2019年3月31日日曜日

ソーシャルワークにおける権利擁護

ソーシャルワークは,ケースワークは慈善組織協会(COS),グループワークはセツルメントの活動に源流があります。

そのうち,ケースワークは,リッチモンドによって科学性が導入され,発展していきます。

リッチモンドは,ソーシャル・ケース・ワークは「人と環境の間を,個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる諸過程である」と定義づけています。

その後,フロイトの精神分析理論に影響を受けた診断主義ケースワーク,ランクの意志心理学に影響を受けた機能主義ケースワークとして,さらに発展していきます。

1950~60年代には,黒人や移民など新しい社会的問題が発生しますが,ソーシャルワークは,個人的問題の解決に傾倒していたために,それらの問題に対応できていないと批判を受けることになります。

マイルズは「リッチモンドへ帰れ」,パールマンは「ケースワークは死んだ」と述べました。

そんな中,ソーシャルワークの新しい機能として,権利擁護(アドボカシー)が打ち出されてきます。

今日では,アドボカシーは,ソーシャルワークの重要な機能の一つですが,最初からあったわけではないのです。

現在は,過去の積み重ねでできています。

歴史を学ぶことは意義も確認できるので,ソーシャルワークのスキル向上にもつながることでしょう。

そんなことで,今回から数回に分けて,アドボカシーを学んでいきたいと思います。

それでは,早速今日の問題です。

第22回・問題88 アドボカシーに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 利用者が自分の要求を表明できない場合に,援助者がそれを代弁する機能のことである。

2 援助者のロイヤリティが所属機関にあることから,その第一の目的は,所属機関を擁護することである。

3 援助者個人の関心に基づき,特定の人たちの権利を維持・向上するために,政策や法律の変革を求める働きかけのことである。

4 利用者と利害関係のある相手の主張に対し,援助者は利用者が妥協できるように交渉することである。

5 援助者の治療的アプローチによって,利用者が無気力であった自己を積極的な自己へと変容させる援助者の活動のことである。


それほど難しくはないですが,カタカナ語に弱い人は,面倒だと思うかもしれません。

しかし,起源を外国に持つソーシャルワークでは,外国語が多く使われています。
苦手とは思わないで,慣れていることが大切です。

それでは解説です。


1 利用者が自分の要求を表明できない場合に,援助者がそれを代弁する機能のことである。


これが正解です。

アドボカシーには,様々な方法がありますが,利用者が自分の要求を表明できない場合に,援助者がそれを代弁するのもアドボカシーです。

そのため,アドボカシーは,権利擁護,あるいは代弁と訳されます。


2 援助者のロイヤリティが所属機関にあることから,その第一の目的は,所属機関を擁護することである。


これは間違いです。

ロイヤリティという意味のわからないものがあるので,混乱しそうになる人もいるでしょう。

こういった場合は,

アドボカシーの第一の目的は,所属機関を擁護することである。

と読み替えるのが適切です。

これだと間違いだとわかりやすいですね。アドボカシーの目的は,クライエントの権利擁護に決まっています。


3 援助者個人の関心に基づき,特定の人たちの権利を維持・向上するために,政策や法律の変革を求める働きかけのことである。


これは間違いです。

特定の人たちの権利を維持・向上するために,政策や法律の変革を求める働きかけのことは「クラス・アドボカシー」といいますが,その目的は,あくまでも対象者の問題解決です。

援助者個人の関心に基づくものであってはなりません。


4 利用者と利害関係のある相手の主張に対し,援助者は利用者が妥協できるように交渉することである。


これも間違いです。

交渉は「ネゴシエーション」です。ネゴシエーションもアドボカシーの一つになると思いますが,交渉するのは,クライエントの権利擁護のためです。

利用者が妥協するのでは何のための交渉なのか意味がわからなくなります。


5 援助者の治療的アプローチによって,利用者が無気力であった自己を積極的な自己へと変容させる援助者の活動のことである。

これも間違いです。

治療的アプローチは,かつての診断主義ケースワーク,今日の行動変容アプローチや認知行動療法など,クライエントの変容を目指すものを意味していますが,アドボカシーとは言えません。


<今日の一言>

アドボカシーには,

特定の個人を対象とした「ケース・アドボカシー」
同じニーズを持つ集団に対する「クラス・アドボカシー」

があります。

アドボカシーのために,ソーシャルワークの専門的な知識や技能が用いられます

「相談援助の基盤と専門職」は難しい科目かもしれませんが,ソーシャルワーカーが専門職であるためには,しっかり学ことが必要です。

むしろ法制度などより優先しなければならない科目だと言えるでしょう。

2019年3月30日土曜日

日本のソーシャルワークの発展に寄与した人たち~岡村重夫と竹内愛二

社会福祉士の国家試験は,平成元年に始まりました。

そのため,年号と国試の回は同じです。

第1~21回までが旧カリキュラム,第22回以降が現行カリキュラムでの出題となっています。

旧カリキュラム時代の合格発表は年度末の3/31に行われていました。
現行カリキュラムになってからの合格発表は,3月中旬,おおむね3/15に行われています。

合格発表を早めた理由は,学生が資格取得を要件として就職内定をもらっている場合,不合格になると内定取り消しになるため,新年度までに就職活動ができるように考慮したからです。

今までの国試で大きく変わったことは,第15回から合格基準点と正答を発表するようになったことです。

第15回国試では,4/25に701名に追加合格を出すという事態が発生しました。

この中には,内定取り消しになった人も含まれているのではないかと思います。

平成最後の国試となった第31回国試では,3/28に418名に追加合格が出ました。

不適切問題はこの間にもありましたが,合格発表の時には既に明らかとなり,追加合格が出たのは,第15回と第31回の2回のみです。

合格発表前に不適切問題が発見されるのと合格発表の後に不適切問題が発見されるのでは,大きな違いがあります。

もともとの問題の正解率にもよりますが,合格発表の前に不適切問題が見つかった場合は,全員得点なることを見越して,その分を上乗せした点数を合格基準点にすることもあります。

合格発表後に発見された場合は,そのような調整を行うことができません。
第31回国試の場合,もし不適切問題が合格発表の前に明らかとなった場合は,もしかすると合格基準点を90点にした可能性もあったのです。
第31回の不適切問題となった問題133はそれほど難易度が高い問題ではないので,もともと多くの人が正解できていたと考えられるので,90点になった可能性は低いと思います。
しかし,誰も解けないような難易度の高い問題が不適切問題になった場合は,確実に合格基準点を上乗せすることでしょう。
不適切問題で救われる人もいますが,不適切問題のために泣く人も出てくる可能性があるのです。
試験実施後から合格発表まで不適切問題の発生を望む声が聞かれることがありますが,合格発表前に不適切問題が明らかになった場合,受験生にとって必ずしもハッピーなものにならないことは覚えておきたいところです。


さて,本題に入ります。

国試問題は絶えず変化しています。

近年の傾向は,相談援助の2科目にわが国の人が出題されるようになったことです。

その始まりは,第27回です。

第27回・問題98 ソーシャルワークが対象としている「人と環境との関係」に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

5.ジャーメイン(Germain,C)は,社会生活の基本的要求を充足するために,社会成員が社会制度との間に取り結ぶ関係としてとらえた。

この問題は,ジャーメインではなく,岡村重夫が正しいということになります。


今回は,岡村重夫と竹内愛二を学びたいと思います。

このような方は,たくさんの著書などがあり,多くのことを述べていますが,出題されるのは,重箱の隅をつつくようなものではなく,中心理論です。

そのため,出題ポイントは極めてシンプル及び明確です。

まずは岡村重夫です。

先日紹介したように,岡村先生は,大阪市立大学や関西学院大学などで教授を務められた方です。

社会福祉固有の視点として,社会関係の主体的側面に焦点を当てました。社会関係とは個人と社会制度の関係性を指しています。

個人側からの視点は「社会関係の主体的側面」,制度側からの視点は「社会関係の客体的側面」です。社会関係の主体的側面に働きかけるのが社会福祉固有の視点,つまり専門ソーシャルワークだということになります。

