理論)を述べたものです。


2022年10月29日土曜日

アノミー論(緊張理論・社会緊張理論)

 今回は,アノミー論を取り上げます。


アノミー論(緊張理論,あるいは社会緊張理論)は,文化的発展によって人々の欲求が高まるが,その欲求を満たすことができないときに逸脱すると考えるものでしたね。


覚えていない人は,復習してから今日の問題を解きましょう。

https://fukufuku21.blogspot.com/2022/10/blog-post_28.html


それでは,今日の問題です。


第33回・問題-21 次のうち,マートン(Merton,R.K.)が指摘したアノミーに関する記述として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 ある現象が解決されるべき問題とみなす人々の営みを通じて紡ぎ出される社会状態を指す。

2 下位文化集団における他者との相互行為を通じて逸脱文化が学習されていく社会状態を指す。

3 文化的目標とそれを達成するための制度的手段との不統合によって社会規範が弱まっている社会状態を指す。

4 他者あるいは自らなどによってある人々や行為に対してレッテルを貼ることで逸脱が生み出されている社会状態を指す。

5 人間の自由な行動を抑制する要因が弱められることによって逸脱が生じる社会状態を指す。


理論系の問題は,表現が変わるので,丸覚え勉強している人は歯が立ちません。


それでは,解説です。


1 ある現象が解決されるべき問題とみなす人々の営みを通じて紡ぎ出される社会状態を指す。


これは構築主義を述べたものです。


2 下位文化集団における他者との相互行為を通じて逸脱文化が学習されていく社会状態を指す。


これは,文化学習理論を述べたものです。


3 文化的目標とそれを達成するための制度的手段との不統合によって社会規範が弱まっている社会状態を指す。


これが正解です。アノミー論は,文化的発展によって人々の欲求が高まりますが,その欲求を満たすことができないときに逸脱すると考えるものです。


お金があれば,愛情以外は何でも手に入ると思いますが,お金がなければ欲しいものを手に入れることができません。それでも手に入れたいと思った時に犯罪に手を染めてでも手に入れようとします。


社会規範が弱まっていると逸脱しやすくなります。

テレビドラマ「相棒 season21」第3話では,警察官が難病である自分の子の手術費用を手に入れるために,押収した覚せい剤を売人に横流ししたという話が描かれました。

もし子の難病を治療する医療技術が開発されていなければ,犯罪に手を染めることもなかったでしょう。

この話では,同僚の警察官が自分の子も難病で亡くしていて,この犯罪に協力してしまいます。同僚は社会規範的な役割になり得たと思いますが,そういった理由で手を貸してしまいました。

この話はこのようにアノミー論で説明できます。


4 他者あるいは自らなどによってある人々や行為に対してレッテルを貼ることで逸脱が生み出されている社会状態を指す。


これは,ラベリング理論を述べたものです。


レッテルを貼るという表現が見られるので,ラベリング理論だとわかりやすくなっています。


5 人間の自由な行動を抑制する要因が弱められることによって逸脱が生じる社会状態を指す。


これは社会統制論を述べたものです。


〈今日の一言〉


今日の問題はなかなかの難問でした。


しかし,出題されている内容は,今までに出題されたものだけで構成されています。そういった面では,知識のある人にとっては,答えがわかりやすい問題だったと言えるのかもしれません。

知らないものが一つでも含まれると問題の難易度は急に上がります。答えは同じであっても,ほかの選択肢との関連によって難易度が変わります。

一問一答式の勉強も良いですが,最後には必ず5者択一(択二)の問題で答えを選ぶという訓練で仕上げることが大切です。

2022年10月28日金曜日

社会問題のとらえ方~構築主義

今回は,社会問題のとらえ方のうち,構築主義を取り上げたいと思います。

 

国家試験で出題される主な逸脱行動理論 

ラベリング理論

周りが逸脱者だとレッテルを貼ることで逸脱すると考える。

分化的接触論

(文化学習理論)

