2018年4月29日日曜日

国試に合格する勉強法~ニーズのとらえ方③

「現代社会と福祉」の中心テーマは,福祉政策です。

・社会ではどんな福祉ニーズが発生しているのか。
・どのように福祉ニーズを充足するか。

この2つに集約されることは前回紹介したとおりです。

少しイメージすることができたでしょうか。

福祉政策は,歴史的に見ると,古典的な自由主義による経済システムの欠陥で生じた貧困問題が出発点です。

そのため,所得保障が中心になります。

しかし,社会問題は,時代とともに変化し,抱える課題は多様化していきます。

この科目が難しくなる理由はいろいろありますが,他の科目が現行の法制度を押さえていくものであるのに対し,「現代社会と福祉」は,法制度はどのように作られていくのかを押さえなければならないからでしょう。


前回は,ソーシャルワークと福祉政策を重ねてみました。

ソーシャルワークでは,ニーズ把握には高度なスキルが伴うことはよくご存じでしょう。

福祉政策も同じく,高度なニーズ判定が必要です。

また,福祉政策にはもう一つの側面があります。

それは限りある財源をどのように配分するか,といった側面です。

この2つを意識しながら,中級編の問題を紹介します。


第22回・問題26 

福祉政策における需要とニーズ(必要)の概念に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 ニーズ(必要)に応じた分配とは,人々の出身,能力,貢献などとは無関係に,各人が必要とする資源を分配することを意味する。

2 福祉サービスの需要のうち,その存在が気付かれていないものを無効需要ないし潜在需要といい,気付かれているものを有効需要という。

3 必要即応の原則とは,福祉サービスは,年齢や性別など個人や世帯の相違を考慮して有効かつ適切に提供すべきことを意味し,社会福祉法で定められている。

4 福祉サービスに対する行政需要とは,国民の政府に対する要求や要望のうち,市場を通じて供給することが特に可能な消費者の需要のことである。

5 ブラッドショー(Bradsbaw,J.)のいう「エクスプレスト・ニード」とは,専門家が自らの経験に基づいて感じとったニーズ(必要)のことを意味する。


需要という用語がずらりと並んでいます。

それだけで難しいと感じてしまうかもしれません。

需要とセットになる用語は,供給です。

アダムスは「神の見えざる手」と表現し,経済は需要と供給の関係で動いていることを説明しました。

この思想が古典的な自由主義を支えることになりますが,先述のように,さまざまな問題が生じました。

この辺りのことは,次回の上級編で詳しく紹介したいと思います。

さて,需要と供給です。

需要は,福祉ニーズととらえて良いと思います。

ソーシャルワークの中では,デマンド(要望)とニーズ(必要)は明確に区別されます。

デマンドは,クライエント,あるいは家族からの要望です。ニーズは,古くは「要援護性」の意味合いで使用されたこともありますが,分かりやすく言えば「必要とされるもの」を指しています。

そのため,ニーズと簡単に表現せず,ニーズ(必要)とわざわざ表現しているのです。

実生活でも,他の人から見てこの人は〇〇が足りない,と思っても本人はそのことに気が付かないでいることが多いものです。

それでは解説です。


1 ニーズ(必要)に応じた分配とは,人々の出身,能力,貢献などとは無関係に,各人が必要とする資源を分配することを意味する。

分配には,ニーズ原則(必要原則)と貢献原則があります。

ニーズ原則は,ニーズがある場合に配分します。社会福祉制度,公的扶助制度がこれに該当します。

貢献原則は,貢献度合いに合わせて配分します。社会保険制度がこれに該当します。

正解です。

日本の制度では,厚生年金制度をイメージするとわかりやすいかもしれません。


2 福祉サービスの需要のうち,その存在が気付かれていないものを無効需要ないし潜在需要といい,気付かれているものを有効需要という。

潜在需要は,正しいですが,有効需要は実際にアクセスできるものです。
よって間違いです。


3 必要即応の原則とは,福祉サービスは,年齢や性別など個人や世帯の相違を考慮して有効かつ適切に提供すべきことを意味し,社会福祉法で定められている。

必要即応の原則は,生活保護の原則です。内容は正しいですが,定められているのは,社会福祉法です。よって間違いです。


4 福祉サービスに対する行政需要とは,国民の政府に対する要求や要望のうち,市場を通じて供給することが特に可能な消費者の需要のことである。

行政需要は,行政への要望です。市場を通じて供給することが特に可能な消費者の需要に限定されるものではありません。よって間違いです。


5 ブラッドショー(Bradsbaw,J.)のいう「エクスプレスト・ニード」とは,専門家が自らの経験に基づいて感じとったニーズ(必要)のことを意味する。

ブラッドショーは,ニーズを4つに分類しています。

分類
英語表記
内容
視点
感得されたニード
フェルト・ニード
本人がニーズがあることに気がついているニーズ
本人
表出されたニード
エクスプレスト・ニード
本人がニーズ充足のために実際に行動を起こしたニーズ
規範的ニード
ノーマティブ・ニード
行政や専門職が望ましくない状態だと判断するニーズ
他者
比較ニード
コンパラティブ・ニード
同じような状況に置かれながらも,サービス利用している人とサービス利用していない人がいる場合,サービス利用していない場合のニーズ


本人からの視点は,感得されたニード(フェルト・ニード)と表出されたニード(エクスプレスト・ニード)です。

第三者によってニーズがあると把握されるものは,規範的ニード(ノーマティブ・ニード)と比較ニード(コンパラティブ・ニード)です。

問題では,エクスプレスト・ニードは本人からの視点であるにもかかわらず,「専門職が~」となっているので間違いです。

次回は,ニーズシリーズの上級編です。

2018年4月28日土曜日

国家試験に合格する勉強法~ニーズのとらえ方②

「現代社会と福祉」は,旧カリキュラム時代は,社会福祉原論という名称の科目でした。

大学によっては今もその名称であるところも多いのではないでしょうか。

社会福祉原論は,福祉とは何かを学ぶための科目です。

「現代社会と福祉」は,福祉政策が中心テーマです。原論の中には,福祉政策も含まれますが,それは全体の一部です。

「現代社会と福祉」に変わってからの国試問題を分類すると以下の2点に集約することができます。

・社会ではどんな福祉ニーズが発生しているのか。
・どのように福祉ニーズを充足するか。

この科目は出題範囲が広いですが,実は意外とシンプルです。

ほかの制度系の科目は,領域ごとに分かれていて,福祉ニーズを充足するために作られた法制度をどのように運用するかが問われます。

そこがこの科目と他の科目の大きな違いです。

ポイントはシンプルですが,それを実際に展開するとかなり細分化されます。

そこでこの科目が難しく感じられる理由なのかもしれません。

社会福祉原論では出題されていた福祉哲学に関連する問題は,現代社会と福祉のではほとんど出題されていません。

それを憂いてのことなのか,近年では,「相談援助の基盤と専門職」の問題の中に含めて出題されるようになってきています。

それは,カリキュラムに対する試験委員のささやかな抵抗のように感じます。

さて,前回に引き続き,今回も「ニーズ」を取り上げたいと思います。

現代社会と福祉の出題ポイントは先述のように

・社会ではどんな福祉ニーズが発生しているのか。
・どのように福祉ニーズを充足するか。

に集約されます。

社会全体でとらえると難しく感じるかもしれませんが,対クライエント(ミクロ)に置き換えて考えると実は一緒です。

ソーシャルワークの場合は,

インテーク
アセスメント
プランニング
インターベンション
モニタリング
 ・
 ・
 ・
と進行していきます。

場合によっては,この中にケアマネジメントの手法も含まれてくることでしょう。

福祉政策とソーシャルワークを重ねてみると

どのような社会問題が発生しているのか → インテーク

どのような課題があるか → アセスメント

どのように福祉ニーズを充足するか → プランニング

といったようになります。

昨日から取り組んでいるニーズは,ソーシャルワークの中ではスクリーニングとアセスメントに当たります。

ニーズを充足するための制度設計は,プランニングです。

このように「現代社会と福祉」は,インターベンション(介入)に至る前までを対象としていると言えます。

さて,ニーズの出題頻度です。

第22,25,26,27,28,29,30,31回

出題されなかったのは,わずか第23回と第24回の2回だけです。

6年連続で出題されている超超頻出領域です。

絶対に得点したいです。

それでは,今日の問題です。

第28回・問題25 福祉サービス利用者のニーズに関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 政府による資源配分では,ニーズ原則が貫かれている。
2 ニーズの質や水準にかかわりなく,サービスに定額の負担を課すことを,普遍主義という。
3 ニーズ充足の評価には,主観的評価も含まれる。
4 サービス情報が公開されていれば,ニーズが潜在化することはない。
5 その人の主観的な欲求が表現されたもの以外は,ニーズとはみなせない。


ニーズに関する出題は,ソーシャルワークに重ねて考えるのが最も効果的です。
その視点でもう一度問題を読んでみてください。

さて,それでは解説です。

1 政府による資源配分では,ニーズ原則が貫かれている。

資源をどのように配分するかは,制度設計に関連するものなので,プランニングに該当する部分です。

資源配分には,ニーズ原則(必要原則)と貢献原則があります。よって間違いです。

ニーズ原則は,ニーズがある場合に配分します。社会福祉制度,公的扶助制度がこれに該当します。

貢献原則は,貢献度合いに合わせて配分します。社会保険制度がこれに該当します。


2 ニーズの質や水準にかかわりなく,サービスに定額の負担を課すことを,普遍主義という。

普遍主義は,ニーズがある場合,所得を調査しないで,資源を配分します。

選別主義は,ニーズがある場合,所得を調査して,条件にあった場合,資源を配分します。

この選択肢は,普遍主義でも選別主義でもありません。よって間違いです。

サービスに定額の負担を課すのは,応益負担です。介護保険のサービス利用料がこれに該当します。

負担に関しては,支払い能力に合わせて負担を課す「応能負担」もあります。福祉サービス利用料,保育料などがこれに該当します。


3 ニーズ充足の評価には,主観的評価も含まれる。

評価は,クライエントが満足した,という定性的な主観的評価はとても重要です。よって正解です。


4 サービス情報が公開されていれば,ニーズが潜在化することはない。

サービスがあっても,それが知られていないとニーズは顕在化しないことはよくあります。

介護保険が導入当初よりも利用が増えたのは制度が周知されてきたこともあるでしょう。


5 その人の主観的な欲求が表現されたもの以外は,ニーズとはみなせない。

具体的な欲求はデマンドと言います。専門職のアセスメントによりニーズをつかむことは日常的に行っていることでしょう。

ニーズ把握は,表現されたものだけではないことはよく分かることでしょう。よって間違いです。

次回は,中級編です。

2018年4月27日金曜日

国家試験に合格する勉強法~ニーズのとらえ方のポイント

今ある制度を知ることはソーシャルワーカーには必要です。

それらは,各領域の科目で深めていきます。

それに対して,「現代社会と福祉」の中心テーマは,福祉政策です。

福祉政策は,福祉ニーズをどのように充足するかを考えていくものです。

福祉ニーズは,固定されているものではなく,時代によって変化していきます。

また,顕在的なものもありますし,潜在的なものもあります。

何を福祉ニーズとするか,そしてどのように充足するかは簡単なものではありません。

そのために,「現代社会と福祉」の出題範囲は広くなるのです。


さて,それでは今日の問題です。

第27回・問題26 福祉サービスのニーズを充足するための資源に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。

1 福祉サービスのニーズを充足するもののうち,資源と言えるのは,その価値が金銭に換算される場合である。

2 福祉サービスは,それにアクセスできなければ,ニーズを充足しない。

3 インフォーマルな活動であっても,福祉サービスのニーズを充足するものは資源である。

4 普遍主義的な資源の配分においては,資力調査に基づいて福祉サービスの対象者を規定する。

5 福祉サービスのニーズを判定するには,専門職の裁量を排除しなければならない。


順番で言えば,現代にはどのような福祉ニーズがあるのかを考えるのが先かもしれません。


この問題自体はそんなに難しいものではないかもしれませんね。

それでは解説です。

1 福祉サービスのニーズを充足するもののうち,資源と言えるのは,その価値が金銭に換算される場合である。

福祉ニーズにはさまざまなものがあります。

伝統的な福祉ニーズは,「貧困」です。

貧困には,金銭により福祉ニーズは充足することでしょう。

しかし,先日のべヴァリッジ報告の問題にあったように,子育て,介護に対する福祉ニーズは金銭が給付されても,福祉サービスがないと福祉ニーズは充足することができません。よって間違いです。

