2023年11月30日木曜日

ソーシャルワーク専門職のグローバル定義

 「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」は,第28回国試に初登場してから,その後は今の時点まで(2023年11月),毎回出題されています。


確実に正解したいところですが,なかなかやっかいです。

グローバル定義そのものだけではなく,注釈からも出題されているからです。



出典

日本ソーシャルワーカー連盟(JFSW

https://jfsw.org/definition/global_definition/

 

ソーシャルワーク専門職のグローバル定義


ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。


社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸原理は、ソーシャルワークの中核をなす。


ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学、および地域・民族固有の知 *1を基盤として、ソーシャルワークは、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける *2


この定義は、各国および世界の各地域で展開してもよい *3


 

「地域・民族固有の知(indigenous knowledge)」とは、世界各地に根ざし、人々が集団レベルで長期間受け継いできた知を指している。中でも、本文注釈の「知」の節を見ればわかるように、いわゆる「先住民」の知が特に重視されている。

 *2 この文の後半部分は、英語と日本語の言語的構造の違いから、簡潔で適切な訳出が非常に困難である。本文注釈の「実践」の節で、ここは人々の参加や主体性を重視する姿勢を表現していると説明がある。これを加味すると、「ソーシャルワークは、人々が主体的に生活課題に取り組みウェルビーイングを高められるよう人々に関わるとともに、ウェルビーイングを高めるための変革に向けて人々とともにさまざまな構造に働きかける」という意味合いで理解すべきであろう。

 *3 今回、各国および世界の各地域(IFSW/IASSWは、世界をアジア太平洋、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、ヨーロッパという5つの地域=リージョンに分けている)は、このグローバル定義を基に、それに反しない範囲で、それぞれの置かれた社会的・政治的・文化的状況に応じた独自の定義を作ることができることとなった。これによって、ソーシャルワークの定義は、グローバル(世界)・リージョナル(地域)・ナショナル(国)という3つのレベルをもつ重層的なものとなる。

 注釈

 

中核となる任務


ソーシャルワークは、相互に結び付いた歴史的・社会経済的・文化的・空間的・政治的・個人的要素が人々のウェルビーイングと発展にとってチャンスにも障壁にもなることを認識している、実践に基づいた専門職であり学問である。


構造的障壁は、不平等・差別・搾取・抑圧の永続につながる。人種・階級・言語・宗教・ジェンダー・障害・文化・性的指向などに基づく抑圧や、特権の構造的原因の探求を通して批判的意識を養うこと、そして構造的・個人的障壁の問題に取り組む行動戦略を立てることは、人々のエンパワメントと解放をめざす実践の中核をなす。


不利な立場にある人々と連帯しつつ、この専門職は、貧困を軽減し、脆弱で抑圧された人々を解放し、社会的包摂と社会的結束を促進すべく努力する。


社会変革の任務は、個人・家族・小集団・共同体・社会のどのレベルであれ、現状が変革と開発を必要とするとみなされる時、ソーシャルワークが介入することを前提としている。それは、周縁化・社会的排除・抑圧の原因となる構造的条件に挑戦し変革する必要によって突き動かされる。


社会変革のイニシアチブは、人権および経済的・環境的・社会的正義の増進において人々の主体性が果たす役割を認識する。また、ソーシャルワーク専門職は、それがいかなる特定の集団の周縁化・排除・抑圧にも利用されない限りにおいて、社会的安定の維持にも等しく関与する。


社会開発という概念は、介入のための戦略、最終的にめざす状態、および(通常の残余的および制度的枠組に加えて)政策的枠組などを意味する。それは、(持続可能な発展をめざし、ミクロ-マクロの区分を超えて、複数のシステムレベルおよびセクター間・専門職間の協働を統合するような)全体的、生物―心理―社会的、およびスピリチュアルなアセスメントと介入に基づいている。


それは社会構造的かつ経済的な開発に優先権を与えるものであり、経済成長こそが社会開発の前提条件であるという従来の考え方には賛同しない。


原則


ソーシャルワークの大原則は、人間の内在的価値と尊厳の尊重、危害を加えないこと、多様性の尊重、人権と社会正義の支持である。


人権と社会正義を擁護し支持することは、ソーシャルワークを動機づけ、正当化するものである。ソーシャルワーク専門職は、人権と集団的責任の共存が必要であることを認識する。


