2022年6月30日木曜日

リーダーシップ理論の総まとめ(永久保存版)

リーダーシップ理論には,3つの流れがあります。

 

①特性理論

②行動理論

③状況適合理論(コンティンジェンシー理論)

 

特性理論は,昔のリーダーシップ理論です。

端的に言えば,優れた能力が持つ者がリーダーとなる。

リーダーシップは,生得的だというものです。

 

優れたリーダーはどのような資質を持っているのか,ということを研究していきます。

 

しかし,結論は出ることなく,特性理論にとって代わったのが「行動理論」です。

行動理論では,優れたリーダーは資質によるものではなく,行動が優れていると考えます。

 

PM理論,レヴィンらのリーダーシップ理論,マネジリアル・グリッドなどが行動理論となります。

行動理論の特徴は,優れたリーダーシップ行動は「〇〇だ」と提示していることです。

 

行動理論をもう一歩進めたものが「状況適合理論(コンティンジェンシー理論)」です。

コンティンジェンシー理論は,特定のリーダーシップ行動が優れているとするとするのではなく,適切なリーダーシップ行動は,状況によって変わると考えるものです。

 

フィードラー理論,SL理論,パスゴール理論などがコンティンジェンシー理論となります。

 

コンティンジェンシー理論の特徴は,先述のように,適切なリーダーシップ行動は状況によって変わるものなので,優れたリーダーシップ行動は「〇〇だ」とは言いません。


〈PM理論〉 行動理論















マネジリアル・グリッド〉 行動理論














PM理論では「PM型」,マネジリアル・グリッドでは「9・9型」が最も優れたリーダーシップであるとしています。「グリッド」は「格子」を意味しています。

PM理論を格子状に細かくしたものが,マネジリアル・グリッドだと押さえるとよいでしょう。


〈フィードラー理論〉  コンティンジェンシー理論














フィードラー理論は,コンティンジェンシー理論ですから,「タスク(仕事)志向型」と「人間関係志向型」のリーダーシップは,状況によって変わると考えるところに特徴があります。



〈SL理論〉  コンティンジェンシー理論














SL理論が着目しているのは,メンバーの仕事(タスク)に対する習熟度と意欲です。


この図の矢印は,メンバーの習熟度と意欲を表わしています。

<メンバーの習熟度と意欲>

低い → 教示的リーダーシップ
高い → 委任的リーダーシップ

この過渡期にあるものが,説得的リーダーシップであり,参加的リーダーシップです。



〈パス・ゴール理論〉 コンティンジェンシー理論



ブルームらの期待理論に基づき,魅力的なゴール(目標)に至る明確なパス(経路)を示すことがリーダーの役割だとします。



このほかに国家試験では,ウェーバーの支配システム,レヴィンらのリーダーシップ理論,オハイオ州立大学研究,ミシガン大学研究などが出題されています。


ウェーバーの支配システムはともかく,レヴィンらのリーダーシップ理論,オハイオ州立大学研究,ミシガン大学研究は,行動理論に位置づけられます。


それでは,今日の問題です。


第31回・問題120 リーダーシップの理論に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 パス・ゴール理論では,メンバーの目標達成のための道筋を明示することが,リーダーシップの本質であるとしている。