ニーズには,金銭で充足できるものと金銭では充足できないものがあるということが分かります。

日本社会事業大学の学長を務められた故・三浦文夫先生は,これらを「貨幣的ニード」「非貨幣的ニード」と呼びました。


2 福祉サービスは,それにアクセスできなければ,ニーズを充足しない。

アクセスという言葉が理解を難しくしていますが,アクセスは,福祉サービスがあることを知って,それを実際に利用できることを指しています。

それが分かれば,アクセスできて初めてニーズを充足することができることが分かるでしょう。

正解です。


3 インフォーマルな活動であっても,福祉サービスのニーズを充足するものは資源である。

社会資源は,法制度に基づくフォーマルと法制度に基づかないインフォーマルのものがあります。

よって正解です。


4 普遍主義的な資源の配分においては,資力調査に基づいて福祉サービスの対象者を規定する。

福祉サービスをどのように配分するかは,とても大きな問題です。

普遍主義は,ニーズがある場合,所得を調査しないで,資源を配分します。

選別主義は,ニーズがある場合,所得を調査して,条件にあった場合,資源を配分します。

このように書くと普遍主義の方が優れているように思うかもしれません。

先日,紹介したべヴァリッジ報告のべヴァリッジもそのように考えました。

普遍主義では,ニーズが生じたら給付するので,多くの財源を必要としますし,ニーズの強さは反映されないといったデメリットがあります。

選別主義では,スティグマを生じさせることもありますが,ニーズがある人に手厚く配分することができます。

このように,どちらもメリット,デメリットがあります。

話を戻しますが,この選択肢は,普遍主義では資力調査を行わないので間違いです。


5 福祉サービスのニーズを判定するには,専門職の裁量を排除しなければならない。

ニーズ判定は極めて専門性の高いものです。よって間違いです。

ブラッドショーという人は,ニードには,

獲得されたニード
表出されたニード
比較ニード
規範的ニード

に分類しています。

分類
英語表記
内容
視点
感得されたニード
フェルト・ニード
本人がニーズがあることに気がついているニーズ
本人
表出されたニード
エクスプレスト・ニード
本人がニーズ充足のために実際に行動を起こしたニーズ
規範的ニード
ノーマティブ・ニード
行政や専門職が望ましくない状態だと判断するニーズ
他者
比較ニード
コンパラティブ・ニード
同じような状況に置かれながらも,サービス利用している人とサービス利用していない人がいる場合,サービス利用していない場合のニーズ

このうち,感得されたニードと表出されたニードは,ニードがあることを本人が自覚しているものであるのに対して,比較ニード,規範的ニードは,他からみて,ニードがあるかどうかのニードです。

専門職の裁量はニーズ判定に必要です。

そのためにスクリーニングが行われます。

2018年4月26日木曜日

歴史問題の攻略法~歴史は歴史ではなく今である

歴史が苦手な人は多いことでしょう。

歴史は過去のものだと考えるとそうなるのかもしれません。

しかし,過去があって今があります。

国家試験でも,試験委員はそれを意識した出題があります。

第27回・問題25
救貧制度の対象者として,正しいものを1つ選びなさい。
1 恤救規則(1874年(明治7年))では,身寄りのある障害者も含まれた。
2 軍事救護法(1917年(大正6年))では,戦死した軍人の内縁の妻も含まれた。
3 救護法(1929年(昭和4年))では,労働能力のある失業者も含まれた。
4 旧生活保護法(1946年(昭和21年))では,素行不良な者も含まれた。
5 現行生活保護法(1950年(昭和25年))では,扶養義務者のいる者も含まれる。

日本の救貧制度を覚えるのは,4つです。

①恤救規則
②救護法
③旧・生活保護法
④現・生活保護法です。

国試は五者択一(あるいは択二)なので,4つでは足りないので,この問題では,もう一つ「軍事救護法」を加えてあります。


①恤救規則
 基本的には人の情けによってお互いを支えあって,誰も支えてくれない人を救済しました。高齢者は70歳以上,児童は13歳以下です。 救済の方法は,米代の現金給付です。


②救護法
 救済の対象は,65歳以上に引き下げました。
 救護の基本は,居宅救護ですが,救護施設として,孤児院(現・児童養護施設),養老院(現・養護老人ホーム)が規定されました。
 救護法では,性行著しく不良又は著しく怠惰な場合は救護しなくてもよい,扶養義務者が扶養できる者は,急迫な事情がある場合を除いて保護しない,と規定されています。


③旧・生活保護法
 GHQの覚書を受けて成立したものです。現・生活保護法にも続く「無差別平等」が規定されています。しかし,実際には,労働意欲がない,素行不良者,扶養可能な扶養義務者がいる,また,救護法に引き続き,扶養義務者が扶養できる者は,急迫な事情がある場合を除いて保護しないとされています。


④現・生活保護法
 日本国憲法が規定する生存権を保障するために成立したものです。旧・生活保護法までは,保護機関による職権保護でしたが,現・生活保護法で,初めて保護を受ける権利が認められました。
 そして,欠格条項がなくなり,本来の無差別平等の原則が実現しています。

今日の問題に含まれる「軍事救護法」は,「軍事」という名称から昭和の法律のように思うかもしれませんが,大正時代に成立したものです。この事務を取り扱うために,内務省の中に救護課ができました。

その後,社会課,社会局と変遷し,昭和13年に独立して,厚生省となっています。

さて,それでは詳しく見ていきましょう。

1 恤救規則(1874年(明治7年))では,身寄りのある障害者も含まれた。

恤救規則の基本は,人の情けによってお互いを支えあって,誰も支えてくれない人を救済しました。身寄りのあるものは含まれません。よって間違いです。


2 軍事救護法(1917年(大正6年))では,戦死した軍人の内縁の妻も含まれた。

法制度は,給付の対象が極めて重要です。どんな対象に対して,どのような方法で給付するのか,などを考えていくのが,福祉政策です。内縁の妻を対象にすると,事務が面倒になりますし,判定も難しくなります。

そのために内縁の妻は含みません。よって間違いです。


3 救護法(1929年(昭和4年))では,労働能力のある失業者も含まれた。

救護法では,労働能力のある失業者を対象としません。


4 旧生活保護法(1946年(昭和21年))では,素行不良な者も含まれた。

間違いです。旧・生活保護法では,欠格条項がありました。


5 現行生活保護法(1950年(昭和25年))では,扶養義務者のいる者も含まれる。

現・生活保護法は,扶養義務者のいる者も保護の対象にしています。よって正解です。


〈今日の一言〉

歴史問題のように見えますが,結局は,現在の法制度の知識が問われていることが分かります。

歴史は歴史ではなく,今なのです。

過去を積み上げて今があるという意味です。

2018年4月25日水曜日

現代社会と福祉の攻略法~福祉をマクロな視点でとらえる

今日から「現代社会と福祉」に移ります。

この科目は,10問出題されます。

7問出題の科目と10問出題の科目の出題方法にはそれぞれ特徴があります。

7問出題の科目は,ほとんどの問題が出題基準に沿って出題されています。

つまり,問題を出題基準に合わせて分類すると,明確に分類できる問題がほとんどです。

10問出題の科目は,出題基準のどこの項目に当たるのか明確ではない問題が含まれます。

ここが10問出題の科目の難しさにつながります。

10問出題の科目は,

現代社会と福祉
地域福祉の理論と方法
高齢者に対する支援と介護保険制度

の3科目です。

この3科目のうち,最も難しい科目は現代社会と福祉だと言えます。

しかし,攻略法はあります。

それが今日のテーマ

福祉をマクロの視点でとらえる

です。

ミクロの視点では見えてこないものが,マクロの視点でとらえるとつながったり,意味が理解しやすくなったりするのです。

今日の問題を例に説明していきたいと思います。

第27回・問題23 社会的リスクに関する次の記述のうち,「ベヴァリッジ報告」で想定されていなかったものを1つ選びなさい。
1 疾病により労働者の収入が途絶えるおそれ
2 勤務先の倒産や解雇により生計の維持が困難になるおそれ
3 老齢による退職のために,稼働収入が途絶えるおそれ
4 保育や介護の社会化が不充分なため,仕事と家庭の両立が困難になるおそれ
5 稼得者の退職や死亡により被扶養者の生活が困窮するおそれ

この問題を見たとき,多くの人は言いました。
今年の国試は出題傾向が変わったね

確かに正しいもの,適切なもの,を選ぶのではなく「想定されていなかったもの」を選ぶというスタイルの問題は珍しいものかもしれません。

しかし,スタイルの違う問題は,毎年必ず出題されています。

今,この問題を見ても新奇なものとは思わないでしょう。

べヴァリッジ報告は,「ゆりかごから墓場まで」で知られるイギリスの福祉国家構想となるものです。

この問題を見たとき,「5つの巨人」をしっかり覚えていなかったことを後悔した人は多かったのではないでしょうか。

この科目は「現代社会と福祉」です。旧カリ時代は「社会福祉原論」という科目でした。
その時と今では何が変わっているかと言えば,福祉政策が基本テーマになっているということです。

福祉政策は,福祉ニードを充足するためのものです。

その時にマクロの視点が必要となります。

その視点で今日の問題を考えると,べヴァリッジ報告として出題していますが,ポイントは現代の福祉ニーズについての出題であることが分かると思います。

そこに着目すると

4 保育や介護の社会化が不充分なため,仕事と家庭の両立が困難になるおそれ

が正解だと分かります。

国試問題を読み解くときには,想像力が必要です。

想像力は創造力につながります。

この科目の中心テーマは,「福祉政策」です。

福祉政策は,最初はゼロから作り上げてきたものです。

そこには,人の知恵があります。

ゼロベースから作り上げることはとても難しいものです。
今は,それらを下敷きにして作ることができます。

過去を学ぶことは,今を考えることです。


最後に,今日の問題を解説しておきます。

べヴァリッジが示した5つの巨人

窮乏
疾病
無知
不潔
怠惰

です。窮乏を中心としてそれぞれ関連していると考えました。

これを今日の問題に当てはめてみると

疾病により労働者の収入が途絶えるおそれ → 窮乏,疾病

勤務先の倒産や解雇により生計の維持が困難になるおそれ → 窮乏

老齢による退職のために,稼働収入が途絶えるおそれ → 窮乏

稼得者の退職や死亡により被扶養者の生活が困窮するおそれ → 窮乏

となります。



2018年4月24日火曜日

社会的役割~多くの種類があるが,全く恐れることはない!!

前回まで,社会的役割に関連する用語を確認してきました。

今日は,実際の問題を紹介します。

一問一答形式も悪くはないのですが,得点力をアップさせるためには,やっぱり五者択一(あるいは択二)のスタイルで問題に向き合うことが大切です。

国試の特徴は,

少しずつ重なっていて,少しずつ違う

少しずつ違うに対応することが国試対策の最終目標です。

それでは,確認していきましょう。


第14回・問題52
役割概念に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 人間の「役割形成」は幼少期になされることが多いので,他者からの役割期待とはあまり関係がない。
2 人間は,他者の期待の重みに耐えかねて他者の期待とは異なる「嘘の自分」を演技することが多いが,これを「役割モデル」という。
3 人間は幼少期に,他者からの役割期待にこたえようとして無理な努力を行うことがあるが,それを「役割猶予」という。
4 人間は,一定の場面にふさわしく見える自分を演技によって操作する場合があるが,これを「役割距離」という。
5 人間の自我は,他者からの期待を認識して自らのうちに取り入れる「役割取得」を通じて形成され,発展していく。

昨日まで覚えてきたのは,役割期待,役割距離,役割取得,役割葛藤,の4つです。

それ以外のものは,役割形成,役割モデル,役割猶予の3つです。4つしか勉強していなかった場合は,この3つが分からないと焦ることでしょう。

しかし勉強していなくても何とかなるのもこの試験の特徴の一つです。

それでは,詳しく解説していきましょう。

1 人間の「役割形成」は幼少期になされることが多いので,他者からの役割期待とはあまり関係がない。

役割形成は,役割期待を察知して,新たな役割を獲得していく過程を言います。
他者からの役割期待が必要です。よって間違いです。

2 人間は,他者の期待の重みに耐えかねて他者の期待とは異なる「嘘の自分」を演技することが多いが,これを「役割モデル」という。

嘘の自分を演技することに対する用語があるのかは分かりません。役割を演技することなら,役割演技,役割から少しずらして演技することなら,役割距離です。役割モデルは文字通り,役割のモデルとなるものです。よって間違いです。

3 人間は幼少期に,他者からの役割期待にこたえようとして無理な努力を行うことがあるが,それを「役割猶予」という。

役割猶予は,青年期に他者の役割期待から離れていろいろチャレンジしてみる期間を言います。よって間違いです。

人生に無駄な努力はありません。

4 人間は,一定の場面にふさわしく見える自分を演技によって操作する場合があるが,これを「役割距離」という。

役割距離は,一定の場面にふさわしく見える自分から距離を取って演じることです。よって間違いです。

5 人間の自我は,他者からの期待を認識して自らのうちに取り入れる「役割取得」を通じて形成され,発展していく。

これは先日紹介したものですね。これが正解です。

第30回・問題19 子どもが,ままごとのような「ごっこ」遊びで親の役割などをまねることを通して自己を形成し,社会の一員となっていく過程を示す概念として,正しいものを1つ選びなさい。
1 役割期待
2 役割葛藤
3 役割演技
4 役割分化
5 役割取得

正解は5の役割取得です。

役割分化は,役割が増えることです。

〈今日の一言〉

役割○○
役割○○

と続くので,勉強はいやになりがちです。

しかし,日本語です。

役割距離のように理解しにくいものを理解しておけば,それ以外の多くのものは,言葉からイメージできます。

人間は幼少期に,他者からの役割期待にこたえようとして無理な努力を行うことがあるが,それを「役割猶予」という。

冷静に読めば,役割猶予ではないと思えそうです。
この感性を高めていくことを意識した勉強は大切です。

2018年4月23日月曜日

絶対に覚えておきたい社会的役割~④役割葛藤

絶対に覚えておきたい社会的役割は,

第1位 役割期待
第2位 役割距離
第3位 役割取得
第4位 役割葛藤

の4つです。

今回は,役割葛藤を紹介します。

役割葛藤とは

役割に対して葛藤すること

役割葛藤を細かく分けると

役割内葛藤と役割間葛藤があります。

役割内葛藤とは,一つの役割の中で葛藤すること。

例としては,

子どもが,父親からスポーツに力を入れること,母親から学業に力を入れることをそれぞれ期待されて,葛藤することなどがあります。

役割間葛藤とは,複数の役割に対して葛藤すること。

例としては,

母親が仕事と子育ての役割の間で葛藤することなどがあります。

それでは,役割葛藤に関する問題を確認しましょう。

■祖父母に期待される役割と両親に期待される役割が一致して,子どもにとって強い圧力となる場合に生じる心理的緊張を「役割葛藤」と呼ぶことができる。

役割葛藤は,役割期待が一致しないために起きます。よって間違いです。

■親と子ども,ソーシャルワーカーと利用者などのように,立場性の異なる者の間で役割の分担や調整がうまくいかないことを,「役割葛藤」という。

役割葛藤は,役割に対して葛藤することです。一人の人が,親,子ども,ソーシャルワーカー,利用者という複数の役割を有している場合,それぞれの役割期待に対して葛藤することが役割葛藤です。よって間違いです。

