「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」は,第28回国試に初登場してから,その後は今の時点まで(2023年11月),毎回出題されています。
確実に正解したいところですが,なかなかやっかいです。
グローバル定義そのものだけではなく,注釈からも出題されているからです。
出典
日本ソーシャルワーカー連盟(JFSW)
https://jfsw.org/definition/global_definition/
ソーシャルワーク専門職のグローバル定義
ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。 社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸原理は、ソーシャルワークの中核をなす。 ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学、および地域・民族固有の知 *1を基盤として、ソーシャルワークは、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける *2。 この定義は、各国および世界の各地域で展開してもよい *3。 |
1 「地域・民族固有の知(indigenous knowledge)」とは、世界各地に根ざし、人々が集団レベルで長期間受け継いできた知を指している。中でも、本文注釈の「知」の節を見ればわかるように、いわゆる「先住民」の知が特に重視されている。
中核となる任務 |
ソーシャルワークは、相互に結び付いた歴史的・社会経済的・文化的・空間的・政治的・個人的要素が人々のウェルビーイングと発展にとってチャンスにも障壁にもなることを認識している、実践に基づいた専門職であり学問である。 構造的障壁は、不平等・差別・搾取・抑圧の永続につながる。人種・階級・言語・宗教・ジェンダー・障害・文化・性的指向などに基づく抑圧や、特権の構造的原因の探求を通して批判的意識を養うこと、そして構造的・個人的障壁の問題に取り組む行動戦略を立てることは、人々のエンパワメントと解放をめざす実践の中核をなす。 不利な立場にある人々と連帯しつつ、この専門職は、貧困を軽減し、脆弱で抑圧された人々を解放し、社会的包摂と社会的結束を促進すべく努力する。 社会変革の任務は、個人・家族・小集団・共同体・社会のどのレベルであれ、現状が変革と開発を必要とするとみなされる時、ソーシャルワークが介入することを前提としている。それは、周縁化・社会的排除・抑圧の原因となる構造的条件に挑戦し変革する必要によって突き動かされる。 社会変革のイニシアチブは、人権および経済的・環境的・社会的正義の増進において人々の主体性が果たす役割を認識する。また、ソーシャルワーク専門職は、それがいかなる特定の集団の周縁化・排除・抑圧にも利用されない限りにおいて、社会的安定の維持にも等しく関与する。 社会開発という概念は、介入のための戦略、最終的にめざす状態、および(通常の残余的および制度的枠組に加えて)政策的枠組などを意味する。それは、(持続可能な発展をめざし、ミクロ-マクロの区分を超えて、複数のシステムレベルおよびセクター間・専門職間の協働を統合するような)全体的、生物―心理―社会的、およびスピリチュアルなアセスメントと介入に基づいている。 それは社会構造的かつ経済的な開発に優先権を与えるものであり、経済成長こそが社会開発の前提条件であるという従来の考え方には賛同しない。 |
原則 |
ソーシャルワークの大原則は、人間の内在的価値と尊厳の尊重、危害を加えないこと、多様性の尊重、人権と社会正義の支持である。 人権と社会正義を擁護し支持することは、ソーシャルワークを動機づけ、正当化するものである。ソーシャルワーク専門職は、人権と集団的責任の共存が必要であることを認識する。 集団的責任という考えは、一つには、人々がお互い同士、そして環境に対して責任をもつ限りにおいて、はじめて個人の権利が日常レベルで実現されるという現実、もう一つには、共同体の中で互恵的な関係を確立することの重要性を強調する。 したがって、ソーシャルワークの主な焦点は、あらゆるレベルにおいて人々の権利を主張すること、および、人々が互いのウェルビーイングに責任をもち、人と人の間、そして人々と環境の間の相互依存を認識し尊重するように促すことにある。 