社会福祉が必要となるのは,

①社会関係の不調和
②社会関係の欠損
③社会制度の欠損

であると述べています。


次に竹内愛二です。

竹内先生は,同志社大学や関西学院大学などで教授を務められた方です。竹内先生は,日本に初めてケースワーク理論を持ち込んだ人として知られます。

竹内先生によると社会事業とは,

(個別的・集団・組織)社会事業とは,(個人・集団・地域社会)が有する社会(関係)的要求を,その他の種々なと要求との関係において,自ら発見し,かつ充足するために,能力,方法,社会的施設等あらゆる資源を自ら開発せんとするのを。専門職業者としての(個別・集団・組織)社会事業者が,その属する施設・団体の職員として,側面から援助する,社会福祉事業の一専門領域を成す過程をいう。

と定義しています。

「側面から援助する」というソーシャルワークの基本姿勢も述べられています。

さらに,行動科学に基礎づけられた専門的な援助技術の体系を,特に「専門社会事業」と呼び,社会事業の中心としてとらえています。


それでは今日の問題です。


第19回・問題2 社会福祉・社会事業の理論形成に貢献した人物に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 大河内一男は,社会政策が資本主義の基本問題である社会問題を対象とするのに対して,社会事業は「関係的・派生的な社会的問題」を対象とするという前提に立って理論を形成した。

2 竹内愛二は,社会福祉の問題を社会構成体的に理解し,対象と政策主体と運動の三元的な力動関係において捉え,そこから「福祉労働」を規定した

3 岡村重夫は,個人がその基本的要求を充足するために利用する社会制度との関係を「社会関係」と呼び,その主体的側面に立つときに見えてくる生活上の困難を,社会福祉の固有の対象領域とした。

4 孝僑正一は,社会事業を「経済秩序外的存在」である貧困者に対する施策と位置づけ,同時に社会政策の強化・補強策と規定した。

5 真田是は,人間関係を基盤に駆使される専門的な援助技術の体系を,特に「専門社会事業」と呼び,社会事業概念の中軸に位置づけた。


極めて難しい出題です。

第19回国試は,この問題が出題された「社会福祉原論」という科目が0点となって,不合格となった人が多かったのですが,その理由を伺い知ることができます。

しかし,岡村先生と竹内先生の中心概念を押さえておくことで,突破できます。


それでは解説です。


1 大河内一男は,社会政策が資本主義の基本問題である社会問題を対象とするのに対して,社会事業は「関係的・派生的な社会的問題」を対象とするという前提に立って理論を形成した。


これは間違いです。

社会政策が資本主義の基本問題である社会問題を対象とするのに対して,社会事業は「関係的・派生的な社会的問題」を対象とするという前提に立って理論を形成したのは,孝橋正一(こうはし・しょういち)です。

孝橋先生は,

社会政策 → 社会問題を対象
社会事業 → 社会的問題を対象

という2つに分けて捉えました。

社会問題とは,賃金に由来する資本主義の問題
社会的問題は,社会問題から派生した問題

をいいます。


2 竹内愛二は,社会福祉の問題を社会構成体的に理解し,対象と政策主体と運動の三元的な力動関係において捉え,そこから「福祉労働」を規定した。


これも間違いです。

運動とは,社会福祉の改善や要求を行うことを指しています。

福祉労働を規定したのは,真田是(さなだ・なおし)です。

運動論を展開したのは,真田先生のほかには,一番ヶ瀬康子(いちばんがせ・やすこ)先生,高島進先生がいます。この人たちのキーポイントは「運動」です。


3 岡村重夫は,個人がその基本的要求を充足するために利用する社会制度との関係を「社会関係」と呼び,その主体的側面に立つときに見えてくる生活上の困難を,社会福祉の固有の対象領域とした。


これが正解です。

難しい問題ですが,岡村先生の理論を正解にしたところが,この問題が永遠に残るものであり,今後の出題を考えるときのポイントになるでしょう。


4 孝僑正一は,社会事業を「経済秩序外的存在」である貧困者に対する施策と位置づけ,同時に社会政策の強化・補強策と規定した。


これも間違いです。

社会事業を「経済秩序外的存在」である貧困者に対する施策と位置づけ,同時に社会政策の強化・補強策と規定したのは,大河内一夫です。

大河内先生は,東京大学の学長まで務められた方で,社会政策が専門です。

社会政策 → 経済秩序内的存在である労働者を対象
社会事業 → 経済秩序外的存在である貧困者を対象

と捉えました。

社会政策と社会事業の2つに分けたのは孝橋先生と一緒ですが,孝橋先生は問題を切り口にしていることに対して,大河内先生は対象を切り口としていることに違いがあります。


5 真田是は,人間関係を基盤に駆使される専門的な援助技術の体系を,特に「専門社会事業」と呼び,社会事業概念の中軸に位置づけた。


これも間違いです。

人間関係を基盤に駆使される専門的な援助技術の体系を,「専門社会事業」と呼んだのは,竹内先生です。


<今日の一言>

今日の問題は,相談援助系の科目ではなく,現行カリキュラムでは「現代社会と福祉」につながる旧カリキュラムの「社会福祉原論」で出題されたものです。

「現代社会と福祉」は,福祉政策が中心の科目になったこともあり,福祉理論に関する出題はされていません。

しかし,第27回以降は,相談援助系科目,特に相談援助の基盤と専門職で取り上げられるようになってきています。

覚えて正解しても1点,覚えなくて正解できなくても1点なので,苦手なら深追いするする必要は現時点ではないと言えます。

しかしこの科目は,どんどん広がりを見せる可能性があることを予感させるので,覚えられることなら,覚えておいた方が良いのかもしれません。

2019年3月29日金曜日

ソーシャルワークと制度~その2

ソーシャルワークの源流には,慈善組織協会(COS),セツルメントがあることは,これまで学んできたとおりです。

これらが始められた当時は,資本主義国家が福祉国家になる以前のこととは言え,制度の中から発生してきたものではないことが特筆ものです。

制度があって,ソーシャルワークが生まれてきたものではありません。

公的な福祉制度が整備されてきたのは,19世紀後半以降のことです。

日本は第二次世界大戦での敗戦を経て,今日に至ります。

明治以降の救貧制度には,恤救規則,救護法,旧生活保護法,現生活保護法があります。
現生活保護法は,日本国憲法に基づき,国民の最低限度の生活保障と自立の助長を目的としています。

生活保護は,社会福祉主事によって行われます。

仲村優一先生は,

ケースワークは公的扶助に即したものである

と主張し,

岸勇先生は,

公的扶助とケースワークを分離させるべきだ

と主張しました。

これがいわゆる1950年代に展開された「仲村・岸論争」と呼ばれるものです。

それから60年が経ちます。

今日では,経済自立のみならず,日常生活自立,社会自立など多様な自立があると感化背えられています。

現業員のケースワークはますます重要になることでしょう。

仲村先生の主張と岸勇先生の主張の内容は別なものですが,いずれもよりよい生活保護制度はどうあるべきかを目指したものであることは間違いありません。

国試での「仲村・岸論争」を見てみたいと思います。


第20回・問題4・選択肢4

仲村優一は,要保護者が生存権を自ら自覚し,権利意識を強くもつことが重要であって,公的扶助からケースワークを除外すべきであると主張した。


これは,岸先生の主張です。

岸先生が,なぜ公的扶助とケースワークを分離すべきだと主張したのかがよく分かる問題です。

第31回・問題94・選択肢4

小河滋次郎は,論文「公的扶助とケースワーク」において,公的扶助に即したケースワークの必要性を示した。

これが,仲村先生の出張です。

ようやく,この出題で「仲村・岸論争」の内容が出揃ったことになります。


<今日の一言>

岸先生は1995年,仲村先生は2015年に亡くなりました。

生きている人は出題しにくいですが,亡くなると出題しやすくなります。

第31回に出題されたばかりなので,第32回には続けて出題されることはないと思いますが,覚えておきたいです。

2019年3月28日木曜日

ソーシャルワークと制度~仲村・岸論争から~

戦後日本は,日本国憲法をもとに新たなスタートを切りました。

昭和という時代は,起伏の大きかったと言えます。
社会保障制度は,戦前に多くの制度ができています。

救貧制度もその一つです。

日本国憲法をもとにして,現行の生活保護制度が出来上がりました。

法の目的は,最低限度の生活保障と自立の助長です。

ソーシャルワークが制度に対してどのようにコミットすべきか,重要な課題です。

仲村・岸論争が繰り広げられたのは,昭和30年代の前半です。

当時日本社会事業大学助教授だった仲村優一先生が,「公的扶助とケースワーク」という論文を発表しました。

ケースワークは公的扶助に即したものである,という考え方です。

つまり,公的扶助はケースワークを行うための手段である,というものです。

とても重要だと思いませんか?

