今回からは,様々な研究者がソーシャルワークにおける「人と環境」をどのようにとらえているのかを取り上げていきます。
第1回は,リッチモンドに着目します。
リッチモンドは,アメリカ慈善組織協会の指導者として活動し,ケースワークの科学化に貢献した人物です。
リッチモンドは,ソーシャル・ケース・ワークを以下のように定義しています。
人と社会環境との間を個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる過程。
著書『ソーシャル・ケース・ワークとは何か?』は,1922年に刊行されたものですが,既に人と環境について述べていることが特筆すべきものです。
ここで言う「個別」には「個別化して」,「意識的に」は「科学的に」といった意味だと考えられます。
「科学的に」は,行き当たりばったりではなく,計画的なかかわりのことを指しています。
その後,診断主義派ケースワークは,フロイトの精神分析学に影響を受けて,クライエントの「治療」に傾倒していきます。
リッチモンドも「パーソナリティ(人格)を発達させる」と述べているものの,そこには環境が影響していることを忘れてはなりません。
それでは,今日の問題です。
リッチモンドに着目して問題を読んでください。
第20回・問題111 ソーシャルワークにおける「人」と「環境」をめぐる学説に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 ジャーメイン(Germain,C.)らは,生態学の視点を用いて,個人に焦点を当てつつ,個人の適応についての説明をしようとした。
2 ハミルトン(Hamilton,G.)は,社会生活機能という概念を用いて,社会環境からの要求と人の対処努力との間の交換・均衡に焦点を合わせることを提唱した。
3 バートレット(Bartlett,H.)は,状況の中の人間という概念を用いて,ケースワークにおける診断についての特徴を明らかにしようとした。
4 リッチモンド(Richmond,M.)は,人と社会環境との間を個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる過程について論じた。
5 ソロモン(Solomon,B.)は,人を環境との相互関連の中でとらえようとし,人は状況により変化するという考え方をソーシャルワークに導入した。
人と環境をめぐる学説について,現在のカリキュラムでは
第23回
第25回
第27回
に出題されています。
第28回以降は,具体的な人名が出題された問題は,
第31回の問題98の「ケンプ」
問題100の「ピンカス」
の2問だけです。
おそらく今日の問題のようなスタイルの出題は「相談援助の基盤と専門職」の問題っぽいという理由からなのかもしれません。
しかし,過去に3度も出題されているので,押さえないわけにはいきません。
その3回の問題の出発点になったのが,今日の問題です。
旧カリキュラムで実施された最後の国試での出題です。
現在のカリキュラムに変わったのは,第22回国試からです。
実は第21回国試は,旧カリキュラムによるものですが,
次回からはこのように出題しますよ
というお知らせをした内容になっています。
そのおかげで,旧カリキュラムから現カリキュラムへの移行は,比較的スムーズに進むことができたと考えられます。
次のカリキュラム改正についての内容は,2019年4月現在,いまだ発表されていません。
そのため,導入はもうちょっと先になります。
しかし,カリキュラムが変わっても,学ぶべき内容は基本的に変わるものではありませんし,また,スムーズに移行するための配慮がなされることになるので,それほどの心配はないと言えます。
それはさておき,今日の問題です。
知識がなければ,難しい問題となりますが,答えは選択肢4です。
他の選択肢も解説します。
1 ジャーメイン(Germain,C.)らは,生態学の視点を用いて,個人に焦点を当てつつ,個人の適応についての説明をしようとした。
ジャーメインの名前は,分からなくても,「人と環境」がテーマなのに,「個人に焦点を当てつつ」というのは,適切ではないと思えるでしょう。
ジャーメインらが提唱したのは「エコロジカルアプローチ」です。
人と環境の「交互作用」に着目して介入していきます。
「交互作用」という言葉はこの辺りから使用されてくるようになりました。
2 ハミルトン(Hamilton,G.)は,社会生活機能という概念を用いて,社会環境からの要求と人の対処努力との間の交換・均衡に焦点を合わせることを提唱した。
社会生活機能という概念を用いて,社会環境からの要求と人の対処努力との間の交換・均衡に焦点を合わせることを提唱したのは,バートレットです。
3 バートレット(Bartlett,H.)は,状況の中の人間という概念を用いて,ケースワークにおける診断についての特徴を明らかにしようとした。
「状況の中の人」という概念を用いているのは,ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」です。
このアプローチは診断主義派ケースワークが発展したものです。
診断主義派ケースワークと違う点は,診断主義派ケースワークは「個」に傾倒しすぎていることに対して,心理社会的アプローチは,「環境」に目を向けていることです。
そのため「社会的」という名称がついています。
5 ソロモン(Solomon,B.)は,人を環境との相互関連の中でとらえようとし,人は状況により変化するという考え方をソーシャルワークに導入した。
ソロモンは,エンパワメントアプローチを提唱しました。
ソロモンが,環境について述べているのは,人は抑圧された環境におかれると無力(パワーレス)になることが多いというものです。
<今日の一言>
今日の問題は,とても難しい問題です。
ここで,整理しておくことができた人だけが,第23回国試の同様の問題を正解できたと思います。
次回は,第23回問題を取り上げます。
しっかり整理していきましょう!!