「ゆりかごから墓場まで」で知られるベヴァリッジ報告が出されたのは,1942年のことです。
ベヴァリッジ報告が出版されると,かなり売れました。同報告で示された社会保障制の実現を夢見た国民が多かったことを示していると言えます。
当時のチャーチル政権は,このことに目をつけて,第二次世界大戦,特に対ドイツ戦での宣伝で利用しました。
国が豊かになれば国民も豊かになると考えるファシズム(全体主義)に対抗したのが「ゆりかごから墓場まで」のスローガンです。どちらが軍隊の士気を鼓舞するかを率直に考えるとファシズムよりもベヴァリッジ報告の「ゆりかごから墓場まで」ではないかと思います。
戦後に誕生した労働党政権が,社会保障に関する施策を次々と実現していきます。
ベヴァリッジ報告が示した社会保障制度の構成は以下の3つです。
①社会保険制度
ベヴァリッジ体制の中心となるものです。
社会保険制度は,5大巨悪のうちの「窮乏」を解決するためのものです。単一拠出,単一給付による社会保険制度です。
ベヴァリッジが目指したのは,旧制度(つまり救貧法)の時代にあったスティグマを生み出さない制度です。
その点,社会保険制度は,保険料を先に納入したうえで保険事故の発生によって給付されるので,スティグマを生み出しません。逆に権利性が強くなります。
②国民扶助制度
社会保険料を拠出できないものに対して,税負担で扶助するものです。この場合はミーンズテストを実施するので,スティグマを生み出してしまいます。
③任意保険制度
社会保険制度と国民扶助制度は,ナショナルミニマム(国家による最低限度の生活保障)を実現するためのものです。
任意保険は,ナショナルミニマム以上のものを望む場合に任意で加入するものです。
それでは,今日の問題です。
第32回・問題25 「ベヴァリッジ報告」に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 福祉サービスの供給主体を多元化し,民間非営利団体を積極的に活用するように勧告した。
2 従来の社会民主主義とも新自由主義とも異なる「第三の道」路線を選択するように勧告した。
3 ソーシャルワーカーの養成・研修コースを開設して,専門性を高めるように勧告した。
4 衛生・安全,労働時間,賃金,教育で構成されるナショナル・ミニマムという考え方を示した。
5 社会保障計画は,社会保険,国民扶助,任意保険という三つの方法で構成されるという考え方を示した。
知識がないと正解するのは,かなり難しい問題です。消去法で答えを探し出すことができないからです。
それでは解説です。
1 福祉サービスの供給主体を多元化し,民間非営利団体を積極的に活用するように勧告した。
これは,ウルウェンデン(ウォルフェンデン)報告のことを述べたものです。
2 従来の社会民主主義とも新自由主義とも異なる「第三の道」路線を選択するように勧告した。
第三の道は,ギデンズが提唱したもので,ブレア政権の施策として取り入れられました。
3 ソーシャルワーカーの養成・研修コースを開設して,専門性を高めるように勧告した。
これは,ヤングハズバンド報告のことを述べたものです。ヤングハズバンド報告が出題されたのは,第18回国家試験以来のことです。「お帰りなさい」という気持ちになりました。
4 衛生・安全,労働時間,賃金,教育で構成されるナショナル・ミニマムという考え方を示した。
これは,『産業民主制論』でウェッブ夫妻が述べたものです。
ウェッブ夫妻が提唱したナショナルミニマムは,労働者保護のためというよりも産業効率の向上の視点に立ったものでした。これに息を吹き込んだのが「ベヴァリッジ報告」です。
5 社会保障計画は,社会保険,国民扶助,任意保険という三つの方法で構成されるという考え方を示した。
これが正解です。
今だとこれが答えだとわかりますが,この問題が出題された当時はなかなか難しかったのではないかと思います。
特に,選択肢4に混乱しそうなものが出題されているからです。
この問題を正解するためには,選択肢4を消去できることにかかっていたと言えるでしょう。国家試験の難しさを実感されてくれる問題です。