制度の中にケースワークがあるのではなく,ケースワークを行うために公的扶助を利用するという考え方です。

それに対して,当時日本福祉大学教授だった岸勇先生は,

公的扶助とケースワークを分離させるべきだと主張しました。


これが「仲村・岸論争」です。

論争の是非はまた次の機会にすることにします。

重要なことは,ケースワークがどうあるべきなのかを熱い情熱を燃やして考えたことです。

制度に使われるソーシャルワーカーでなく,制度を利用できるソーシャルワーカーでありたいものです。

2019年3月27日水曜日

ソーシャルワークと制度の関係性

社会福祉は今日,さまざまな制度が組み合わされて展開されています。
ソーシャルワークは,ややもすると制度の中で展開されがちなのではないでしょうか。

ソーシャルワークの源流であるCOSもセツルメントも,もともと制度の枠の外の活動です。

制度とソーシャルワークの関係性は,忘れてはならないことでしょう。

ソーシャルワークが制度を利用するのはよいですが,ソーシャルワークが制度に利用されることがあってはならないと考えます。

「相談援助の基盤と専門職」は,そういったことを考える科目でもあります。

社会福祉士=ソーシャルワーカーではありませんが,社会福祉士がソーシャルワーカーであるためには,制度を学ぶだけではなく,この科目もしっかり押さえたいところです。

戦後,生活保護とケースワークの関係をめぐって,「仲村・岸論争」が展開されたことがあります。

多くの人が熱い思いを抱いていた時代です。

次回は,この辺りを深めてみたいと思います。

2019年3月26日火曜日

一見さんが正解になるとき

社会福祉士の国家試験の合格基準は,おおむね6割ラインです。
1問1点で150問の出題なので,90点程度がボーダーラインとなります。

合格基準点が発表されるようになった第15回以降,ボーダーラインが最も高かったのは99点,最も低かったのは72点です。

ボーダーラインが高くなろうと低くなろうと学ばなければならない内容はまったく変わるわけではありません。

ボーダーラインが上下しているのは,問題の難易度が一定に保たれたものではないため,ボーダーラインで調整しているためです。

国試問題には,

とても難しい問題
難しい問題
やや簡単な問題
簡単な問題

があります。

簡単だといっても,実際に簡単だと思えるものは少ないのが現実ですが,結果的に解ける問題があります。これが「簡単な問題」です。

社会福祉士の国試は,どうやらボーダーライン90点,合格率30%を目指しているようです。

そのために,誰もが解けない問題を出題して点数調整しているのではないかと感じられます。

そんな問題で面食らって,我をなくしてしまうことのないように気をつけなければなりません。


さて,国試合格のためには,すべての科目で得点がなければなりません(問題数が少ない就労支援サービスと更生保護制度は2科目で1群)。

そのため,極端に難しい問題がそろった科目は0点になる恐れがあるために,そうならないように工夫して出題されています。

勉強した人は解ける
勉強が足りない人は解けない

理想の国試問題を作り上げて出題しているのです。


その基本は,

いわゆる一見さんは正解になりにくい

というものです。

しかしいつもそうだとは限りません。

一見さんでも正解になるときがあります。

消去法でその選択肢が残るような構成の問題です。

勉強をしっかりした人ではないと他の選択肢を消去できないので,難しい問題となります。

それでは今日の問題です。


第31回・問題94 日本のソーシャルワークの発展に寄与した人物に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 仲村優一は,著書『グループ・ワーク小團指導入門』において,アメリカのグループワーク論の大要を著した。

2 竹内愛二は,著書『社會事業と方面委員制度』において,ドイツのエルバーフェルト制度を基に方面委員制度を考案した。

3 永井三郎は,著書『ケース・ウォークの理論と實際』において,アメリカの援助技術について論じた。

4 小河滋次郎は,論文「公的扶助とケースワーク」において,公的扶助に即したケースワークの必要性を示した。

5 三好豊太郎は,論文「『ケースウォーク』としての人事相談事業」において,ケースワークを社会事業の技術として位置づけた。


出題回数を確認しましょう。(旧カリキュラム時代も含む)

仲村優一 6回
竹内愛二 7回
永井三郎 一見さん
小河滋次郎 9回
三好豊太郎 一見さん

一般的には,永井三郎と三好豊太郎は,正解になりにくいものです。

それでは解説です。


1 仲村優一は,著書『グループ・ワーク小團指導入門』において,アメリカのグループワーク論の大要を著した。


これは間違いです。

仲村先生は,日本社会事業大学の教授などを務められた方で,2015年に亡くなりました。
1950年代には,日本福祉大学教授だった岸勇先生と,公的扶助とケースワークの関係をめぐって「仲村・岸論争」が繰り広げられました。

岸先生は,公的扶助とケースワークは分離させるべき,仲村先生は,公的扶助とケースワークは一体化して行うべきというのが論争のポイントです。

仲村先生の功績はそれこそありますが,「仲村・岸論争」はこれからも語り継がれていくものとなるでしょう。

ということで,

論文「公的扶助とケースワーク」において,公的扶助に即したケースワークの必要性を示した。

これが仲村先生についての記述です。


2 竹内愛二は,著書『社會事業と方面委員制度』において,ドイツのエルバーフェルト制度を基に方面委員制度を考案した。


これも間違いです。

竹内先生は第30回に引き続き,2年連続での出題となりました。

竹内先生は,日本に初めてケースワークを紹介したことで知られます

ということで

著書『ケース・ウォークの理論と實際』において,アメリカの援助技術について論じた。

これが竹内先生についての記述です。


3 永井三郎は,著書『ケース・ウォークの理論と實際』において,アメリカの援助技術について論じた。


これも間違いです。

永井三郎という人は,何をした人か分からなくても,この選択肢の内容は竹内先生のことを述べたものなので消去することができます。


4 小河滋次郎は,論文「公的扶助とケースワーク」において,公的扶助に即したケースワークの必要性を示した。

これも間違いです。

小河滋次郎と言えば,大阪府の方面委員制度を創設した人として知られます。

ということで

著書『社會事業と方面委員制度』において,ドイツのエルバーフェルト制度を基に方面委員制度を考案した。

これが小河滋次郎についての記述です。


5 三好豊太郎は,論文「『ケースウォーク』としての人事相談事業」において,ケースワークを社会事業の技術として位置づけた。

これが正解です。

三好豊太郎の実績を知らなくても,消去法でこれが残ります。


<今日の一言>

今日の問題は,かなり難易度の高い問題です。

三好豊太郎を知っていた受験生はほとんどいなかったのではないでしょうか。

それでもあえて正解選択肢として配置したのは,この問題の脇を固める常連さんの存在があったからです。

特に正解するための決め手となったのは,仲村先生と竹内先生です。

正解となった三好豊太郎を知らなくても正解できる人とできな人が生じるのは,こういったところに要因があるのです。

2019年3月25日月曜日

日本のソーシャルワークの発展に寄与した人たち

ソーシャルワークは,イギリスで生まれて,アメリカで発展していきました。

そういったことから,今日では,西洋中心主義が批判されて,「ソーシャルワークのグローバル定義」(2014)では,「地域・民族固有の知を基盤として,人やさまざまな構造に働きかける」と示されています。

さて,日本にも日本独自の「知」があります。

近年の国試では,そこを確認するかのような出題が見られます。

まるで,旧カリキュラム時代の「社会福祉原論」の問題を見ているかのようです。


それでは,早速今日の問題です。

第30回・問題93 日本の社会福祉の発展に寄与した人物に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 石井十次は,医療ソーシャルワーカーとして実践に携わった。

