インターネットが普及し始めたのは,1990年代のことです。
2000年には,「IT革命」ということばが流行語にもなりました。
そんな時代の中,社会調査でもITが使われるようになってきました。
ネットにあふれる巨大な情報である「ビッグデータ」を分析することで,時代の変化をとらえることもできます。
しかし,インターネットを使った社会調査には,克服できない問題があります。
量的調査を行う場合,どんなに優れた調査計画を立てても,母集団とサンプルの間に性質の隔たりが生じてしまうことです。
それでは今日の問題です。
第28回・問題90 社会調査におけるコンピューターやインターネットの活用に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。
1 インターネット調査は,調査対象がインターネット利用者に限定されるため,目標母集団に照らして,調査漏れが生じやすい。
2 発言の当事者を特定できないインターネット上の掲示板の書き込みは,社会調査の分析対象として活用することができない。
3 国勢調査では,インターネットで回答することができない。
4 調査票調査の自由回答や介護記録の記述など大量の文字データの分析には,コンピューターを活用することができない。
5 国の統計データについては一つに集約されたポータルサイトが整備されている。
この問題で注意したいのは,正解を2つ選ぶことです。
2つ選ぶ問題は,第25回国試に突然登場し,それ以来,受験生を苦しめてきました。
ところどころに配置されているので,うっかりすると忘れてしまうのです。
これは実にもったいないミスです。
さて,この問題は,2016年1月に実施されたものです。
2015年には国勢調査が実施されています。この時に,初めてインターネットでの回答が行われました。
ということで,選択肢3は間違いです。
このようなトピックを出題するのは極めてまれなことです。
こういった問題を目にすると,社会の動きにも目を向けなければならないと思うかもしれませんが,そんな問題は本当にまれです。
それにしてもこの問題は,国試問題にしては変な問題です。
一つめの正解は,選択肢5です。
5 国の統計データについては一つに集約されたポータルサイトが整備されている。
国試で出題するような内容なのだろうか,と思ってしまいますが,ITについてはあまり出題するものがないので,苦し紛れの出題だったのかもしれません。
国の統計データのポータルサイトとはこれです。
https://www.stat.go.jp/index.html
もう一つの正解は重要です。
1 インターネット調査は,調査対象がインターネット利用者に限定されるため,目標母集団に照らして,調査漏れが生じやすい。
どれだけインターネットが普及したといっても100%ではありません。
そのため,インターネットを使っていない人は対象から外れてしまいます。
インターネットを使った調査ではもう一つの問題があります。
インターネットを使っている人を対象とした調査であっても,調査に協力してくれるのは,その調査に興味のある人です。
得られた回答をいくら無作為に抽出したところで,回答者自体が母集団の性質と異なっていれば,正確なデータにはならない可能性があります。
ほかの選択肢も確認してみましょう。
2 発言の当事者を特定できないインターネット上の掲示板の書き込みは,社会調査の分析対象として活用することができない。
掲示板の書き込みも社会調査の対象となります。しかも貴重です。
国民がどのような反応をしているのかがわかるからです。
4 調査票調査の自由回答や介護記録の記述など大量の文字データの分析には,コンピューターを活用することができない。
文字データを分析することはできます。
テキストマイニングという手法があり,テキストマイニングしてくれるソフトも存在します。