集団的責任という考えは、一つには、人々がお互い同士、そして環境に対して責任をもつ限りにおいて、はじめて個人の権利が日常レベルで実現されるという現実、もう一つには、共同体の中で互恵的な関係を確立することの重要性を強調する。


したがって、ソーシャルワークの主な焦点は、あらゆるレベルにおいて人々の権利を主張すること、および、人々が互いのウェルビーイングに責任をもち、人と人の間、そして人々と環境の間の相互依存を認識し尊重するように促すことにある。


ソーシャルワークは、第一・第二・第三世代の権利を尊重する。第一世代の権利とは、言論や良心の自由、拷問や恣意的拘束からの自由など、市民的・政治的権利を指す。第二世代の権利とは、合理的なレベルの教育・保健医療・住居・少数言語の権利など、社会経済的・文化的権利を指す。第三世代の権利は自然界、生物多様性や世代間平等の権利に焦点を当てる。これらの権利は、互いに補強し依存しあうものであり、個人の権利と集団的権利の両方を含んでいる。


「危害を加えないこと」と「多様性の尊重」は、状況によっては、対立し、競合する価値観となることがある。たとえば、女性や同性愛者などのマイノリティの権利(生存権さえも)が文化の名において侵害される場合などである。『ソーシャルワークの教育・養成に関する世界基準』は、ソーシャルワーカーの教育は基本的人権アプローチに基づくべきと主張することによって、この複雑な問題に対処しようとしている。そこには以下の注が付されている。


文化的信念、価値、および伝統が人々の基本的人権を侵害するところでは、そのようなアプローチ(基本的人権アプローチ)が建設的な対決と変化を促すかもしれない。そもそも文化とは社会的に構成されるダイナミックなものであり、解体され変化しうるものである。


そのような建設的な対決、解体、および変化は、特定の文化的価値・信念・伝統を深く理解した上で、人権という(特定の文化よりも)広範な問題に関して、その文化的集団のメンバーと批判的で思慮深い対話を行うことを通して促進されうる。



ソーシャルワークは、複数の学問分野をまたぎ、その境界を超えていくものであり、広範な科学的諸理論および研究を利用する。ここでは、「科学」を「知」というそのもっとも基本的な意味で理解したい。


ソーシャルワークは、常に発展し続ける自らの理論的基盤および研究はもちろん、コミュニティ開発・全人的教育学・行政学・人類学・生態学・経済学・教育学・運営管理学・看護学・精神医学・心理学・保健学・社会学など、他の人間諸科学の理論をも利用する。


ソーシャルワークの研究と理論の独自性は、その応用性と解放志向性にある。多くのソーシャルワーク研究と理論は、サービス利用者との双方向性のある対話的過程を通して共同で作り上げられてきたものであり、それゆえに特定の実践環境に特徴づけられる。


この定義は、ソーシャルワークは特定の実践環境や西洋の諸理論だけでなく、先住民を含めた地域・民族固有の知にも拠っていることを認識している。植民地主義の結果、西洋の理論や知識のみが評価され、地域・民族固有の知は、西洋の理論や知識によって過小評価され、軽視され、支配された。


この定義は、世界のどの地域・国・区域の先住民たちも、その独自の価値観および知を作り出し、それらを伝達する様式によって、科学に対して計り知れない貢献をしてきたことを認めるとともに、そうすることによって西洋の支配の過程を止め、反転させようとする。


ソーシャルワークは、世界中の先住民たちの声に耳を傾け学ぶことによって、西洋の歴史的な科学的植民地主義と覇権を是正しようとする。こうして、ソーシャルワークの知は、先住民の人々と共同で作り出され、ローカルにも国際的にも、より適切に実践されることになるだろう。



