ホッブズ問題とは,社会の人々が自分の利益のために行動する「万人の万人に対する闘争」の状態の時,どのように社会の秩序が保たれるのか,について問う命題です。
社会学者のパーソンズは,この命題に対して,人は社会のルールに従って行為するため,社会の秩序が保たれると考えました。これを「主意主義的行為」といいます。
それでは,今日の問題です。
第24回・問題15 法と社会・そこに成立する秩序との関係に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。
1 形式的に正しい手続きによって定められた規則による支配が合法的支配であり,この支配においては命令者の合理的利害に沿って規則が再編されていく。
2 法律家は,弱きを助け強さをくじくリーガルマインドという共通の正義感を身につけており,それを共有する連帯意識によって明確な社会層をなしている。
3 法治国家においても,個人の権利が不当に侵害された場合,まずは市民自身が強制力を行使して自力救済の努力をすることが望ましいと考えられている。
4 人々の私的利益の追求は利害対立を生み,万人の万人に対する闘争状態が予想されるなかで,社会秩序がなぜ可能となるのかを問うことをホッブズ問題という。
5 非ゼロサムゲームでは,ある行為者が利益を得ても他の行為者が損失を被るとは限らないので,損失を負わせるべく行為者間には対抗関係が生じていく。
何とおかしな問題なのでしょう。この当時は,問題のボリュームは今よりも余裕があったので,言い回しが自由だったことによります。
近年は,もっとシンプルな表現で出題されています。
それでは解説です。
1 形式的に正しい手続きによって定められた規則による支配が合法的支配であり,この支配においては命令者の合理的利害に沿って規則が再編されていく。
合法的支配は,ウェーバーが提唱した支配システムの一つです。
支配システムには,神聖なものをバックとした「伝統的支配」(古代の国王,家父長制など),特別な資質をもった人による「カリスマ的支配」(カリスマの意味合いは,一般に使われるカリスマよりももっとすごいカリスマ性),合意されたルールに従う「合法的支配」(現代の民主政治,民主的な会社など)があります。
合法的支配の規則は,みんなが合意したものです。
この中で権力をもった者が,自分の都合によって規則を変えた時,それはもはや合法的支配ではなく,独裁者による支配です。
2 法律家は,弱きを助け強さをくじくリーガルマインドという共通の正義感を身につけており,それを共有する連帯意識によって明確な社会層をなしている。
法律家,特に弁護士は,依頼者の利益になるように動きます。
そうでなければ,誰が見ても有罪だと思われる被告を弁護することができなくなってしまいます。
中には「弱きを助け強さをくじく」という正義感をもつ法律家もいると思いますが,そんな人ばっかりではバランスが悪いでしょう。
3 法治国家においても,個人の権利が不当に侵害された場合,まずは市民自身が強制力を行使して自力救済の努力をすることが望ましいと考えられている。
市民が権利を侵害されたときに相手方と話し合うことは必要でしょう。しかし,強制力を行使することは多くの場合は許されません。話し合いが決別した場合は,法的手段に訴えることが必要です。
4 人々の私的利益の追求は利害対立を生み,万人の万人に対する闘争状態が予想されるなかで,社会秩序がなぜ可能となるのかを問うことをホッブズ問題という。
これが正解です。
5 非ゼロサムゲームでは,ある行為者が利益を得ても他の行為者が損失を被るとは限らないので,損失を負わせるべく行為者間には対抗関係が生じていく。
ゼロサムゲームは,パイを奪い合うようなもので,誰かが利益を得ると誰かが損失を被ります。
それに対して,非ゼロサムゲームは「ある行為者が利益を得ても他の行為者が損失を被るとは限らない」のが特徴です。そのため,参加するすべての人が利益を得ること,逆にすべての人が不利益を被ることがあるので,みんなで協力するような行為が生じます。