2021年1月31日日曜日

様々なアプローチが影響を受けた理論

様々なアプローチは,毎回必ず出題されます。しかも複数問出題されます。

 

それにもかかわらず苦手な人がいるのは極めて残念なことです。

 

必ず出題されることがわかっているのですから,「苦手だ」なんてのんきなことは言わず,確実に押さえておきたい筆頭です。

 

さて,今回は,様々なアプローチに影響を及ぼしている理論を学んでいきたいと思います。

どの参考書にも必ず書かれているものだと思いますが,ここで簡単にまとめておきたいと思います。

 

主なアプローチ

アプローチ名

援助方法

影響を与えた主な理論

提唱者

心理社会的アプローチ

「状況の中の人」を基本概念として,心理社会的に課題のあるクライエントに対して,コミュニケーションを通して関わっていく。

精神分析理論

ホリス

機能的アプローチ

ワーカーの所属する機関の機能を活用して,クライエントの意志で問題解決できるように援助する。

意志心理学(自我心理学の一派)

タフト

ロビンソン

スモーリー

問題解決アプローチ

クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する

役割理論

コミュニケーション理論

パールマン

課題中心アプローチ

クライエント自らが問題を解決するための課題を設定し,あらかじめ決められた期間の中で課題を達成することを目指す。

精神分析理論,役割理論,学習理論など

リード

エプスタイン

危機介入アプローチ

危機状態に陥っている人に対して早期にかかわり,危機に対して対処能力を高める。

危機理論,心理社会的発達理論(ライフサイクル理論)

ラポポート

行動変容アプローチ

学習理論を活用して,クライエントの問題となる行動を消去や強化することにより,問題行動全体の変容を図る。

学習理論

トーマス

エンパワメントアプローチ

クライエントが抑圧された状況を認識して,潜在能力に気づいて,対処能力を高められるようにかかわる。

ソーシャルアクション

ソロモン

ナラティブアプローチ

クライエントが語るストーリーを重視して,新たな意味の世界を創り出すことを援助する。

物語理論

社会構成主義

ホワイト

エプストン

解決志向アプローチ

クライエントが抱く解決のイメージを尊重し,その実現に向けてクライエントの社会的機能を高めることを目指す。

短期療法(ブリーフセラピー)

シェザー

バーグ

フェミニストアプローチ

女性にとっての差別や抑圧などの社会的な現実を顕在化させ,個人のエンパワメントと社会的抑圧の根絶を目指す。

女性主義(フェミニズム)

不明

実存主義アプローチ

利用者が他者とのつながりを形成し,疎外状態から解放されることに焦点を当てる。

実存主義

クリル

エコロジカルアプローチ

「人と環境」の交互作用に着目した援助法

システム理論

ジャーメイン

ギッターマン


心理社会的アプローチから課題中心アプローチまでは,モダニズム系のアプローチです。

 

モダニズムとは,もともとは現代風という意味ですが,科学的といった文脈で使われます。

 

エンパワメントアプローチ以下は,ポストモダン系(ポストモダニズム系)です。

ポストモダン系の代表は,ナラティブアプローチです。

 

ナラティブアプローチの基盤となる社会構成主義は,事実は事実としてあるのではなく,人の認識によって事実は変わることを意味しています。

 

語りを通して新しい認識の世界を作り上げていきます。

 

ワーカーは無知の姿勢でクライエントの話を聞くところに特徴があります。

 

それでは,今日の問題です。

 

28回・問題101 行動変容アプローチに最も大きな影響を及ぼした理論として,正しいものを1つ選びなさい。

1 エリクソン(EriksonE.)の心理社会的発達理論

2 フロイト(FreudS.)の精神分析理論

3 スキナー(SkinnerB.)の学習理論

4 ホワイト(WhiteM.)の物語理論

5 ゴフマン(GoffmanE.)の役割理論

 

 

答えは,すぐにわかりますね。選択肢3です。

 

3 スキナー(SkinnerB.)の学習理論

 

行動変容アプローチは,不適切な行動は不適切な学習の結果だと考え,学習理論によって,行動を強化したり,弱化したりします。

 

例えば,オペラント条件づけでは,適切な行動に関して,ほめることで,行動を強化します。

 

これを「正の強化」といいます。

 

オペラント条件づけとレスポンデント条件づけ

https://fukufuku21.blogspot.com/2017/05/blog-post_4.html

 

それでは,ほかの選択肢も確認します。

 

1 エリクソン(EriksonE.)の心理社会的発達理論

 

心理社会的発達理論に影響を受けているのは,危機介入アプローチです。

危機介入アプローチは,危機理論にも影響を受けています。

 

 

2 フロイト(FreudS.)の精神分析理論

 

精神分析理論に影響を受けているのは,心理社会的アプローチです。

 

精神分析理論を活用して,無意識の領域に抑圧されていたものを治療していきます。

コミュニケーションを通して,パーソナリティの変容を目指していくので,とても時間がかかります。

 

4 ホワイト(WhiteM.)の物語理論

 

物語理論に影響を受けているのは,ナラティブアプローチです。

 

5 ゴフマン(GoffmanE.)の役割理論

 