この場合は,複数の役割に対して葛藤しているので,役割間葛藤ということになります。


第29回では1問まるごと出題されてこともあります。

役割葛藤の説明に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 幼少期での役割取得において発達上の困難を経験すること
2 他者からの役割期待に応えようとして過度の同調行動をとること
3 一定の場面にふさわしく見える自分を演技によって操作すること
4 他者からの役割期待と少しずらした形で行動すること
5 保有する複数の役割間の矛盾や対立から,心理的緊張を感じること

正解は,5です。

役割葛藤をしっかり理解していたら,すぐこれが正解だと分かりますが,理解不足の人にとっては,すべてが役割葛藤に思えたことでしょう。

国試では,こういった問題を確実に得点できることが,合格基準点を超えることにつながります。

第29回の問題は,
1は,発達危機
2は,過剰適用
3は,印象操作
4は,役割距離
5が,正解の役割葛藤です。

次回は,社会的役割に関連する問題を解説していきます。

2018年4月22日日曜日

絶対に覚えておきたい社会的役割~③役割取得

前回まで,

①役割期待
②役割距離

を紹介してきました。

そのうちの②役割距離は,ちょっと難しい概念でしたが,理解できましたでしょうか。

役割距離とは,

人は役割期待に対して,ちょっと距離を置いた行動をとること。

理解しきれていない人は,もう一度前回を確認してください。

役割距離を理解しているかいないかによって得点力は大きく変わりますので,注意が必要です。

さて,今回は③役割取得です。

役割取得とは・・・

他者による役割期待を理解して,その役割の行動をすること。

参考書を見ると,他者の期待を内面化する,内部に取り込むといった表現がなされています。
しかし,難しい言い回しをそのまま覚えて,内容を理解していないのは,国試で得点する知識にはならないので注意が必要です。

これから追って説明する機会もあると思いますが,国試には,「社会理論と社会システム」のような理論系のものと,「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」のような法制度を覚える科目があります。

このうち,法制度を覚える科目は丸暗記が通用します。なぜなら国試で出題する時は,正しい法制度を間違った文章に直して出題するので正しい内容を押さえることが重要だからです。

しかし,とはいってもそこには覚え方のコツがあります。丸暗記が通用するとは言っても,そのコツを押さえなければ,あいまいな知識,またはど忘れすることにつながるので注意が必要です。

一方,理論系は,法制度のように定型文がありません。

毎回同じ表現で出題してくれれば丸暗記が通用しますが,同じようには出題されないことが理論系の特徴なので,内容をしっかり理解することが必要です。ちょっと手間がかかりますが,「急がば回れ」です。

人によっては,「自分の言葉で表現できるようにしましょう」と言いますが,その理由は頻出のものであっても同じようには出題されないからです。

この覚え方が必要なのは,理論系です。法制度には別の覚え方のコツがあります。それは法制度が出てきたら紹介します。

過去にさかのぼってもたくさん紹介してきましたので,待ちきれない方はそれを参考にしてください。


さて,話を戻します。

役割取得は,他者による役割期待を理解して,その役割の行動をすること。

まずは,このように覚えましょう。

それでは,役割取得に関する出題を確認します。

1.役割取得は,「ごっこ遊び」が重要な契機となる。

2.人間の自我は,他者からの期待を認識して自らのうちに取り入れる「役割取得」を通じて形成され,発展していく。

3.個人が,他者や集団の観点から自身を見て自らの行為のあり方を形成していく過程を,「役割取得」という。

これらは,すべて正解です。

役割距離がすべて間違い選択肢として出題されていることと対照的です。

このことによって,「役割取得」をより覚えてほしいという国試の意図が見えます。

「ごっこ遊び」は,役割取得に重要なものだとされています。

ごっこ遊びは,いろいろな役割を演じなければなりません。

つまり電車ごっこなら,駅員,車掌,運転士,お客,などの役があります。
それぞれに役割期待があるわけです。

さて,ここから少し深めます。

役割取得は,他者による役割期待を理解して,その役割の行動をすること
という理解で良いです。

しかし,役割取得は重要なので,もう一歩深めた出題がなされます。

それは,役割取得を通して,アイデンティティを確立していく過程についての言及です。

どのように役割取得されて,発展していくかについて,深めてみましょう。

国家試験に出題されているのは以下の3つです。

①鏡に映った自我
②一般化された他者
②主我(I)と客我(me)との対話

①鏡に映った自我
鏡とは,他者のことです。他者が自分をどのように見ているかを知ることで自分を知るという意味です。
クーリーという人が考えました。

②一般化された他者
特定の人が抱く役割期待は,特定の人が直接言ってくれたり,態度で理解できます。一般化された他者とは,その社会の一般的な他者です。特定の人ではありません。この一般化された他者の役割期待を理解するのが社会人にとっては重要です。

③主我(I)と客我(me)との対話
主我(I)はいわゆる「わたし」です。客我(me)は,一般化された他者の役割期待に対して役割取得した存在です。

このIとmeが対話すること,つまり自問自答することでアイデンティティが確立します。②と③はミードという人が考えました。

さて,それでは,これらに関する出題をみましょう。

1.鏡に映った自己とは,人間は他者を鏡として自己を認識することである。

2.ミード(Mead,G.)は,自我のなかでIとmeが行う対話に着目し,その過程で社会性を有する動的な自我が成立してくるとして,鏡に映った自我という考え方を論じた。

1は正解です。

2は,前半は正解ですが,鏡に映った自我はクーリーが提唱したものです。よって間違いです。

次回は,④役割葛藤です。

2018年4月21日土曜日

絶対に覚えておきたい社会的役割~②役割距離

役割理論に関する用語はたくさんあります。

そのうち,絶対に覚えておきたいのは,

第1位 役割期待
第2位 役割距離
第3位 役割取得
第4位 役割葛藤

の4つです。※順位は,国家試験での出題回数です。

このうち,今回紹介する役割距離は,最も理解が面倒なものではないでしょうか。

なぜなら,提唱したのはちょっとくせ者のゴフマン(ゴッフマン)だからです。

ゴフマンが社会学で用いた「ドラマツルギー」という概念は,演劇理論を社会学に応用したもので,人の行為は,周囲にいる人に関連しているというものです。

つまり,ゴフマンは,人の行為は,あたかも舞台の上の俳優のように,観衆(オーディエンス)に向けて演じられたもの(パフォーマンス)である,と考えました。

人は社会化されることで,他人の役割期待を察知しながら生きています。

そして,役割期待に応えるために,役割を演技する「役割演技」を行います。

さて,ここからが今日のテーマ「役割距離」です。

役割距離とは・・・

人は他人の役割期待に対して,それに一致するように役割を演じています。

しかし,いつも役割を演じているわけではありません。それでは疲れてしまいますし,自分が目立つ存在になることもできません。

そこで,人は役割期待に対して,ちょっと距離を置いた行動をとります。

これが役割距離です。

役割距離は,役割を演じているときの緊張感や葛藤を緩和することで心に余裕を持たせる,ちょっと悪ぶって見せることで,人とは違うのだということを感じさせる,人が緊張している中でふざけてみせることで,自分は余裕があるのだということを印象づける,自分が緊張する場面で冗談を言うことで,自分の有能感を印象づける,などさまざまな場面で,さまざまな意味をもって演じられます。

役割距離は,役割距離に対して,ちょっとだけ距離をおくことが大切です。

ちょっと悪ぶる。

ちょっとふざける。などです。

役割期待から距離を取りすぎると,役割期待を演じられていないので,人から「逸脱者」としてのレッテルを貼られることになり,自分にとって好ましいイメージを他人に呈示するという当初の目的から離れてしまいます。


ゴフマンは,役割距離について「子どもが木馬に乗る」という例を挙げて説明しています。

子どもはかわいくおとなしく(つまり子どもらしい様子で)木馬に乗ることを期待されています。

しかし,少し大きくなると,素直にその役割を演じず,後ろ向きに乗ったり,木馬の上に立ったり,危ない行為をします。これは,自分はこんなこともできるようになったのだ,ということを親に呈示しているのです。

おそらく,親というオーディエンスがいないと,ちょっと危なげなパフォーマンスはしないでしょう。

これが,ゴフマンのいう「ドラマツルギー」です。

パフォーマーとオーディエンスの相互作用での行為です。

役割距離については「外科医が手術室で冗談を言う」という例もあります。

外科医の役割期待は,手術を成功させることです。

外科医が手術中に冗談を言うのは,冗談を言うことで緊張感を和らげる,緊張感があふれる中での冗談を言えるのは余裕があるからだという自分の有能さを知らしめるといった意味があります。

さて,それでは役割距離に関する出題を見てみましょう。

■人間は,一定の場面にふさわしく見える自分を演技によって操作する場合があるが,これを「役割距離」という。

一定の場面にふさわしく見える自分から距離を取って演じることが役割距離です。よって間違いです。

■夫に求められる手段的役割と妻に求められる表出的役割の違いを,「役割距離」と呼ぶことができる。

おそらく今ならこの問題は出題されにくいのではないかと思います。手段的役割は夫の役割,表出的役割は妻の役割と分類したのは,パーソンズです。手段的役割は目的を達成するもの,表出的役割は維持する役割です。

ジェンダーっぽいですね。

どちらにしても役割距離とはまったく関係がありません。

■個人が担う複数の役割を両立させていく際の困難さを規定する役割間の類似度を,「役割距離」という。

これもまったく違います。

といった感じで出題されています。

役割距離は,勉強不足の人にとっては,意味が分かりづらいので,間違い選択肢として出題するには好都合であるのが分かると思います。

こういったところを正しく理解している,していない,が得点に大きくかかわります。


(2019/08/01追記)

社会的役割についての投稿記事はいくつかありますが,そのうち,アクセス数が最も多いのは「役割距離」です。役割距離を理解するのは容易なことではないことを物語っています。


(2021/02/14追記)

現時点では最も新しい第33回国試では,以下のような出題がありました。

第33回・問題19 次のうち,ゴッフマン(Goffman,E.)が提示した,他者の期待や社会の規範から少しずらしたことを行うことを通じて,自己の存在を他者に表現する概念として,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 役割取得
2 役割距離
3 役割葛藤
4 役割期待
5 役割分化

「3.役割距離」が正解です。役割距離は理解しにくいので受験者に差がつきやすいと言えます。そのために役割距離の出題回数が多いのでしょう。

極めて地味ですが,こういったものを一つずつ確実に覚えていくことが合格には欠かせません。

2018年4月20日金曜日

絶対に覚えておきたい社会的役割~①役割期待

今回から4回にわたって,社会的役割を紹介します。

その前に,「地位」を簡単に解説します。


地位
社会における立場

地位と聞くと,社会的階級をイメージするかもしれません。社会学における地位は,もっと広い概念で,社会における立場を指します。

一人の人であっても,いくつもの地位を所有し,家では,夫,父親,会社に行く途中では,通勤客,会社では,会社員,役職など,地域では,ボランティアリーダー,宴会では,監事などその時々によって,地位は変わります。

さて,役割期待です。

役割期待とは,地位に関連する期待される行動のことです。

そのため,役割期待は,社会規範(ルール)となります。

役割期待は,同じ社会規範を共有しているから察知することができます。

というのは,周りの人は「あなたは○○だから,▲▲という行動をとることが期待されています」とは教えてくれないからです。

社会規範を学ぶことを「社会化」と呼びます。

つまり,社会化がうまくされていないと,役割期待を察知することができないことになります。

社会的におかしな行動をする人は,社会化がきちんとされていないと言えるでしょう。

役割理論に関するものはたくさんありますが,一度しっかり覚えるとそんなに難しいものではありません。

しかし,中途半端に覚えていると意外に難しいです。

さて,役割期待に関する出題の例です。

■同じ社会の中で,人々が他者の役割期待を察知できるのは,共通の社会観範を内面化しているためである。

これは正解です。内面化とは,自分の中に取り入れることを言います。

■個人が,将来このような役割を遂行できるようになりたいと望むことを,「役割期待」という。

これは間違いです。役割期待は,周囲の期待であり,本人のものではありません。

どちらもしっかり覚えていないと答えられないものだと思います。


〈今日の一言〉

社会的役割は,「役割○○」「役割○○」・・・が連続していくので,覚えるのはいやだなというイメージがあるかもしれません。

いやに思わないコツは,自分に置き換えて考えてみることです。

ひと手間かけた勉強が学習効果を高めます。

2018年4月19日木曜日

「社会的役割」の攻略ポイント~絶対に覚えておきたい4つはこれだ!!