逸脱者と交流し,逸脱行為を学ぶことで逸脱すると考える。

アノミー論

(緊張理論)

文化的発展によって人々の欲求が高まるが,その欲求を満たすことができないときに逸脱すると考える。

社会統制論

(社会的絆理論)

人の絆があるとき,仕事や学業などに打ち込んでいるときは,逸脱が減ると考える。

 

テキストには,漂流論(ドリフト論)なども記載されていますが,とりあえず,上記の4つを覚えておけば十分でしょう。

 

このほかには,今回のテーマである構築主義を押さえておきたいです。

 

構築主義は,社会問題は,ある状態を解決されるべき問題とみなす人々のクレイム申立てとそれに対する反応を通じて作り出されると考えるものです。

 

誰かが社会問題だと認識し,それを世間に広めることで社会問題化していくと考えるものが構築主義のポイントです。

 

近年の社会問題では,MeTooKuToo,保活,などが構築主義で説明できます。

 

これらはもともとあったものですが,クレイム申立て(問題だと言うこと)することで社会問題として多くの人に認知されました。

 

それでは今日の問題です。

 

32回・問題21 社会問題は,ある状態を解決されるべき問題とみなす人々のクレイム申立てとそれに対する反応を通じて作り出されるという捉え方がある。このことを示す用語として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 社会統制論

2 緊張理論

3 文化学習理論

4 構築主義

5 ラベリング論

 

クレイム申立てと出てきたらすぐ「構築主義」だとわかるでしょう。

 

正解は,選択肢4です。

4 構築主義

 

解説します。

 

1 社会統制論

 

社会統制論は,ほかのものと異なり,逸脱しないのはどんな時か,を分析した理論です。

人とのつながりが感じられる時,仕事や勉強に打ち込んでいる時は,逸脱が抑制されます。

 

2 緊張理論

 

緊張理論(アノミー論)は,文化的発展によって人々の欲求が高まりますが,その欲求を満たすことができないときに逸脱すると考えるものです。

 

お金があれば,愛情以外は何でも手に入ると思いますが,お金がなければ欲しいものを手に入れることができません。それでも手に入れたいと思った時に犯罪に手を染めてでも手に入れようとするのが文化学習理論の例です。

 

3 文化学習理論

 

文化学習理論は,逸脱者と交流し,逸脱行為を学ぶことで逸脱すると考えるものです。

 

不良グループに入って一緒に遊んでいるうちに自分も不良になるのが文化学習理論です。

 

5 ラベリング論

 

ラベリング理論は,周りが逸脱者だとレッテルを貼ることで逸脱すると考えるものです。

 

不良グループにたまたま親しい友達がいて,一緒に遊んでいると「お前は不良だ」とレッテルを貼られます。

 

これがラベリング理論です。本当は不良ではなかったのに,周りの人が不良というレッテルを貼ることで逸脱していきます。

 

ラベリング理論で着目するのは,レッテルを貼られる側ではなく,レッテルを貼る側の問題です。

 

 

この問題には,元ネタがあります。

 

28回・問題21 社会問題の捉え方に関する次の記述のうち,構築主義的なアプローチとして,正しいものを1つ選びなさい。

1 社会がどうあるべきかについては,多くの人々に共有されている規範が存在するので,これに反するものが社会問題と認識される。

2 社会は統一されたシステムを成しているので,その目標達成にとってマイナスに働く事象は,社会問題と認識される。

3 社会問題とは,客観的に実在し誰の目にも明らかな現実として存在するものである。

4 社会問題とは,専門家でなければ可視化できないような,現代社会におけるリスクのことである。

5 社会問題とは,自明なものとして存在するのではなく,人々が主張することを通して認識される問題である。

 

正解は,選択肢5です。

5 社会問題とは,自明なものとして存在するのではなく,人々が主張することを通して認識される問題である。

 

「人々が主張すること」がクレイム申立てのことです。

 

 

〈今日の一言〉

 