役割理論に影響を受けているのはいくつかのアプローチがありますが,代表的なのは,問題解決アプローチです。

 

問題解決アプローチは,クライエントが自ら解決できるように援助するものです。そのため,クライエントが問題を解決する役割を演じてくれないと問題解決アプローチは使えません。

2021年1月30日土曜日

危機介入について

今回は,危機介入について学んでいきたいと思います。


その前に,知っておきたい火災事故があります。


1942年にボストンのナイトクラブで500名近い人が犠牲になった火災事故が起きました。

多くの患者が運び込まれたのは,マサチューセッツ総合病院です。

同院は,この時の経験により,やけど治療技術を進歩させることになりました。

同院には,精神科医としてリンデマンが勤務していました。リンデマンは犠牲者の家族や親類,友人などに対して調査を行い,悲嘆反応を研究しました。


その後,キャプランらの研究と相まって,危機理論が作り上げられていきます。

それをソーシャルワークに応用したものが危機介入アプローチです。


危機介入で最も重要なことは,クライエントの対処能力を高めることです。

簡潔に言えば,危機に陥っている人の混乱を治めるようにかかわっていきます。


危機には,ライフサイクル上のものと,天災や事故などによるものがあることも押さえておきたいです。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題100 危機介入に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 クライエントのパーソナリティの再構成を目的とする。

2 家族療法の影響を受けて体系化されている。

3 キャプラン(Caplan,G.)は,危機から回復する要因として対処機制を挙げた。

4 回復をもたらすために時間を掛けてなされる。

5 リンデマン(Lindemann,E.)による悲嘆に関する研究を起源とする。


人名を覚えるのが苦手な人にとっては,鬼門となるような問題かもしれません。


特に危機理論には,リンデマンとキャプランという名前が出てきますし,リンデマンに似た名前として,リンゲルマンという人さえいます。混乱するのでここでは述べません。


社会福祉士の国家試験では,多くの場合,人名がわからないと解けない問題は本当に少ないです。


重要なのは,人名ではなくその内容です。


さて,今日の問題の正解はすぐわかりますね。選択肢5です。


5 リンデマン(Lindemann,E.)による悲嘆に関する研究を起源とする。


もしもボストンのナイトクラブで火災が発生していなければ,リンデマンは悲嘆に目を向けることなく,危機介入は今とは違ったものとなっていたかもしれません。

歴史の不思議なめぐり合わせです。


それではほかの選択肢も確認します。


1 クライエントのパーソナリティの再構成を目的とする。


危機介入は,クライエントの対処能力を高めることを目的とします。

もしパーソナリティの変容が必要だとしたら,それは危機を乗り越えることができたずっと先のことでしょう。


2 家族療法の影響を受けて体系化されている。


危機介入が影響を受けているのは,危機理論です。

また,ライフサイクルの危機に関しては,エリクソンのライフサイクル理論(心理社会的発達理論)の影響もあります。


家族療法の影響を受けているのは,家族システムアプローチです。


3 キャプラン(Caplan,G.)は,危機から回復する要因として対処機制を挙げた。


これが最もくせ者の選択肢です。

なぜこんな意地悪をするのかなぁと思います。


対処機制とは,防衛機制の別の言い方です。防衛機制と出題しないのが実にいやらしいと思いませんか?


しかも,この正解は,「対処機制」ではなく「対処能力」です。

国試会場で,この違いに気がつく人はそれほど多くはないかもしれません。


しかし,先輩が苦しんだからこそ,今は注意すべきポイントが一つ増えています。


めったにこれだけいやらしいものがありませんが・・・。


4 回復をもたらすために時間を掛けてなされる。


危機介入は,できるだけ早期にかかわり,短期で終了します。

もし,それで効果が出なかった場合は,ほかのアプローチを考えなければなりません。


<今日の一言>


危機介入アプローチは,ほかのアプローチとは少し異なるかもしれません。


時には,クライエントが危機から脱するために,ワーカーが指示的にかかわることさえあります。それはクライエントが混乱しているためです。

時間をかけてゆっくりかかわっている場合ではありません。


できるだけ早期にかかわることが必要な理由の一つには,自殺の可能性がありません。

そのために,危機理論は,精神保健分野で発展していきました。

現在では。ソーシャルワークのみならず,看護学など広い分野で活用されています。

2021年1月29日金曜日

ソーシャルワークにおけるシステム理論

システム理論


よくわからない人にとっては,システムという文字を見ただけでいやになってしまうかもしれません。


なぜなら,システムには「機械的」というイメージがあるからです。


システムをそのようにとらえる人がいることが,国試にとって有難いことです。

間違いやすいからです。


さて,システムとはどういう意味か,説明できますか?