国連の資料に拠りつつ、IFSWは先住民を以下のように定義している。


地理的に明確な先祖伝来の領域に居住している(あるいはその土地への愛着を維持している)。

自らの領域において、明確な社会的・経済的・政治的制度を維持する傾向がある。

彼らは通常、その国の社会に完全に同化するよりも、文化的・地理的・制度的に独自であり続けることを望む。

先住民あるいは部族というアイデンティティをもつ。


実践


ソーシャルワークの正統性と任務は、人々がその環境と相互作用する接点への介入にある。環境は、人々の生活に深い影響を及ぼすものであり、人々がその中にある様々な社会システムおよび自然的・地理的環境を含んでいる。


ソーシャルワークの参加重視の方法論は、「生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける」という部分に表現されている。ソーシャルワークは、できる限り、「人々のために」ではなく、「人々とともに」働くという考え方をとる。


社会開発パラダイムにしたがって、ソーシャルワーカーは、システムの維持あるいは変革に向けて、さまざまなシステムレベルで一連のスキル・テクニック・戦略・原則・活動を活用する。


ソーシャルワークの実践は、さまざまな形のセラピーやカウンセリング・グループワーク・コミュニティワーク、政策立案や分析、アドボカシーや政治的介入など、広範囲に及ぶ。


この定義が支持する解放促進的視角からして、ソーシャルワークの戦略は、抑圧的な権力や不正義の構造的原因と対決しそれに挑戦するために、人々の希望・自尊心・創造的力を増大させることをめざすものであり、それゆえ、介入のミクロ-マクロ的、個人的-政治的次元を一貫性のある全体に統合することができる。


ソーシャルワークが全体性を指向する性質は普遍的である。しかしその一方で、ソーシャルワークの実践が実際上何を優先するかは、国や時代により、歴史的・文化的・政治的・社会経済的条件により、多様である。


この定義に表現された価値や原則を守り、高め、実現することは、世界中のソーシャルワーカーの責任である。ソーシャルワーカーたちがその価値やビジョンに積極的に関与することによってのみ、ソーシャルワークの定義は意味をもつのである。


 


それでは,今日の問題です。


第32回・問題92 

「ソーシャルワークのグローバル定義」(2014年)に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 ソーシャルワークの発展は,西欧諸国を基準に展開する。

2 ソーシャルワークは,できる限り,「人々のために」ではなく,「人々とともに」働くという考え方をとる。

3 ソーシャルワークの基盤となる知は,単一の学問分野に依拠する。

4 ソーシャルワークの原則は,人間の内発的価値と尊厳の尊重から,多様性の尊重へと変化した。

5 ソーシャルワークの本質として人間関係における問題解決を図ることが新たに加わり,政策目標であることが明示された。

(注) 「ソーシャルワークのグローバル定義」とは,2014年7月の国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)と国際ソーシャルワーク学校連盟(IASSW)の総会・合同会議で採択されたものを指す。



この時は「ソーシャルワークのグローバル定義」と出題されているのが,今となっては何とも古臭いです。


この次の年から「専門職」が加わり「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」と出題されるようになりました。


