福祉元年と呼ばれた1973年(昭和48年)に創設された高額療養費制度は,1か月の医療費の自己負担限度額を超えた場合,超えた分を償還してくれる制度です。
医療保険者が発行する限度額適用認定証を支払い時に提示すると,窓口支払いを自己負担限度額にとどめることができます。
それでは,今日の問題です。
第32回・問題70
日本の医療費の自己負担限度額に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 食費,居住費,差額ベッド代は高額療養費制度の支給の対象とはならない。
2 医療保険加入者が70歳未満である場合,二人以上の同一世帯で合算した年額の医療費の自己負担限度額が定められている。
3 医療保険加入者が医療保険と介護保険を共に利用した場合,それらの費用を世帯で合算した月額の自己負担限度額が定められている。
4 医療保険加入者が70歳以上である場合,入院の費用に限り世帯単位での医療費の自己負担限度額が定められている。
5 医療保険加入者が高額長期疾病(特定疾病)の患者である場合,医療費の自己負担を免除することが定められている。
〈医療ソーシャルワーカー業務指針で示される業務の範囲〉
1.療養中の心理的・社会的問題の解決,調整援助。 2.退院援助。 3.社会復帰援助。 4.受診・受療援助。経済的問題の解決,調整援助。地域活動。 |
医療ソーシャルワーカーにとって,経済的問題の解決,調整活動は,とても重要なものです。
労働力を商品して対価を得る労働者にとって,傷病によって労働できなくなることは,貧困につながるためです。
それでは,解説です。
1 食費,居住費,差額ベッド代は高額療養費制度の支給の対象とはならない。
これが正解です。
なお,差額ベッド代は,保険外併用療養費の選定療養に含まれます。
日本では,保険診療と自由診療を一緒に受けることができません。
自由診療が入ると,すべて保険適用されなくなります。
そのため,保険外併用療養費という制度をつくり,一部の自由診療を含んでも,それ以外の部分は,保険を適用しています。
保険外併用療養費には,選定療養,評価療養,患者申出療養の3種類があり,差額ベッド代や時間外診療などは,そのうちの選定療養に含まれています。
もし,保険外併用療養費という制度がなければ,差額ベッドを利用した場合は,すべて保険が適用されないという恐ろしい事態になってしまいます。
2 医療保険加入者が70歳未満である場合,二人以上の同一世帯で合算した年額の医療費の自己負担限度額が定められている。
高額療養費制度は,同じ医療保険の場合,世帯合算することができます。
ただし,自己負担限度額は,月額で定められます。
年額で定められているのは,高額療養費制度の介護保険版である「高額介護合算療養費制度」です。
3 医療保険加入者が医療保険と介護保険を共に利用した場合,それらの費用を世帯で合算した月額の自己負担限度額が定められている。
これが,高額介護合算療養費制度です。
選択肢2の解説で書いたとおり,高額介護合算療養費制度の自己負担限度額は,年額で定められています。
4 医療保険加入者が70歳以上である場合,入院の費用に限り世帯単位での医療費の自己負担限度額が定められている。
高額療養費制度は,年齢にかかわらず,入院,通院,いずれの医療費も対象です。
5 医療保険加入者が高額長期疾病(特定疾病)の患者である場合,医療費の自己負担を免除することが定められている。
高額長期疾病(特定疾病)の場合の自己負担額は定額となります。
免除まではしてくれません。
〈今日の注意ポイント〉
〈自己負担限度額〉
高額介護合算療養費制度 → 年額
高額療養費制度は「月額」,高額介護合算療養費制度は「年額」というように異なります。
覚えるのは面倒になりますが,この違いがあるのは,国民に対するメリットを考えた制度であるためだと考えられます。
多くの国民が高額療養費制度を利用するのは,急な傷病のために,一時的に医療費が高額になる場合でしょう。
年額よりも月額で設定されていたほうが便利です。
それに比べると,高額介護合算療養費制度は,長期の療養を要します。そのために,年額で設定されていたほうが手続きは少なくて済みます。
特に高額介護合算療養費制度には,高額療養費制度のように,限度額適用認定証という制度がないので,月額だと毎月手続きしなければならないことになってしまいます。
年額なら,年に一度の手続きで済みます。