ソーシャルワーク系の科目は,国家試験では事例問題があるから簡単だと思っていては痛い目に遭います。
事例問題は,確かに知識がなくても解けます。
ということは,みんな解けることになります。
みんなが解ける可能性があるということは,そこでミスすると不合格につながってしまいます。
特に事例問題の場合,答えを2つ選ぶものの場合,2つめの答えを選ぶのが難しいことがよくあります。
しかし,答えの根拠となる情報が必ず事例の中に含まれています。
それを手がかりにして答えを探します。
「事例の中にはないけれど,きっとこうだろう」と考えて情報を頭の中で付け加えたらおしまいです。
正解することはできません。
今回,取り上げる問題は,国家試験の後に各社から出る解答速報で答えが割れた問題です。
解答速報を出す人も目のつけどころを間違えると正解できないということを物語るエピソードです。
コツさえつかんでしまえば,よほどのことがない限り,正解できます。
それでは,今日の問題です。
第31回・問題106 事例を読んで,Q市にある地域包括支援センターのC社会福祉士が行う援助過程において, この段階における対応として,適切なものを2つ選びなさい。
〔事 例〕
大震災から年月が経過し,V災害復興住宅では高齢化が進み,生活課題も多様化し,孤立してしまう住民が多い。そのため,V災害復興住宅内での住民同士の助け合い活動はほとんど行われていない。ある日,この地域を担当するD民生委員がC社会福祉士の下に相談に訪れ,「先週発生した孤立死のことが悔やまれ,民生委員として無力さを痛感している。もう二度とこのようなケースが起きないように一緒に考えてくれないか」と訴えた。
1 V災害復興住宅周辺の住民も一緒に,孤立死の背景について話し合う機会を持つ。
2 見守り支援活動をV災害復興住宅内の住民に任せる。
3 V災害復興住宅内の掲示板に見守り支援を受けたい人を募るチラシを掲示して様子を見る。
4 V災害復興住宅の全戸を対象とした訪問活動を行う。
5 D民生委員の負担に配慮し,担当地域を変更することを提案する。
事例を読まなくても消去できてしまう選択肢が含まれているのは,試験委員の力量不足と言えるかもしれません。
その選択肢は,2と5です。
2 見守り支援活動をV災害復興住宅内の住民に任せる。
5 D民生委員の負担に配慮し,担当地域を変更することを提案する。
この2つの内容のパターンは,どの事例問題でもおそらく正解にはならないと言えるものです。
それでは。このほかのものを見てみます。
1 V災害復興住宅周辺の住民も一緒に,孤立死の背景について話し合う機会を持つ。
3 V災害復興住宅内の掲示板に見守り支援を受けたい人を募るチラシを掲示して様子を見る。
4 V災害復興住宅の全戸を対象とした訪問活動を行う。
すぐ選べるものは,選択肢1でしょう。
1 V災害復興住宅周辺の住民も一緒に,孤立死の背景について話し合う機会を持つ。
これは,「V災害復興住宅内での住民同士の助け合い活動はほとんど行われていない」という情報に対応するものです。
話し合う機会を持つことで,住民に交流の機会が生まれる可能性があります。
座学だけの研修会ではなく,グループワークが含まれる研修会に参加したことがある人はわかると思いますが,一度でも話す機会があった人とはその後顔を合わせても話しやすいものです。
3 V災害復興住宅内の掲示板に見守り支援を受けたい人を募るチラシを掲示して様子を見る。
4 V災害復興住宅の全戸を対象とした訪問活動を行う。
解答速報で答えが割れたものは,この2つです。
正解は,選択肢4ですが,まずは,選択肢3が正解にならない理由を紹介します。
3 V災害復興住宅内の掲示板に見守り支援を受けたい人を募るチラシを掲示して様子を見る。
見守り支援を受けたいと思わなければ,孤立したままの状況が続きます。
それでは「民生委員として無力さを痛感している」というものには対応したものになりません。
そこで選択肢4を改めて見てみます。
4 V災害復興住宅の全戸を対象とした訪問活動を行う。
これが正解です。
しかしこれを正解にできない人は,おそらく全戸を対象とする,ということに抵抗があるのではないかと思います。
しかし,住民がニーズがあることを感じとっていない場合,選択肢3では,当然,ニーズがあることを表明もしません。
ブラッドショーのニーズの分類でいえば,前者は「感得されたニード」,後者は「表明されたニード」です。
専門家が,アウトリーチで,ニーズがあることを判定する必要があります。
選択肢4が正解になる理由はいくつかありますが,そのうちの一つは,D民生委員の無力感に対応するものだからです。
待つのではなく,こちらから働きかけることは,D民生委員のこの気持ちに対応するものだということがわかるでしょう。
〈今日の一言〉
受験者が間違うならともかく,試験に慣れていると考えられる解答速報を出す人でもミスすることがあります。
事例問題は,価値観によっては不適切問題になりかねません。だからこそ事例の中に答えにつながるものを必ず含んでいます。
そこに気をつけながら問題を解くと,ミスすることはほとんどないでしょう。