それでは解説です。


1 ソーシャルワークの発展は,西欧諸国を基準に展開する。


グローバル定義に改正された背景には,西欧諸国に偏っていたことがあります。


グローバル定義では,「各国で展開してもよい」とされているように,さまざまに展開されていきます。


2 ソーシャルワークは,できる限り,「人々のために」ではなく,「人々とともに」働くという考え方をとる。


これが正解です。


今となっては,なるほどと思いますが,この問題が出題された当時は「何,これ?」と思った人も多かったのではないかと思います。


「人々のために」は,はた目からの視点になりますが,「人々とともに」は,支援を必要とする人との距離が近く感じられます。


3 ソーシャルワークの基盤となる知は,単一の学問分野に依拠する。


単一の学問分野ではなく,

ソーシャルワークの理論,社会科学,人文学,および地域・民族固有の知


がソーシャルワークの基盤の知となります。


4 ソーシャルワークの原則は,人間の内発的価値と尊厳の尊重から,多様性の尊重へと変化した。


多様性の尊重は重要ですが,人間の内発的価値と尊厳の尊重は今も昔も重要です。


つまり重点が変化しているわけではありません。


5 ソーシャルワークの本質として人間関係における問題解決を図ることが新たに加わり,政策目標であることが明示された。


人間関係における問題解決を図ることは,2000年の旧定義にあったものです。


グローバル定義ではなくなっていますが,グローバル定義は,マクロに視点をおいているからかもしれません。


グローバル定義にはなくても,ミクロ的視点は,今も重要であることには変わりありません。


〈今日の注意ポイント〉


グローバル定義は,注釈の内容も出題されるので難しいですが,グローバル定義が採択された背景と意図を理解しておけば,ほとんどの問題に対応できるはずです。

2023年11月29日水曜日

社会福祉士及び介護福祉士法

 社会福祉士の根拠法は,社会福祉士及び介護福祉士法です。


この法律くらいは,しっかり頭に入れて試験に臨んでほしいものです。


それでは,今日の問題です。


第32回・問題91 

社会福祉士及び介護福祉士法に規定されている社会福祉士の義務等に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 資質向上の責務として,相談援助に関わる後継者の育成を行わなければならない。

2 秘密保持義務として,その業務に関して知り得た人の秘密は,いかなる理由があっても開示してはならない。

3 信用失墜行為の禁止として,所属組織の信用を傷つけるような行為をしてはならない。

4 連携保持の責務として,業務内容の変化に対応するため,知識と技能の向上に努めなければならない。

5 誠実義務として,個人の尊厳を保持し,自立した日常生活を営むことができるよう,常にその者の立場に立って,誠実にその業務を行わなければならない。


社会福祉士の義務等に関する出題です。

引っ掛けが混ざっているので,そこをうまく避けて通り抜けることが必要な問題です。


それでは,解説です。


1 資質向上の責務として,相談援助に関わる後継者の育成を行わなければならない。


資質の向上の責務

業務内容の変化に対応するため,相談援助等に関する知識及び技能の向上に努めなければならない。


2 秘密保持義務として,その業務に関して知り得た人の秘密は,いかなる理由があっても開示してはならない。


秘密保持義務

正当な理由がなく,その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。


3 信用失墜行為の禁止として,所属組織の信用を傷つけるような行為をしてはならない。


信用失墜行為の禁止

社会福祉士の信用を傷つけるような行為をしてはならない。


4 連携保持の責務として,業務内容の変化に対応するため,知識と技能の向上に努めなければならない。


連携保持の責務

福祉サービス等が総合的かつ適切に提供されるように地域に即した創意と工夫を行いつつ,福祉サービス関係者等との連携を保たなければならない。


「業務内容の変化に対応するため,知識と技能の向上に努めなければならない」は,資質の向上の責務です。


5 誠実義務として,個人の尊厳を保持し,自立した日常生活を営むことができるよう,常にその者の立場に立って,誠実にその業務を行わなければならない。


これが正解です。


〈今日の注意ポイント〉


今日の問題で注意したいのは,選択肢4です。


選択肢1~3は,文章自体に誤りがありますが,選択肢4は,アンダーラインの部分の文章に誤りがありません。


連携保持の責務として,業務内容の変化に対応するため,知識と技能の向上に努めなければならない


アンダーラインの部分には誤りがないので,引っ掛かりなく「すーっ」と読めてしまいます。こういったタイプの出題は,特に注意が必要です。

2023年11月28日火曜日

グラウンデッド・セオリー・アプローチのすすめ方

今回は,質的調査です。

 

グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)

グレイザーとストラウスによって開発されたものです。

GTAの手順は,インタビューや観察などで得られたものを文字化します。

そのポイントだと思われるものを書き出します。

似たようなものをまとめて,そのかたまりをコード化します。

それが「オープン・コーディング」です。

いくつかのかたまりをまたまとめていきます。そして,全体にタイトルをつけます。

それが一回目です。

もう一回,元のデータに戻って同じ作業を繰り返します。

そうすると,最初には気づかなかったものが見えてきます。

また繰り返します。

そうして,繰り返すうちに,これ以上新しいものが出てこなくなった状態を「理論的飽和」といいます。

グレイザーとストラウスは,共同してGTAを提唱しましたが,手法がちょっと違います。

ストラウス派は,まとまったものを再コード化する過程があり,それを軸足コーディングと呼びます。

 グレイザー派は,軸足コーディングを用いないので,国試で軸足コーディングを出題するのは,本来は不適切です。グレイザー派のGTAを学んだ人は知らないからです。ところが後で紹介する今日の問題では,軸足コーディングが出題されています。