システムは,システムの構成要素が周りの環境とともに絶えず変化していくものだととらえると良いと思います。


これを交互作用といいます。


家族システムの場合,構成要素とは,家族メンバー個々のことです。


環境とは,ほかの家族メンバーであり,学校であったり,友達であったり,地域社会であったり,周りを取り巻いて影響を与えるもの,などさまざまなものがあるでしょう。


人は絶えず変化するものです。


個人は,環境に影響を及ぼし,環境から影響を受けます。


これがシステム理論の基本です。


恋人が心変わりするのは,恋人自身が変わることもあると思いますが,あなた自身が変わることで,恋人が変わるということもあります。


これもシステム理論の基本的な考え方の応用です。あなたも環境です。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題99 システム理論に基づく相談援助の対象に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 クライエント・システムの単位は,小集団に限られる。

2 人と環境との全体的視座から把握される。

3 家族への対応は,援助の全過程で,問題の原因となる構成員に焦点化される。

4 実践者の志向するケースワークなどの特定の方法によって把握される。

5 相談援助の対象としての個人は,システム概念から除外される。


システム理論がわからないと,クライエント・システムって何??????


と考えるのもいやになるでしょう。


クライエント・システムとは,クライエントとそれを取り巻く環境が絶えず影響を与え合う(交互作用)ものを指しています。


これだけ言えば,答えはわかるでしょう。


2 人と環境との全体的視座から把握される。


これ以外の選択肢とは明らかに異なっているがわかりますか?


1 クライエント・システムの単位は,小集団に限られる。
3 家族への対応は,援助の全過程で,問題の原因となる構成員に焦点化される。
4 実践者の志向するケースワークなどの特定の方法によって把握される。
5 相談援助の対象としての個人は,システム概念から除外される。


簡単に解説します。

1 クライエント・システムの単位は,小集団に限られる。


選択肢1は,クライエントが影響を受け,影響を与えているのは,さまざまな段階があり,小集団に限られるものではありません。


3 家族への対応は,援助の全過程で,問題の原因となる構成員に焦点化される。


選択肢3は,システム理論が出題されるときによく使われるものです。

問題の原因となる構成員のことをIPといいます。


システム理論ではIPに焦点化することよりも,むしろ家族など周辺の人に働きかけることが主流です。


4 実践者の志向するケースワークなどの特定の方法によって把握される。


選択肢4は,絶対にあり得ません。この選択肢を選んだ人は,有無を言わせず不合格にしても良いくらいの問題です。


なぜなら,クライエントに視点が当たっていないからです。


5 相談援助の対象としての個人は,システム概念から除外される。


選択肢5は,クライエント自身,つまり個人はシステムの構成要素なので,除外されることは絶対にありません。


<今日の一言>


システム理論は,ソーシャルワークにとって,極めて重要です。

今日の問題は,システム理論というものが理解できていれば,正解選択肢以外は,笑っちゃうくらいのでたらめなものでしょう。


しかし,勉強不足の人は,確実に正解することができません。


相談援助の理論と方法は,事例が多いので得点できないためなのか,ほかの科目ほど勉強しない傾向があるようです。

社会福祉士の国家試験の問題自体はそれほど難しくはないですが,勉強不足の人が簡単に合格できるほど簡単ではありません。


学習戦略を間違わないようにしたいものです。

2021年1月28日木曜日

集団を活用した相談援助

今回から科目は,「相談援助の理論と方法」に入ります。

 

ほかの科目と同じように勉強しないと得点を稼ぐ科目にはなりません。

事例が多いので,簡単だと思っていると足元をすくわれます。

 

今回は,「集団を活用した相談援助」です。つまりグループワーク(集団援助技術)です。

 

「集団を活用する」というのは,グループダイナミクス(集団力学)を活用することです。

 

グループダイナミクスを活用しないのであれば,ケースワーク(個別援助技術)でよいのです。

 

グループワークが難しいのは,グループ活動をしながら同時に個別援助を行うところにあります。

 

グループワークのプロセスを一応紹介しておきます。 

プロセス

段階

注意点

準備期

ワーカーがグループワークを行う準備を行う段階

この段階には「波長合わせ」と呼ばれるクライエントの抱える問題,環境,行動特性をワーカーが事前に把握する段階が含まれます。

波長合わせは,準備期に行うので注意が必要です。

開始期

メンバーが集まって,グループワークを始める前までの段階

この段階には「契約」と呼ばれるワーカーの役割などをメンバーに説明する段階が含まれます。

グループワークでの約束事などを確認し,援助関係をつくります。

作業期

ワーカーとメンバーが課題解決に向けて,活動を行う段階

この段階では,グルーブの仲間意識が生じたり,対立したりすることもあります。

しかし,これらはグルーブダイナミクス(集団力学)を活用したグループワークでは重要な意味を持ちます。

終結期

グループワークを終える段階

振り返りや反省などを行い,次の段階へつなげます。そのため,移行期とも言われます。

 

それでは,今日の問題です。

 

28回・問題98 集団を活用したソーシャルワーカーの相談援助に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 展開の開始期では,グループ内での行動は制限せずに援助を行う。

2 グループメンバーへの援助では,各個人の特性を認識して,個別化したアプローチを活用する。

3 グループメンバー間の暗黙の葛藤に対しては,それが表面化しないように働きかける。

4 プログラム活動では,全員が同じ動きを行うことを優先するように求める。

5 サブグループへの対応は,グループ全体への影響を考慮せずに行う。

 

とてもよくまとまった問題だと思います。グループワークの重要ポイントが盛り込まれています。

 

国試問題の中には,意味のない選択肢が含まれているものがあります。試験委員も人の子です。問題づくりは大変なのでしょう。

 