ソーシャルワークは、第一・第二・第三世代の権利を尊重する。第一世代の権利とは、言論や良心の自由、拷問や恣意的拘束からの自由など、市民的・政治的権利を指す。第二世代の権利とは、合理的なレベルの教育・保健医療・住居・少数言語の権利など、社会経済的・文化的権利を指す。第三世代の権利は自然界、生物多様性や世代間平等の権利に焦点を当てる。これらの権利は、互いに補強し依存しあうものであり、個人の権利と集団的権利の両方を含んでいる。 「危害を加えないこと」と「多様性の尊重」は、状況によっては、対立し、競合する価値観となることがある。たとえば、女性や同性愛者などのマイノリティの権利(生存権さえも)が文化の名において侵害される場合などである。『ソーシャルワークの教育・養成に関する世界基準』は、ソーシャルワーカーの教育は基本的人権アプローチに基づくべきと主張することによって、この複雑な問題に対処しようとしている。そこには以下の注が付されている。 文化的信念、価値、および伝統が人々の基本的人権を侵害するところでは、そのようなアプローチ(基本的人権アプローチ)が建設的な対決と変化を促すかもしれない。そもそも文化とは社会的に構成されるダイナミックなものであり、解体され変化しうるものである。 そのような建設的な対決、解体、および変化は、特定の文化的価値・信念・伝統を深く理解した上で、人権という(特定の文化よりも)広範な問題に関して、その文化的集団のメンバーと批判的で思慮深い対話を行うことを通して促進されうる。 |
知 |
ソーシャルワークは、複数の学問分野をまたぎ、その境界を超えていくものであり、広範な科学的諸理論および研究を利用する。ここでは、「科学」を「知」というそのもっとも基本的な意味で理解したい。 ソーシャルワークは、常に発展し続ける自らの理論的基盤および研究はもちろん、コミュニティ開発・全人的教育学・行政学・人類学・生態学・経済学・教育学・運営管理学・看護学・精神医学・心理学・保健学・社会学など、他の人間諸科学の理論をも利用する。 ソーシャルワークの研究と理論の独自性は、その応用性と解放志向性にある。多くのソーシャルワーク研究と理論は、サービス利用者との双方向性のある対話的過程を通して共同で作り上げられてきたものであり、それゆえに特定の実践環境に特徴づけられる。 この定義は、ソーシャルワークは特定の実践環境や西洋の諸理論だけでなく、先住民を含めた地域・民族固有の知にも拠っていることを認識している。植民地主義の結果、西洋の理論や知識のみが評価され、地域・民族固有の知は、西洋の理論や知識によって過小評価され、軽視され、支配された。 この定義は、世界のどの地域・国・区域の先住民たちも、その独自の価値観および知を作り出し、それらを伝達する様式によって、科学に対して計り知れない貢献をしてきたことを認めるとともに、そうすることによって西洋の支配の過程を止め、反転させようとする。 ソーシャルワークは、世界中の先住民たちの声に耳を傾け学ぶことによって、西洋の歴史的な科学的植民地主義と覇権を是正しようとする。こうして、ソーシャルワークの知は、先住民の人々と共同で作り出され、ローカルにも国際的にも、より適切に実践されることになるだろう。 国連の資料に拠りつつ、IFSWは先住民を以下のように定義している。 地理的に明確な先祖伝来の領域に居住している(あるいはその土地への愛着を維持している)。 自らの領域において、明確な社会的・経済的・政治的制度を維持する傾向がある。 彼らは通常、その国の社会に完全に同化するよりも、文化的・地理的・制度的に独自であり続けることを望む。 先住民あるいは部族というアイデンティティをもつ。 |
実践 |