2 フィードラー理論に代表される「条件適合理論」において,リーダーの行動は「構造づくり」と「配慮」に集約される。

3 三隅二不二は,リーダーシップの行動面に注目して,集団の「目標達成行動」と「集団維持機能」の2次元で類型化したSL理論を示した。

4 カリスマ的リーダーシップでは,リーダーのスタイルを任務実行志向と人間関係志向に分類する。

5 マネジリアル・グリッドでは,「人に対する関心」と「業績に対する関心」の2軸で類型化し,「1・1型」が最も理想的なリーダーシップのスタイルであるとしている。



苦手だ,と思う人にとっては,ちんぷんかんぶんでしょう。

しかし,リーダーシップ理論の出題頻度は高いので,苦手だと思わず覚えるしかありません。

それでは解説です。

1 パス・ゴール理論では,メンバーの目標達成のための道筋を明示することが,リーダーシップの本質であるとしている。

これが正解です。

パス・ゴール理論は,コンティンジェンシー理論です。



2 フィードラー理論に代表される「条件適合理論」において,リーダーの行動は「構造づくり」と「配慮」に集約される。


リーダーの行動は「構造づくり」と「配慮」に集約されるとしたのは,オハイオ州立大学研究です。

オハイオ州立大学研究は,行動理論です。


3 三隅二不二は,リーダーシップの行動面に注目して,集団の「目標達成行動」と「集団維持機能」の2次元で類型化したSL理論を示した。

三隅先生が提唱したのは,PM理論です。

PM理論も行動理論です。



4 カリスマ的リーダーシップでは,リーダーのスタイルを任務実行志向と人間関係志向に分類する。

リーダーのスタイルを任務実行志向と人間関係志向に分類するのは,フィードラー理論です。


フィードラー理論は,コンティンジェンシー理論です。


5 マネジリアル・グリッドでは,「人に対する関心」と「業績に対する関心」の2軸で類型化し,「1・1型」が最も理想的なリーダーシップのスタイルであるとしている。

マネジリアル・グリッドが最も理想的なリーダーシップだとしたのは,「9・9型」です。

マネジリアル・グリッドは,行動理論です。

2022年6月29日水曜日

コンプライアンスとガバナンス

今回から数回にわたって「福祉サービスの組織と経営」を取り組んでいきたいと思います。


この科目は,組織に関する理論など,おそらく勉強しなければ知らない内容満載です。


つまり,勉強した人とそうでない人の差が大きく出る科目だということです。


覚えるのは決して簡単ではありませんが,見返りは大きいと思います。


さて,今日のテーマは「コンプライアンスとガバナンス」です。


コンプライアンスは,「法令遵守」と訳されます。


法令なので,本来は,法律,省令等を守るという意味です。


しかし,最近では,組織が独自に決めたルールを守るという意味合いで用いられることもあるようですが,この科目では,本来の意味の「法律と省令」等を守るという意味でとらえておきたいです。


ガバナンスは,「企業統治」「内部統制」と訳されます。


組織も人と同じように意思決定して活動します。


組織が適正な意思決定を行うために必要なのが,ガバナンスです。


ガバナンスのない組織は,本来の意味のコンプライアンスを無視しだし,最悪の場合は。指定の停止や取消といったペナルティを受けることになります。


ガバナンスが効いていない組織は,とても危険です。


それでは,今日の問題です。


第31回・問題119 福祉サービスの経営に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 CSR(Corporate Social Responsibility)は,福祉サービス事業者には求められない。