そういった問題は勉強にあまり役立たないので,なるべくなくしてほしいものです。

 

それでは,問題を見ていきましょう。

 

1 展開の開始期では,グループ内での行動は制限せずに援助を行う。

 

表に書いたように,開始期は「契約」の段階が含まれます。

 

グループの約束事とは,たとえば「こういったことはしてはいけない」といったルールを示すことです。

 

世の中には,無制限で認められるものは存在しないように思います。

 

2 グループメンバーへの援助では,各個人の特性を認識して,個別化したアプローチを活用する。

 

これが正解です。

 

グループワークは集団活動ですが,メンバー個別の問題解決のためにかかわっていきます。

これがグループワークの醍醐味だと言えるでしょう。

 

3 グループメンバー間の暗黙の葛藤に対しては,それが表面化しないように働きかける。

 

グループ活動は葛藤が大切です。

 

葛藤は変化しようとするきっかけとなります。そのためできるワーカーは,葛藤を引き起こすようにかかわります。

 

葛藤が現れるのが怖いのは,次の一手が用意されていないからです。

 

できるワーカーなら,葛藤が現れたら「予定通りになった」と,ほくそ笑むことでしょう。

 

4 プログラム活動では,全員が同じ動きを行うことを優先するように求める。

 

グループワークは,メンバー個々が抱える問題の解決のために行われます。

 

プログラム活動は,問題を解決するための手段です。全員が同じ動きをすることが個々の問題解決のために必要なら,それはそれでよいですが,ほとんどの場合はそんな必要はありません。

 

手段が目的化しないように気をつけたいものです。

 

5 サブグループへの対応は,グループ全体への影響を考慮せずに行う。

 

サブグループとは,グループメンバーの中で,仲の良いメンバーがつくり上げられることです。

 

グループ活動に支障があるような場合は,グループワーカーはサブグループに働きかけます。

 

サブグループができたら解消するように働きかけるといった出題がなされますが,できるワーカーはそんなことでは慌てることはありません。

 

サブグループがグループに良くない影響を与えるということが明確になった時点で働きかけることで十分です。

2021年1月27日水曜日

事例問題の確実な解き方~チームアプローチの例

事例問題は確実に正解したいですが,実は多くの人が思うほど確実に正解するのは簡単ではありません。


事例を事例だと思って解くと間違えます。


まずは,問題を見ましょう。


第28回・問題97 事例を読んで,チームアプローチに基づくケース会議の開催提案に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。

〔事 例〕

 N市教育委員会に所属するEスクールソーシャルワーカー(社会福祉士)は,V中学校から相談を受けた。その内容は,F君(13歳)が半年前から保健室登校をするようになり,2か月前からは不登校状態にあるというものであった。担任や両親などの関係者から話を聞くと,「気持ち悪い」,「学校に来るな」などと,ある生徒に言われたことがきっかけとなったとのことであった。また担任は,F君宅への電話や訪問を続けるなど自分ひとりで解決しようと熱心に関わっていることが分かった。