2 浅賀ふさは,北海道家庭学校を創設し,感化教育を実践した。

3 岡村重夫は,社会関係の主体的側面に焦点を当てた社会福祉固有の視点と領域を提起した。

4 留岡幸助は,ケースワーク技術や援助プロセスにおける理論を発展させた。

5 竹内愛二は,「無制限主義」を掲げ,孤児を救済する民間社会事業を展開した。


人名が苦手だと思う人は,いやな感じがする問題でしょう。

しかし,ちゃんと覚えた人は,正解できることでしょう。

それでは,解説です。


1 石井十次は,医療ソーシャルワーカーとして実践に携わった。


これは間違いです。

石井十次は,岡山孤児院を設立した人です。

石井十次は,31回実施された国試で,10回も出題された実績のある超常連さんです。


2 浅賀ふさは,北海道家庭学校を創設し,感化教育を実践した。


これも間違いです。

浅賀ふさは,医療ソーシャルワーカー(MSW)として実践に携わりました。

日本のMSWの第一人者です。

浅賀ふさは,今まで4回出題実績があります。十分常連さんと言えるでしょう。


3 岡村重夫は,社会関係の主体的側面に焦点を当てた社会福祉固有の視点と領域を提起した。


これが正解です。

岡村先生は,大阪市立大学や関西学院大学などで教授を務められた方です。

社会福祉固有の視点として,社会関係の主体的側面に焦点を当てました。社会関係とは個人と社会制度の関係性を指しています。

個人側からの視点は「社会関係の主体的側面」,制度側からの視点は「社会関係の客体的側面」です。

社会関係の主体的側面に働きかけるのが社会福祉固有の視点,つまり専門ソーシャルワークだということになります。

岡村先生は,12回も出題されている超常連さんです。


4 留岡幸助は,ケースワーク技術や援助プロセスにおける理論を発展させた。


これは間違いです。

留岡幸助は,家庭学校を創設した人です。

今まで12回も出題された超常連さんです。

ケースワーク技術や援助プロセスにおける理論を発展させたのは,この5人の中では,竹内愛二だと言えるでしょう。

竹内先生は,同志社大学や関西学院大学などで教授を務められた方です。竹内先生は,日本に初めてケースワーク理論を持ち込んだ人として知られます。

竹内先生は,今まで7回も出題されている超常連さんです。


5 竹内愛二は,「無制限主義」を掲げ,孤児を救済する民間社会事業を展開した。


これも間違いです。

「無制限主義」を掲げ,孤児を救済する民間社会事業を展開したのは,岡山孤児院の石井十次です。

「無制限主義」とは,無制限に孤児を収容するという意味で,最大時では,1,200名の孤児を収容していたそうです。


<今日の一言>

「現代社会と福祉」は,旧カリキュラムの「社会福祉原論」の流れをくむ科目ですが,旧カリ時代と異なるのは,福祉政策が中心となっていることです。

そのため,旧カリ時代にはよく出題されていた岡村先生や竹内先生は出題する場面がなくなってしまいました。

超常連さんの割りにはあまり見たことがないのは,そういう理由です。

その代わりに,「相談援助の基盤と専門職」で出題してきました。

今日の問題で取り上げた問題を足掛かりにして,第31回の問題が作られています。

そういう意味では,この2つの問題はセットだと言えるでしょう。

「相談援助の基盤と専門職」は,社会福祉士を目指す人にとって重要な科目ですが,これからますます重要度が上がっていくことを予感させるような出題だと言えるでしょう。

2019年3月24日日曜日

日本のソーシャルワークの形成過程

社会福祉振興・試験センターの出題基準では,

中項目「ソーシャルワークの形成過程」

小項目「慈善組織協会」「セツルメント」「その他」

が示されています。

小項目は例示ですが,最低限押さえておかなければならないものであることには間違いありません。

慈善組織協会とセツルメントの出題は前回まで見てきました。

その他に当たる部分は,

第28回 ソーシャルワークの発展に寄与した人物(外国)

第27・30・31回 ソーシャルワークの形成過程(日本)

が出題されています。

外国については,相談援助の理論と方法で押さえることにして,今回から日本のソーシャルワークの形成過程に取り組んでいきたいと思います。

難易度がかなり高いものですが,がんばりましょう!

それでは早速今日の問題です。

第27回・問題93 日本におけるソーシャルワークの形成過程に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 大正期には,公営のセツルメントが誕生し活動を展開した。

2 昭和初期から第二次世界大戦中には,感化救済事業が活発化した。

3 第二次世界大戦直後には,社会福祉教育の実践が連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の指示で中断された。

4 高度経済成長期には,エビデンスに基づくソーシャルワークのあり方が重視された。

5 社会福祉基礎構造改革時には,ソーシャルワークの統合化の考え方が外国から初めて紹介された。


「現代社会と福祉」で学ぶ内容も含まれています。

そこをクリアすると,何とか正解できる可能性があります。


それでは解説です。


1 大正期には,公営のセツルメントが誕生し活動を展開した。


これが正解です。

セツルメントは,明治期の岡山博愛会,キングスレー館など民間慈善事業が広く知られています。

その後,公営のセツルメントである隣保館が設立されていきます。

わが国の公営のセツルメントは,1921年(大正10年)に設立された大阪市立市民館が始まりです。

この時期は,公私のセツルメントが増加し,積極的な活動がみられた時期です。

公営のセツルメントといっても,国の制度のもとで行われたものではありません。

地域のニーズに即して,工夫しながら設立されていったのではないでしょうか。


2 昭和初期から第二次世界大戦中には,感化救済事業が活発化した。


それは間違いです。

感化救済事業とは,それまで慈善事業と呼んでいたものを呼び変えたものです。

明治末期から,感化救済事業に携わる職員を対象として,明治末期から始まり,途中,社会事業講習会と改称して大正末期まで続きます。


3 第二次世界大戦直後には,社会福祉教育の実践が連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の指示で中断された。


これも間違いです。

戦後の福祉政策は,GHQ主導で行われました。

福祉教育もその一環として,1946年(昭和21年)日本社会事業学校に設立されています。

この学校は,現在の日本社会事業大学の源流の一つとなっています。


4 高度経済成長期には,エビデンスに基づくソーシャルワークのあり方が重視された。


これも間違いです。

高度経済成長期とは,昭和30~40年代にかけての時期です。

この時期,社会福祉施設は増加していきますが,まだまだ手探り状態の時代です。

エビデンスに基づくソーシャルワークのあり方が重視されるようになったのは,平成に入ってからです。


5 社会福祉基礎構造改革時には,ソーシャルワークの統合化の考え方が外国から初めて紹介された。


これも間違いです。

社会福祉基礎構造改革は,1990~2000年に行われたものです。

ソーシャルワークの統合化は,アメリカでは1929年のミルフォード会議報告書に既にみることができます。

1929年(昭和4年)は,日本がアメリカと関係が良かった時代です。
その直後に紹介されていても不思議ではありません。

日本に初めて紹介されたのはいつのことかよくわかりませんが,1980年には,ミネルヴァ書房から岡村重夫先生などが訳した「社会福祉実践方法の統合化」が出版されています。


<今日の一言>

出題基準の小項目を思い出してみましょう。

「慈善組織協会」
「セツルメント」
「その他」

今日の問題は,いきなり日本に飛んだような印象を持つかもしれません。

しかし,正解選択肢に注目すると,セツルメントが位置づけられています。

ソーシャルワークは日本でも根付いて発展しているのだということを示す内容になっているのです。

これ以降,日本に着目した出題がなされていきます。

2019年3月23日土曜日

ケースワーク(個別援助技術)の源流,そしてさらにその源流

ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークに分かれて発展しました。それらの共通基盤を明らかにしようとする試みを「統合化」といいます。

このうち,ケースワークは,慈善組織協会(COS)の活動が源流です。

COS設立のきっかけとなったのは,資本家などによる慈善活動がそれぞれバラバラに行われていたために不正受給の問題が生じて,調整が必要となったためです。

当初は,ボランティアである友愛訪問員による友愛訪問を実施しました。有給の職員が友愛訪問を行うようになり,訓練を行って専門化していきます。

この活動の科学性を追求したのが,アメリカCOSの指導者であり「ケースワークの母」と呼ばれるリッチモンドです。

それでは今日の問題です。


第29回・問題93 慈善組織協会(COS)に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 COSは,労働者や子どもの教育文化活動,社会調査とそれに基づく社会改良を目的に設立された。

