ソーシャルワークに求められる視点の一つに自立支援があります。
ただし,自立といってもさまざまな自立があることに注意しなければなりません。
特に生活保護受給者の自立というと,就労による経済自立に目が向きがちです。
そこで国家試験問題では,経済自立が優先されるといった出題がなされることがあります。
しかし,受給者の半数は高齢者世帯です。
就労できないから被保護世帯となっていることを忘れてはなりません。
さて,今回は,自立支援の事例問題を取り上げます。
ソーシャルワークの基本は,自己決定ができるように側面から支援することです。
それにもかかわらず,ソーシャルワーカーが指示する,といった出題があります。
このスタイルのものが正解になる問題を今まで一度も見たことはありません。
それでは今日の問題です。
第28回・問題94 事例を読んで,児童養護施設のA職員(社会福祉士)によるB子への自立支援の観点から現時点でとるべき対応として,より適切なものを2つ選びなさい。
〔事 例〕
B子(17歳)は,実の母親と継父からの虐待で児童養護施設に入所している。母親と継父の養育に対する意識や生活状況はかなり改善されてきた。母親と継父は,B子と一緒に暮らしたいと言っている。A職員が,B子の意思を尋ねたところ,親の気持ちは分からなくもないが,施設退所後は一人暮らしをしながら大学に進学したいと言う。その一方で,大学には進学したいが,一人暮らしには不安があるとも言う。
1 現在の自分の学力や生活力を自分自身で客観的に見直すよう求める。
2 親の理解を得るため,自分の意思を,自分の責任で親に伝えるよう指示する。
3 大学進学と一人暮らしについて考える前に,就職して経済力をつけるよう助言する。
4 生活する上で身についていない知識やスキルについて,職員とともに学ぶことを助言する。
5 どうすれば大学進学と一人暮らしが可能になるのか,活用できる資源の情報収集を一緒にしてみることを提案する。
事例問題は簡単だと思っている人は多いと思います。
確かに,ソーシャルワーク系の事例問題は,知識不足でも正解できる可能性は高いです。
しかし,それはほかの受験生も同じです。
ほかの人が正解できる問題を正解できないことは合格に向けてかなりきついです。
正解できて当たり前の問題は,たくさんあります。しかし,それらを確実に正解するのは決して簡単なことではありません。
特にこの問題は,「より適切なもの」を「2つ」選ぶ問題です。
問題の中には,すべての選択肢が適切である,つまり不適切なものがないというものもあります。
「より適切なもの」ということになるともう一段階意識を高くもつことが欠かせません。
大切なことは,「次の一手を用意していますか」ということです。
その視点で,この問題を見てみましよう。
1 現在の自分の学力や生活力を自分自身で客観的に見直すよう求める。
現在の自分の学力や生活力を自分自身で客観的に見直すことも必要です。しかし,その結果「自分はだめだ」という結果になったらどうするのでしょうか。
できるワーカーなら,現時点におけるB子のストレングスを見出すことができるように支援することでしょう。
2 親の理解を得るため,自分の意思を,自分の責任で親に伝えるよう指示する。
「指示する」という時点で正解になりにくいものですが,自分の意思を親に伝えても,親の理解が得られなかったらどうするつもりなのでしょうか。
できるワーカーなら,親の理解を得るために必要な助言をすることでしょう。
3 大学進学と一人暮らしについて考える前に,就職して経済力をつけるよう助言する。
この選択肢を正解だと思う人はまずいないと思いますが,国試会場では普段しないことが起きるものです。魔が差すということもあります。
この選択肢は,自立支援というと経済自立だと思う人を引っ掛けるためのものです。
これはワーカーの完全な思い込みです。
4 生活する上で身についていない知識やスキルについて,職員とともに学ぶことを助言する。
これが一つ目の正解です。
一人暮らしには不安があるというB子の支援に適合します。
5 どうすれば大学進学と一人暮らしが可能になるのか,活用できる資源の情報収集を一緒にしてみることを提案する。
これが2つ目の正解です。大学進学と一人暮らしの両方を可能とする可能性のある支援です。
<今日の一言>
相談援助の2科目は,本来,得点を稼ぐことができる科目です。
苦手科目をカバーするためには,高い得点力を必要とします。
しかし,事例問題は得点しやすいからと思って,解く練習をしない人が多い傾向にあります。
これらの科目もほかの科目と同じように勉強することで,ほかの科目をカバーできるだけの得点が取れるようになることを忘れてはなりません。