 Eスクールソーシャルワーカーは,ケース会議の開催を提案した。

1 スクールカウンセラーに心理専門職としての意見を聴く。

2 F君が教室復帰できなかった責任を明確にすることを第一の課題とする。

3 学校全体として取り組むため,校長,副校長の参加を依頼する。

4 事実関係を確認するため,F君を中傷していた生徒の参加を依頼する。

5 これまでの交友関係の情報を得るため,F君の旧友の参加を依頼する。


スクールソーシャルワーカー(SSW)はとても重要ですが,国家試験ではSSWを取り扱った事例問題はそれほど多くはありません。


最も多いのは,医療ソーシャルワーカー(MSW)を取り扱ったものです。


SSWは「チーム学校」の一員です。チーム学校とは,校長を中心としたチームアプローチです。チーム学校のメンバーには,スクールカウンセラーも含まれます。


なぜ今,チーム学校が注目されるかと言えば,この事例の担任のように,今までは教師の頑張りでは対応しきれない複雑で深刻な問題があるからです。


担任が生徒の発するサインに気づかなければ,生徒が自殺に追い込まれることさえあります。悲しいですが,日本の10~30歳代の死因の第1位は自殺なのです。


さて,この問題のポイントは,「チームアプローチ」です。


事例として読むと間違えます。確実に正解するためには,チームアプローチとなっている選択肢をひたすら探すことです。


チームアプローチとなっているのは,選択肢1と3しかありません。あいまいさはどこにも存在しません。


1 スクールカウンセラーに心理専門職としての意見を聴く。


先に書いたように,スクールカウンセラーもチーム学校の重要なメンバーです。

スクールカウンセラーを担う国家資格としては,公認心理師があります。


公認心理師はまだ新しい国家資格ですが,おそらく今後,教育分野では連携する場面は増えると考えられます。


3 学校全体として取り組むため,校長,副校長の参加を依頼する。


本来は,SSWが依頼せずとも校長はチーム学校のリーダーなので,参加しなければならないものです。


そういった意味では,この選択肢は変ですが,チームアプローチなので選ばざるを得ないと言えるでしょう。

この問題は,チームアプローチはどれか,という問題です。


それでは,ほかの選択肢も確認しましょう。


2 F君が教室復帰できなかった責任を明確にすることを第一の課題とする。


チームアプローチの視点はどこにもありません。


4 事実関係を確認するため,F君を中傷していた生徒の参加を依頼する。


この対応が良いか悪いかということは関係なく,チームアプローチではないので,正解にはなりません。


5 これまでの交友関係の情報を得るため,F君の旧友の参加を依頼する。


F君の旧友はチーム学校のメンバーではありません。

したがってチームアプローチではありません。


選択肢を並び替えてみると,実に明快となります。


<チームアプローチであるもの>
・スクールカウンセラーに心理専門職としての意見を聴く。
・学校全体として取り組むため,校長,副校長の参加を依頼する。


<チームアプローチではないもの>
・F君が教室復帰できなかった責任を明確にすることを第一の課題とする。
・事実関係を確認するため,F君を中傷していた生徒の参加を依頼する。
・これまでの交友関係の情報を得るため,F君の旧友の参加を依頼する。


いかが?


<今日の一言>


もしかすると,この問題はチームアプローチを意識せずとも正解にたどりつける問題かもしれません。

しかしたまたまそうなっているだけの話です。

ミスしないためには,設問を忘れないようにしたいものです。

2021年1月26日火曜日

倫理的ジレンマについて

ジレンマとは,ある状況に対し,2つ以上の選択肢が存在し,そのいずれを選んでも望ましい状況にならないことをいいます。

 

倫理的ジレンマといった場合は,クライエントなどとの関係性と専門職としての倫理に照らし合わせて不適切になってしまうことをいいます。

 

たとえば,クライエントがプレゼントを持ってきた場合,受け取るか受け取らないかで悩むような場合です。

 

受け取らないとクライエントとの関係が壊れてしまいそうに思うし,受け取ると専門職としての倫理に反します。

 

それでは,今日の問題です。

 

28回・問題96 事例を読んで,C職員(社会福祉士)に生じる倫理的ジレンマとして,該当するものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 社会福祉協議会のC職員は,クライエントのDさん(73歳,女性)の自宅を訪問した際,「マフラーを編んだので,ぜひもらって欲しい」と言われた。C職員は,マフラーをもらうことは物品の受領に当たり,そのことを記録に残さなければならないが,そもそも専門職として倫理的に問題があると考えた。そこでC職員は,「勤務先の規則で禁止されていますので,いただくことはできません」と言った。するとDさんは,「そんな堅いこと言わないで。受け取ってもらえると嬉しいです」と言った。

1 信用失墜行為の禁止と利用者との関係

2 利用者との関係と,プライバシーの尊重

3 プライバシーの尊重と最良の実践を行う責務

4 秘密の保持と,記録の開示

5 記録の開示と情報の共有

 

この問題はそれほど難しくはないでしょう。

正解は,選択肢1です。

 

プレゼントを受け取ること → 信用失墜行為の禁止

プレゼントを受け取らないこと → 利用者との関係

 

今日は,もう一問みてみましょう。

 

32回・問題96 事例を読んで,D社会福祉士が抱える倫理的ジレンマとして,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕

 Ⅴ病院はこの地域の急性期医療の拠点であり,複数の社会福祉士が働いており,円滑な退院支援を心掛けている。D社会福祉士が担当したEさんは一人暮らしの85歳の男性で猛暑による脱水症状のため緊急搬送された。入院して10日目で全身状態は落ち着き,D社会福祉士にEさんの速やかな退院支援を行うよう依頼があった。Eさんは今回の入院で一人暮らしが不安になり,当面病院での入院継続を希望している。困惑したD社会福祉士は,同僚のF社会福祉士にも相談することにした。

1 クライエントの利益に対する責任と,記録の開示

2 クライエントに対する責任と,所属機関に対する責任

3 同僚に対する責任と,専門性への責任

4 クライエントとの信頼関係と,信用失墜行為の禁止

5 守秘義務と,制度や法令遵守に対する責任

 

28回の問題と異なり,何が問題になりそうなのかが明確ではありません。そこに気づくことから始まる問題だと言えるでしょう。

 

ジレンマの状況を整理します。

 

・速やかな退院支援を行うこと

・本人は入院継続を希望していること

 

それにあてはまるものは,選択肢2しかありません。

2021年1月25日月曜日

認定社会福祉士制度について

認定社会福祉士制度をご存じですか?


2007(平成19)年の社会福祉士及び介護福祉士法改正時に,国会で「より専門的対応ができる人材を育成するため、専門社会福祉士及び専門介護福祉士の仕組みについて早急に検討を行う」という附帯決議がなされたことを端緒として,2012(平成24)年から,認定社会福祉士認証・認定機構が,認定社会福祉士及び上級認定社会福祉士を認定しています。