2 CSV(Creating Shared Value)とは,企業や法人の価値を共有するために情報開示を進める概念である。

3 バランス・スコアカードとは,財務面の評価手法である。

4 コンプライアンスを達成するには,ガバナンスが重要である。

5 福祉サービスの改善活動であるPDCAには,現場職員が関わらないことが望ましい。


カタカナ用語が連発する問題です。


しかし,問題づくりが下手なので,この問題自体はそれほど難しくないと思います。

おそらく,今後はこんな下手な問題を見ることはできなくなるでしょう。


その分,勉強不足の人が合格するのはかなり難しくなります。


それでは解説です。


1 CSR(Corporate Social Responsibility)は,福祉サービス事業者には求められない。


CSRは,Corporate(企業) Social(社会) Responsibility(責任),つまり企業の社会的責任のことです。


福祉サービス事業者,特に社会福祉事業を経営することを主目的とする社会福祉法人には,大きな社会的責任があります。


社会福祉法人は,税制面で営利企業よりも優遇されているからです。


2 CSV(Creating Shared Value)とは,企業や法人の価値を共有するために情報開示を進める概念である。


CSVは,Creating(創造) Shared (共有)Value(価値),つまり共有価値を創造するという意味です。


これでは意味がわかりませんが,社会に役立つ企業を目指す企業理念といった意味合いになります。


その組織だけが儲かればよいというものではなく,企業活動を通して社会貢献を目指すという考え方です。


3 バランス・スコアカードとは,財務面の評価手法である。


バランス・スコアカードは,経営の評価手法であることは適切です。


しかし,評価指標は,財政に加えて,顧客,業務プロセス,学習と成長,4つで成り立ちます。


4 コンプライアンスを達成するには,ガバナンスが重要である。


これが正解です。


ガバナンスが効いていないと,コンプライアンスを達成することは難しいと思います。


一時期,食品会社で賞味期限を変えて大問題になったことがあります。


誰も「それはまずいよ」と言い出せない組織風土があったのかもしれません。


そうではなく,誰もが「それは変じゃない?」と言える組織,つまり内部統制があれば,法令を破るようなことはない組織となるはずです。


5 福祉サービスの改善活動であるPDCAには,現場職員が関わらないことが望ましい。


PDCAは,現場職員がかかわってこそ,機能していきます。

2022年6月28日火曜日

国家試験に合格する勉強法

国家試験は,第22~36回は,平成19年度カリキュラム改正の内容です。


第37回国家試験からは,令和元年度カリキュラム改正の内容になります。


丸暗記型勉強にとどまり,理解レベルになっていないと今まで以上に苦戦することが予測されます。


知識があれば解ける問題は減り,知識があることを前提に,思考して問題を解くタイプの問題が増えます。


知識があれば解ける問題のタイプをタクソノミーⅠ型と言います。


知識があることを前提に,思考して問題を解く問題のタイプをタクソノミーⅡ型と言います。


型知識があることを前提に,2回思考して問題を解くタイプをタクソノミーⅢ型と言います。


第37回国家試験からは,現在主流のタクソノミーⅠ型が減り,タクソノミーⅡ型・Ⅲ型が増えることになっていますが,第35回から少しずつ移行していきます。


つまり今後受験する受験生にとって,タクソノミーⅡ型の問題に対応できる実力がもとめられます。


〈タクソノミーⅡ型の問題例①〉


第33回・問題21 次のうち,マートン(Merton,R.K.)が指摘したアノミーに関する記述として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 ある現象が解決されるべき問題とみなす人々の営みを通じて紡ぎ出される社会状態を指す。

2 下位文化集団における他者との相互行為を通じて逸脱文化が学習されていく社会状態を指す。

3 文化的目標とそれを達成するための制度的手段との不統合によって社会規範が弱まっている社会状態を指す。

4 他者あるいは自らなどによってある人々や行為に対してレッテルを貼ることで逸脱が生み出されている社会状態を指す。

5 人間の自由な行動を抑制する要因が弱められることによって逸脱が生じる社会状態を指す。


まず,マートンのアノミーとは,どんなものかを想起したうえで,それぞれの選択肢に当てはまるか,考えていきます。


これはいずれも逸脱行動理論について述べたもので,それぞれの文章には嘘はありません。


この問題はわかりやすく特徴を出して問題を作ってくれていますので,タクソノミーⅡ型の問題でもタクソノミーⅠ型に近いタイプかもしれません。


正解は,選択肢3です。


〈タクソノミーⅡ型の問題例②〉


第27回・問題23 社会的リスクに関する次の記述のうち,「ベヴァリッジ報告」で想定されていなかったものを1つ選びなさい。

1 疾病により労働者の収入が途絶えるおそれ

2 勤務先の倒産や解雇により生計の維持が困難になるおそれ

3 老齢による退職のために,稼働収入が途絶えるおそれ

4 保育や介護の社会化が不充分なため,仕事と家庭の両立が困難になるおそれ

5 稼得者の退職や死亡により被扶養者の生活が困窮するおそれ


ベヴァリッジ報告の5つの巨人に当てはめて考えていきます。


正解は,選択肢4です。


知識があるうえで,思考が求められています。

こういった問題に対応するためには理解して覚えることを心がけます。

2022年6月27日月曜日

ソーシャルワークにおける外国人支援

 近年の日本に在留する外国人は,300万人です。

 

 

第1位

第2位

国籍別

中国(約80万人)