最初の問題は第32回,後の問題は第28回のものです。

 

国家試験は,過去に出題されたものの繰り返しですが,過去3年間の過去問で役立つものは少ないです。

 

3年間の過去問を完璧に理解できたとしても,合格するのに必要な知識量には全然足りないことを忘れてはなりません。

2022年10月27日木曜日

外部不経済~社会的ジレンマ

今回も社会的ジレンマに取り組みます。テーマは「外部不経済」です。


たった1回しか出題されたことはないですが,知らないと国試当日慌てる原因となるので,紹介したいと思います。


外部不経済とは,企業などの経済活動が,個人や地域などに悪影響を与えることをいいます。


外部不経済の例としてよく使われるのは,公害です。


公害以外の例です。

たとえば郊外に大規模なアウトレットモールができると,良いものを安く手に入れることができるようになります。とても有難いことですね。


しかし,一方では週末になると渋滞し,その地域の住民が車でどこかに出かけようとしても思うように出かけることができないという状況が生じます。


こういった状況が「外部不経済」です。もっとわかりやすい言葉にしてほしかったものです。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題20 社会的ジレンマに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 企業などで生産された財やサービスが貨幣換算されないために,国家のGDPに含まれないことを「外部不経済」という。

2 犯罪容疑者である共犯者が,逮捕されていない主犯者の利益を考えて黙秘する結果,自分が罪をかぶることを「囚人のジレンマ」という。

3 社会にとって有用な資源へのアクセスが特定の人に限られていることを「共有地の悲劇」という。

4 ある財やサービスの対価を払うことなく,利益のみを享受する人のことを「フリーライダー」という。

5 協力的行動の妨害に与える報酬のことを「選択的誘因」という。


選択肢1で外部不経済が出題されていますが,まったく違うものであることがわかるでしょう。


こんなところに引っ掛からないで,問題を読み進めていくことが大切です。


選択肢1に難しい内容があると,慌ててしまうので,問題を冷静に読めなくなってしまうので注意が必要です。


それでは,選択肢2以降を開設します。


2 犯罪容疑者である共犯者が,逮捕されていない主犯者の利益を考えて黙秘する結果,自分が罪をかぶることを「囚人のジレンマ」という。


囚人のジレンマは,協力してお互いに利益を得るか,相手を裏切って自分だけの利益を収めるか,選択しなければならない状況をいいます。



3 社会にとって有用な資源へのアクセスが特定の人に限られていることを「共有地の悲劇」という。


共有地の悲劇は,それぞれの個人が合理的な判断の下で自己利益を追求した結果,全体としては不利益な状況を招いてしまうことをいいます。


4 ある財やサービスの対価を払うことなく,利益のみを享受する人のことを「フリーライダー」という。


これが正解です。フリーライダーは,公共財の供給に貢献せずに,それを利用するだけの成員が生まれる状況をいいます。


5 協力的行動の妨害に与える報酬のことを「選択的誘因」という。


選択的誘因もなかなか難しいものです。


選択的誘因は,協力的行動をとることが良いことだと思えるような仕組をつくることをいいます。


非協力的行動に対して報酬を与える,その逆に罰を与える,といった仕組みをつくることによって,協力的な行動をとることが良いことだと思わせることが「選択的誘因」といいます。


外部不経済もそうですが,なんでこんなにわかりにくい表現をするのでしょうね。センス悪すぎです。


しかし,多くの場合,こういったものは正解になりにくい傾向にあるので,知らないものが出題されても決して焦らず,知っているものがないか慎重に問題を読むことが必要です。

2022年10月26日水曜日

フリーライダー~社会的ジレンマ

今回は,社会的ジレンマのうち,フリーライダーを取り上げたいと思います。


フリーライダーは,ただ乗りを意味するものですが,どんなただ乗りをするのでしょうか。


それでは,今日の問題です。


第31回・問題-21 次のうち,「フリーライダー」に関する記述として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 他者からの矛盾した命令を受け取ることで身動きがとれない者

