2022年6月10日金曜日

ナラティブ・アプローチの特徴

ナラティブ・アプローチの基盤となるのは,「人との対話によって現実は作られていく」という社会構成主義です。


「ドミナント・ストーリー」と呼ばれるクライエントがこれまでに作り上げてきた話(マイナス思考を含むもの)を対話によって,新しい世界(プラス思考を含んだもの)である「オルタナティブ・ストーリー」に書き換えていくことができるように支援するのが特徴です。


このアプローチの基本的態度は,ワーカーは何も知らないのでクライエントに教えてもらう「無知の姿勢」です。


技法としては,「問題の外在化」が知られます。


いずれにせよ,ナラティブ・アプローチの「ナラティブ」は「語り」を意味するものなので,クライエントとワーカーの対話を重視したものであることを押さえておくことが大切です。


それでは,今日の問題です。


第31回・問題101 事例を読んで,この場面におけるナラティブ・アプローチに基づくA生活相談員(社会福祉士)の応答として,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 Bさん(85歳,男性)は,特別養護老人ホームに入所している。妻は10年前に亡くなっており,子どももいないため身寄りがない。Bさんは,話し相手もおらず,部屋に閉じ籠もりがちである。ある時,A生活相談員に対して,「生きていても仕方がない。早くお迎えがくればいいのに」と語った。

1 「そのような悲しいことは言わないでください」

2 「何があなたをそのような気持ちにさせるのか教えてください」

3 「奥さんの死がBさんの孤独を深めているのかもしれません」

4 「グループ活動に積極的に参加するといいと思います」

5 「この先,きっといいこともありますよ」



この中で,クライエントの語りを積極的に引き出すことにつながるワーカーの応答は,どれでしょうか。


そして,無知の姿勢になっていないものはどれでしょうか。


この問題は,それほど難しくないですが,ミスすることなく確実に正解するためには,こういった軸をもって問題を考える必要があります。


それでは解説です。


1 「そのような悲しいことは言わないでください」


クライエントの話したことを審判的な態度で返しています。


ナラティブ・アプローチに限らず,ほかの場面でも正解にはならない応答でしょう。


2 「何があなたをそのような気持ちにさせるのか教えてください」


これが正解です。クライエントの語りを引き出す応答になっているのは,この選択肢しかありません。


しかも「教えてください」という「無知の姿勢」を強調したものになっています。


3 「奥さんの死がBさんの孤独を深めているのかもしれません」

4 「グループ活動に積極的に参加するといいと思います」

5 「この先,きっといいこともありますよ」


この3つはいずれも「無知の姿勢」となっておらず,しかもワーカーが一人で答えを出しています。


この3つの中でうっかりすると間違ってしまいそうなのは,選択肢3です。


3 「奥さんの死がBさんの孤独を深めているのかもしれません」


ナラティブ・アプローチでなければ,明らかに間違いだとは言えないからです。


しかし,この問題は「生きていても仕方がない。早くお迎えがくればいいのに」と語ったことに対する応答です。


これまでの関係もあるかもしれませんが,たった一言で「奥さんの死がBさんの孤独を深めているのかもしれません」と考えることはできません。


また,仮に本当にそうだったとしても,この応答は何を期待しているのかわかりません。


ソーシャルワークは,極めて科学的なアプローチです。


次の一手,その先の一手,さらにその先の一手を考えながら,かかわっていくことが必要です。


〈今日の一言〉


今日の問題は,問題分類の「タクソノミーⅡ型」の典型例です。

タクソノミーⅡ型の問題は,知識を想起して,それをもとに考えて答えるものです。

この問題の場合は,ナラティブ・アプローチはどんなものであるかを知っていて,そこから事例に当てはめてて答えを出すものとなっています。

事例問題はやさしいと思っていると,足元をすくわれます。知識なしで正解できる事例問題はそんなにありません。

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