2 COSの救済は,共助の考えに基づき,社会資源を活用して人と人が支え合う支援を行った。

3 COSは,把握した全ての貧困者を救済の価値のある貧困者として救済活動を行った

4 COSは,友愛訪問員の広い知識と社会的訓練によって友愛訪問活動の科学化を追求した。

5 COSの友愛訪問活動の実践を基に,コミュニティワーカーに共通する知識,方法が確立された。


COSに関連する問題が現行カリキュラムで出題されたのは,第22,23,25,27,28,29,30回です。

出題確率は70%です。

2年連続して出題されなかったことはないので,第32回は出題される可能性が高いと言えます。

出るか出ないか分からないレアものを追っかけるよりも,このようなものをしっかり押さえることが得点を伸ばすポイントです。

特に,歴史は多くの人が苦手としているため,他の受験生と差をつけることができやすいと言えます。

それでは解説です。


1 COSは,労働者や子どもの教育文化活動,社会調査とそれに基づく社会改良を目的に設立された。

これは間違いです。

COSは,不正受給を防止することを目的に設立されました。

教育文化活動などを実施したのは,グループワークの源流となるセツルメントです。
COSもセツルメントも極めて重要です。


2 COSの救済は,共助の考えに基づき,社会資源を活用して人と人が支え合う支援を行った。


これも間違いです。

共助の考えに基づき,社会資源を活用して人と人が支え合う支援を行ったのは,COSの友愛訪問の源流となった,チャルマーズという牧師がイギリスのスコットランドにあるグラスゴーで行った「隣友運動」です。隣友運動は後述します。


3 COSは,把握した全ての貧困者を救済の価値のある貧困者として救済活動を行った。
これも間違いです。


COSは,貧困に陥る原点は,本人の道徳的問題にあるととらえていました。

そのため,貧民を「救済の価値がある貧民」「救済の価値のない貧民」に分けて,「救済の価値がある貧民」のみを救済しました。「救済の価値のない貧民」はどうなるのでしょうか?

COSでは,救済の価値のない貧民は,懲罰的な色合いを濃くしていた救貧法による救済が適切だと考えていました。


4 COSは,友愛訪問員の広い知識と社会的訓練によって友愛訪問活動の科学化を追求した。

これが正解です。

イギリスで誕生したCOSは,その後アメリカでも組織されます。アメリカCOSでは,友愛訪問員に対して訓練を実施し,高度化していきます。

その後,リッチモンドは友愛訪問員の手引書となる1899年『貧しい人々への友愛訪問(Friendly Visiting Among the Poor - A Handbook for Charity Workers)』を著して,COSの指導者として認められる存在になっていきます。


5 COSの友愛訪問活動の実践を基に,コミュニティワーカーに共通する知識,方法が確立された。

これは間違いです。

COSの友愛訪問活動の実践を基に確立していくのは,ケースワークです。

アメリカCOSの活動は,コミュニティワークの源流にもなりましたが,それをもってコミュニティワーカーに共通する知識,方法が確立されたとは言えません。


<今日の一言>

COSの友愛訪問の源流となったのは,チャルマーズによる「隣友運動」です。

チャルマーズは,地域のもつ力に着目し,貧困者の自助,貧困者同士の相互扶助,血縁者による援助,富裕者による援助を理念として,貧困家庭への訪問である隣友運動を行いました。

隣友運動は,現行カリキュラムでは第27回に出題されたのみですが,現在の地域包括ケアシステムの「自助・互助・共助・公助」の原型を見ることができます。

ただし,隣友運動には公助は念頭にありません。チャルマーズは,救貧法では貧民の根本的救済にならないと考えて,当時救貧法が実施されていなかったグラスゴーに赴任して隣友運動を行ったからです。

チャルマーズがグラスゴーで活動を行ったのは,1819年から1823年の間です。

つまり,2019年は,隣友訪問から200年のメモリアルイヤーとなります。

2019年3月22日金曜日

慈善組織協会(COS)の設立目的とは?

先日からソーシャルワークの発展過程を取り上げています。

取り上げる順番が逆になってしまいましたが,今回からケースワークの源流について学んでいきたいと思います。

まずは「現代社会と福祉」で学ぶ領域を押さえておきたいと思います。

イギリスでは,領主による「エンクロージャー」(囲い込み)で,追い出された農民が浮浪化し貧困問題が発生します。

そのため,いくつかの貧民救済の法律を成立させます。
それらを合わせて,通称「エリザベス救貧法」と呼ばれます。
それぞれにいくつかの要素がありますが,国試で出題されるのは次の2つのポイントです。

エリザベス救貧法のポイント

①救済の対象
 労働能力のある貧民,労働能力のない貧民,13歳以下の孤児。

②財源と適用範囲
 教会の教区単位に救貧税を徴収。救済を実施しない教区あり。

その後,1834年に新救貧法が施行されます。

新救貧法のポイント

①救済の全国一律化
②劣等処遇の原則

です。劣等処遇の原則とは,救済の内容は,自活する貧民よりも下でなければならないというものです。

ここまでが公的救済です。

不十分な公的救済を補完したのは,労働者による相互扶助と資本家などによる慈善事業です。

相互扶助には,共済や生協などがあります。

この時代のイギリスは世界で最も早い時期に産業革命を成し遂げ,世界の富がイギリスに集まってきました。

資本家は,慈善活動を自分たちの義務だととらえ,積極的に活動を行います。

しかし活動は統一されておらず,そのため,濫救や漏救などが起こり,調整する機関が必要となりました。

そこで設立されたのが,慈善組織協会(COS)です。

COSは,道徳的貧困観に基づき,「救済の価値のある貧民」と「救済の価値のない貧民」に分けて,救済の価値のある貧民を救済しました。

救済の価値のない貧民は,救貧法で救済しました。

COSで行った個別訪問が,ケースワークに発展していきます。

この発展に寄与したのが,リッチモンドです。

それでは,今日の問題です。


第23回・問題84 イギリスの慈善組織協会の活動に関する次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。

1 慈善組織協会は,「救済に値する貧民」と「救済に値しない貧民」に区別することなく,あらゆる貧民を対象とした援助活動を行った。

2 慈善組織協会は,個々の慈善団体が個別の業績を上げることを目的として,ロンドンの地区ごとに地区委員会を設立した。

3 慈善組織協会は,産業革命が生み出した貧困の予防対策として設立された。

4 慈善組織協会は,被救済者の登録を行って救済の重複や不正受給の抑制を行うことを意図して始まった。

5 慈善組織協会の貧困や社会問題に対する自由主義的な認識が,セツルメントや社会運動,労働運動の考えに継承されていった。


歴史が好きではない人は,とてもいやになってしまう問題かもしれません。

しかし,ポイントを押さえるとそれほど難しくはありません。
なぜなら出題されるポイントはいつも決まっているからです。

そのため,しっかり押さえると得点しやすい領域でもあるのです。
他の受験生と差がつきやすい領域と言えるでしょう。

それでは解説です。


1 慈善組織協会は,「救済に値する貧民」と「救済に値しない貧民」に区別することなく,あらゆる貧民を対象とした援助活動を行った。


これは間違いです。

COSの活動を知らないと正解にしてしまいそうですが,救済の対象は,「救済に値する貧民」です。

救済に値しない貧民は,救貧法が救済しました。

このような民間救済と公的救済の関係を「平行棒理論」といいます。


2 慈善組織協会は,個々の慈善団体が個別の業績を上げることを目的として,ロンドンの地区ごとに地区委員会を設立した。

これも間違いです。

慈善団体がバラバラに活動していたために,濫救や漏救などが起こり,調整する機関が必要となり,COSが設立されました。

個別の業績を上げることはCOSの設立目的ではありません。


3 慈善組織協会は,産業革命が生み出した貧困の予防対策として設立された。


これも間違いです。

COSは,貧民の救済を行う慈善団体の調整を行うために設立されたものです。

貧困の予防,つまり防貧の考えが生まれてくるのはもう少し先の話です。


4 慈善組織協会は,被救済者の登録を行って救済の重複や不正受給の抑制を行うことを意図して始まった。


これが正解です。

慈善団体はバラバラに活動していたために,調整する必要が生じ,設立されたのがCOSです。


5 慈善組織協会の貧困や社会問題に対する自由主義的な認識が,セツルメントや社会運動,労働運動の考えに継承されていった。


これも間違いです。

COSの自由主義的な認識とは,怠惰などが貧困に陥る原因だととらえていたことです。

貧困の陥る原因は「社会構造」だという認識が,セツルメント,社会運動,労働運動などにつながっていきます。これらはCOSの考え方から継承されたものではありません。


<今日の一言>

COSは,貧困家庭を訪問し,貧困者の登録などを行いました。

この活動が,ケースワーク,コミュニティケア,アウトリーチなどの源流となっていきます。

イギリスCOSは,1869年にロンドンで設立
アメリカCOSは,1877年にバッファローで設立

近年の研究では,イギリスCOSの活動が,医療ソーシャルワーカー(MSW)に導入されたことがわかってきています。
国試には出題されることはないかもしれませんが,COSはMSWの源流でもあります。

2019年3月21日木曜日

ソーシャルワークの統合化とは?

ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークという技術として発展してきました。

これらの共通基盤を明らかにしようとするものが「統合化」です。

ケースワークは,リッチモンドが,1922年の「ソーシャル・ケース・ワークとは何か?」を書き上げて,その後のソーシャルワークに大きな影響を与えたことがよく知られています。

そのため,リッチモンドと言えば「ケースワークに科学性を導入した人物」という印象が7あるので,グループワークやコミュニティワークとは縁がなさそうに思えるかもしれません。

しかし,グループワークやコミュニティワークの重要性についても指摘しています。

それでは今日の問題です。

第29回・問題94 アメリカにおけるソーシャルワークの統合化に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 統合化の背景には,専門分化されたソーシャルワーク実践が多様化する社会問題に対応できていたことがある。

2 統合化とは,ケースマネジメントとカウンセリングに共通する新しい知識や方法を明らかにする動きのことである。

3 ミルフォード会議の報告書(1929年)において,「ソーシャルケースワーク」という概念が初めて示され,統合化への先駆けとなった。

4 ジェネラリスト・アプローチは,ソーシャルワークの統合化の一形態である。

5 精神分析学は,ソーシャルワークの統合化に大きな影響を与えた。


上手な出題だと思います。
発展から現在までまとめて学ぶことができる問題です。

それでは,解説です。


1 統合化の背景には,専門分化されたソーシャルワーク実践が多様化する社会問題に対応できていたことがある。

これは間違いです。

この文章に違和感がありませんか?

問題の構成は上手ですが,問題の作り方が下手です。

もともとの文章,つまり正しいのは

統合化の背景には,専門分化されたソーシャルワーク実践が多様化する社会問題に対応できていなかったことがある。

これを否定形にした文章なので,違和感を生じるのです。


2 統合化とは,ケースマネジメントとカウンセリングに共通する新しい知識や方法を明らかにする動きのことである。


これも間違いです。

統合化は,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークの共通基盤を明らかにしようとするものです。


3 ミルフォード会議の報告書(1929年)において,「ソーシャルケースワーク」という概念が初めて示され,統合化への先駆けとなった。


これも間違いです。

ミルフォード会議は,統合化の先駆けとなったものです。しかし,この報告書で示されたのは「ジェネリック」という概念です。


4 ジェネラリスト・アプローチは,ソーシャルワークの統合化の一形態である。


これが正解です。

ジェネラリスト・アプローチは,多様化する社会問題に対応するための方法です。


5 精神分析学は,ソーシャルワークの統合化に大きな影響を与えた。


これは間違いです。

精神分析学が影響を与えたのは,ケースワークです。

その中でも,診断主義ケースワークの理論基盤となりました。
診断主義ケースワークは,現在,心理社会的アプローチに発展しています。


<今日の一言>

「相談援助の基盤と専門職」は,社会福祉士の国試の中で最も重要な科目です。

難しい科目ですが,この科目をしっかり学ぶことは,ソーシャルワーク実践の共通基盤である「価値」「知識」「介入」のうち,「価値」「知識」を身につけることになるからです。

2019年3月20日水曜日

ミルフォード会議って何?

イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。

1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。

1929年に,会議のまとめとして「ミルフォード会議報告書」(正式名:ソーシャル・ケースワーク―ジェネリックとスペシフィック)が出されました。

この報告書では,ケースワークは領域が違っても,基本的に必要な知識・技術は共通であること~「ジェネリック・ソーシャル・ケースワークの重要性」が述べられています。

スペシフィックは専門領域の意味です。

それでは,今日の問題です。

第23回・問題85 ソーシャルワークの発展に重要な役割を果たしたミルフォード会議報告書に関する次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。

1 社会システム理論を基盤とするソーシャルワークの統合化の概念が提示された。

2 ジェネリック・ソーシャル・ケースワークの重要性の認識のもとに,その特性が提示された。

3 ソーシャル・ケースワークをめぐって診断主義学派と機能主義学派との論争が提示された。

4 ソーシャル・ケースワークの精神医学への過度の傾斜を反省し,「リッチモンド(Richmond,M.)に帰れ」という指針が提示された。

5 領域や分野ごとの実践の専門性にソーシャル・ケースワークの本質があることが提示された。


知識がなければ,まったくわからないものでしょう。

ミルフォード会議報告書と言えば


ジェネリック・ソーシャル・ケースワークの重要性が強調された


この知識で十分対応可能です。


それでは解説です。


1 社会システム理論を基盤とするソーシャルワークの統合化の概念が提示された。

これは間違いです。

前回の問題と同じですね。

システム理論は,統合化に影響を与えていますが,その視座(パースペクティブ)で議論されたものではありません。


2 ジェネリック・ソーシャル・ケースワークの重要性の認識のもとに,その特性が提示された。


これが正解です。

このまま覚えて良いです。


3 ソーシャル・ケースワークをめぐって診断主義学派と機能主義学派との論争が提示された。


これも間違いです。

診断主義学派と機能主義学派との論争は,機会があれば詳しく紹介したいと思いますが,機能主義ケースワークは1930年代に登場してきたものです。まだこの時代には登場していません。


4 ソーシャル・ケースワークの精神医学への過度の傾斜を反省し,「リッチモンド(Richmond,M.)に帰れ」という指針が提示された。


これも間違いです。

「リッチモンドへ帰れ」は,1950年代にマイルズが述べたものです。

ミルフォード会議が行われていた当時は,まだリッチモンドは生きています。ただし報告書が出される前の1928年に亡くなりました。


5 領域や分野ごとの実践の専門性にソーシャル・ケースワークの本質があることが提示された。

これも間違いです。

スペシフィックは,以前からあるものです。この報告書では,ジェネリック・ソーシャル・ケースワークの重要性が提示されています。


<今日の一言>

歴史が嫌いな人は,今日の問題は面白くないかもしれません。

今は,昔の出来事かもしれませんが,その人が生きていた時代は「今,ここ」なのです。

そう考えるとその時代がいきいきよみがえってくるような感じがしませんか?

そして,過去は過去のものではなく,現在にも脈々と流れているのです。

2019年3月19日火曜日

ソーシャルワークは一日にしてならず

国家試験に合格するために必要な勉強は,社会福祉振興・試験センターが示す出題基準の範囲をまんべんなく押さえていくことです。

国試問題は,基本的にその基準によって作成され,参考書などもその内容に沿って作成されます。

国試が近くなってきたら,内容の絞り込みも必要になってくると思いますが,基本はその範囲をひたすら覚えることです。

とは言うものの,多くの受験者が苦手とするのは,人名と歴史です。

社会福祉士が学ばなければならないのは,社会福祉及びソーシャルワークの歴史です。
内容は極めて限定されています。

制度は変わっていくので,知識はアップデートしなければなりませんが,歴史はそういったものを必要としません。

出題されるポイントは,ほぼ決まっているので,勉強すると得点できます。

しかも,勉強しない人は経験や勘では解けないので,他の受験者と差をつけやすいものだと言えるでしょう。

覚えなければならない事項もそれほど多くはありません。

今日の問題に入る前に,ちょっと間が空いてしまったので,まずは前回の問題を復習しておきましょう。

https://fukufuku21.blogspot.com/2019/03/blog-post_13.html

それでは今日の問題です。

第25回・問題92 ソーシャルワークのアメリカにおける専門職化に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 全米慈善矯正会議(1897年)において,リッチモンド(Richmond,M.)は応用博愛学校の必要性を提唱し,慈善活動の効果的な実践のための夏期養成講座が開設された。