2 自分の利益を得るために他者を裏切ることを選択する者

3 他者との比較で剥奪感を抱いている者

4 自ら負担することなく集合財を享受する者

5 自分の効用を引き上げるために他者の効用を引き下げる者


前回と同じように,よくわからないものが含まれた問題ですが,フリーライダーの意味が少しでも理解できていれば正解できるのではないかと思います。


正解は選択肢4です。

4 自ら負担することなく集合財を享受する者


フリーライダーの例としてよく使われるものとして,公園の水道があります。


家で上下水道を利用すると使用料を支払わなければなりません。


それがいやで公園を利用するとします。みんなが公園の上下水道を利用すると,利用料を誰も負担しなくなって,水道サービス自体が成り立たなくなってしまいます。


それでは,ほかの選択肢も確認します。


1 他者からの矛盾した命令を受け取ることで身動きがとれない者


これはダブルバインドに関連するものです。


心理学的なダブルバインドは,顔では「良いよ」と言っていながら,態度が「だめだ」と言っているようなものも含みます。


2 自分の利益を得るために他者を裏切ることを選択する者


これは囚人のジレンマに関連するものです。


3 他者との比較で剥奪感を抱いている者


これは,相対的剥奪に関連するものです。


5 自分の効用を引き上げるために他者の効用を引き下げる者


これはおそらくパレート効率性に関連するものです。

2022年10月25日火曜日

共有地の悲劇~社会的ジレンマ

社会的ジレンマとは,国家試験の表現に従えば,各個人が自らの利益を考えて合理的に行動した結果,集団あるいは社会全体として不利益な結果を招いてしまう状況です。

 

社会的ジレンマの例として,国家試験では,「共有地の悲劇」「フリーライダー」「囚人のジレンマ」が出題されています。

 

それでは,今日の問題です。

 

30回・問題20 次の記述のうち,「共有地の悲劇」に関する説明として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 公共財の供給に貢献せずに,それを利用するだけの成員が生まれる状況を指す。

2 協力してお互いに利益を得るか,相手を裏切って自分だけの利益を収めるか,選択しなければならない状況を指す。

3 他の成員の満足度を引き下げない限り,ある個人の満足度を引き上げることができない状況を指す。

4 それぞれの個人が合理的な判断の下で自己利益を追求した結果,全体としては不利益な状況を招いてしまうことを指す。

5 社会全体の幸福が,諸個人の快楽から苦痛を引いた後に残る快楽の総計と一致する状況を指す。

 

よくわからない選択肢も含まれますが,問題の難易度自体はそれほど高くないように思います。

 

共有地の悲劇のことを述べているのは選択肢4です。

 

4 それぞれの個人が合理的な判断の下で自己利益を追求した結果,全体としては不利益な状況を招いてしまうことを指す。

 

そのまま覚えておきたいくらいによくまとまっている文章だと思います。

 

それでは,ほかの選択肢も確認します。

 

1 公共財の供給に貢献せずに,それを利用するだけの成員が生まれる状況を指す。

 

これは,フリーライダーを述べたものです。

 

2 協力してお互いに利益を得るか,相手を裏切って自分だけの利益を収めるか,選択しなければならない状況を指す。

 

これは,囚人の選択を述べたものです。

 

3 他の成員の満足度を引き下げない限り,ある個人の満足度を引き上げることができない状況を指す。

 

これがよくわからないものです。おそらくパレート効率性のことを述べたものではないかと思います。

 

パレート効率性は,何かを改善しようとする際,ほかが悪くなるような状況をいいます。

 

しかし,問題で出題されているものがパレート効率性だと言い切れないのは,パレート効率性は,財の配分のことだからです。パレート効率性の結果,満足度が上がったり,下がったりすることもあるかもしれませんが,ちょっと違和感があります。

 

しかし,いずれにせよ,共有地の悲劇ではないことは明らかです。

 