韓国(約45万人)

在留資格別

永住者(約80万人)

特別技能(約40万人)

産業大分類別

製造業(約30%)

卸売業,小売業(約10%)


こういったものを覚えるときのコツは,トップのものだけを覚えることです。

 

なお,社会福祉士の国家試験の傾向は,


・1位と2位の数字が近い場合は出題されません。

・年によって順位が入れ替わるものは出題されません。

 

といったものがあります。

 

さて,今日のテーマは「ソーシャルワークにおける外国人支援」です。

 

外国人は,外国人であるゆえに,邦人とは異なる困難さを抱えます。

 

現時点(2022年6月)で,最も新しい在留資格は,特定技能です。

 

特定技能には,1号,2号があり,2号では家族の帯同が認められます。

 

そういった背景もあり,外国人への支援は,ますます重要になります。

 

それでは,今日の問題です。

 

第31回・問題118 日系人のMさん(45歳,男性)は,13年前に来日し,35歳の時に日本人女性と結婚した。現在は県営団地に住んでいる。来日理由の一つである祖国に住む父母への定期的な送金も実現したが,働いていたW社が3か月前に倒産してしまい,現在はアルバイトをしつつ,公共職業安定所(ハローワーク)を通じて求職活動を行っている。また,家賃の安い住宅への転居を検討しているものの,まだ見付かっていない。アルバイトの収入と貯金の取崩しで生活しているMさんは,今後の収入に不安を感じたため,外国人を支援する団体のLソーシャルワーカー(社会福祉士)に相談した。

 次のうち,この段階においてLソーシャルワーカーがMさんに対して行うこととして,適切なものを2つ選びなさい。

1 帰国するよう助言する。

2 祖国への送金をやめるように助言する。

3 生活保護の申請を勧める。

4 日本で支えてくれる知人・友人の状況を尋ねる。

5 家賃減免の仕組みの有無と適用条件を県営団地の管理者に確認したか聞く。

 

Mさんは,日本人と結婚しているので,在留資格を持ちます。

 

生活保護法は,外国人には適用されません。

 

なぜなら,生活保護法は,

 

第二条 すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる。

 

と規定されているからです。

 

日本人の配偶者は,在留資格をもちますが,日本人ではないので,生活保護法は適用されません。

 

しかし,だからといって,外国人が保護を受けられないわけではありません。

 

永住者や日本人の配偶者などは,制度の弾力的な運用により,日本人と同じように保護を受けることが可能です。

 

さて,Mさんは「この時点において」生活保護を受けることが可能なのでしょうか。

 

答えは,「NO」です。

 

なぜなら,アルバイトの収入と貯金で生活できているためです。

 

貯金を使い果たし,アルバイト収入だけでは最低限度の生活ができないと認められた場合,保護が認められます。

 

この問題の正解は,選択肢4と5です。

 

4 日本で支えてくれる知人・友人の状況を尋ねる。

5 家賃減免の仕組みの有無と適用条件を県営団地の管理者に確認したか聞く。

 

選択肢3を消去できたなら,答えはこの2つしか考えられません。

2022年6月26日日曜日

個人情報保護法

今回は,個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)です。

 

この法律に示されている各種定義を確認したいと思います。

  

個人情報

生存する個人に関する情報

個人識別符号

特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号。

個人に提供される役務の利用若しくは個人に販売される商品の購入に関し割り当てられ、又は個人に発行されるカードその他の書類に記載され、若しくは電磁的方式により記録された文字、番号、記号その他の符号。

要配慮個人情報

本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するもの。

仮名加工情報

他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報。

匿名加工情報

特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報。

個人情報取扱事業者

個人情報データベース等を事業の用に供している者。

〈対象外〉

・国の機関

・地方公共団体

・独立行政法人等

・地方独立行政法人

 

なお,法ができた時は,個人情報取扱事業者には,規模の小さい事業者が除かれていましたが,今は規模の大小にはかかわりはなく,個人情報取扱事業者となり,この法律の対象となります。

 

