社会保障制度審議会は,かつて内閣総理大臣の諮問機関として,社会保障制度を審議していたもので,現在は廃止されています。
国家試験に出題されている同審議会の勧告は,1950年勧告,1962年勧告,1995年勧告の3つです。
〈1950年勧告〉
1950年勧告は,社会保障の範囲と方法を示したものです。
社会保障制度とは,
疾病,負傷,分娩,廃疾,死亡,老齢,失業,多子に対し,保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講じ,生活困窮に陥った者に対しては,国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに,公衆衛生及び社会福祉の向上を図り,もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすることをいうのである。
〈社会保障の範囲〉
疾病,負傷,分娩,廃疾,死亡,老齢,失業,多子
〈社会保障の方法〉
社会保険,国家扶助(公的扶助のこと),公衆衛生(病院と保健所),社会福祉
〈社会福祉の定義〉
身体障害者,児童その他援護育成を要する者を対象として,必要な生活指導,更生補導その他援護育成を行うこと
これに沿って,日本の社会保障制度が作られていきます。いわば設計図だと言えるでしょう。
〈1962年勧告〉
1962年勧告は,社会保障の施策の枠組みを示したものです。
貧困階層に対する施策は,生活保護制度(財源は公費)
低所得階層に対する施策は,社会福祉制度(財源は公費)
一般所得階層に対する施策は,社会保険制度(財源は社会保険料)
人口で言えば,一般所得階層が最も多いわけですから,わが国の社会保障制度は,必然的に社会保険制度が中心となります。
〈1995年勧告〉
1995年勧告は,最低限度の生活保障から一歩進めて,21世紀にふさわしい社会保障制度の在り方を示しています。
その中には,高齢者施策して,公的介護保険制度の創設を提言しています。これは高齢者施策が,低所得階層に対する施策である社会福祉制度から,一般所得階層に対する社会保険制度となることを意味します。
すごいことだったと思いませんか。
それでは,今日の問題です。
第22回・問題22 福祉制度及び福祉政策に関連する諸概念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 社会保障制度審議会は,「1950年の勧告」で,社会保障制度とは,疾病,負傷,分娩,廃疾,死亡,老齢,失業,多子に対し,保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講ずることであると規定した。
2 社会保障制度審議会は,「1950年の勧告」で,社会福祉を,公的年金を受給している者,身体障害者,児童その他援護育成を要する者を対象として,必要な生活指導,更生補導その他援護育成を行うことと規定した。
3 社会保障制度審議会は,「1995年の勧告」において,「1950年の勧告」当時の社会保障の理念は最低限度の生活の保障であったが,現在では広く国民に健やかで安心できる生活を保障することが社会保障の基本的理念であるとした。
4 イギリスにおけるソーシャルポリシー(社会政策)は,所得保障,医療保障及び教育保障から構成されている。これに対してドイツを中心に発達した社会政策は当初,雇用・就業上の事故を対象とする社会保険を内容とするものであった。
5 ティトマス(Titmuss,R.)の「福祉の社会的分業」の考え方によれば,福祉制度は財政福祉,社会福祉,市民福祉及び企業福祉の4つに分けられ,第二次世界大戦後は社会福祉から市民福祉へと変化しつつあるとされた。
かなり古い問題です。
正解は,選択肢3です。
3 社会保障制度審議会は,「1995年の勧告」において,「1950年の勧告」当時の社会保障の理念は最低限度の生活の保障であったが,現在では広く国民に健やかで安心できる生活を保障することが社会保障の基本的理念であるとした。
この時代はバブル景気が崩壊した後の辛い時代ですが,先をしっかり見据えた勧告であったことがわかります。
それでは,ほかの選択肢も解説します。
1 社会保障制度審議会は,「1950年の勧告」で,社会保障制度とは,疾病,負傷,分娩,廃疾,死亡,老齢,失業,多子に対し,保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講ずることであると規定した。
国家扶助,公衆衛生,社会福祉が抜けています。
2 社会保障制度審議会は,「1950年の勧告」で,社会福祉を,公的年金を受給している者,身体障害者,児童その他援護育成を要する者を対象として,必要な生活指導,更生補導その他援護育成を行うことと規定した。
公的年金を受給しているものは,社会福祉の対象ではありません。社会保険(つまり保険的方法)の対象です。
4 イギリスにおけるソーシャルポリシー(社会政策)は,所得保障,医療保障及び教育保障から構成されている。これに対してドイツを中心に発達した社会政策は当初,雇用・就業上の事故を対象とする社会保険を内容とするものであった。
ドイツは,世界で初めて社会保険を誕生させて国であることは広く知られていますが,「雇用・就業上の事故」,つまり失業保険は含まれず,失業保険はイギリスが最初に作りました。
5 ティトマス(Titmuss,R.)の「福祉の社会的分業」の考え方によれば,福祉制度は財政福祉,社会福祉,市民福祉及び企業福祉の4つに分けられ,第二次世界大戦後は社会福祉から市民福祉へと変化しつつあるとされた。
ティトマスが述べた福祉制度は,財政福祉,社会福祉,企業福祉の3つです。市民福祉は含まれません。
なお,企業福祉とは,企業が給料以外に従業員に対して支給するものなどのことです。
例えば,社員割引などが企業福祉です。
市民福祉は,市民が自発的に行う慈善活動などのことですが,これを福祉制度とは言えないでしょう。