2 アダムス(Addarns,J.)はシカゴにハル・ハウスを開設(1889年)し,「慈善でもなく,友情でもなく,専門的サービスを」の標語を掲げてセツルメント活動を展開した。

3 全米慈善矯正会議(1915年)において,フレックスナー(Flexner,A.)は,ソーシャルワークには科学的効果が認められないとし,「ケースワークは死んだ」と論じた。

4 全米慈善組織協会は全米ソーシャルワーカー協会に名称変更(1917年)し,慈善から精神分析理論に基づく友愛訪問活動の組織化を推進した。

5 ミルフォード会議(1923年)では,「ジェネラリスト・ソーシャルワークとは何か」をテーマに,システム論的視座から方法論の統合化の必要性が議論された。


前回の問題を復習した人にとっては,答えがすぐわかるでしょう。

しかし,勉強していない人にとっては,答えの見当をまったくつけられないものです。

これが国試の理想です。

この問題の難易度はかなり高いです。

それもそのはず。合格基準点が72点と過去最低となった「魔の第25回国試」の問題です。
それでは解説です。


1 全米慈善矯正会議(1897年)において,リッチモンド(Richmond,M.)は応用博愛学校の必要性を提唱し,慈善活動の効果的な実践のための夏期養成講座が開設された。


これが正解です。

第22回国試で出題されたときの正解と同じ内容のものがここでも正解になっています。

極めて珍しいパターンです。

難易度が高い選択肢で構成された問題でありながらも,正解できる可能性が高いのはそのパターンのためです。


2 アダムス(Addarns,J.)はシカゴにハル・ハウスを開設(1889年)し,「慈善でもなく,友情でもなく,専門的サービスを」の標語を掲げてセツルメント活動を展開した。


これは間違いです。

よく知られていませんが,アダムスは,標語として「人々とともに」を掲げて活動しました。

ケースワークを体系化したリッチモンドとアダムスは,同じ時代に活動しています。

リッチモンドは,ケースワークの科学化を目指しました。その功績で「ケースワークの母」と呼ばれます。

アダムスは,セツルメントの「ハル・ハウス」を創設した人物です

セツルメントは,グループワークの源流となります。

アダムスの「人々とともに」は,リッチモンドを意識したものだと思われます。なぜなら,リッチモンドは「人々のために」という標語を掲げていたからです。

「人々とともに」は,セツルメントをよく言い表していると思いませんか?


3 全米慈善矯正会議(1915年)において,フレックスナー(Flexner,A.)は,ソーシャルワークには科学的効果が認められないとし,「ケースワークは死んだ」と論じた。


これも間違いです。

「ケースワークは死んだ」と論じたのはパールマンです。

この経緯は,また別の機会に紹介したいと思います。

フレックスナーは「ソーシャルワーカーはいまだ専門職ではない」と論じました。
その後,グリーンウッドは「ソーシャルワークは専門職である」と論じています。

フレックスナーとグリーンウッドを混同しないように工夫して覚えることが大切です。


4 全米慈善組織協会は全米ソーシャルワーカー協会に名称変更(1917年)し,慈善から精神分析理論に基づく友愛訪問活動の組織化を推進した。


これも間違いです。

というかまったくのでたらめです。


5 ミルフォード会議(1923年)では,「ジェネラリスト・ソーシャルワークとは何か」をテーマに,システム論的視座から方法論の統合化の必要性が議論された。


これも間違いです。

この問題で最も難しいものです。

統合化とは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークに共通するものを明らかにしてとらえることを言います。

システム理論は,統合化に影響を与えていますが,その視座(パースペクティブ)で議論されたものではありません。

この会議で重要なポイントは,すべてに共通するものとして「ジェネリック」という概念が登場して議論されたことです。

これによって,「ジェネリック」と「スペシフィック」の関係性が明らかとなりました。


<今日の一言>

今日の問題は,前回の問題とよく似ています。

この2つは,正解が同じものとなっています。

しかし,多くの問題は,そのようには作られていません。
間違いになったり,正解になったりしています。

しかも5つの選択肢が勉強したもので構成されているとは限りません。

いくつかは,知らないものを混ぜます。
そこで,勉強不足の人は,ほとんど正解できなくなります。

しかし,落ち着いて読めば,消去法で答えをあぶり出すことができます。

このようにして,合格基準点を超える人と超えない人の点数の差が開いていきます。

国試は,30%程度の人しか合格させないつもりのようです。
合格をつかむ30%に入るためには,ひたすら覚えていくことです。

ヤマを張って合格できる試験ではありません。

ただし,勉強法にはコツがあります。それを意識しながら勉強することで,得点力は飛躍的に伸びます。

2019年3月18日月曜日

第32回国試に向けて~勉強法を考える

第31回国試の合格発表が終わり,早い方ではもう試験結果の通知か届いていることだと思います。

不合格になった方は,とても悔しいことでしょう。

その悔しさを原動力にして,次回の国試合格を目指していきましょう。

何度もチャレンジしている方は,どうしたら合格できるのだろうと途方にくれているという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

国家試験は,毎年少しずつ重なっていて,少しずつ違います。
この「少しずつ違う」がくせ者です。


「社会理論と社会システム」は,多くの受験生が苦手とする科目です。

覚えにくいことと,国試では勉強したことがないものが出題されるからです。
しかし,いくつかの知識を重ね合わせると,正解できます。

正解できなかった方には,傷口に塩を塗ることになるかもしれませんが,問題を振り返ってみましょう。

第31回・問題15 次のうち,社会の福祉水準を測定する社会指標として,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 失業率
2 GDP
3 消費者物価指数
4 幸福度指標
5 財政力指数

類似問題はこれです。

第27回・問題15 社会指標に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 社会指標のねらいは,経済的な豊かさを測定することであり,国内総生産(GDP)などがよく用いられる。
2 社会指標とは,主観的評価ではなく,客観的な要因を数量化したものである。
3 社会指標のねらいは,その社会の福祉水準を測定し,政策に活用することにある。
4 社会指標は,個別の分野の目標達成の指標ではなく,総合的な指標として用いられる。
5 社会指標の開発は,2000年代に入りOECDや国際連合などの国際機関を中心に始まった。

第27回で社会指標とはどのようなものかを聞いて,第31回では具体的な社会指標を聞いています。

完全に重なっているのは,GDPです。

正解は,第27回が選択肢3
第31回は選択肢4です。

全然別な答えになっているように思うかもしれませんが,実は一緒です。

「福祉」は,狭義的には社会福祉制度をイメージするかもしれませんが,実は,もともとは「幸せ」という意味です。

示す偏は,神様を意味して,神が止まっている(そこにいる)から「幸せ」という意味になります。

もう一問です。

第31回・問題16 ジニ係数に関する次の説明のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 値が大きいほど格差が大きいことを示す。
2 -1から+1の値をとる。
3 同一労働同一賃金に関する指標である。
4 所得増減量を基に算出される。
5 所得分布全体に占める低所得層の比率を示す。

これの類似問題はこれです。

第27回・問題63 貧困と格差に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 一人当たり可処分所得を低い順に並べ,中央値の半分に満たない人の割合を相対的貧困率という。
2 ジニ係数は,その数値が小さくなるほど,所得分布が不平等であることを表す。
3 タウンゼント(Townsend,P)は,栄養学の観点から科学的,客観的に貧困を定義する絶対的貧困の概念を主張した。
4 貧困の再発見とは,貧困線付近の低所得世帯より公的扶助世帯の方で可処分所得が上回ってしまい,いつまでも公的扶助から抜け出せないことをいう。
5 生活保護世帯の子どもが成長し,再び生活保護世帯になるという貧困の連鎖については,日本では確認されていない。


第31回の正解は,選択肢1
第27回の正解は,選択肢1

第28回・問題26 貧困・所得格差に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 OECDにおける相対的貧困率は,等価可処分所得の平均値の50%未満の所得層が全人口に占める比率を指す。
2 ジニ係数の値が1に近いほど,所得格差は小さい。
3 平均所得の実質額が低下しジニ係数の値が上昇すれば,社会の構成員の満足の総和は上がる。
4 「平成25年国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると,「子どもがいる現役世帯」のうち,「大人が一人」の世帯員では,相対的貧困率は50%を超える。
5 「平成25年国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると,1997年(平成9年)以降,相対的貧困線の実質値は一貫して上昇している。


