クライエントの思わぬ反応があると,ソーシャルワーカーはうろたえがちです。
しかし,気を付けなければならないのは,クライエントの言葉尻をとらえた安易な対応です。
クライエントの喜怒哀楽のうち,特に「怒」の感情を見せられるとうろたえがちです。
今回,紹介する事例は,がんの末期患者の家族との初回面接です。
キューブラー・ロスは,著書『死ぬ瞬間』で,死の受容過程として以下の5段階を紹介しています。
1 否認
2 怒り
3 取引(死を回避しようとすること)
4 抑うつ
5 受容
すべての人がこのような段階を経て死を受容するわけではありませんが,対人援助を行う人は理解しておくことが求められます。
患者だけではなく家族に接する場合も同じです。
それでは,今日の問題です。
第31回・問題111 事例を読んで,G医療ソーシャルワーカー(社会福祉士)の対応についての次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。
〔事 例〕
G医療ソーシャルワーカーは,末期がんのHさん(54歳)の主治医から,「患者と夫には,今後は積極的治療ではなく緩和ケアが望ましいことについて説明済みである。緩和ケアができる病院を探してあげてほしい」との電話を受け,Hさんの夫と初回面接を行った。夫は面談室に入るなり,「誰だあなたは。この病院はどうして病人を見放すんだ」と声を荒げた。
1 夫に対してその態度を改めるよう促す。
2 夫に病状の説明を行う。
3 夫の怒りを受け止め,気持ちを聴く。
4 夫との面談を切り上げ,夫以外のキーパーソンを探す。
5 ソーシャルワーカーはどのようなことを支援するのかについて説明する。
この事例は,初回面接であることが明示されています。
初回面接の基本に沿ったものは以下の2つしかないので,事例を読まなくても答えはわかります。
3 夫の怒りを受け止め,気持ちを聴く。
5 ソーシャルワーカーはどのようなことを支援するのかについて説明する。
事例を読むと
選択肢3は「この病院はどうして病人を見放すんだ」に対応するもの。
選択肢5は「なんだあなたは」に対応するもの。
となっていることがわかります。
それではほかの選択肢も確認します。
1 夫に対してその態度を改めるよう促す。
これが言葉尻をとらえた対応です。試験でこれを選ぶワーカーは,面接場面ではさらに混乱するでしょう。
社会福祉士の国家試験には,この選択肢を選ぶと不合格といった禁忌肢はありませんが,そうしても良いくらいに良くない対応です。
2 夫に病状の説明を行う。
病状の説明を行うのは,医師の役割です。
4 夫との面談を切り上げ,夫以外のキーパーソンを探す。
今の時点では何もわかっていない段階です。