 

それでは,今日の問題です。

 

32回・問題90

調査の情報の整理と分析に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。

1 グラウンデッド・セオリー・アプローチにおける軸足コーディングは,単一のカテゴリーと複数のサプカテゴリーを関連づける方法である。

2 プリコーディングとは,自由記述や事前に数値化が困難な回答に対して,調査者が後からコードの割当てをすることをいう。

3 会話分析の関心は,調査対象者がどのように日常的な相互行為を秩序立てて生み出すのかを解明するために,会話内容ではなく,会話の形式や構造に向けられる。

4 ミックス法は,質問紙などの量的調査とインタビューなどの質的調査を組み合わせる方法である。

5 インタビューデータの分析において,対象者が使っている言葉をそのままコードとして用いることをオープン・コーディングという。

 

軸足コーディングは,何度も出題されてきているところを見ると,日本ではもしかすると,グレイザー派よりもストラウス派のほうが主流なのかもしれません。

 

それでは解説です。

 

1 グラウンデッド・セオリー・アプローチにおける軸足コーディングは,単一のカテゴリーと複数のサプカテゴリーを関連づける方法である。

 

これが1つめの正解です。

 

軸足コーディングが出題され,しかも正解となっています。

 

2 プリコーディングとは,自由記述や事前に数値化が困難な回答に対して,調査者が後からコードの割当てをすることをいう。

 

「プリ」は「前に」という意味です。

 

後からコードを割り当てるのは,アフターコーディングです。

 

3 会話分析の関心は,調査対象者がどのように日常的な相互行為を秩序立てて生み出すのかを解明するために,会話内容ではなく,会話の形式や構造に向けられる。

 

会話分析という聞いたこともないものが出題されていますが,会話内容も改割形式や構造にも着目します。

 

4 ミックス法は,質問紙などの量的調査とインタビューなどの質的調査を組み合わせる方法である。

 

これが2つめの正解です。

 

ミックス法という名前から,何かを合わせることであると推測できそうです。

 

5 インタビューデータの分析において,対象者が使っている言葉をそのままコードとして用いることをオープン・コーディングという。

 

対象者が使っている言葉をそのままコードとして用いることは,インビボコーディングです。

 

オープン・コーディングは,質的データに最初にコーディングしていくものです。

 

〈今日の注意ポイント〉

 

間違う人はそれほどいないかもしれませんが,選択肢3に着目します。

 

会話分析の関心は,調査対象者がどのように日常的な相互行為を秩序立てて生み出すのかを解明するために,会話内容ではなく,会話の形式や構造に向けられる。

 

とても回りくどいと思いませんか?

 

この内容が正しければ,

 

会話分析の関心は,会話の形式や構造に向けられる。

 

で良いはずです。そうなっていないのは,引っ掛けるための仕掛けだからです。

2023年11月27日月曜日

分散と標準偏差

今回は,分散と標準偏差を取り上げます。

 

分散は,データが平均値からどのくらいばらついているのかを示すものです。

 

標準偏差は,分散の正の平方根の値です。

 

標準偏差はよく知らなくても,偏差値というのは聞いたことがあるでしょう。

 

偏差値の計算法

 

(個人の得点-平均点)÷標準偏差×1050

 

偏差値を計算するのに,標準偏差が用いられています。

 

つまり,偏差値を計算するために,標準偏差が必要です。

 

それでは,今日の問題です。

 

32回・問題89

量的調査の集計と分析に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 質問紙調査のデータを集計する際に,全体的な回答の分布を見たい場合に,度数分布表を用いることはない。

2 データの分布を代表する値として平均値を用いておけば,中央値や最頻値は見なくてもよい。

3 標準偏差は,調査データが全体としてどれぐらい平均値から離れて散らばっているのかを表す指標の一つである。

4 推測統計とは,収集されたデータそのものの特徴を記述するための方法である。

5 オッズ比は,分布の左右対称性に関する指標である。

 