個人情報取扱事業者の義務

個人情報を取り扱うに当たっては、利用目的をできる限り特定しなければならない。

利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。

 

 

 

今日の問題は2問です。

 

まずは,1問目です。

 

31回・問題117 個人情報の保護に関する法律の規定について,次のうち,正しいものを2つ選びなさい。

1 個人を識別できない情報も個人情報の保護の対象である。

2 この法律において「個人情報」とは,生存する個人に関する情報である。

3 業務に関して知り得た個人情報は,理由のいかんを問わず漏らしてはならないとされている。

4 個人情報取扱事業者は,個人情報を取り扱うに当たり,その利用目的をできる限り包括的に設定しなければならない。

5 国は,個人情報の取扱いに関し事業者と本人との間に生じた苦情の適切かつ迅速な処理を図るために必要な措置を講ずるものとされている。

 

とても難しい問題です。

 

しかし,ここで注目してほしいことは,法の細部を聞いているわけではないことです。

 

落ち着いて考えると答えは何とか見えてくる,というか,正解ではないものは消去できそうです。

 

必ず押さえておかなければならないことは,「個人情報とは何なのか」です。

 

正解は,選択肢1と5です。

 

2 この法律において「個人情報」とは,生存する個人に関する情報である。

5 国は,個人情報の取扱いに関し事業者と本人との間に生じた苦情の適切かつ迅速な処理を図るために必要な措置を講ずるものとされている。

 

迷うのは,選択肢5でしょう。

 

国ではなく,地方公共団体かもしれないと考えてしまうかもしれません。

 

福祉に関することは,基本的に地方公共団体の自治事務にあたるので,必要な措置を講じることは地方公共団体の役割になり得ます。

 

しかし,個人情報保護を考えてみた場合,地域の実状に合わせて対策を立てる意味がありません。

 

そう考えると国が行うものだと考えられます。

 

そして,もう一つ重要なことは,試験問題をつくるにあたって,まったくないものを考えることは難しいということです。

 

もともとある規定を変えて出題することは簡単ですが,規定されていないものを新たに考えて出題するのは,かなり面倒な作業です。

 

それでもたまにそれにチャレンジした問題もあります。そうすると正解はとても単純でわかりやすいものであっても受験生は混乱します。そして間違えます。

 

それでは正解以外の解説です。

 

1 個人を識別できない情報も個人情報の保護の対象である。

 

個人を識別できない情報は個人情報ではありません。

 

3 業務に関して知り得た個人情報は,理由のいかんを問わず漏らしてはならないとされている。

 

ソーシャルワークでも秘密保持義務がありますが,秘密を開示することができる場面はあります。

 

例えば,クライエントの生命に危機があるような場合です。

 

そこから「理由のいかんを問わず」ということはないだろうと考えることができます。

この法律の場合は,生命,健康,生活,財産を害するおそれがある場合は開示できます。

 

しかし,これは開示であり,漏らすということではありません。

 

何な問題です。

 

4 個人情報取扱事業者は,個人情報を取り扱うに当たり,その利用目的をできる限り包括的に設定しなければならない。

 

この問題が難しいのは,この選択肢を消去できないためです。

 

正しくは「包括的に設定しなければならない」が「特定しなければならない」です。

 

この問題は,消去ではなく,選択肢5を正解だろうと思うことができなければ,得点することは不可能に近いものだと思います。

 

もう1問です。

 

34回・問題115 次の記述のうち,個人情報の保護に関する法律の内容として,正しいものを1つ選びなさい。

1 死亡した個人に関する個人情報も保護の対象とする。

2 個人情報取扱事業者の権利利益を保護することを目的として,個人情報取扱事業者の遵守すべき義務等を定めている。

3 個人情報取扱事業者が第三者に個人データを提供するときは,本人の生命の保護のために必要な場合でも,常に本人の同意を得なければならない。

4 個人情報取扱事業者は,個人情報の取扱いに関する苦情の解決について,地方公共団体に委ねなければならない。

5 匿名加工情報とは,特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって,当該個人情報を復元できないようにしたものである。

 