5 社会全体の幸福が,諸個人の快楽から苦痛を引いた後に残る快楽の総計と一致する状況を指す。

 

これは,快楽計算のことを述べたものです。

 

快楽計算は,功利主義で知られるベンサムが提唱したものですが,覚える必要はありません。単なる数合わせの出題です。

 

社会福祉士の国家試験に出題される社会的ジレンマの3つの例が出そろいました。

 

まとめてみます。

 

〈社会的ジレンマ〉

社会的ジレンマ

各個人が自らの利益を考えて合理的に行動した結果,集団あるいは社会全体として不利益な結果を招いてしまう状況。

社会的ジレンマの例①

~共有地の悲劇~

それぞれの個人が合理的な判断の下で自己利益を追求した結果,全体としては不利益な状況を招いてしまうこと。

社会的ジレンマの例②

~フリーライダー~

公共財の供給に貢献せずに,それを利用するだけの成員が生まれる状況。

社会的ジレンマの例③

~囚人のジレンマ~

協力してお互いに利益を得るか,相手を裏切って自分だけの利益を収めるか,選択しなければならない状況。

2022年10月24日月曜日

社会的ジレンマ

社会的ジレンマは,第22回国試以降第34回までは,以下の頻度で出題されています。

 

24

28

30

31

32

33

 

28回以降で出題されなかったのは,第29回と第34回のわずか2回のみです。

 

これだけの確率で出題されているものは,「社会理論と社会システム」(新しいカリキュラムでは「社会学理論と社会システム」)ではそれほどありません。

 

それでは,直近の問題を見てみたいと思います。

 

33回・問題20 次のうち,社会的ジレンマの定義として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 目標を効率的かつ公正に達成するための手段として制定されたルールが,それ自体目的と化してしまうことで,非効率な結果が生み出されている状況

2 文化を介して不平等や序列を含んだものとしての社会秩序が維持・再生産されている状況

3 信頼関係,互酬性の規範,人的ネットワークなどが整えられることによって人々に広く便益をもたらしている状況

4 協力的な行動には報酬を与え,非協力的な行動には罰を与えることで,協力的行動が合理的であるようにする状況

5 各個人が自らの利益を考えて合理的に行動した結果,集団あるいは社会全体として不利益な結果を招いてしまう状況

 

社会的ジレンマとは何かを問うとてもスタンダードな問題だと言えます。

 

正解は,選択肢5です。

 

5 各個人が自らの利益を考えて合理的に行動した結果,集団あるいは社会全体として不利益な結果を招いてしまう状況

 

社会的ジレンマの例として,国家試験では,「共有地の悲劇」「フリーライダー」「囚人のジレンマ」が出題されています。

 

これらも合わせて押さえておきたいです。どの参考書にも必ず掲載されているはずです。

次回以降に取り上げていきたいと思います。

 

それでは,正解以外の解説です。

 

1 目標を効率的かつ公正に達成するための手段として制定されたルールが,それ自体目的と化してしまうことで,非効率な結果が生み出されている状況

 

これは,官僚制の逆機能を述べているものです。

 

2 文化を介して不平等や序列を含んだものとしての社会秩序が維持・再生産されている状況

 

これは,文化資本を述べているものです。

 

3 信頼関係,互酬性の規範,人的ネットワークなどが整えられることによって人々に広く便益をもたらしている状況

 

これは,ソーシャルキャピタル(社会関係資本)のことを述べているものです。

 

4 協力的な行動には報酬を与え,非協力的な行動には罰を与えることで,協力的行動が合理的であるようにする状況

 

これは,社会的誘因のことを述べているものです。

2022年10月23日日曜日

役割葛藤

今回が役割概念(〇〇役割)を取り上げる最終回です。

 

これだけ集中的に勉強すれば大丈夫だと思うのは危険です。

 

丸暗記型の勉強で知識を押し込んでも,得点するのは容易ではありません。

 

自分なりに簡単でも良いので,説明できるくらいの理解が必要です。丸暗記型の勉強法が得点に結びつきにくいのは,国家試験では同じ文章では出題されることがないからです。

 