社会的役割というと難しい感じがすると思います。

しかし,社会的行為と合わせて,実に社会学的なものだと思います。

社会的役割が,現行カリキュラムで出題されたのは,第25回・第27回・第29回・第30回です。

社会理論と社会システムは,複数回出題されるものは少ないですが,9回中4回も出題されています。

かなり出題頻度が高いものだと言えます。

まずは,それぞれの出題回数を確認しましょう。

社会的役割の出題頻度

役割期待(8)
役割距離(6)
役割取得(6)
役割葛藤(5)
役割演技(4)
役割猶予(2)
役割分化(2)
役割認知(1)
役割交換(1)
役割適応(1)

「役割」という言葉がずらりと並んでいます。

複数回出題されているのは,

役割期待(8)
役割距離(6)
役割取得(6)
役割葛藤(5)
役割演技(4)
役割猶予(2)
役割分化(2)

の7つです。しかし,このうちの役割演技は,社会的役割ではなく,心理学のロールプレイのことをいうので,ここでは外しても良いと思います。

そうすると,絶対に覚えておきたいのは,

第1位 役割期待
第2位 役割距離
第3位 役割取得
第4位 役割葛藤

の4つに絞り込むことができます。

国試では,この4つを中心に据えて,他にいくつかのものを配置します。

つまり,

国試は,少しずつ同じ(重なって)で,少しずつ違う

の少しずつ同じは,

役割期待,役割距離,役割取得,役割葛藤の4つです。

10個を覚えるのは大変そうですが,4つならどうにかなるのではないでしょうか。

というか・・・

このような頻出中の頻出のものは,絶対に押さえておかなければなりません。

勉強不足の人は,

「役割○○とは」
「役割○○とは」
「役割○○とは」
「役割○○とは」
「役割○○とは」

と連続していく出題では対応できず,間違えます。

勉強をしっかりした人にとっては,それほど難易度の高いものではありません。

次回からはこの4つを順番に紹介していきたいと思います。

2018年4月18日水曜日

「ライフ」がつく用語の整理~社会理論と社会システム

「社会詩論と社会システム」の国試の出題基準には「生活の捉え方」があります。

どのように出題されてきたかを確認しましょう。

第22回 出題なし
第23回 ライフサイクルとライフステージ
第24回 ライフスタイル
第25回 出題なし
第26回 出題なし
第27回 人の生涯の軌跡
第28回 出題なし
第29回 ライフサイクル
第30回 出題なし

9回中,4回の出題です。近年は1年ごとに出題されているのが分かると思います。

第30回は出題されていないので,第31回は出題される確率は高そうです。

ライフをめぐる用語の整理

ライフイベント
 進学,就職,結婚,子の誕生など,人生の中で重要な出来事(イベント)です。


ライフステージ
 ライフイベントが起きる段階(ステージ)です。


ライフサイクル
 人の誕生から死亡までをライフステージごとに分析するものです。発達心理学のエリクソンは人生を8つの段階に分けて,それぞれの発達課題を設定しました。


ライフコース
 人の生き方の多様化に伴い,ライフステージが明確にならなくなってきたことで,ライフステージを適用させないで人生を分析するものです。

古典的なライフサイクル研究から,現代ではライフコース研究が重要になってきています。

さて,これをもとに今日の問題です。

第27回・問題19 人の生涯の軌跡に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 ライフサイクルとは,個人の一生における規則性を経済状態からとらえる概念である。
2 家族周期とは,子どもの出生から始まる家族発達上の規則性をとらえる概念である。
3 日本人のライフスタイルは,大衆の分化によって画一化の傾向を強めた。
4 ライフコースとは,個人がたどる多様な人生のあり方をとらえる概念である。
5 ライフイベントとは,同時代の人々が共通に経験する歴史的出来事である。 

「ライフ」が連続するので,正しい理解がないと,いやになってしまうかもしれませんね。

それでは解説です。


1 ライフサイクルとは,個人の一生における規則性を経済状態からとらえる概念である。

ライフサイクルは,ライフステージごとに分析するものです。経済状態は関係ありません。よって間違いです。


「経済状態」が出題されているのは,「ライフサイクル研究の祖」と言われている貧困調査のラウントリーに関連してのことなのでしょう。


2 家族周期とは,子どもの出生から始まる家族発達上の規則性をとらえる概念である。

家族周期という聞き慣れないものが出題されています。家族周期は,結婚後からの周期です。よって間違いです。


3 日本人のライフスタイルは,大衆の分化によって画一化の傾向を強めた。

現代人のライフスタイルは多様化しています。よって間違いです。


4 ライフコースとは,個人がたどる多様な人生のあり方をとらえる概念である。

これが正解です。ライフコースが分かっていれば,「答えはこれだ!」とすぐ分かる問題です。


5 ライフイベントとは,同時代の人々が共通に経験する歴史的出来事である。

ライフイベントは,結婚などの個人的な出来事です。よって間違いです。


〈今日の一言〉

社会福祉士の国試は,複雑そうなイメージがあるかもしれません。

しかし,核となる知識をしっかりつけていけば,必ず攻略できます。

今日の問題で分かるように,それほど複雑ではないのです。

2018年4月17日火曜日

過去問を使って得点力を上げるコツ!!

社会理論と社会システムは,いわゆる社会学の難しい理論だけが出題されているわけではなく,現代社会を正しく理解しているかが問われる問題が出題されます。

それに関連した問題は,知識を事前に勉強しているものではないので,とても難しい問題となります。

出題基準の中には,「地域」があります。

現行カリキュラムで2回以上出題されているのは

ソーシャル・キャピタル 2回 

これしかありません。

これ以外は,1回しか出題されていません。

ソーシャル・キャピタルは,第30回では「現代社会と福祉」でも出題されているので,計3回ということになります。

ソーシャル・キャピタルは

社会関係資本と訳され,「互酬性」「信頼性」「ネットワーク」による人と人のつながりのことです。

ソーシャル・キャピタルは,古典的な集団ではなく,人と人の弱いつながり(紐帯=紐帯)でつながっています。

この紐帯こそが,「互酬性」「信頼性」「ネットワーク」そのものです。

互酬性は,人に何かをしてもらったら,何かをして返すといったものです。「こうしてくれる」ということが信頼性につながります。

「してくれない」と思えば,互酬性は崩れます。

「互酬性」と「信頼性」は,1対1の関係性ですが,それが多くの人に広がれば「ネットワーク」となります。

ソーシャル・キャピタルは,本来はこのような自主的な結びつきです。

しかし,国は,地域活性化の切り札として,ソーシャル・キャピタルの活用を考えています。

そのため,ソーシャル・キャピタルは,「地域福祉の理論と方法」などの科目でも出題されていくことになるでしょう。

ソーシャル・キャピタルの出題

第27回・問題20 ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の説明として,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 補助金などの形で政府や市町村が提供する資源
2 地域固有の景観や歴史的建造物などの資源
3 教育や職業訓練によって醸成される個人の能力という資源
4 信頼,規範,ネットワークなど,人々や組織の調整された諸活動を活発にする資源
5 道路などのように国民が共同で利用する公共的な資源

ソーシャル・キャピタルはどんなものなのかが分かれば,答えは選択肢4しか見えてこないと思います。
国試はこんなものです。決して深く掘り下げることはしないのです。

ソーシャル・キャピタルはこの辺にしておいて,一見さんの話です。

正解選択肢は以下のようになっています。

第22回 出題なし
第23回 ソーシャル・キャピタル
第24回 エスニック・コミュニティ
第25回 コンパクトシティ
第26回 パーソナルな関係
第27回 限界集落&ソーシャル・キャピタル
第28回 出題なし
第29回 コミュニティ政策
第30回 コミュニティ解放論

コミュニティ解放論は,「地域福祉の理論と方法」で第24回と第28回に出題されています。
そのほかは,ソーシャル・キャピタルと限界集落を除けば,すべて一見さんです。

これらの問題の難易度が高いのは,

国試は,少しずつ同じで,少しずつ違う

ではなく,

すべて違う出題だということです。

つまり知識が十分ある人でも,まったく知らない問題なのです。

別な言い方をすれば・・・

知識がなくても解ける可能性がある

と言えるのです。


さて,前置きが長くなりました。

攻略法です。

第24回・問題17 地域コミュニティに関する次の記述のうち,もっとも適切なものを一つ選びなさい。
1 大規模な災害が発生した直後では,非専門家の集まりである地域コミュニティによる身近な高齢者や障害者などの救援は困難であり,行政の専門防災組織の即座の救援活動が最も有効である。
2 日本のコミュニティ・スクールは,学校運営協議会制度によって保護者や地域住民などが学校の運営に参画し,画一的ではない特色ある学校づくりを目指すものなので,学校運営協議会が教職員の任命権も有している。
3 高度経済成長期に過疎過密問題が生じたので,国土の均衡ある発展を目標に1962年以来,数次にわたって市町村の都市計画マスタープランが策定されたが,過疎問題は解決せず,今日では農山村の地域コミュニティは存立の危機にある。
4 地方自治体が,地域コミュニティの住民,NPO,NGOや民間企業など,主要な利害関係者との協働によって利害調整と合意形成を図ろうとするあり方をコーポレート・ガバナンスと呼ぶ。
5 1980年代以降,日本の都市に新たに居住するようなニューカマーと呼ばれる外国人住民のなかで,民族や出身地域に基づいてエスニック・コミュニティを形成し,生活や仕事に必要な情報をお互いにやりとりする現象がみられる。

第25回・問題17 1970年代以降の都市のあり方に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 先進国の都市では人口や雇用の減少,財政の危機などによって都市の衰退力が問題となり,それまでの都市化現象から過剰都市化現象への移行が注目されている。
2 資本や情報の国際的移動を結節するグローバル都市では,そのグローバルな活動を担う管理職・専門職が増加し,低賃金移民労働者が減少する。
3 持続可能な社会を目指す視点から都市のあり方が問い直されており,都市形態の側面からは,中心市街地の活性化を図るコンパクトシティが提起されている。
4 脱工業化社会の到来を契機に登場してきたテクノポリス構想では,都市の発展は固有の文化や住民の創造性によってもたらされると説いている。
5 都市住民の生活が高度な情報科学技術に条件づけられている情報都市では,空間の制約を受けない社会関係が発達し,次第に都市間のヒエラルヒーが消滅する。

答えを先に紹介ので分かると思いますが,エスニック・コミュニティとコンパクトシティです。

攻略法とは,この2つを覚えることではありません。

この試験は,社会福祉士の国試であることです。

社会福祉士に知っておいてもらいたいものが出題されます。


特にこの科目の出題基準の中の「地域」はその意図がはっきり見て取れます。

その視点でもう一度問題を見てみましょう。

第24回・問題17 地域コミュニティに関する次の記述のうち,もっとも適切なものを一つ選びなさい。
1 大規模な災害が発生した直後では,非専門家の集まりである地域コミュニティによる身近な高齢者や障害者などの救援は困難であり,行政の専門防災組織の即座の救援活動が最も有効である。
2 日本のコミュニティ・スクールは,学校運営協議会制度によって保護者や地域住民などが学校の運営に参画し,画一的ではない特色ある学校づくりを目指すものなので,学校運営協議会が教職員の任命権も有している。
3 高度経済成長期に過疎過密問題が生じたので,国土の均衡ある発展を目標に1962年以来,数次にわたって市町村の都市計画マスタープランが策定されたが,過疎問題は解決せず,今日では農山村の地域コミュニティは存立の危機にある。
4 地方自治体が,地域コミュニティの住民,NPO,NGOや民間企業など,主要な利害関係者との協働によって利害調整と合意形成を図ろうとするあり方をコーポレート・ガバナンスと呼ぶ。
5 1980年代以降,日本の都市に新たに居住するようなニューカマーと呼ばれる外国人住民のなかで,民族や出身地域に基づいてエスニック・コミュニティを形成し,生活や仕事に必要な情報をお互いにやりとりする現象がみられる。

1は,間違いだと分かると思います。

2は,コミュニティ・スクールとはどんなものかは分からないものです。しかし社会福祉士に関連するものなら,任命権の部分を強調するのではなく,違った部分を出題するはずです。

3は,1962年は昭和37年です。近年の政策では,ワンストップサービスなど,変な英語が普通に使われ,わざわざ英語で表現することに満足しているのではないかと思えるものもあります。変人と言われた小泉純一郎元首相が,厚生大臣だった1990年代に英語表記はやめて日本語にするようにという方針を出して,ショートステイが短期入所,アセスメントが課題分析なとど言い換えられました。1990年代であってもそうなのに,1960年代に「マスタープラン」という言葉は使わないだろう,と思えます。

4は,コーポレート・ガバナンスというものが地域に関係するものであれば,コミュニティ・ガバナンスといった言葉になるはずです。ガバナンスは統治のことをいいます。

5が正解です。どのような地域が形成されているのかを知ることはとても重要なことです。

このように考えれば,この問題は,外国人へのソーシャルワークを考えるために出題した,という意図が見えてくるでしょう。

そうすると,答えは,5以外には考えられなくなります。

第25回・問題17 1970年代以降の都市のあり方に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 先進国の都市では人口や雇用の減少,財政の危機などによって都市の衰退力が問題となり,それまでの都市化現象から過剰都市化現象への移行が注目されている。
2 資本や情報の国際的移動を結節するグローバル都市では,そのグローバルな活動を担う管理職・専門職が増加し,低賃金移民労働者が減少する。
3 持続可能な社会を目指す視点から都市のあり方が問い直されており,都市形態の側面からは,中心市街地の活性化を図るコンパクトシティが提起されている。
4 脱工業化社会の到来を契機に登場してきたテクノポリス構想では,都市の発展は固有の文化や住民の創造性によってもたらされると説いている。
5 都市住民の生活が高度な情報科学技術に条件づけられている情報都市では,空間の制約を受けない社会関係が発達し,次第に都市間のヒエラルヒーが消滅する。

1と2は,同じタイプです。1は日本も先進国の国なので,先進国の都市と言わなくても良いのではないか。2は,グローバル都市の問題。この2つは社会福祉士に直接的に関係するものではありません。

3が正解。地域活性化のためのコンパクトシティです。

4は,テクノポリス構想とは何かが分からなくても,「○○構想」は,国や地方公共団体が構想するものです。地域住民の創造で都市が発展するのでは,国や地方公共団体が構想する必要がありません。

5は,情報都市も社会福祉士に直接的に関係するものではありません。ここで出題する意義を見出せません。

〈今日のまとめ〉

「地域」という出題基準は,社会福祉士が地域を理解するための領域であることがよく分かったことでしょう。

社会学の古典であるシカゴ学派の研究などが論点にはならないし,現代社会であっても国際的なものも論点にはならないのです。

ここが理解できれば,この領域の得点力は確実に上がります。

正解選択肢は,他の選択肢と違うにおいがします。

そのにおいをかぎ分けることができるようになることが大切です。

過去問を解く意味はそこにあります。


2018年4月16日月曜日

ウェーバーの支配システムは,絶対に押さえたい!!