認定社会福祉士認証・認定機構の構成組織は以下のとおりです。


日本社会福祉士会
日本医療社会福祉協会
日本ソーシャルワーカー協会
日本ソーシャルワーク教育学校連盟 などです。


この4団体は,国際的には,「日本ソーシャルワーカー連盟」として一体で活動しています。


さて,認定を受けるためには,いずれかの正会員である必要があります。


加入する団体は社会福祉士会に限定されていませんが,社会福祉士に合格したら社会福祉士会に入会してもらいたいものです。


認定社会福祉士は,社会福祉士を取得してから5年以上の実務経験が必要です。


分野ごとに認定されるので,その分野で2年以上の実務経験が必要です。


現在の分野は以下のとおりです。

・高齢分野

・障害分野

・児童・家庭分野

・医療分野

・地域社会

・多文化分野


定められた研修を受講することで認定されます。試験はありません。


上級認定社会福祉士は,認定社会福祉士となってから5年以上の実務経験が必要です。

さらには,試験も実施されます。

認定社会福祉士と異なり,分野ごとの認定ではありません。社会福祉士のスーパーバイザーとなるからです。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題95 認定社会福祉士及び認定上級社会福祉士に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 認定社会福祉士制度の必要性は,2000年(平成12年)の社会福祉事業法改正時の附帯決議に盛り込まれた。

2 認定社会福祉士は,所属組織以外の分野における高度な専門性を発揮できる能力を有する者として位置づけられている。

3 認定社会福祉士は,一定の実務経験と認定試験に合格することが要件とされている。

4 認定上級社会福祉士は,高齢分野,障害分野,児童・家庭分野,医療分野など,分野ごとに認定される。

5 認定社会福祉士及び認定上級社会福祉士は,関係団体が参画する組織によって認定される。


正解はすぐわかりますね。選択肢5が正解です。

5 認定社会福祉士及び認定上級社会福祉士は,関係団体が参画する組織によって認定される。


日本社会福祉士会も認定社会福祉士認証・認定機構の構成する組織の一つです。



ほかの選択肢は解説するまでもありませんが,一応みてみましょう。


1 認定社会福祉士制度の必要性は,2000年(平成12年)の社会福祉事業法改正時の附帯決議に盛り込まれた。


附帯決議に盛り込まれたのは,2007(平成19)年の社会福祉士及び介護福祉士法改正時です。


2 認定社会福祉士は,所属組織以外の分野における高度な専門性を発揮できる能力を有する者として位置づけられている。


認定社会福祉士は,自分の所属する分野で2年以上の実務経験で,その分野の認定社会福祉士として認定されます。


3 認定社会福祉士は,一定の実務経験と認定試験に合格することが要件とされている。


試験があるのは,上級認定社会福祉士です。認定社会福祉士は規定の研修を受講することで認定されます。


4 認定上級社会福祉士は,高齢分野,障害分野,児童・家庭分野,医療分野など,分野ごとに認定される。


分野ごとに認定されるのは,認定社会福祉士です。

2021年1月24日日曜日

自立支援に立脚したソーシャルワーク

ソーシャルワークに求められる視点の一つに自立支援があります。


ただし,自立といってもさまざまな自立があることに注意しなければなりません。


特に生活保護受給者の自立というと,就労による経済自立に目が向きがちです。


そこで国家試験問題では,経済自立が優先されるといった出題がなされることがあります。

しかし,受給者の半数は高齢者世帯です。

就労できないから被保護世帯となっていることを忘れてはなりません。


さて,今回は,自立支援の事例問題を取り上げます。


ソーシャルワークの基本は,自己決定ができるように側面から支援することです。

それにもかかわらず,ソーシャルワーカーが指示する,といった出題があります。


このスタイルのものが正解になる問題を今まで一度も見たことはありません。


それでは今日の問題です。


第28回・問題94 事例を読んで,児童養護施設のA職員(社会福祉士)によるB子への自立支援の観点から現時点でとるべき対応として,より適切なものを2つ選びなさい。

〔事 例〕

 B子(17歳)は,実の母親と継父からの虐待で児童養護施設に入所している。母親と継父の養育に対する意識や生活状況はかなり改善されてきた。母親と継父は,B子と一緒に暮らしたいと言っている。A職員が,B子の意思を尋ねたところ,親の気持ちは分からなくもないが,施設退所後は一人暮らしをしながら大学に進学したいと言う。その一方で,大学には進学したいが,一人暮らしには不安があるとも言う。

