数回にわたってシステム理論を取り上げてきました。
システムと聞くととても難しく感じるかもしれませんが,実はそれほど難しいものではありません。
前回は,結論として以下のようにまとめました。
<結論>
人と環境を一体のものととらえるのが,システム理論です。
システムは,仕組みの意味ではありません。
人と環境には交互作用があり,その接点に働きかけるのがシステム理論に基づくソーシャルワークです。
ソーシャルワークにおけるシステム理論の整理
https://fukufuku21.blogspot.com/2019/04/blog-post_19.html
環境とは,人(クライエント)を取り巻くすべてのものです。
家族
地域
会社
友人
そして
ワーカー etc・・・
これらすべてが環境です。
システム理論を理解するときの重要なキーワードは
交互作用
です。
人は一人で存在しているものではなく,環境から影響を受けて,そして環境に影響を与えながら絶えず変化しています。
これを
交互作用
と表現します。
クライエントが抱えている問題の解決には,クライエント本人に働きかけることも重要ですが,環境に働きかけることで,クライエントが変化することを期待するものがソーシャルワークにおけるシステム理論です。
家族の場合は,家族システムアプローチという手法があります。
家族の構成メンバーのうち,たとえば長男に問題があった場合,他の家族が変化することで長男が変化するように働きかけます。
これがシステム理論です。
問題のある家族の構成メンバーを家族から切り離すといった出題が多くみられますが,切り離してしまったら,システム理論ではなくなってしまいます。
それでは,今日の問題です。
第30回・問題98 ソーシャルワーク実践における人と環境の関わりに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 クライエント自身が捉える環境の意味を把握する。
2 環境要因に対するクライエント自身の他罰的な考え方を強化することを目的に支援する。
3 クライエントが抱えている問題の原因となっている環境要因を排除することで,問題解決を試みる。
4 クライエントを,環境から一方的に影響を受ける存在とみなして,支援を行う。
5 クライエントが問題を抱えた原因を,クライエントの性格に求める。
人と環境の交互作用に焦点化したものは,選択肢1しかありません。
これが正解です。
そのほかの選択肢も簡単に解説します。
2 環境要因に対するクライエント自身の他罰的な考え方を強化することを目的に支援する。
他罰的な考え方とは,「周りの人が悪いのだ」と考えることです。
それを強化するのはおかしなことです。
3 クライエントが抱えている問題の原因となっている環境要因を排除することで,問題解決を試みる。
システム理論は「人と環境の交互作用」に着目するものです。
環境要因を排除するのでは,システム理論ではなくなります。
4 クライエントを,環境から一方的に影響を受ける存在とみなして,支援を行う。
システム理論は「人と環境の交互作用」に着目するものです。
交互作用とは,
環境から影響を受けて,そして環境に影響を与えるもの
です。環境から一方的に影響を受ける存在ではありません。
クライエント ← 環境
ではなく
クライエント → 環境
でもなく
クライエント ⇔ 環境
この関係性が「交互作用」です。
5 クライエントが問題を抱えた原因を,クライエントの性格に求める。
このようなアプローチ方法もあります。
しかしそれは,システム理論に基づいたソーシャルワークではありません。
<今日の一言>
今日の問題は決して難しいものではありません。
しかし,システム理論を正しく理解していなければ,確実に正解するのは決して簡単なものではありません。
今日の問題は,ボーダーラインが99点になった第30回国試のものです。
今後ボーダーラインがここまで上がることはまずないと思います。
しかし,いつの国試であっても,今日の問題のような問題を取りこぼすことは,不合格につながります。
何度か受験されている方は,こういった問題の取りこぼしがないか,考えてみることも大切です。
今の国試は,ボーダーライン90点,合格率30%を理想としていることが伺われます。
しかしみんなが得点できる国試になってしまった場合は,ボーダーラインを上げることも辞さないことが判明しています。
合格するためには,上位30%に入ることが条件です。
周りの人と同じ勉強では,周りの人に差をつけることができません。
そういった意味では,まだ多くの人が勉強を始めていない今のうちから勉強を始めることは重要な意味を持ちます。
また,確実に得点するための力をつけるには時間がかかります。
今勉強している人は,来年の国試を受験する人の中では少数派(マイノリティ)です。
国試の合格率は,25~30%であり,合格できるのは多数派(マジョリティ)ではありません。
合格できるのは,マイノリティです。
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