「社会理論と社会システム」で絶対に覚えたい5人衆の筆頭は,ウェーバーです。

この科目は,何度も繰り返して出題されるものは少ない中で,ウェーバーに関連する出題は突出しています。

今回はその中でも,支配システムを改めて押さえていきたいと思います。

旧カリ時代も含めた出題回数は,以下の通り

合法的支配 5回
伝統的支配 2回
カリスマ的支配 2回

現行カリキュラムに絞ると,

合法的支配は,第22回,第24回,第27回,第28回に出題されています。
出題確率は実に44.4%です。

これだけの出題確率であるのに,第28回以降出題されていないのは不気味な存在です。

ウェーバーによる支配システムをおさらいしましょう。

①伝統的支配 

神聖なもの,慣習によるもの,などによるものです。日本では昔の天皇制,家父長制(親の言うことは絶対的)などが伝統的支配の類型になります。


②カリスマ的支配 

特別な能力(カリスマ)を持った人による支配です。「ちょっと極端だけれど,この人の言うことなら従える」と思えるようなものです。戦国武将の織田信長や豊臣秀吉などがカリスマ的支配と言えるでしょう。


③合法的支配 

規則(法)による支配です。近代民主国家は,合法的支配です。伝統的支配やカリスマ的支配と違い,規則により命令し,人々は規則によって従います。

ウェーバーの支配システムは,この3つですが,特に重要なのは,合法的支配です。それは官僚制につながるからです。

それでは今日の問題です。

第27回・問題16 法と社会,そこに成立する秩序との関係に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 ホッブズ問題とは,人々の私的利益の追求こそが,万人の万人に対する闘争状態を克服することを明らかにした議論のことをいう。
2 合法的支配とは,形式的に正しい手続きを経て定められた法に基づいていることを理由に,人々がその支配を受け入れていることをいう。
3 抑圧的法とは,支配者が被支配者を抑圧し黙らせるための手段として用いられるが,支配者自身もその法の支配を受けなければならないものをいう。
4 応答的法とは,法が政治から分離され,社会のメンバーすべてが等しく従うべき普遍的なルールとして形式化され,体系化されたものをいう。
5 自律的法とは,普遍性を維持しつつも社会の要請に応えるために,より柔軟で可塑的な運用を可能にする新たな法のあり方のことをいう。

この問題は,第27回の国試の中では難解な問題の一つだったと思われます。

しかししっかり勉強した人は得点できたと思います。
勉強不足の人は,混乱したことでしょう。

国家試験とは,本来はそういうものです。

今日の問題を見て「あれっ?」と思った人もいるのではないでしょうか。
それは,「自律的法」というものです。

実は,第30回国試では,以下のように出題されています。


第30回・問題15
日本の裁判員制度に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 裁判員制度は,一般市民の側からの要求に基づいて導入された。
2 裁判員制度の導入により,刑期が軽い方向へシフトしている。
3 裁判員を経験した人へのアンケート調査の結果では,あまりよい経験でなかったと感じている人が多い。
4 裁判員制度は,司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することを趣旨としている。
5 裁判員制度は,近代の自律的法としての普遍性を高めることを目的としている。

選択肢5に出現しています。

これで自律的法が出題されたのは2回目です。2回出題されるものは3回目があります。
ほとんどのものは,2回目がない一見さんなのです。

因みにこの問題の正解は,選択肢4です。

さて,それでは今日の問題を解説していきましょう。


1 ホッブズ問題とは,人々の私的利益の追求こそが,万人の万人に対する闘争状態を克服することを明らかにした議論のことをいう。

ホッブズ問題が出題されたのは,第24回に続いてこの時が2回目です。2回目があることは3回目があるので,要注意です。

ホッブズ問題とは,簡単に言うと,一人ひとりが自分の利益を追求すると,「万人の万人に対する闘争」になるが,なぜ社会秩序は保たれるのかの命題です。よって間違いです。

実は,ホッブズ問題は,第24回に出題されています。この時は正解選択肢でした。

過去問を解いて勉強するとき,答えだけを覚える勉強法を行うと,ホッブズ問題=正解,とインプットされるので気を付けなければなりません。そのような勉強法をした人は,第27回のこの問題を見たとき,正解にしてしまう傾向があります。

最近少しずつ分かってきたのは,

受験生は「見たことがないものは選ばない」

という傾向があることです。

この傾向を逆手にとれば,頻出のものを間違い選択肢として出題すれば,間違う確率が高くなることです。

しかも多くの受験生は,過去3回の過去問を使って勉強しているので,過去3回に出題されたもののうち,正解として出題されたものを間違い選択肢にすれば,勉強が足りない人は間違う率が高くなります。

しっかり勉強した人は,消去できます。

こんなところで合格基準点を超える得点が取れるようになっていきます。


2 合法的支配とは,形式的に正しい手続きを経て定められた法に基づいていることを理由に,人々がその支配を受け入れていることをいう。

前説に書いたので,これが正解だとすぐ分かったことでしょう。
結局は。合法的支配が正解となった問題です。


3 抑圧的法とは,支配者が被支配者を抑圧し黙らせるための手段として用いられるが,支配者自身もその法の支配を受けなければならないものをいう。

ここからが難しくなっていきます。

抑圧的法は,支配者が政治力(つまり権力=フォース)で被支配者を服従させるための法です。その中には理不尽なものもあるでしょう。そんなものに自分自身が従うわけはありません。よって間違いです。


4 応答的法とは,法が政治から分離され,社会のメンバーすべてが等しく従うべき普遍的なルールとして形式化され,体系化されたものをいう。

応答的法が最も理解しにくいものかもしれません。

そのために自律的法を先に解説します。

自律的法は,近代社会における法です。抑圧的法とは違い,政治力(権力)から離れて,誰もが納得できる普遍性がある法です。

それに対して応答的法は,自律的法のスピリットは残しつつ,政治力をプラスしたものです。

解説本にはこう書いてあるものが多いかもしれません。
これじゃあ,意味が分からないでしょう。

応答的の「応答」は,応える(答える)という意味ですね。
何に応えるのかと言えば,特定のニーズです。
この科目よりももしかすると,「現代社会と福祉」での出題の方が適切かもしれません。
というのは,普遍主義,選別主義につながるからです。

普遍主義 → 自律的法的
選別主義 → 応答的法的

ととらえると分かりやすいように思います。

選別主義は,スティグマを与えるものだというマイナスのイメージがあるかもしれません。しかし特定のニーズを充足するためには必要なものだと思います。

イギリスの福祉の歴史を振り返るとスティグマとの闘いだと言えるでしょう。これについてはまた別の機会に解説したいと思います。

さて,問題に戻ります。

応答的法とは,法が政治から分離され,社会のメンバーすべてが等しく従うべき普遍的なルールとして形式化され,体系化されたものをいう。

応答的法ではなく,普遍的なルールを体系化したものは自律的法です。よって間違いです。


5 自律的法とは,普遍性を維持しつつも社会の要請に応えるために,より柔軟で可塑的な運用を可能にする新たな法のあり方のことをいう。

「可塑的」は,形を変えることができるという意味です。
これが応答的法です。
よって間違いです。

先ほど提示した

裁判員制度は,近代の自律的法としての普遍性を高めることを目的としている。

これが分からなくてもこの問題の答えは出せたかもしれません。

一応解説すると,裁判員制度と自律的法は相容れる性格のものではありません。

裁判員制度 → 裁判の素人が裁判するので,過去の判例とは違った量刑の求刑につながる。
自律的法 → 誰もが納得するのは,過去の判例を参考にした量刑。

応答的法は難しいかもしれませんが,今後の福祉を考えるととても重要な意味合いがあるように思います。

2018年4月15日日曜日

世帯・家族に関する出題確率は,55.6%

「社会理論と社会システム」は,さまざまな問題が出題されるため,何度も繰り返して出題されているものは多くありません。

その中で,今回取り上げる世帯は,現行カリキュラム9回中,5回の出題なので,55.6%の出題確率です。

出題されたのは,第23回,第25回,第26回,第27回,第30回となります。

続けて出るのは少ないという傾向から考えると,第30回に出題されているので,第31回に続けて出題される可能性は低いと言えるでしょう。

しかし過去実績では,3年連続して出題されたこともあるので,覚えておく優先度はこの科目の中では,トップクラスのものです。

出題のポイントは2つです。

①世帯の知識を問うもの 第23回,第25回,第27回
②世帯の動向を問うもの 第26回,第30回

このように分かれます。

①世帯の知識を問うもの
②世帯の動向を問うもの

2つとも覚えておきたいものではありますが,優先させたいのは「①世帯の知識を問うもの」です。

世帯とは,

国民生活基礎調査 住居及び生計を共にする者の集まり又は独立して住居を維持し,若しくは独立して生計を営む単身者

国勢調査(一般世帯)
住居と生計を共にしている人の集まり又は一戸を構えて住んでいる単身者(これらの世帯と住居を共にする単身の住み込みの雇人も同一世帯)
上記の世帯と住居を共にし,別に生計を維持している間借りの単身者又は下宿屋などに下宿している単身者
会社・団体・商店・官公庁などの寄宿舎,独身寮などに居住している単身者

国民生活基礎調査と国勢調査では,少し定義が違っています。
しかし,共通するのは以下の通りです。
①住居及び生計を共にする者の集まり
②独立して生計を維持している単身者

覚えておきたいポイント

世帯は,住居と生計を共にする者の集まりなので,この定義に当てはまると家族以外も同一世帯となる。
家族であっても,別の世帯になることもある。

さて,それでは今日の問題です。

第27回・問題18 家族と世帯に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 世帯とは,主として家計と住居を同じくする人々からなる集団である。
2 世帯には非親族員は含まない。
3 国勢調査の調査単位は,世帯ではなく家族である。
4 同一家族メンバーが,複数の世帯に分かれて暮らすことはない。
5 家族と暮らしていない単身者は,準世帯と定義される。

いきなり答えが分かってしまう問題でしょう。

しかし,それは知識があるから答えが分かるのであって,知識があいまいだとこの手の問題でも間違うことがあります。

その数点の差が合否を分けると言っても良いでしょう。

それでは解説です。

1 世帯とは,主として家計と住居を同じくする人々からなる集団である。

これが正解です。


2 世帯には非親族員は含まない。

家計と住居を同じくしていれば,住み込みの雇人も同一世帯となります。よって間違いです。

3 国勢調査の調査単位は,世帯ではなく家族である。

国勢調査の調査単位は,世帯です。

もし家族が正解なら,

国勢調査の調査単位は,家族である。

という文章で事足ります。

わざわざ「世帯ではなく」を加えているところに着目するのが,この手の選択肢の攻略ポイントです。


4 同一家族メンバーが,複数の世帯に分かれて暮らすことはない。

この選択肢の元ネタがあります。

同一家族のメンバーが,複数の世帯に分かれて暮らすことがある。 (第23回・問題18・選択肢1)

これは正解です。

正解の文章を不正解にして間違い選択肢を作るのは,試験委員の常とう手段ですが,まったく同じ表現で作成しているところを見るともしかすると同じ試験委員が作成したものかもしれません。

5 家族と暮らしていない単身者は,準世帯と定義される。

家族と暮らしていない単身者は,世帯と定義されます。よって間違いです。

「準世帯」と聞いてびっくりした人もいるかもしれません。実は1980年の国勢調査まで,一般世帯と準世帯がありましたが,1985年から現行の定義に変わっています。

このような問題があると過去のものも勉強しなければならないのか,と思う人もいるかもしれません。

そこが迷い道に入る原因となるので注意が必要です。


覚えておきたいポイント

世帯は,住居と生計を共にする者の集まりなので,この定義に当てはまると家族以外も同一世帯となる。

家族であっても,別の世帯になることもある。

あとは,この派生です。

想像力が必要です。


2018年4月14日土曜日

社会理論で絶対に覚えたい5人衆~(番外編)マルクス

「社会理論と社会システム」で絶対に覚えたい5人衆を締めくくるのは,マルクスです。

マルクスは,旧カリキュラムを含めると7回出題されています。

マルクスはこの科目でしか出題されていません。それなのに番外編に入れている理由は,経済学者だからです。

経済学者なのに,この科目で出題されているところがマルクスを理解するヒントとなります。

マルクスは,著書「資本論」などで知られます。

社会には,生産手段を持つ資本家(ブルジョアジー)と生産手段を持たない労働者(プロレタリアート)の2つの階級があると考えました。

また,社会には資本主義と共産主義があり,より高い次元のものが共産主義による社会だと考えました。

マルクスが活躍したのは,19世紀後半です。ブースの貧困調査では,ロンドン市民の30%が貧困に陥っていることを明らかにしました。この時代は,資本家による経済的搾取が行われ,それによって労働者に多くの貧困を生み出していたのです。

