ソーシャルワークの理論家たちは,「人と環境」についてどのように述べているのかを確認するシリーズを続けます。
第1回では,リッチモンドを確認しました。
リッチモンド
ソーシャル・ケース・ワークは,「人と社会環境との間を個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる過程」である。
第2回では,ソロモンを確認しました。
ソロモン
人は抑圧された環境に置かれると,無力(パワーレス)の状態に陥ることが多い。
それぞれ個性あふれるとらえ方をしているのがよくわかります。
第3回は,パールマンを取り上げます。
パールマンは,問題解決アプローチの提唱者です。
問題解決アプローチは,クライエントは問題を自ら解決できる能力をもつ存在であるととらえ,クライエント自らが問題解決できるように働きかけるものです。
そのため,クライエントは自ら問題解決する役割を担っていることを認識して,問題解決に向けた動機づけがなされていることが必要です。
ケースワークが社会問題に対応できていないことに対して,マイルズは「リッチモンドに帰れ」と主張し,パールマンは「ケースワークは死んだ」と述べています。
パールマンは,自己批判を含めて「ケースワークは死んだ」と述べましたが,それだけにとどまらず,問題解決アプローチを提唱したのが,マイルズと違う点です。
問題解決アプローチは,科学性を追求した「診断主義派ケースワーク」とクライエントを潜在的問題解決者としてとらえる「機能主義派ケースワーク」の折衷的アプローチであると言われています。
さて,パールマンは,「人と環境」について以下のように述べています。
クライエントは,役割ネットワークのなかで役割を生成している存在である。
これもとても特徴的ですね。
問題解決アプローチは,「役割理論」に強く影響を受けているアプローチです。
クライエントは,問題を解決する役割を担い,ワーカーはその支援を担う役割を担います。
主体はあくまでもクライエントです。
このアプローチが機能するためには,先に述べたように,クライエントは自ら問題解決しようと動機づけられていることが必要です。
それでは今日の問題です。
第25回・問題101 相談援助における「個人」と「環境」をめぐる諸説に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 ジャーメイン(Germain,C.)らは,生態学の視点を用いて,個人に焦点化した適応概念について説明した。
2 ホリス(Hollis,F.)は,パーソナリティの発達を目指して,個人と社会環境との間を個別に意識的に調整することについて論じた。
3 パールマン(Perlnan,H.)は,役割概念を用いて,役割ネットワークのなかで生成している存在として個人をとらえた。
4 バートレット(Bartlett,H.)は,人間にとってふさわしい場所の質は,その人の願望,能力,自信,環境の資源の機能によって決定されるとした。
5 ゴスチャ(Goscha,R.)らは,社会生活機能の概念を,環境からの要求と個人が試みる対処との交換及び均衡に焦点化してとらえた。
私たちチームfukufuku21は「魔の第25回国試」と呼んでいる第25回国試の問題です。
とても難易度が高いです。
実際に受験された方は,正解するのはとても難しかったのではないかと思います。
正解は,選択肢3
3 パールマン(Perlnan,H.)は,役割概念を用いて,役割ネットワークのなかで生成している存在として個人をとらえた。
パールマン=問題解決アプローチといった覚え方では到底対処できない内容のものです。
しかし,これが正解です。
難易度が高い理由は,消去法で正解を見つけにくいからです。
とはいうものの,今後に備えてしっかり押さえていかなければなりません。
それでは,そのほかの選択肢の解説です。
1 ジャーメイン(Germain,C.)らは,生態学の視点を用いて,個人に焦点化した適応概念について説明した。
ジャーメインとギッターマンは,人と環境を生態学の視点からとらえて,エコロジカルアプローチを提唱しています。
人と環境の交互作用に着目し,その接点に介入します。
個人に焦点化するものではないです。
2 ホリス(Hollis,F.)は,パーソナリティの発達を目指して,個人と社会環境との間を個別に意識的に調整することについて論じた。
これはリッチモンドが述べたものです。
4 バートレット(Bartlett,H.)は,人間にとってふさわしい場所の質は,その人の願望,能力,自信,環境の資源の機能によって決定されるとした。
バートレットの「人と環境」は
社会生活機能の概念を,環境からの要求と個人が試みる対処との交換及び均衡に焦点化したのが特徴です。
交換及び均衡
ここがバートレットの特徴です。
5 ゴスチャ(Goscha,R.)らは,社会生活機能の概念を,環境からの要求と個人が試みる対処との交換及び均衡に焦点化してとらえた。
ゴスチャとラップは,ストレングスモデルの提唱者です。
<今日の一言>
人名が出題される問題は多いですが,実際に覚えなければならないものはほんの少しです。
ソーシャルワークに関連するものは,覚えなければならないものの一つです。
今日の問題の難易度が高いのは,バートレットを正解にしたことです。
多くの受験生は,「ソーシャルワーク実践の共通基盤」しか覚えていなかったことでしょう。
こういったものでも消去法で正解できるものが多いのですが,この問題はそうならなかったのは,合格基準点が72点と過去最低になった第25回らしいと言えます。
次回の問題は,この反省をもとに作られた問題を取り上げたいと思います。
最新の記事
児童発達支援管理責任者
児童発達支援管理責任者(児発管)とは,障害児通所支援及び障害児入所支援で,個々のこどもや家族のニーズに応じた一連のサービス提供プロセスを管理する支援提供の責任者です。 業務には,個別支援計画があります。 障害者総合支援法に規定されるサービス管理責任者(サビ管)に相当します。 ...
過去一週間でよく読まれている記事
-
システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。 それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。 エコロジカルアプローチを提唱したジャーメインとギッターマンが,エコロジカル(生態学)の視点をソーシャルワークに導入したものです。 生活モデルでは,クライエントの...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
国家試験では,内容が重複しないように問題を構成します。 ほかの問題がヒントになってしまうためです。 これまでの社会福祉士の国家試験でもそのように出題されてきました。 ところが第37回では,同じ内容のものが複数の問題に出題されました。 試験を実施する社会福祉振興・試験センターが最終...
-
ソーシャルワークは,外国生まれです。 これから社会福祉士を目指そうと思う人は,カタカナの言葉が多いので,覚えるのがとても大変だと思うでしょう。 しかし,それらをうまく使いこなすことができれば,とてもかっこよいと思いませんか? ただし,かっこよいから使うのではありません。専門用語は...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
1990年(平成2年)の通称「福祉関係八法改正」は,「老人福祉法等の一部を改正する法律」によって,老人福祉法を含む法律を改正したことをいいます。 1989年(平成元年)に今後10年間の高齢者施策の数値目標が掲げたゴールドプランを推進するために改正されたものです。 主だった...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
今回は,片麻痺と 対麻痺 ついまひ を押さえたいと思います。 片麻痺 対麻痺 左右のどちらかの半身に起きる麻痺。 両下肢に起きる麻痺。 このように,並べて出題されればわか...