これは,1問目と異なり,消去法で正解できます。

 

キーとなるのは,

 

1 死亡した個人に関する個人情報も保護の対象とする。

 

個人情報は,生存する個人に関する情報です。

 

これを知らなければ,消去することができません。国家試験は,結局こういったところの知識の差が合否を分けます。

 

法の細部まで知らないといけないわけではありません。

 

それでは,それ以外の解説です。

 

2 個人情報取扱事業者の権利利益を保護することを目的として,個人情報取扱事業者の遵守すべき義務等を定めている。

 

個人情報取扱事業者の権利利益を保護することを目的にするわけがありません。

 

保護されるのは,個人の権利利益です。

 

3 個人情報取扱事業者が第三者に個人データを提供するときは,本人の生命の保護のために必要な場合でも,常に本人の同意を得なければならない。

 

「常に」があるので,「常に」ではないと考えることができるでしょう。

 

本人の生命の保護のために必要な場合でも,本人の同意を得なければなりません。

 

同意を得なくても良いのは本人の同意を得ることができない場合です。

 

 

4 個人情報取扱事業者は,個人情報の取扱いに関する苦情の解決について,地方公共団体に委ねなければならない。

 

(個人情報取扱事業者による苦情の処理)

個人情報取扱事業者は、個人情報の取扱いに関する苦情の適切かつ迅速な処理に努めなければならない。

 

と規定されています。

 

5 匿名加工情報とは,特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって,当該個人情報を復元できないようにしたものである。

 

これが正解です。

 

匿名加工情報を知らずとも,ほかの選択肢を消去していくことで,この選択肢が残ります。

 

正解するために重要なことは,選択肢1を消去できることです。

 

個人情報保護の対象には,死亡した人の情報は含まれないことを知っていることが必要だったということです。



〈今日の一言〉


国家試験に合格するのに必要なのは,深い知識ではなく,確実な知識!

2022年6月25日土曜日

ソーシャルワークの記録

今日は,前説なしで問題です。


第31回・問題116 ソーシャルワークの記録に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 ソーシャルワーカーの判断や主観的な解釈を含めず,客観的な事実を記述する。

2 説明体は,事実についてのクライエントによる説明や解釈を記述するものである。

3 実践の根拠と証拠を示し,援助の評価にも活用される。

4 SOAP方式で記録する場合,Aはソーシャルワーカーが行う今後の援助計画のことである。

5 クライエントに不利益となるような情報を記載しないようにする。


一問一答式の問題集をすすめる先生がいますが,私たちチームfukufuku21はすすめません。


一問一答式の問題集は,知識を確実につけるためには役立ちますが,それだけの話です。


解く力はつきません。


この問題の答えは,選択肢3です。


3 実践の根拠と証拠を示し,援助の評価にも活用される。


この文だけを見ると,何の疑問もなく,正しいと思うでしょう。


しかし,ほかの選択肢と混ざると,そんなに簡単には正しいと思えなくなります。


これが国家試験です。


先生方は頭の良い人たちなので,このことが理解できないのだと思います。


一問一答だけで国家試験に臨んだとしたら,基礎練習のみで試合に臨むようなものです。

試合で本当に勝とうと思ったら,実戦に近い練習が必要です。


国家試験を確実に正解するのは,思うほど簡単ではありません。

確実な知識があればそんなことはない,と思っていると足元をすくわれかねません。


この問題の場合,うっかりすると間違ってしまいそうなのは,選択肢1です。


確実な知識があれば,誤りだとわかるかもしれませんが,勉強しないものを混ぜて出題して,受験生を混乱させます。これが国家試験です。

最後は必ず国家試験と同じスタイルの問題を解く,つまり五者択一(あるいは択二)の問題を解くことが大切です。

それなら,最初から五者択一の問題に取り組んだほうが良いと思うのは変でしょうか。

2022年6月24日金曜日

スーパービジョンとパラレルプロセス

今回は,スーパービジョンを取り上げます。

 

スーパービジョンの出題頻度は,限りなく100%に近いものです。

 