1 現在の自分の学力や生活力を自分自身で客観的に見直すよう求める。

2 親の理解を得るため,自分の意思を,自分の責任で親に伝えるよう指示する。

3 大学進学と一人暮らしについて考える前に,就職して経済力をつけるよう助言する。

4 生活する上で身についていない知識やスキルについて,職員とともに学ぶことを助言する。

5 どうすれば大学進学と一人暮らしが可能になるのか,活用できる資源の情報収集を一緒にしてみることを提案する。


事例問題は簡単だと思っている人は多いと思います。

確かに,ソーシャルワーク系の事例問題は,知識不足でも正解できる可能性は高いです。


しかし,それはほかの受験生も同じです。


ほかの人が正解できる問題を正解できないことは合格に向けてかなりきついです。


正解できて当たり前の問題は,たくさんあります。しかし,それらを確実に正解するのは決して簡単なことではありません。


特にこの問題は,「より適切なもの」を「2つ」選ぶ問題です。


問題の中には,すべての選択肢が適切である,つまり不適切なものがないというものもあります。

「より適切なもの」ということになるともう一段階意識を高くもつことが欠かせません。


大切なことは,「次の一手を用意していますか」ということです。


その視点で,この問題を見てみましよう。


1 現在の自分の学力や生活力を自分自身で客観的に見直すよう求める。


現在の自分の学力や生活力を自分自身で客観的に見直すことも必要です。しかし,その結果「自分はだめだ」という結果になったらどうするのでしょうか。


できるワーカーなら,現時点におけるB子のストレングスを見出すことができるように支援することでしょう。


2 親の理解を得るため,自分の意思を,自分の責任で親に伝えるよう指示する。


「指示する」という時点で正解になりにくいものですが,自分の意思を親に伝えても,親の理解が得られなかったらどうするつもりなのでしょうか。


できるワーカーなら,親の理解を得るために必要な助言をすることでしょう。


3 大学進学と一人暮らしについて考える前に,就職して経済力をつけるよう助言する。


この選択肢を正解だと思う人はまずいないと思いますが,国試会場では普段しないことが起きるものです。魔が差すということもあります。


この選択肢は,自立支援というと経済自立だと思う人を引っ掛けるためのものです。


これはワーカーの完全な思い込みです。


4 生活する上で身についていない知識やスキルについて,職員とともに学ぶことを助言する。


これが一つ目の正解です。


一人暮らしには不安があるというB子の支援に適合します。


5 どうすれば大学進学と一人暮らしが可能になるのか,活用できる資源の情報収集を一緒にしてみることを提案する。


これが2つ目の正解です。大学進学と一人暮らしの両方を可能とする可能性のある支援です。


<今日の一言>


相談援助の2科目は,本来,得点を稼ぐことができる科目です。


苦手科目をカバーするためには,高い得点力を必要とします。


しかし,事例問題は得点しやすいからと思って,解く練習をしない人が多い傾向にあります。


これらの科目もほかの科目と同じように勉強することで,ほかの科目をカバーできるだけの得点が取れるようになることを忘れてはなりません。

2021年1月23日土曜日

国試合格に必要な人名

国試突破に必要な人名はほとんどありませんが,ソーシャルワークだけは別格です。


覚えるのが苦手なら,問題を解いて覚えるのが手っ取り早い方法です。


それでは今日の問題です。


第28回・問題93 ソーシャルワークの発展に寄与した代表的な研究者とその理論に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 リッチモンド(Richmond,M.)は,ケースワークの過程と対象として,個人に直接働きかける直接的活動と社会環境を通じて働きかける間接的活動を挙げた。

2 パールマン(Perlman,H.)は,診断主義と機能主義双方の理論を折衷的に取り入れ,課題中心アプローチを体系化した。

3 ハミルトン(Hamilton,G.)は,人とその人を取り巻く状況とその両者の相互作用の視点から「状況の中の人」という概念を提唱した。

4 リード(Reid,W.)は,ソーシャルワークの共通基盤として,実践に必須の要素に,「価値の体系」を挙げた。

5 ジャーメイン(Germain,C.)とギッターマン(Gitterman,A.)は,役割理論を基盤とし,人と環境との交互作用に焦点を当て両者の調和を目指す理論を説いた。


おいしいところを実にうまくまとめた問題です。


勉強不足の人は,20%以上の確率で正解するのは難しいのではないでしょうか。


正解は,選択肢1です。


1 リッチモンド(Richmond,M.)は,ケースワークの過程と対象として,個人に直接働きかける直接的活動と社会環境を通じて働きかける間接的活動を挙げた。


リッチモンドに関する出題は近年少なくなってきていますが,何と言っても「ケースワークの母」と呼ばれる人物です。


リッチモンドを覚えないで誰を覚えるのか,と言える人です。


社会福祉士を目指す人の中でリッチモンドを学ばない人は,まずいないと言ってもよいでしょう。


リッチモンドで,絶対に押さえなければならないのは,彼女が定義したソーシャル・ケース・ワークの定義です。


人と環境の間を,個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる諸過程である


人に働きかけるのが直接的活動です。

環境に働きかけるのが間接的活動です。


特に押さえておきたいのは,環境に働きかけるのが間接的活動です。


先進国における個人主義傾倒への懸念が,2014年の「ソーシャルワークのグローバル定義」改訂につながったことを前回学びました。


改めてみると,リッチモンドも環境に目を向けていたことに気がつくでしょう。

しかし,基本は医学モデルなので,パーソナリティの変容に行きつきます。


そこに批判が集まるのかもしれません。


しかし,リッチモンドは,ケースワークを科学化した立役者です。

現在,批判的な物の見方がされたとしても,彼女の功績が色あせることは一切ないと言えるでしょう。


それでは,ほかの選択肢もみてみましょう。


2 パールマン(Perlman,H.)は,診断主義と機能主義双方の理論を折衷的に取り入れ,課題中心アプローチを体系化した。


パールマンが,診断主義と機能主義双方の理論を折衷的に取り入れたことは適切ですが,体系化したのは,問題解決アプローチです。


3 ハミルトン(Hamilton,G.)は,人とその人を取り巻く状況とその両者の相互作用の視点から「状況の中の人」という概念を提唱した。


「状況の中の人」という概念を示したのは,心理社会的アプローチのホリスです。


ハミルトンは,診断主義ケースワークを提唱した人です。診断主義ケースワークの発展したものが,心理社会的アプローチということになります。


4 リード(Reid,W.)は,ソーシャルワークの共通基盤として,実践に必須の要素に,「価値の体系」を挙げた。


「ソーシャルワーク実践の共通基盤」をまとめたのは,バートレットです。


5 ジャーメイン(Germain,C.)とギッターマン(Gitterman,A.)は,役割理論を基盤とし,人と環境との交互作用に焦点を当て両者の調和を目指す理論を説いた。