そこでマルクスは,過剰な利益は,資本家に帰属するものではなく,労働者に還元されるべきものであると考えました。

それで行き着いたのが,共産主義です。

共産主義は,資本家と労働者という階級が廃止された社会です。このように社会が発展する原動力は,階級闘争にあると考えました。

マルクスに関する出題は,この程度を覚えておけば良いと思います。

マルクスの考えは,その後労働者階級に受け入れられて,共産主義国家を生み出すことになります。

ロシアでは,レーニンが孤立する労働者を結びつける政治的リーダーたる前衛党が登場し,資本主義を打倒する闘争を指揮すると考えて,そして実際に革命を起こして共産主義国家が樹立されました。

それが1917年。つまり2017年が世界で初めて共産主義国家が誕生して100年でした。

高い理想によって生まれて,労働者の楽園とまで言われた共産主義が今日では廃れてきてしまったのはなぜでしょうか。

それは,マルクスの時代にはなかった,最低限度の生活は国家が保障するというナショナルミニマムといった考えが生まれて資本主義国家は福祉国家に姿を変えていったこと。

そして,もう一つ重要なことは,共産主義では,能力に応じて働き,必要に応じて受け取る,というスタイルは,競争を生み出しにくかったことです。

「福祉サービスの組織と経営」では,さまざまな組織論を学びますが,その基本となっているのは,マズローの欲求段階説です。最上位のニードは,「自己実現欲求」です。修正資本主義では,このニード論が適度な競争を生み出し,自己実現を生み出す原動力となりました。

さて,これらの知識をもとに,マルクスの問題を確認していきましょう。

※以前にマルクスが現行カリキュラムで出題回数は,2回と書きましたが,よく調べたら3回でした。


■マルクス(Marx,K.)は,階級を生産手段の所有と非所有に基づいて区別されると定義した。 (第26回・問題15・選択肢1)

これは正解です。生産手段を所有しているのはブルジョアジー,生産手段を所有していないのはプロレタリアートです。プロレタリアートは,生産手段を持たないので,労働力を商品化します。

労働力の商品化と聞いて「ぴーん」と来た人もいるでしょう。エスピン-アンデルセンが福祉レジームを分類した時の指標です。これについては別の機会に紹介したいと思います。


■マルクス(Marx,K.)は,階級闘争が歴史を動かしていると考え,孤立する労働者を結びつける政治的リーダーたる前衛党が登場し,資本主義を打倒する闘争を指揮すると考えた。 (第22回・問題17・選択肢2)

前半の「階級闘争が歴史を動かしている」と考えたのは,マルクスで正解ですが,後半の「立する労働者を結びつける政治的リーダーたる前衛党が登場し,資本主義を打倒する闘争を指揮する」と考えたのは,レーニンです。よって間違いです。


■マルクス(Marx,K.)は,労働を重視しつつも,それが生む剰余価値は私有財産制のもとでは生産手段を有する資本家の正当な取り分であるという考え方を提示した。 (第25回・問題19・選択肢3)

マルクスは,剰余価値は,労働者に還元すべきだと考えました。よって間違いです。

マルクスは何度も出題されていますが,毎回姿を変えて出題されていることに気が付くことでしょう。

ただ暗記するだけでは対応不可能です。

マルクスで押さえておきたいポイント

階級には,資本家,労働者がある。
マルクスの考えは,その後,共産主義国家につながっていく。

これを基本に押さえておいて,形を変えられた場合は,ここから想像して答えを考えることです。

問題を解くとき,自分の中で情報を交換することが得点力が大切です。



2018年4月13日金曜日

社会理論で絶対に覚えたい5人衆~(番外編)ラウントリー

ラウントリーは,ヨーク市で貧困調査を行った人です。

貧困調査と言えば,19世紀末にロンドンで貧困調査を行ったブースと,19世紀末から20世紀にかけてヨーク市で貧困調査を行ったラウントリーが知られます。

そのうちラウントリーが「社会理論と社会システム」で出題される理由は,貧困とライフサイクルを結び付けたことに他なりません。

社会福祉士の国家試験で出題されるブースには,貧困調査を行ったC.ブースと救世軍を創設したW.ブースがいますが,現行カリキュラムではW.ブースは出題されていないので,ブースといった場合は,C.ブースのことを指しています。

ラウントリーはブースと切りはなすことができないので,まずはブースを解説します。

ブースはイギリスの汽船会社の経営者です。その会社によって財をなしていました。

その当時,ワーキングクラスの団体が「労働者の25%が貧困状態である」という調査報告をしていました。

ブースは経営者として,この調査結果に納得できず,私財を投じて貧困調査を実施したところ,25%どころか,30%のロンドン市民が貧困状態であることが分かりました。

同時に,ブースは貧困になった原因を調査しました。それによって明らかになったのは,

貧困の原因です。

第1位は雇用の問題(臨時就労や低賃金など)

第2位は環境の問題(疾病や大家族など)

第3位は習慣の問題(飲酒や浪費など)です。

個人的な要因で貧困に陥ると思われていた当時の常識をひっくり返したのです。

ブースの貧困調査は,のちにナショナルミニマム(国家による最低限度の生活保障)を提唱した,ウェッブ夫妻の妻のベアトリスが参加することにより調査の精度を高めました。


ブースによるロンドンの貧困調査に影響を受けたのは,チョコレート製造で急成長した会社の御曹司であるラウントリーです。

ラウントリーはヨーク市で全数調査によって貧困調査を行いました。

その当時のヨーク市の人口は約8万人です。その規模が全数調査を可能としました。

ラウントリーが貧困調査に用いたのは,マーケットバスケット(買い物かご)方式と呼ばれる科学的な手法でした。

肉体を維持するためにどのくらいの栄養量が必要なのかの基準を設けて,第一次貧困と第二次貧困という貧困線を設定しました。

第一次貧困は,肉体を維持するギリギリライン

第二次貧困は,飲酒などをしなければ肉体を保持できる程度の貧困

この辺りまでは他の科目で出題される内容の説明です。

貧困調査を行ったブースとラウントリーのうち,ラウントリーが「社会理論と社会システム」で出題されるのは,ライフサイクルと貧困の関係を明らかにしたことによります。


これは,人の一生のうち,自分が子どものうち,子どもが生まれてから巣立つまでの間,高齢期の3回に貧困になるというものです。

それでは,本題のラウントリーの問題を確認しましょう。

①ラウントリー(Rowntree,B.S.)が労働者の総収入に注目し明らかにした,第一次・第二次貧困の考え方は,後に最低生活費の考え方の基礎となった。 (第26回・問題21・選択肢1)

②ラウントリー(Rowntree,B.S.)は,19世紀末イギリスの農民を調査し,その一生にわたる経済的浮沈を指摘したことから,ライフサイクル研究の祖といわれる。 (第23回・問題19・選択肢4)

現行カリキュラムでこの科目で出題されたのはこの2つです。

①は正解です。

②は,ラウントリーが調査したのは,ヨーク市民です。よって間違いです。
当時ヨーク市に農民がいたかどうかは分かりません。

ラウントリーはヨーク市民に全数調査を行ったことが特徴です。農民を調査するのではあれば,市民の全数調査にはなりません。

それよりも重要なことは,貧困は農民よりも都市生活者の方がより陥りやすい,といったことです。



2018年4月12日木曜日

社会理論で絶対に覚えたい5人衆~⑤ジンメル

ここまで,①ウェーバー(ヴェーバー),②デュルケム,③マートン,④テンニースを紹介してきました。

今回は,5人衆の最後のジンメルです。

ジンメルは,旧カリ時代も含めて7回も出題されています。

しかし,その出題頻度の割に,正解になったのはたったの1回だけです。

■ジンメル・・・集団の拡大と個性の発達,社会圏の交錯 (第5回・問題135・選択肢4)

これだけが正解です。

これを文章化すると・・・

ジンメルは,社会圏(ジンメルは社会集団の意味で使っている)は個人を中心として交じり合い,その相互作用が集団を拡大させ,それと同時に個性を発達させると考えた。

といったものとなります。

これだけが国試を解くときのポイントとなります。

ジンメルは重要な人にもかかわらず,なぜかジンメルそのものの研究が出題されることは少ないのです。

例えば,

ジンメル(Simmel,G.)は,社会は分業の体系であると考え,同質な個人の連帯である機械的連帯から異質な個人の分業による有機的連帯に変化していくと考えた。

といったようなものです。これは先日紹介したように,デュルケムが正しいものとなります。

ジンメル(Simmel,G)は,本質意志に基づく結合を表すゲマインシャフト(共同社会)から選択意志に基づく結合を表すゲゼルシャフト(利益社会)への変化に着目した。

これはテンニースが正しいものとなります。

間違いとして出題されたのは,6回ありますが,そのうちジンメルの研究内容が出題されたのは,1回です。

ジンメル(Simmel,G.)は,社会的な分化が進むことによって,人々が相互に交流する範囲としての社会圏が縮小していくと考えた。 (第26回・問題16・選択肢4)

これは間違いです。社会圏は相互作用で大きくなっていきます。


〈今日の一言〉

ジンメルが出題されたのは7回。正解になったのはたったの1回。

それは,間違いを選ぶ問題の中での正解選択肢でした。

つまり,そのたった1回の正解もジンメルは選ばれる対象ではなかったのです。

ジンメルが選ばれる問題は今まで一度のなかったということです。

ジンメルがお墓の中から「俺を選ぶ問題も作ってくれ~」という叫んでいるのが聞こえてきそうです。

ジンメルは正解になることは極めて少ないですが,出題されたときのために覚えておきたいのは,

ジンメルは,社会圏(ジンメルは社会集団の意味で使っている)は個人を中心として交じり合い,その相互作用が集団を拡大させ,それと同時に個性を発達させると考えた。

これだけです。

ジンメルは,社会学の大家でたくさんのものを提唱していますが,まったく別のものを出題すると誰も解けなくなってしまうので,正解選択肢にするのは,過去に出題されたもののアレンジということになります。

それ以外にジンメルが正解になることがあるとしたら,ジンメル以外の選択肢が消去できる内容である場合でしょう。

こういうことに気がつけば,国試での得点力はぐ~んと伸びます。

次回は,番外編のラウントリーです。

2018年4月11日水曜日

社会理論で絶対に覚えたい5人衆~④テンニース

「社会理論と社会システム」は,現代問題なども出題されるので,つかみどころがないように感じるかもしれません。

実は国試150問中で最も難しいと思える問題が出題されるのがこの科目です。

人名や歴史は覚えるのが苦手だと感じる人もいるかもしれません。

しかし,これらは出題ポイントが決まっているので,しっかり覚えれば確実に得点源になります。


さて,社会理論で絶対に覚えたい5人衆のうち,4人目はテンニースです。


<テンニースの出題ポイント>


ゲマインシャフトとゲゼルシャフト

たったこれだけです。

旧カリ時代にさかのぼってもたったこれだけしかありません。

しかし,いやな感じがするのは,テンニース,ゲマインシャフト,ゲゼルシャフト,いずれも聞き慣れないドイツ語だからでしょう。


ゲマインシャフト

愛情などの本質意志で結びついた社会です。血縁による家族,地縁による村落,友情による(古代)都市などで,前近代社会です。


ゲゼルシャフト

目的を達成するための打算による選択意志で結びついた社会です。結社,大都市などで近代社会です。

社会進化では,ゲマインシャフトからゲゼルシャフトに進化するととらえます。

社会集団としては,マッキーバーが提唱した

コミュニティ(共同体)≒ゲマインシャフト
アソシエーション(結社など)≒ゲゼルシャフト
に対応します。

しかし,イコールではないのは,マッキーバーは,家族はアソシエーションに分類したからです。

それでは,テンニースの問題を確認しましょう。

■テンニース(Tonnies,F.)は,どのような意志により人々が結合するかをとらえようとし,本質意志に基づく基礎社会から選択意志に基づく派生社会へと変化すると考えた。 (第22回・問題17・選択肢4)

■テンニース(Tonnies,F.)は,全体意志に基づく第一次集団が解体し,一般意志に基づく第二次集団が優越するようになると考えた。 (第26回・問題16・選択肢3)

テンニースが出題されたのは2回ですが,旧カリ時代も含めると8回も出題されています。

しかも出題ポイントは,
本質意志で結びついたゲマインシャフト → 選択意志で結びついたゲゼルシャフト

これだけ覚えていれば,対応できます。

それでは,解説します。


■テンニース(Tonnies,F.)は,どのような意志により人々が結合するかをとらえようとし,本質意志に基づく基礎社会から選択意志に基づく派生社会へと変化すると考えた。

テンニースが提唱したのは,ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへです。
よって間違いです。


■テンニース(Tonnies,F.)は,全体意志に基づく第一次集団が解体し,一般意志に基づく第二次集団が優越するようになると考えた。 

テンニースが提唱したのは,ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへです。
よって間違いです。

次回は,ジンメルです。

2018年4月10日火曜日

社会理論で絶対に覚えたい5人衆~③マートン

社会理論と社会システムでは,人名を覚えなければならないのでいやだな,と思う人が多いと思います。

そのため,私たちチームfukufuku21は,人名を深めてみた結果,現行カリキュラムで出題された29名中,2回以上出題された5名(2回以上出題されたのは7名だが,2名はほかの科目でも出題)が重点課題であることを発見しました。

人名を覚えるのが苦手でも5名なら何とかなるでしょう。

さて,社会理論で絶対に覚えたい5人衆の3人目は,マートンです。

マートンという名前が出題されたのは,2回です。

覚えるべきポイント

①逆機能(官僚制の逆機能)