知識がなくても消去できそうな選択肢があります。

 

それでは解説です。

 

1 質問紙調査のデータを集計する際に,全体的な回答の分布を見たい場合に,度数分布表を用いることはない。

 

度数分布表は,回答の分布を調べるときに用います。

 

〈例〉

得点

人数

103

1

100

5

95

2

90

10

89

8

87

3

 

このような表を作成して,ヒストグラムのようにデータを見える化します。

 

2 データの分布を代表する値として平均値を用いておけば,中央値や最頻値は見なくてもよい。

 

データの代表値には

平均値

中央値

最頻値

 

などがあります。平均値は,簡単に計算できるのでよく用いられますが,いわゆる外れ値があると,その集団の様子を正しく表わさないために,中央値や最頻値などと合わせて示します。

 

3 標準偏差は,調査データが全体としてどれぐらい平均値から離れて散らばっているのかを表す指標の一つである。

 

これが正解です。

 

分散,標準偏差ともにデータのばらつきを示す指標です。

 

4 推測統計とは,収集されたデータそのものの特徴を記述するための方法である。

 

収集されたデータそのものの特徴を記述するための方法は,記述統計です。

 

推測統計は,その集団の特徴を推測するための方法です。

 

5 オッズ比は,分布の左右対称性に関する指標である。

 

オッズ比は,起きる確率と起きない確率の比です。

 

分布の左右対称性に関する指標は,歪度(わいど)といいます。

 

〈今日の注意ポイント〉

 

標準偏差は,分散の正の平方根です。

 

平方根とは,ルートのことですが,わざわざこの計算をするのは,分散を計算する際に,一度2乗しているので,それを小さな数字に戻すためです。

2023年11月26日日曜日

質問紙を作成する際に注意すること

アンケートは手軽に実施できます。

しかし,適切に質問紙を作らないと思ったような結果を得ることはできません。 


質問紙を作成する場合の留意点

ダブルバーレル質問

一つの質問に複数の要素を含んだ質問。

イエステンデンシー

「いいえ」と答えるよりも「はい」と答えることのほうが答えやすい傾向にあること。

キャリーオーバー効果

前の質問が次の質問に影響を与えること。

ステレオタイプ

特定の意味を含んだ言葉のこと。過去問では「市民運動」という表現と「草の根の市民運動」という表現を例に出題されている。

 

 

これらに注意して,今日の問題です。

 

32回・問題88 

質問紙の作成に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。

1 ダブルバーレルは,質問の中に三つ以上の論点を含めないようにする作成方法である。

2 リッカート尺度は,「当てはまる」「どちらともいえない」「当てはまらない」などというように多段階で程度を測定する選択肢で回答を求めるものである。

3 キャリーオーバー効果は,前に回答したことが,後に続く質問の回答へ効果的な影響を与えるので,積極的に用いるのが望ましい。

4 質問紙の作成においては全て〇や数字で回答するようにし,文字の記述を求める自由回答の欄を設けてはいけない。

5 フェイスシートは,回答者の年齢,学歴,家族構成などの属性を回答する欄である。

 

社会福祉調査っぽくないような内容も含まれています。

 

その分,ちょっとといじわるなのかもしれません。

 

それでは解説です。

 

1 ダブルバーレルは,質問の中に三つ以上の論点を含めないようにする作成方法である。

 

ダブルですから,2つ以上です。

 

2 リッカート尺度は,「当てはまる」「どちらともいえない」「当てはまらない」などというように多段階で程度を測定する選択肢で回答を求めるものである。

 

これが1つめの正解です。

 

選択肢にあるような質問は,よくみられます。これをリッカート尺度と呼びます。

 

リッカート尺度は,順序尺度の一種です。

 

3 キャリーオーバー効果は,前に回答したことが,後に続く質問の回答へ効果的な影響を与えるので,積極的に用いるのが望ましい。

 

キャリーオーバー効果が生じないように注意が必要です。

 