ジャーメインとギッターマンが提唱したのは,生態学モデル(エコロジカルモデル)です。

基盤としているのは,生態学的視点です。


役割理論を基盤としているのは問題解決アプローチや課題中心アプローチなどです。


そのため,これらのアプローチを使えるのは,クライエントが変わりたいという動機づけがなされていることが必要です。つまり,クライエントという役割を演じることができるクライエントだということになります。これが役割理論を基盤とするという意味です。


2021年1月22日金曜日

ソーシャルワーク専門職のグローバル定義

2000年に採択された「ソーシャルワークの定義」は,2014年に改訂され,「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」となりました。

 

旧・定義

ソーシャルワーク専門職は,人間の福利(ウェルビーイング)の増進を目指して,社会の変革を進め,人間関係における問題解決を図り,人びとのエンパワーメントと解放を促していく。

ソーシャルワークは,人間の行動と社会システムに関する理論を利用して,人びとがその環境と相互に影響し合う接点に介入する。

人権と社会正義の原理は,ソーシャルワークの拠り所とする基盤である。

 

ソーシャルワーク専門職のグローバル定義

ソーシャルワークは,社会変革と社会開発,社会的結束,および人々のエンパワメントと解放を促進する,実践に基づいた専門職であり学問である。

社会正義,人権,集団的責任,および多様性尊重の諸原理は,ソーシャルワークの中核をなす。

ソーシャルワークの理論,社会科学,人文学,および地域・民族固有の知を基盤として,ソーシャルワークは,生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう,人々やさまざまな構造に働きかける。

この定義は,各国および世界の各地域で展開してもよい。

 

「エンパワメントと解放」は,旧・定義とグローバル定義が共通する部分です。

 

原理は,旧・定義では「人権と社会正義」でしたが,グローバル定義では,それに「集団的責任」と「多様性の尊重」が加わっています。

 

大きく変わっているのは「地域・民族固有の知」を基盤とするところです。

そして,「各国および世界の各地域で展開してもよい」とされました。

 

社会福祉士がソーシャルワーカーであるとしたら,グローバル定義は確実に覚えたいです。

 

それでは,今日の問題です。

 

28回・問題92 2014年の「ソーシャルワークのグローバル定義」に関する次の記述のうち適切なものを1つ選びなさい。

1 ウェルビーイングの増進を目指して,人間関係の問題解決を図ることが新たに加えられた。

2 ソーシャルワークは,専門職であるとともに政策目標であることが明示された。

3 これまで過小評価されてきた地域・民族固有の知を認めるものとなっている。

4 先進国の意見や実情を尊重し,マクロレベルの社会政策と社会開発を重視している。

5 西洋における集団主義重視への懸念が示された。

(注) 「ソーシャルワークのグローバル定義」とは,20147月の国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)と国際ソーシャルワーク学校連盟(IASSW)の総会・合同会議で採択されたものを指す。

 

この問題は,グローバル定義が初めて出題された記念すべきものです。

これ以降,続けて出題されています。

 

さて,正解です。

 

3 これまで過小評価されてきた地域・民族固有の知を認めるものとなっている。

 

グローバル定義を一度でも目にした人なら,「地域・民族固有の知」はとてもインパクトがあって,印象に残るものでしょう。

 

さすが初めての出題だなぁ,と思います。実に受験生にやさしいものを正解にしたと思います。

 

皆さんもそう思いませんか?

 

それでは,ほかの選択肢も確認しましょう。

 

1 ウェルビーイングの増進を目指して,人間関係の問題解決を図ることが新たに加えられた。

 

ウェルビーイングの増進を目指して,人間関係の問題解決を図ることは,旧・定義にあったものです。

 

2 ソーシャルワークは,専門職であるとともに政策目標であることが明示された。

 

ソーシャルワークは専門職であるとは明記されていますが,政策目標ということばは使われていません。

 

4 先進国の意見や実情を尊重し,マクロレベルの社会政策と社会開発を重視している。

 

マクロレベルの社会政策と社会開発を重視していることは適切ですが,先進国ではなく,開発途上国の意見が重視されたものです。

 

開発途上国でクライエントの権利擁護を行おうと思うと,社会が変わること自体が必要なことが多いのです。

 

5 西洋における集団主義重視への懸念が示された。

 

懸念が示されたのは,西洋における個人主義への偏重です。

 

これは,ソーシャルワークが欧米生まれであることに関係しています。特にCOSの活動を通して発展したケースワーク(個別援助技術)は,リッチモンドの功績によって科学化されていきますが,今はSDGsの時代です。

ソーシャルワークも地球規模の広い視点が必要だということなのでしょう。

ソーシャルワークは,誇り高いものです。

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