今回は,成年後見制度における市町村長申立てを学んでいきましょう。
市町村長申立ては,老人福祉法,精神保健福祉法,知的障害者福祉法の各法で規定されています。
老人福祉法 |
精神保健福祉法 |
知的障害者福祉法 |
市町村長は、六十五歳以上の者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法に規定する審判の請求をすることができる。 |
市町村長は、精神障害者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法に規定する審判の請求をすることができる。 |
市町村長は、知的障害者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法に規定する審判の請求をすることができる。 |
市町村は、前条の規定による審判の請求の円滑な実施に資するよう、民法に規定する後見、保佐及び補助(以下「後見等」という。)の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用を図るため、研修の実施、後見等の業務を適正に行うことができる者の家庭裁判所への推薦その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。 |
市町村は、前条の規定による審判の請求の円滑な実施に資するよう、民法に規定する後見、保佐及び補助(以下この条において「後見等」という。)の業務を適正に行うことができる人材の活用を図るため、後見等の業務を適正に行うことができる者の家庭裁判所への推薦その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。 |
市町村は、前条の規定による審判の請求の円滑な実施に資するよう、民法に規定する後見、保佐及び補助(以下この条において「後見等」という。)の業務を適正に行うことができる人材の活用を図るため、後見等の業務を適正に行うことができる者の家庭裁判所への推薦その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。 |
三法の中で,研修の実施を規定しているのは,老人福祉法です。
老人福祉法で育成されれば,ほかの法律で同じような規定をする必要がないからでしょう。
これが法制度をつくる時の特徴だと言えるでしょう。一つの事業を行うのに,根拠法が複数あっては困るのです。
それでは,今日の問題です。
第28回・問題82 成年後見制度の市町村長申立てに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 65歳未満の者を対象として,市町村長申立てをすることはできない。
2 後見のみを対象としており,保佐及び補助の開始を申し立てることはできない。
3 本人に四親等内の親族がいる場合,市町村長申立てをすることはできない。
4 市町村には,市町村長申立ての円滑な実施のために,後見等の業務を適正に行える人材を育成するのに必要な措置を講ずる努力義務がある。
5 市町村長申立てができない場合,都道府県知事が申立てをする。
正解は,選択肢4です。
4 市町村には,市町村長申立ての円滑な実施のために,後見等の業務を適正に行える人材を育成するのに必要な措置を講ずる努力義務がある。
人材の育成は,多くの場合は都道府県の役割ですが,成年後見制度では珍しく市町村の役割となっています。これは本当に珍しいものです。
このほかに市町村が人材育成を行うものは思い出すことができません。
それでは,ほかの選択肢も確認します。
1 65歳未満の者を対象として,市町村長申立てをすることはできない。
65歳以上を規定しているのは,老人福祉法のみです。
精神保健福祉法及び知的障害者福祉法は,年齢の規定はありません。
2 後見のみを対象としており,保佐及び補助の開始を申し立てることはできない。
後見のみならず,保佐も補助も対象としています。
3 本人に四親等内の親族がいる場合,市町村長申立てをすることはできない。
本人に四親等内の親族がいる場合,その者が基本的に申立てすることになりますが,何らかの理由で申立てができない場合は,市町村長申立てが行えます。
5 市町村長申立てができない場合,都道府県知事が申立てをする。
この規定は,三法いずれにもありません。