4 質問紙の作成においては全て〇や数字で回答するようにし,文字の記述を求める自由回答の欄を設けてはいけない。

 

自由回答欄は,必要です。

 

アンケートをとってみれば,その理由がよくわかるでしょう。

 

5 フェイスシートは,回答者の年齢,学歴,家族構成などの属性を回答する欄である。

 

これが2つめの正解です。

フェイスシートは,ソーシャルワークの理論と方法で出題されています。

 

〈今日の注意ポイント〉

 

〈質問紙を作成する場合の留意点〉に示した内容は,すべて避けるべき内容です。

2023年11月25日土曜日

測定尺度(名義尺度・順序尺度・間隔尺度・比例尺度)

 

今回は,測定尺度(名義尺度・順序尺度・間隔尺度・比例尺度)に関する問題を取り上げます。

 

名義尺度

測定したものを区別するものの意味しかない。使える代表値は,最頻値のみ。

〈例〉

1.日本人

2.アメリカ人

3.イギリス人

4.中国人

5.その他

1から5までの数字があるが,その数字には意味がない。

間隔尺度

数値の大小だけに意味があるもの。使える代表値は,最頻値,中央値。

〈例〉

果物の好き嫌いについて

りんご 1.大好き 2.好き 3.ふつう 4.嫌い 5.大嫌い

みかん 1.大好き 2.好き 3.ふつう 4.嫌い 5.大嫌い

いちご 1.大好き 2.好き 3.ふつう 4.嫌い 5.大嫌い

間隔尺度

数値の大小に意味をもち,間隔は等しいもの。使える代表値は,最頻値,中央値,平均値。

〈例〉

気温

比例尺度

数値の大小に意味をもち,間隔は等しいもの。間隔尺度と異なるのは,ゼロ以下はないこと。使える代表値は,最頻値,中央値,平均値。

〈例〉

体重・身長

 

それぞれの尺度で得たデータは

 

名義尺度

順序尺度

間隔尺度

比例尺度

 

の順で情報量が多くなります。

 

 

それでは,今日の問題です。

 

32回・問題87

量的調査の測定尺度に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 名義尺度は,代表値を求めることはできない。

2 順序尺度は,測定値の大小や優劣を意味しない。

3 間隔尺度は,測定値の間隔を数量的に表現できない。

4 比例尺度は,数値の間隔が等しいだけでなく数値の比も意味を持つ。

5 名義尺度,順序尺度,間隔尺度,比例尺度は,いずれも標準偏差を計算することに数量的な意味がある。

 

測定尺度は,知識がなければ正解できないので,国家試験には向く出題となります。

 

それでは解説です。

 

1 名義尺度は,代表値を求めることはできない。

 

名義尺度は,4つの測定尺度の中では,最も情報量の少ないものですが,最頻値は求めることができます。

 

2 順序尺度は,測定値の大小や優劣を意味しない。

 

順序尺度は,データの大小,優劣だけに意味を持ちます。

 

3 間隔尺度は,測定値の間隔を数量的に表現できない。

 

間隔尺度は,それぞれの間隔が等しいものです。

 

気温のように,1℃,2℃と表現することができます。

 

4 比例尺度は,数値の間隔が等しいだけでなく数値の比も意味を持つ。

 

これが正解です。

 

比例尺度が最も情報量の多いデータが得られます。

 

意味のある四則計算が可能なのは,比例尺度のみです。

 

間隔尺度は,四則計算のうち,足し算,引き算のみ意味を持ちます。

 

5 名義尺度,順序尺度,間隔尺度,比例尺度は,いずれも標準偏差を計算することに数量的な意味がある。

 

標準偏差は,データのばらつきを示すものです。

 

意味がある標準偏差を出すことができるのは,間隔尺度と比例尺度のみです。

 

〈今日の注意ポイント〉

 

社会福祉調査が苦手だと思う人は,多いです。

 

そのうち,測定尺度は,理解するのが面倒だと感じる代表的なものの一つでしょう。

 

測定尺度を理解する時のポイントは,それぞれの例を覚えることです。

 

上記の表を頭に焼き付けましょう。

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