どんな出題があっても対応できる確実な知識が必要です。

 

〈スーパービジョンの機能〉

教育的機能

価値・知識・技術を教える機能

支持的機能

スーパーバイジーを支える機能

管理的機能

スーパーバイジーの業務を管理する機能

 

 

スーパービジョンの出題頻度は高いこともあり,さまざまな問われ方をします。

 

それが今日のもう一つのテーマである「パラレルプロセス」です。

 

パラレルプロセスとは,スーパーバイザーとスーパーバイジーとの関係が,ワーカーとクライエントの関係で展開されていくようになることをいいます。

 

もともとは精神分析学の概念です。

 

ということは,スーパーバイジーは,無意識のうちにスーパーバイザーとの関係をクライエントに向けてしまうものだと考えられます。

 

その結果がパラレルプロセスとなります。

 

「無意識」というのが,いかにも精神分析学らしいと思いませんか。


図式化するとこんな感じです。




 

 




それでは,今日の問題です。

 

31回・問題115 ソーシャルワークにおけるスーパービジョンに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 スーパービジョンの目的は,より多くのサービスを提供し,事業所の利益を高めることにある。

2 スーパービジョンの契約は,スーパービジョンの展開過程の終結段階で行われる。

3 ピアスーパービジョンでは,スーパーバイジーが所属する職場内の上下関係を活用して行う。

4 パラレルプロセスとは,スーパーバイジーであるソーシャルワーカーとクライエントとの関係とよく似た状況が,スーパーバイザーとスーパーバイジーとの関係において起こることをいう。

5 スーパーバイザーがスーパーバイジーの能力に合わせて業務を調整するのは,スーバービジョンの支持的機能である。

 

この問題は,パラレルプロセスを知らずとも,消去法でも答えられるかもしれません。

 

しかし,一つでも消去できないと答えられないので確実性は下がります。

 

それでは解説です。

 

1 スーパービジョンの目的は,より多くのサービスを提供し,事業所の利益を高めることにある。

 

スーパービジョンの目的は,ソーシャルワーカーのスキルを高めることにあります。

 

2 スーパービジョンの契約は,スーパービジョンの展開過程の終結段階で行われる。

 

スーパービジョンの契約は,スーパービジョンを始める前の段階で行います。

 

3 ピアスーパービジョンでは,スーパーバイジーが所属する職場内の上下関係を活用して行う。

 

ピアは「仲間」の意味です。ピアカウンセリングという言葉もあります。

 

ピアスーパービジョンは,仲間同士で行うもので,スーパーバイザーのような別の立場の人はいません。

 

4 パラレルプロセスとは,スーパーバイジーであるソーシャルワーカーとクライエントとの関係とよく似た状況が,スーパーバイザーとスーパーバイジーとの関係において起こることをいう。

 

これが正解です。

 

パラレルプロセスの考え方に基づくと,スーパービジョンが良い関係の中で行われる時は良いですが,あまり良くない時は,クライエントとの間にその関係を持ち込むことになるので,注意が必要です。

 

5 スーパーバイザーがスーパーバイジーの能力に合わせて業務を調整するのは,スーバービジョンの支持的機能である。

 

支持的機能は,スーパーバイジーを支える機能です。

 

業務を調整するのは,管理的機能です。

2022年6月23日木曜日

セルフヘルプグループの紹介が有効な場面

セルフヘルプグループ(自助グループ)は,当事者のグループです。


専門職が主導的にかかわるグループワークと異なり,当事者が主体的に参加して活動しているところに特徴があります。



セルフヘルプグループには,「ヘルパーセラピー原則」という効果があります。


人を援助することで,自分も援助されるという原則です。


クライエントの抱える問題によって,セルフヘルプグループをクライエントに紹介することはとても有効な手段です。


今日の問題は,セルフヘルプグループを紹介することが有効な事例です。


しかし,紹介する場面を間違えると効果がなくなってしまいます。


いつでも有効だと思っているとミスする原因となります。


第31回・問題114 事例を読んで,J医療ソーシャルワーカー(社会福祉士)の応答として,適切なものを2つ選びなさい。

〔事 例〕

 希少難病を患っているKさんは,J医療ソーシャルワーカーに,「自分は心理的にも社会的にも孤立しているのでとても苦しい。似たような立場の人と話してみたい」と相談した。