ソーシャルワークの正統性と任務は、人々がその環境と相互作用する接点への介入にある。環境は、人々の生活に深い影響を及ぼすものであり、人々がその中にある様々な社会システムおよび自然的・地理的環境を含んでいる。 ソーシャルワークの参加重視の方法論は、「生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける」という部分に表現されている。ソーシャルワークは、できる限り、「人々のために」ではなく、「人々とともに」働くという考え方をとる。 社会開発パラダイムにしたがって、ソーシャルワーカーは、システムの維持あるいは変革に向けて、さまざまなシステムレベルで一連のスキル・テクニック・戦略・原則・活動を活用する。 ソーシャルワークの実践は、さまざまな形のセラピーやカウンセリング・グループワーク・コミュニティワーク、政策立案や分析、アドボカシーや政治的介入など、広範囲に及ぶ。 この定義が支持する解放促進的視角からして、ソーシャルワークの戦略は、抑圧的な権力や不正義の構造的原因と対決しそれに挑戦するために、人々の希望・自尊心・創造的力を増大させることをめざすものであり、それゆえ、介入のミクロ-マクロ的、個人的-政治的次元を一貫性のある全体に統合することができる。 ソーシャルワークが全体性を指向する性質は普遍的である。しかしその一方で、ソーシャルワークの実践が実際上何を優先するかは、国や時代により、歴史的・文化的・政治的・社会経済的条件により、多様である。 この定義に表現された価値や原則を守り、高め、実現することは、世界中のソーシャルワーカーの責任である。ソーシャルワーカーたちがその価値やビジョンに積極的に関与することによってのみ、ソーシャルワークの定義は意味をもつのである。 |
それでは,今日の問題です。
第32回・問題92
「ソーシャルワークのグローバル定義」(2014年)に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 ソーシャルワークの発展は,西欧諸国を基準に展開する。
2 ソーシャルワークは,できる限り,「人々のために」ではなく,「人々とともに」働くという考え方をとる。
3 ソーシャルワークの基盤となる知は,単一の学問分野に依拠する。
4 ソーシャルワークの原則は,人間の内発的価値と尊厳の尊重から,多様性の尊重へと変化した。
5 ソーシャルワークの本質として人間関係における問題解決を図ることが新たに加わり,政策目標であることが明示された。
(注) 「ソーシャルワークのグローバル定義」とは,2014年7月の国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)と国際ソーシャルワーク学校連盟(IASSW)の総会・合同会議で採択されたものを指す。
この時は「ソーシャルワークのグローバル定義」と出題されているのが,今となっては何とも古臭いです。
この次の年から「専門職」が加わり「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」と出題されるようになりました。
それでは解説です。
1 ソーシャルワークの発展は,西欧諸国を基準に展開する。
グローバル定義に改正された背景には,西欧諸国に偏っていたことがあります。
グローバル定義では,「各国で展開してもよい」とされているように,さまざまに展開されていきます。
2 ソーシャルワークは,できる限り,「人々のために」ではなく,「人々とともに」働くという考え方をとる。
これが正解です。
今となっては,なるほどと思いますが,この問題が出題された当時は「何,これ?」と思った人も多かったのではないかと思います。
「人々のために」は,はた目からの視点になりますが,「人々とともに」は,支援を必要とする人との距離が近く感じられます。
3 ソーシャルワークの基盤となる知は,単一の学問分野に依拠する。
単一の学問分野ではなく,
ソーシャルワークの理論,社会科学,人文学,および地域・民族固有の知
がソーシャルワークの基盤の知となります。
4 ソーシャルワークの原則は,人間の内発的価値と尊厳の尊重から,多様性の尊重へと変化した。
多様性の尊重は重要ですが,人間の内発的価値と尊厳の尊重は今も昔も重要です。
つまり重点が変化しているわけではありません。
5 ソーシャルワークの本質として人間関係における問題解決を図ることが新たに加わり,政策目標であることが明示された。
人間関係における問題解決を図ることは,2000年の旧定義にあったものです。
グローバル定義ではなくなっていますが,グローバル定義は,マクロに視点をおいているからかもしれません。
グローバル定義にはなくても,ミクロ的視点は,今も重要であることには変わりありません。
〈今日の注意ポイント〉
グローバル定義は,注釈の内容も出題されるので難しいですが,グローバル定義が採択された背景と意図を理解しておけば,ほとんどの問題に対応できるはずです。