②社会的逸脱(アノミー)

この2つに集約されます。マートンが提唱したもので国家試験に出題されたものは,潜在的機能(意図せざる結果),準拠集団など多岐にわたります。

しかしそこには「マートン」という名称は国家試験では使われません。

人名を覚えることではなく,その内容を覚えることが重要なのが,このことからよく分かると思います。

逆機能

システムがうまく機能しないこと。

また,ウェーバーが合理的支配をよりすすめたものとして「官僚制」を挙げていますが,マートンは,官僚制がうまく機能しないことを「官僚制の逆機能」と呼びました。

今日の日本で言えば,忖度(そんたく)や官僚による文書改ざんなどが,誰かの指示によって行われたものではなく,自発的に行われたものだとすれば,官僚制の逆機能と言えるのかもしれません。

逆機能は,多くの使われ方がされます。

たとえば,

スマホが普及する中,スマホがうまく使えこなせないことがストレスとなる。

などです。


アノミー

社会的逸脱(犯罪など)は,文化目標とその達成手段との不一致によって生じる。

デュルケムは,アノミーで自殺を論じましたが,マートンはアノミーで社会的逸脱を論じました。

文化目標とその達成手段との不一致とは

アメリカンドリームなどのように夢は大きくても,実際に自分を振り返るとアメリカンドリームを達成するための手段や機会がないことで,そこにいらだち,逸脱するというものです。

社会的逸脱に関する理論の出題の中心は,ラベリング理論(逸脱者としてレッテルを貼ることで逸脱するという理論。重要なのはレッテルを貼る側)ですが,それに絡めてアノミー論が出題されます。


それでは,マートンに関連するものをチェックしましょう。

■官僚には組織目標を効果的に実現するために,反応の信頼性と規程の遵守が求められるが,これへの過剰な同調が生じると臨機応変の処置がとれなくなる。これは,マートン(Merton,R.)が論じる官僚制の逆機能の一局面である。 (第23回・問題17・選択肢2)

■パーソンズ(Parsons,T.)は,潜在的機能や逆機能に着目しつつ,合理性と共通価値に基づく目的―手段関係を追求するコミュニケーション行為の理論を論じた。 (第25回・問題19・選択肢5)

■ラベリング理論とは,機能主義的な立場から順機能・逆機能,顕在的機能・潜在的機能といった概念を導入しつつ,逸脱や逸脱行動を説明する立場である。 (第29回・問題21・選択肢1)

1つめと2つめは,逆機能に関連するもの,3つめはアノミー論に関連するものです。

それでは,詳しく見ていきましょう。

■官僚には組織目標を効果的に実現するために,反応の信頼性と規程の遵守が求められるが,これへの過剰な同調が生じると臨機応変の処置がとれなくなる。これは,マートン(Merton,R.)が論じる官僚制の逆機能の一局面である。

これは正解です。逆機能(官僚制の逆機能)は,とても重要です。確実に理解しておいてください。

■パーソンズ(Parsons,T.)は,潜在的機能や逆機能に着目しつつ,合理性と共通価値に基づく目的―手段関係を追求するコミュニケーション行為の理論を論じた。

これは,完全にでたらめ問題です。潜在的機能や逆機能に着目したのは,マートンです。コミュニケーション行為を提唱したのは,ハーバマスです。
社会的行為と言えば,ウェーバーが有名ですが,コミュニケーション的行為はハーバマスなので注意です。

■ラベリング理論とは,機能主義的な立場から順機能・逆機能,顕在的機能・潜在的機能といった概念を導入しつつ,逸脱や逸脱行動を説明する立場である。 (第29回・問題21・選択肢1)

ラベリング理論ではなく,マートンのアノミー論です。

マートンは,このようにラベリング理論などに絡めて出題されます。

次回は,テンニースです。

2018年4月9日月曜日

社会理論で絶対に覚えたい5人衆~②デュルケム

デュルケムは,覚えたいランキング3位です。

2位のラウントリーは,この科目だけではなく,ほかの科目でも出題されるので,飛ばします。

デュルケムは,現行カリキュラム9回中2回の出題 22.2%!!

ウェーバーの66.7%から大きく下がります。

ただし,旧カリ時代も含めると,11回出題されています。

ここで分かるのは,現行カリキュラムでは,旧カリ時代に比べると人名が含まれる出題が少なくなっていることです。

さて,それでは現行カリキュラムで出題されたものを確認しましょう。


■デュルケム(Durkheim, E.)は,異質な個人の分業による有機的な連帯から,同質的な個人が並列する機械的連帯へと変化していくと考えた。 (第26回・問題16・選択肢1)


■デュルケム(Durkheim,E.)は,経済的繁栄によって人々の欲望が過度に肥大化し,どこまでいっても満足できないアノミーに陥り,それがいらだちや焦燥感をもたらすと考えた。 (第22回・問題17・選択肢5)


■ジンメル(Simmel,G.)は,社会は分業の体系であると考え,同質な個人の連帯である機械的連帯から異質な個人の分業による有機的連帯に変化していくと考えた。 (第22回・問題17・選択肢1) 

前回のウェーバーの方法論的個人主義に対して,デュルケムは方法論的集団主義に分類されます。

方法論的個人主義 → 個人から社会を考える立場
方法論的集団主義 → 社会から個人を考える立場

デュルケムの出題ポイントは2つ

①社会分業論

②アノミー


社会分業論は,

社会は,機械的連帯から有機的連帯に進化する社会進化論でもあります。

機械的連帯は,例えば物を作って売るまで一貫して行い,同業者でつながって協力することをいいます。

生産力向上にはある程度の制約が伴います。

有機的連帯は,生産,販売など機能が分化してつながることをいいます(社会分業)。工業であれば,原料をつくる,製品を作る,出荷する,販売する,など機能が必要に従ってつながっていきます。

各部門は専門化するので生産力を向上させることができます。

社会進化は,機械的連帯 → 有機的連帯 となります。


アノミーは,

無秩序状態をいいます。

社会的規制がなくなると良いものになると思います。しかしデュルケムは,アノミーを生み出し,それが人の不安や焦燥感を生み出すことにつながると考えました。

デュルケムは,アノミーが自殺を生み出すアノミー的自殺を提唱しています。

アノミーは,覚えたい5人衆のマートンも提唱しています。

マートンは,アノミーが社会的逸脱(犯罪など)の発生要因となると述べています。この辺りの話は,マートンの回で少し触れておきたいと思います。

それでは,詳しく見ていきましょう。


■デュルケム(Durkheim, E.)は,異質な個人の分業による有機的な連帯から,同質的な個人が並列する機械的連帯へと変化していくと考えた。

デュルケムの社会分業論では,社会進化は,機械的連帯から有機的連帯に移り変わると考えます。よって間違いです。


■デュルケム(Durkheim,E.)は,経済的繁栄によって人々の欲望が過度に肥大化し,どこまでいっても満足できないアノミーに陥り,それがいらだちや焦燥感をもたらすと考えた。 

これは正解です。デュルケムのアノミー論です。


■ジンメル(Simmel,G.)は,社会は分業の体系であると考え,同質な個人の連帯である機械的連帯から異質な個人の分業による有機的連帯に変化していくと考えた。  

社会分業論は,デュルケムが提唱したものです。ジンメルは,形式社会学というものを提唱した人です。よって間違いです。出題回数は極めて多いですが,正解になったことはたった1回しかないというかわいそうな人です。

デュルケムであいまいにしてはいけないポイント

機械的連帯 → 有機的連帯

この順番です。

しっかり押さえておきましょう。

次回は,マートンです。

2018年4月8日日曜日

社会理論で絶対に覚えたい5人衆~①ウェーバー(ヴェーバー)

ウェーバー(ヴェーバー)は,最も覚えたいランキング1位です。

(ウェーバーは英語読み。ヴェーバーはドイツ語読み)

現行カリキュラム9回中6回の出題 出題率66.7%!!

それでは,まずどのように出題されてきているか,確認しましょう。

まだ今の時点では,何を言っているのか分からなくて良いです。

■ヴェーバー(Weber,M.)は,官僚制による合理化が一層進行するが,それに反対して情熱的に異議を唱えるカリスマが多数登場するようになると考えた。 (第22回・問題17・選択肢3)


■官僚制組織は近代以前に行われてきた非合理的な慣習を温存する役割を果たしてきた。ヴェーバー(Weber,M.)は,社会の近代化の過程で普遍的かつ必然的に生じる現象として官僚制組織をとらえ,その伝統的性格に着目した。 (第23回・問題17・選択肢4)


■ウェーバー(Weber,M.)の支配の諸類型に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 (第28回・問題15)
1 合法的支配とは,ある私的な関係に限って認められたルールに基づく支配体制である。
2 官僚制による支配とは,権力者の恣意的な判断や決定による支配体制である。
3 カリスマ的支配とは,非日常的な資質の持ち主によって成立する支配体制である。
4 家父長制的支配とは,家業を遂行する経営的な能力に基づく支配体制である。
5 伝統的支配とは,過去に制定された法に基づく支配体制である。


■ヴェーバー(Weber,M.)は,行為を行為者にとっての主観的意味から4つの類型に分け,そのなかで目的合理的行為や価値合理的行為に着目して近代の合理性を論じた。 (第25回・問題19・選択肢1)


■ヴェーバー(Weber,M.)は,階級を社会的な名誉や威信に基づくものと定義したので,身分と同様,生得的であると考えた。 (第26回・問題15・選択肢2)


■ヴェーバー(Weber,M.)は,近代の組織活動において計算に基づく予測可能性が低下すると考えた。 (第26回・問題16・選択肢2)

本当に難しいと思います。

ウェーバーについて,出題されているのは,

(1)支配システム

(2)社会的行為


の2つに分類できます。

まずは,支配システムを押さえます。


支配システムとは

誰かが命令した場合,それを人々が受け入れることを言います。

ウェーバーには,支配システムには,3つの類型があると述べています。

①伝統的支配 

神聖なもの,慣習によるもの,などによるものです。日本では昔の天皇制,家父長制(親の言うことは絶対的)などが伝統的支配の類型になります。

②カリスマ的支配 

特別な能力(カリスマ)を持った人による支配です。「ちょっと極端だけれど,この人の言うことなら従える」と思えるようなものです。戦国武将の織田信長や豊臣秀吉などがカリスマ的支配と言えるでしょう。

この2つは,誰でもできるものではありません。どちらかと言えば,神がかったものと言えるでしょう。

最後の一つは,


③合法的支配 

規則(法)による支配です。近代民主国家は,合法的支配です。伝統的支配やカリスマ的支配と違い,規則により命令し,人々は規則によって従います。

合法的支配をより進めたものが官僚制です。

官僚制の特徴は,

文書主義
規則による権限の明確化
規則による上下関係の明確化
などがあります。

支配システムは,「福祉サービスの組織と経営」でも出題されます。

ウェーバーは,伝統的支配やカリスマ的支配から離脱する脱魔術化によって近代化すると考えました。その過程は世俗化といいます。

さて,ウェーバーのもう一つのポイントは「社会的行為」です。

ウェーバーは,人の行為はその人にとって意味のあるものであり,人の行為によって社会は成り立っていると考え,それを理解しようとしました。

それがウェーバーの中心的研究分野である理解社会学です。

簡単に言うと「人の行為には動機があり,個人が社会を作り上げている」というものです。

ウェーバーのこの考え方を方法論的個人主義と呼ぶそうです。

ただし方法論的個人主義という用語は,旧カリ時代の第14回国試のたった1回しか出題されたことがないので覚える必要性はありません。

ウェーバーが提唱した社会的行為は4つあります。


①目的合理的行為 

目的を達成するための行為です。「国家試験合格」が目的なら,受験勉強することです。


②価値合理的行為 

行為自体に意味がある行為です。合格祈願,招き猫を置く,健康祈願など,その行為に意味がある行為です。ただしその行為による結果は重視されません。なぜなら自分の期待する結果を確実に得るためなら,勉強する,商売の勉強をする,健康的な生活をする,という行為を行うからです。しかし精神性を高めるなど,直接的ではなくとも間接的な意味があります。

★この2つについている「合理的」という用語は,行為のつじつまが合っているようなものを指しています。つまり,「何のためにそうしているのか」を問われたら,方法論は違っても「国試に合格するため」と答えるでしょう。


③伝統的行為 

習慣化・慣習化された行為です。習慣化は,朝起きたら顔を洗うなど,慣習化は,朝仏壇に線香をあげる,村祭りに参加する,なとです。


④感情的行為 

自分の感情による行為です。人を怒りつけるなどです。


★この2つは,合理的行為(つじつまがあっている)ではありません。「何のためにそうしているか」と問われたら,明確に答えられず「習慣だから」「昔からみんなやっているから何となく」といった答えが返ってくることが多いかもしれません。

ウェーバーが提唱した社会的行為には4つありますが,近代化を進めるものは「目的合理的行為」「価値合理的行為」,前近代的なもの(近代化を進めない)は「伝統的行為」「感情的行為」と分類することができると思います。

ウェーバーは,社会学の大家なので,「支配システム」と「社会的行為(理解社会学)」のみならず,他のもの,例えば,「階級」「予測可能性」が出題されています。

これらは,ウェーバーは,合法的や合理的などを述べた人なので,彼ならこういうことを言うだろう,といった感じで対応可能です。

つまり,「こういう規則性があれば,こういう結果になるだろう」と考えるだろう,といった推測です。

それでは,それぞれを解説していきましょう。

■ヴェーバー(Weber,M.)は,官僚制による合理化が一層進行するが,それに反対して情熱的に異議を唱えるカリスマが多数登場するようになると考えた。

カリスマ的支配は,前近代的なものです。近代社会では合理的支配が中心なので,カリスマが登場したとしても,それは少数派であると考えられます。よって間違いです。

■官僚制組織は近代以前に行われてきた非合理的な慣習を温存する役割を果たしてきた。ヴェーバー(Weber,M.)は,社会の近代化の過程で普遍的かつ必然的に生じる現象として官僚制組織をとらえ,その伝統的性格に着目した。

