19世紀後半から20世紀は科学化の時代です。
建築で使われるコンクリートのもともとは「具体的な」といった形容詞です。
大量生産・大量消費の時代でもあります。
大量生産を可能にしたのは,標準化された手続きを踏んだ生産方法にあります。
こういったものを「モダニズム」といいます。
ソーシャルワークもモダニズムの影響を受けて発展していきます。
ソーシャルワークのモダニズムは,客観的なもの,実証できるもののアプローチです。
心理社会的アプローチはフロイトの「精神分析理論」,機能的アプローチはランクの「意志心理学」を基礎理論としています。
エンパワメントアプローチ以降の比較的新しいアプローチは,ポストモダン(ポストモダニズム)と呼ばれます。
ポストモダンの代表は,ナラティブアプローチです。
現実は人によってつくられるという「社会構成主義」が基盤のアプローチです。
語りの中から新しい世界をつくり出します。
モダニズム系では,治療,問題解決,行動変容などを求めますが,ポストモダンは,そういったものとは異なるアプローチだと言えます。
語りの中から作られる世界は,実証できるものではありません。
方法論はあっても,得られる結果は変わるからです。
それでは今日の問題です。
第31回・問題93 ポストモダンの影響を受けたソーシャルワークに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 クライエントの主体性や語りを重視する。
2 クライエントの欠点を直す援助を指向する。
3 社会構成主義への批判から発展している。
4 客観主義,実証主義を追求する。
5 サービス提供の効率性を求める。
ポストモダンという言葉が国試に登場したのは,この問題が初めてです。
しかしポストモダンの意味がわからなくても,丁寧に分類すれば,そしてもともとのモダニズムとは何かを想像すると正解できます。
それでは解説です。
1 クライエントの主体性や語りを重視する。
これが正解です。
ナラティブアプローチのことを述べたものです。
2 クライエントの欠点を直す援助を指向する。
これは間違いです。
クライエントの欠点を直すものは,行動変容アプローチなどの学習理論に基づいたものと言えます。行動変容アプローチは,モダニズム系です。
3 社会構成主義への批判から発展している。
これも間違いです。
社会構成主義は,ナラティブアプローチが基盤とするものです。
ポストモダニズムは,客観主義,実証主義などを批判して誕生しています。
4 客観主義,実証主義を追求する。
これも間違いです。
客観主義,実証主義を追求するのは,モダニズム系です。
5 サービス提供の効率性を求める。
これも間違いです。
サービス提供の効率性を求めるのはモダニズムですが,ソーシャルワークのモダニズムの視点に,サービス提供の効率性が含まれているのかは不明です。
もちろんポストモダニズムではありません。
<今日の一言>
この問題は,今までには出題されたことがなかったので,びっくりした人も多いのではないかと思います。
国試はいつも新しいタイプの問題を組み込んで出題します。
知識だけで勝負しようと思うと,試験委員の仕掛けたトラップにはまります。
決して焦らず,冷静に考えると答えのヒントが見つかる問題は多くあります。
こういったところであわてると簡単な問題でさえ解けなくなってしまいますので,注意が必要です。
最新の記事
児童手当法と児童手当
今回は児童手当法と児童手当を学びます。 児童手当法,児童扶養手当法,特別児童扶養手当法は,児童扶養手当法(1961年),特別児童扶養手当法(1964年),児童手当法(1971年)の順で成立していきました。 児童手当法の児童の定義は,18歳に達する日以後の最初の3月31日までの...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...