また文章で覚えるのは,かなりハードルが高いことです。ポイントを絞って絞って,絞り込んでなるべくシンプルに覚えるのが良いように思います。

 

それの方が形を変えて出題されたとき,応用が効きます。

 

今日のテーマの役割葛藤は以下のように押さえます。

 

役割葛藤のポイントは,複数の役割期待の中で葛藤することが役割葛藤だと押さえることです。

 

それでは,今日の問題です。

 

27回・問題21 役割葛藤の説明に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 幼少期での役割取得において発達上の困難を経験すること

2 他者からの役割期待に応えようとして過度の同調行動をとること

3 一定の場面にふさわしく見える自分を演技によって操作すること

4 他者からの役割期待と少しずらした形で行動すること

5 保有する複数の役割間の矛盾や対立から,心理的緊張を感じること

 

正解は,選択肢5です。

5 保有する複数の役割間の矛盾や対立から,心理的緊張を感じること 


すぐこれを選ぶことはできないかもしれません。しかし,役割葛藤のポイントである「複数の役割期待の中で葛藤すること」に関連しそうなものは,そのほかの選択肢にはありません。

 

それでは,ほかの選択肢も解説します。

 

1 幼少期での役割取得において発達上の困難を経験すること

 

おそらくこれは,危機を示しているものだと思います。危機には,災害や突発的な事故などに遭遇する「状況の危機」と発達課題を達成できないときに生じる「発達の危機」があります。

 

この問題では,「幼少期」に限定して出題されていますが,エリクソンの発達理論では,生まれてから死ぬまでを8つの段階に分けて,それぞれに発達課題を設定しています。

 

エリクソンによる発達段階の発達課題vs危機

乳児期(01歳) 基本的信頼 vs 基本的不信

幼児前期(13歳) 自立性 vs 恥・疑惑

幼児後期(36歳) 自主性 vs 罪悪感

児童期(711歳) 勤勉性 vs 劣等感

青年期(1220歳) 同一性獲得vs 同一性拡散

前成人期(2030歳) 親密 vs 孤立

成人期(3065歳) 世代性 vs 停滞

老年期(65歳以降) 統合 vs 絶望

 

ついでにこれもここで覚えてしまいましょう。

 

2 他者からの役割期待に応えようとして過度の同調行動をとること

 

これは覚える必要はない「過剰適応」を述べたものです。

 

国家試験では,5つの選択肢が必要なので,数合わせのために覚える必要がないようなものを含んで出題します。

 

これが国家試験では,正解するハードルを上げることになります。しかし,多くの場合,そんなところには正解はありません。

 

3 一定の場面にふさわしく見える自分を演技によって操作すること

 

これは印象操作を述べたものです。役割演技は,他者の役割期待に合うように演技するものですが,印象操作は,ほかの人にそれが伝わるように演技して,自分を印象づけるものです。

 

せっかく,役割を演じていてもそれが周りの人に伝わらなければ,意味がありません。

 

印象操作は,そのほかにもいくつかの使われ方をします。

 

おかしな人だと思われないように演技することもあります。これも印象操作です。そうしないと自分の自尊心が傷つくからです。

 

4 他者からの役割期待と少しずらした形で行動すること

 

これは,役割距離を述べたものです。役割距離は,他者からの役割期待と少しだけずらして行動します。ずらすのは少しだけです。

 

このことによって,自分の有能性を示したり,自分自身の心の余裕を生み出したりすることができます。

他者からの役割期待を知っていても,それを演じるのは気恥ずかしいために,大きくずらして行動するような人もいます。本当は気の優しい人なのに,不良っぽい態度を取るヤンキー少年少女です。

 

しかし,これだと他者からは理解できません。そのために,不良だというレッテルを貼られて,本当の不良になっていきます。

 

逸脱行動をこのようなプロセスで説明するのは,ラベリング理論といいます。

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