近代以前に行われてきた非合理的な慣習を温存する役割を果たしてきたのは,伝統的支配やカリスマ的支配です。近代的社会では,規則による合理的支配が中心となります。よって間違いです。

■ウェーバー(Weber,M.)の支配の諸類型に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 合法的支配とは,ある私的な関係に限って認められたルールに基づく支配体制である。
2 官僚制による支配とは,権力者の恣意的な判断や決定による支配体制である。
3 カリスマ的支配とは,非日常的な資質の持ち主によって成立する支配体制である。
4 家父長制的支配とは,家業を遂行する経営的な能力に基づく支配体制である。
5 伝統的支配とは,過去に制定された法に基づく支配体制である。

正解は3のカリスマ的支配です。

■ヴェーバー(Weber,M.)は,行為を行為者にとっての主観的意味から4つの類型に分け,そのなかで目的合理的行為や価値合理的行為に着目して近代の合理性を論じた。 (第25回・問題19・選択肢1)

正解です。ウェーバー論じた社会的行為は「目的合理的行為」「価値合理的行為」「伝統的行為」「感情的行為」り4つです。そのうちの「目的合理的行為」「価値合理的行為」が近代的なものです。

■ヴェーバー(Weber,M.)は,階級を社会的な名誉や威信に基づくものと定義したので,身分と同様,生得的であると考えた。

生得的とは,「生まれ持って」といった意味合いです。この選択肢はものすごく難しいですが,文章を読むと,引っかかるものがあります。それは「身分と同様」という部分です。
この選択肢が正解なら

階級を社会的な名誉や威信に基づくものと定義したので,生得的であると考えた。

でも良いはずです。
そこにわざわざ「身分と同様」という言葉を挿入してきたのは,階級は生得的ではないと思えます。

人は嘘をつくとき饒舌になる

身分と同様,という言葉が付け加えられていなければ,まったく見当がつかないものになるでしょう。

答えは間違いです。

生得的なのは身分です。階級は経済的によって生み出されます。

■ヴェーバー(Weber,M.)は,近代の組織活動において計算に基づく予測可能性が低下すると考えた。

ウェーバーが提唱したものは,近代化は合理的なものであるということです。合理的であれば,予測可能性が高まるとウェーバーは言いそうだと思いませんか。もちろん間違いです。

もともとの文章は,

ヴェーバー(Weber,M.)は,近代の組織活動において計算に基づく予測可能性が高まると考えた。

であり,それを間違い選択肢にするために,高まるを低下するに置き換えたと考えられます。

低下する」に違和感があれば,okです(×をつけられる)。

次回は,デュルケムです。

2018年4月7日土曜日

「社会理論と社会システム」で絶対に覚えたい7名

社会理論と社会システムがいやだなぁ,と思う人は人の名前を覚えなければならない,という意識があるのではないでしょうか。

現在のカリキュラムは,第22回から実施されています。

その中で,出題(あるいは問題文の意味が別の人)されたのは,29名です。

29名も出題されていると聞くと,いやさ加減が最高潮になることでしょう。

参考書や過去問解説には,出題頻度は書かれていないので,すべてを同じように覚えなければならないと思ってしまいます。
もちろん29名すべてを覚えれば完璧な気持ちで試験に臨めることでしょう。

しかし,ほかに覚えなければならないものはたくさんあります。

出るか出ないか分からないものに時間をかけるよりも,出る確率の高いものを確実に覚えるほうが効率的です。

現行カリキュラムで出題された回数は,以下の通りです。

※( )内は,他科目も含めて旧カリ時代も含めての出題回数

1位
ウェーバー 6回(13)

2位
ラウントリー 2回(17)

3位
デュルケム 2回(11)

4位
マートン 2回(9)

5位
テンニース 2回(8)

6位
ジンメル 2回(7)
マルクス 2回(7)

8位
エリクソン 1回(13)

9位
タウンゼント 1回(10)

10位
パーソンズ 1回(9)

11位
リースマン 1回(4)
ゴッフマン 1回(4)
ミード 1回(4)

14位
ウェルマン 1回(3)

15位
イリイチ 1回(2)
クーリー 1回(2)

17位
ロストウ 1回(1)
ガルブレイス 1回(1)
ヴェブレン 1回(1)
ボードリヤール 1回(1)
ベル 1回(1)
ミヘルス 1回(1)
リプスキー 1回(1)
ブラウ 1回(1)
マクルーハン 1回(1)
ブルデュー 1回(1)
ライアン 1回(1)
ベラー 1回(1)
サザーランド 1回(1)


突出しているのは,ウェーバー(ヴェーバー)です。

この科目で2回以上出題されているのは,29名中たったの7名だけです。

12名は過去にさかのぼっても本当の一見さんです。
覚える優先度合いは低いものです。

そのほかの10名は,ほかの科目で出題されるか,旧カリで出題されたものです。

この科目で絶対に覚えたいのは,以下の7名に絞り込むことができます。

1位 ウェーバー
2位 ラウントリー
3位 デュルケム
4位 マートン
5位 テンニース
6位 ジンメル,マルクス

このうち,ラウントリーとマルクスが社会学者以外の人,そのほかの5名は,社会学の大家です。

結局は,そういうところに落ち着きます。

人名をがっちり覚えたいのは,たったの7名。

これなら,何とか覚えられそうだと思いませんか。

参考書には,人名がずらりと並んでいると思います。

社会理論は,誰かが提唱したものです。7名以外は,人名そのものを覚える必要性はなく,その内容を覚えることに集中しましょう。

例えば,限界集落。提唱者は大野晃先生。しかし大野先生は出題されることなく,出題されるのは限界集落の内容である,ということです。

考えてみたら,そうだと思いませんか。

誰が提唱したのかが分かっても,その内容が分からなければ,その知識は何の意味も持ちません。

ある会話1

A 限界集落は,大野先生が提唱したものです。
B その限界集落って何?
A 65歳以上で,・・・・・・,あれっなんだっけ・・・・・・。


次回からは,「社会理論で絶対に覚えたい5人衆」を徹底分析します。

ラウントリーとマルクスは,番外編で紹介します。

人名をがっちり覚えたいのは,たったの7名。

たったの7名です。

7人をちゃっちゃと覚えて,次の段階に進みましょう。
ここに多くの時間をかけていると,本当に覚えなければならない法制度にかける時間がなくなってしまいます。

2018年4月6日金曜日

第31回国試に合格する勉強法~問題を解く勘を養おう!!

国家試験では,参考書を完璧に覚えても,それだけでは対応できない問題があります。

それらは解けなくても,いわゆるテッパン問題(絶対に得点したい問題)が解ければ,十分にボーダーラインを越えられるように国試問題は設計されています。

しかし,このような問題は別な角度で見ると,知識がなくても,問題を解く勘があれば解けることがあるので,得点できるコツは押さえておいて損はありません。

先に申し上げておきますが,知識をつけていわゆるテッパン問題(絶対に得点したい問題)が解けてこそ問題を解く勘は生かされます。

その逆はあり得ませんのでご注意ください。

それでは,社会理論と社会システムの例を紹介します。

第24回・問題17 地域コミュニティに関する次の記述のうち,もっとも適切なものを一つ選びなさい。
1 大規模な災害が発生した直後では,非専門家の集まりである地域コミュニティによる身近な高齢者や障害者などの救援は困難であり,行政の専門防災組織の即座の救援活動が最も有効である。
2 日本のコミュニティ・スクールは,学校運営協議会制度によって保護者や地域住民などが学校の運営に参画し,画一的ではない特色ある学校づくりを目指すものなので,学校運営協議会が教職員の任命権も有している。
3 高度経済成長期に過疎過密問題が生じたので,国土の均衡ある発展を目標に1962年以来,数次にわたって市町村の都市計画マスタープランが策定されたが,過疎問題は解決せず,今日では農山村の地域コミュニティは存立の危機にある。
4 地方自治体が,地域コミュニティの住民,NPO,NGOや民間企業など,主要な利害関係者との協働によって利害調整と合意形成を図ろうとするあり方をコーポレート・ガバナンスと呼ぶ。
5 1980年代以降,日本の都市に新たに居住するようなニューカマーと呼ばれる外国人住民のなかで,民族や出身地域に基づいてエスニック・コミュニティを形成し,生活や仕事に必要な情報をお互いにやりとりする現象がみられる。

第24回国試の中でも最も難しかった問題の一つです。

本来は解けても解けなくても良い問題です。

解けても解けなくても良い問題とは,十分な知識量がある人でも解くための知識を持たない問題を言います。

テッパン問題とは,十分な知識がある人なら解ける問題を言います。

繰り返しになりますが,テッパン問題が解けないと国試では合格できません。

さて頭の体操も含めて,解説していきます。

1 大規模な災害が発生した直後では,非専門家の集まりである地域コミュニティによる身近な高齢者や障害者などの救援は困難であり,行政の専門防災組織の即座の救援活動が最も有効である。

<この選択肢の注意ポイント>

即座の救援活動が最も有効である。

「最も良い」「最も優れている」など,「最も」が入る選択肢は間違いになることが多い。


<第2のポイント>

非専門家の集まりである地域コミュニティによる身近な高齢者や障害者などの救援は困難であり

困難でありが決めつけている。言い切り表現に正解少なし。


2 日本のコミュニティ・スクールは,学校運営協議会制度によって保護者や地域住民などが学校の運営に参画し,画一的ではない特色ある学校づくりを目指すものなので,学校運営協議会が教職員の任命権も有している。


<この選択肢の注意ポイント>

学校運営協議会制度によって保護者や地域住民などが学校の運営に参画し,画一的ではない特色ある学校づくりを目指すものなので,

人が嘘をつくとき,饒舌になる。

この選択肢が正解だとすれば,
日本のコミュニティ・スクールは,学校運営協議会が教職員の任命権も有している。
で良いと考えられる。


3 高度経済成長期に過疎過密問題が生じたので,国土の均衡ある発展を目標に1962年以来,数次にわたって市町村の都市計画マスタープランが策定されたが,過疎問題は解決せず,今日では農山村の地域コミュニティは存立の危機にある。

<この選択肢の注意ポイント>

1962年以来,数次にわたって市町村の都市計画マスタープランが策定されたが

1962年は,まだ明治生まれが現役時代だった頃。大正元(1912)年生まれの人でさえ,まだ50歳。その時代に「マスタープラン」といったわけの分からない名称はつけるばすがない。

4 地方自治体が,地域コミュニティの住民,NPO,NGOや民間企業など,主要な利害関係者との協働によって利害調整と合意形成を図ろうとするあり方をコーポレート・ガバナンスと呼ぶ。

<この選択肢の注意ポイント>

コーポレート・ガバナンス

これだけは,参考書の種類によっては,記載されていたものがあるはずです。

ガバナンスは,統治を意味し,コーポレート・ガバナンスは,企業統治を意味します。

この場合の統治とは,組織運営が適正になるようにための組織風土などのことです。

不正などがあった場合は「ガバナンスが機能していない」といった表現をします。

5 1980年代以降,日本の都市に新たに居住するようなニューカマーと呼ばれる外国人住民のなかで,民族や出身地域に基づいてエスニック・コミュニティを形成し,生活や仕事に必要な情報をお互いにやりとりする現象がみられる。


<この選択肢の注意ポイント>

この選択肢には,際立ったものがないことがポイント

つまり,この選択肢を見て,いきなり○をつけられないことを意味します。

このような時は冷静に▲をつけます。

つまり,ほかの選択肢に仕掛けられたトラップに気づくことで消去して,答えをあぶり出すテクニックです。


〈今日の一言〉

今日の問題では,<この選択肢の注意ポイント>を紹介しました。

ガバナンス以外は,内容そのものが注意ポイントになっていないことに気がついた方もいるでしょう。

コミュニティ・スクールって何だろう,と思って,この選択肢に引っかかると,この問題は解けなくなります。

そこには,答えはありません。

なぜなら,この科目は「社会理論と社会システム」です。

コミュニティ・スクールが重要なら,「地域福祉の理論と方法」など,別の科目で出題されて良いはずです。

この問題で,将来の社会福祉士に知ってもらいたいのは,外国からきた人が形成するエスニック・コミュニティだったはずです。

その視点で,もう一度この問題を見直してみてください。

それ以外に答えはあり得ないことに気が付くことでしょう。

実は,簡単そうに書きましたが,このテクニックを使える人はそんなに多くはありません。

なぜなら,国試問題はいつも難しいからです。

しかし,たくさんの問題を解くことで,問題を解く勘は養うことができます。

この問題を解く勘は,必ず受験する者を助けてくれます。
たくさん問題を解く時間は,必ず作るようにしてください。

因みに今日の問題で,覚える価値のあるものは,ガバナンスのみです。

正解選択肢となったニューカマーでさえ,今後(遠い将来も含めて)出題されるかどうかは分かりません。一度出題すると参考書に掲載されるので,所期の目的は達成されるからです。

試験委員が何を意図して,この問題を作ったのかが考えながら問題を解くことができるようになると格段に得点力は見違えるように高まります。

目先の文章を読み解くことに必死になると大事なポイントを見失うことがあるので注意したいところです。









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