1 「同じような悩みをお持ちの患者さんの集まりを持ちましょう」

2 「一人ひとり事情が異なるので,他の人と話すことは難しいです」

3 「病気が関係しているので,相談に乗るには主治医の許可が要ります」

4 「カルテを調べて同じ病気の患者さんの連絡先をお教えします」

5 「思いを聞いてもらえるボランティアをお願いすることもできるかと思います」


こんな短い事例ですが,答えにつながる情報を組み込んで作られています。


正解は,選択肢1と5です。


1 「同じような悩みをお持ちの患者さんの集まりを持ちましょう」


これは,「自分は心理的にも社会的にも孤立しているのでとても苦しい」に対応する応答です。


5 「思いを聞いてもらえるボランティアをお願いすることもできるかと思います」


これは,「似たような立場の人と話してみたい」に対応する応答です。


このほかの選択肢は解説も必要としないでしょう。


Kさんへの応答に限らず,だめな応答です。


セルフヘルプグループを紹介するタイミングを見極めることはとても重要です。


しかし,国家試験は,判断が難しいような問題を出題することはしません。


明らかに判断できるように作ります。


それでは,国家試験でセルフヘルプグループの紹介が有効ではないものとしてどんな場面が使われると思いますか。


想像がつくと思いますが,インテーク場面です。


何もわからないうちに,解決策を提示するような内容になっているものは,すべて不適切な対応です。

2022年6月22日水曜日

国試問題に出題されるグループワーク

グループワークは,集団を活用した援助技術です。

 

できるグループワーカーは,葛藤が生まれてきたら,うろたえるどころか,「やったー」と思うでしょう。

 

葛藤は,グループが成長するきっかけとなるからです。

 

それにもかかわらず,国家試験では「葛藤が起きないようにする」といったような内容で出題されます。

 

こういったタイプのものは,当然ですがすべて誤りです。

 

集団を活用しないのなら,ケースワーク(個別援助技術)で良いということになってしまいます。


それでは今日の問題です。

 

31回・問題113 グループワークに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 最終目標は,まとまりのあるグループを作ることである。

2 メンバー自身やグループ内の葛藤は,回避することが必要である。

3 開始期では,メンバー間の相互援助システムの形成が促進される。

4 メンバー個々の問題を解決する主体は,ワーカーである。

5 プログラム活動は,グループワークの援助方法の一つである。

 

この問題でも葛藤の出題がみられます。

 

それでは解説です。

 

1 最終目標は,まとまりのあるグループを作ることである。

 

グループワークは,グループを活用して,クライエント個々に働きかけていきます。

 

つまり目的(最終目標?)は,クライエントの問題の解決及び成長です。

 

2 メンバー自身やグループ内の葛藤は,回避することが必要である。

 

葛藤や対立は,成長のきっかけとなります。

 

回避しては,グループワークの意味をなしません。

 

グループワーカーの力量が試される瞬間です。

 

3 開始期では,メンバー間の相互援助システムの形成が促進される。

 

相互援助システムとはずいぶん大げさな表現ですが,これを生かして説明すると,開始期では相互援助システムを形成します。

 

相互援助システムの形成が促進されるのは,作業期です。

 

4 メンバー個々の問題を解決する主体は,ワーカーである。

 

ワーカーが主体,といったものはどんな問題でも正解になりません。

 

主体はあくまでもクライエントです。ワーカーはクライエントを側面から支援する存在です。

 

国家試験では,手を変え品を変え,さまざまな問いをされますが,この基本を絶対に忘れないことが大切です。

 

5 プログラム活動は,グループワークの援助方法の一つである。

 

これが正解です。

 

何も特別なものではないように思うかもしれませんが,国試会場でこの問題を正解するのはそれほど簡単ではありません。

 

そこが国家試験の怖いところです。

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