ここでもジニ係数が出題されています。

ジニ係数は,国試では,第19回,第26回,第27回,第28回,第29回に出題されている出題確率は,近年極めて高いものです。

しかも科目を超えて出題されています。

この問題は実は,とても重要な問題です。

第31回・問題63 低所得者の状況などに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 「平成26年全国消費実態調査所得分布等に関する結果」(総務省)によると,1999年(平成11年)から2014年(平成26年)にかけて,貧困かどうかを判断する貧困線(等価可処分所得の中央値の半分の額)が上昇している。
2 「平成26年所得再分配調査報告書」(厚生労働省)によると,2002年(平成14年)から2014年(平成26年)にかけて,所得再分配後のジニ係数は上昇傾向にある。
3 「平成28年度被保護者調査」(厚生労働省)によると,2012年度(平成24年度)から2016年度(平成28年度)にかけて,世帯類型別被保護世帯数のうち母子世帯の割合は上昇している。
4 「生活困窮者自立支援制度における支援状況調査集計結果(平成29年度)」(厚生労働省)によると,新規相談受付件数は年間30万件を超えている。
5 「平成29年度医療扶助実態調査」(厚生労働省)によると,医療扶助受給者の入院に係る傷病分類別構成割合のうち最も多いのは精神・行動の障害である。


この問題の選択肢2につながっています。

この問題はとても難しい問題です。正解は選択肢5だからです。

しかし,選択肢2を消去できれば,正解に近づくことができます。

消去法は,確実な知識を持っているからこそ使える解答テクニックです。


<今日の一言>

社会福祉士の国試は,試験センターが示す出題基準に沿って出題されています。

出題範囲は,無限ではありません。

出題基準に示されていない問題も出題されることがありますが,それは極めてまれです。

ほとんどの問題は,出題基準に沿って出題されているのです。

出題範囲は有限です。
しかし,過去3年間に出題された問題だけでは,出題基準はカバーしません。

現行カリキュラムの国試は,第22回から実施されています。
第31回では10回を数えます。

次回のカリキュラムはいつ改正されるのか,今の時点では分かりません。
しかし,第30回からの国試の出題を見ていると,終盤に入り,総まとめに入っている感じがします。

出題基準には入っているものの,今まで出題されたことがないものの出題を見受けるからです。

7問出題される科目では,3年間の過去問では21問しかありません。
この問題数で,出題基準をカバーしないことは,火を見るよりも明らかです。

もっとさかのぼって,しかも最新の制度に変えた過去問を提供してくれる学校もあります。そういったものを有効活用しましょう。

そうではない人は,古い過去問を買うのは怖いので,やっぱり参考書でしっかり覚えていくことが大切です。

2019年3月17日日曜日

第31回国試の振り返りポイント

社会福祉士の国家試験の合格発表が終わりました。

合格された方はおめでとうございます。

残念ながら合格をつかむことができなかった方は,来年の合格を目指して頑張っていきましょう。

「学習部屋」は,再受験を目指す仲間を応援するために始めたものです。

原点回帰したいと思います。

合格基準点に達することができなった人には,2つのタイプがあります。

①そもそも知識が足りなかった
②後から見たら解ける問題があり,その点数を加えると合格基準点を超えていた。

「①そもそも知識が足りなかった」

のパターンの方は,知識をつけると合格できます。

対応策が単純ではないのは,

「②後から見たら解ける問題があり,その点数を加えると合格基準点を超えていた」

のパターンの方です。

知識をつけるだけでは,壁を乗り越えることができないからです。


自分のタイプを見分ける問題


第31回・問題42 福祉行政における都道府県の役割に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 老人福祉法の規定により,特別養護老人ホームに入所させる権限を持つ。
2 介護保険法の規定により,介護保険の保険者とされている。
3 「障害者総合支援法」の規定により,介護給付の支給決定を行う。
4 児童福祉法の規定により,障害児入所施設に入所させる権限を持つ。
5 知的障害者福祉法の規定により,障害者支援施設に入所させる権限を持つ。
(注)「障害者総合支援法」とは,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。

第31回の社会福祉士の国家試験の中でも,最も重要で,基本的で,しかも複雑な問題です。

とても優れた問題です。

試験当時に戻って思い出してみてください。

答えは分かりましたか?

その時は,分からなくてもその後は答えが分かりましたか?

余談です。
社会福祉士の国試は,正しい(適切な)ものを1つ,あるいは2つ選ぶ問題で構成されています。

正しい(適切な)もの以外は,当然ながら正しくないものです。

ところが試験委員にとっては,正しくない選択肢を作るのは難しい作業です。
そこで多用されるのが,市町村と都道府県の役割を入れ替える手法です。

先ほどの問題は,知識がなければ解けない,知識があってもあいまいだと解けないというタイプの問題です。

さて,正解は,選択肢4です。

児童福祉法による障害児支援には,入所支援と通所支援があります。

入所は都道府県の役割
通所は市町村の役割

実に覚えにくいですね。

これを聞いて「?」となった人は「①そもそも知識が足りなかった」のタイプです。

これを聞いて「そうだったのよね。ど忘れしちゃった」という人は「②後から見たら解ける問題があり,その点数を加えると合格基準点を超えていた」のタイプです。

②のタイプの人は,注意して勉強を進めていかないと同じことを次回も繰り返す恐れがあります。

第31回国試に向けて,ある程度の分量がある参考書で勉強してきた人は,知識量はあったと思います。
それ以上の知識は必要ありません。

第31回国試で合格基準点を超えるために必要なのは

理解社会学
ポランニー
ヘイトスピーチ解消法
世界幸福度報告書
特定最低賃金

などの知識ではありません。

合格した人でも,これらを知っていた人はほとんどいないと思います,

知識不足だと思うと深みに入ります。
中途半端な知識では得点力は伸びません。

必要なのは,参考書に書かれたものを確実に覚えることです


例として・・・

都道府県と市町村の役割は,法制度にかかわるほとんどの科目で出題されます。
これを確実な知識にした方が,出るか出ないかわからないものを追っかけるよりも確実に得点力が高まります。

地方自治法に都道府県と市町村の役割分担の基本が規定されています。

第二条 地方公共団体は、法人とする。
○2 普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。

○3 市町村は、基礎的な地方公共団体として、第五項において都道府県が処理するものとされているものを除き、一般的に、前項の事務を処理するものとする。

○4 市町村は、前項の規定にかかわらず、次項に規定する事務のうち、その規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものについては、当該市町村の規模及び能力に応じて、これを処理することができる。

○5 都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、第二項の事務で、広域にわたるもの、市町村に関する連絡調整に関するもの及びその規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものを処理するものとする。


これでわかることは,

市町村は
基礎的な地方公共団体として事務を行う。

都道府県は
市町村の連絡調整,市町村が処理することが適当でないと認められる事務を行う。

さて,ここからが重要なところです。

規模又は性質で,市町村が適当ではないと認められるものとはどんな事務なのでしょうか。

まずは性質です。

障害児支援は,なぜ,市町村と都道府県に分かれているのでしょうか。

障害児の入所は,子どもが親と離れて生活することを意味します。
その判断は,極めて難しいものです。

そのため,都道府県が担います。

ここで得られる法則は,難しい判断が求められる事務は,都道府県の役割だということです。

介護保険法の要介護認定と障害者総合支援法の障害支援区分認定などは,難しい判断が求められますが,市町村が行う例外事例です。

次は規模です。

原発事故で非難している村や島嶼部ではない村のうち,最も規模が小さいのは,高知県の大川村です。人口は400人未満です。

この規模でできることには限界があります。

例えば,現場職員の実務者研修を実施しようと思っても,対象はたった一人しかいないかもしれません。非効率的です。

そのため,専門職の人材確保や人材育成は,都道府県が担います。

これから勉強をすすめていくときは,「規模又は性質」を意識すると良いです。

理解度は何倍にもなるでしょう。


<今日の一言>

やみくもに覚えようとしても,なかなか覚えられるものではないです。

覚え方には工夫が必要です。

特に②のタイプの方は,特に意識してみてください。

同じ勉強だと同じ失敗をする恐れがあります。

2019年3月16日土曜日

次回の国試に向けて第31回国試を振り返る

国試に合格された方はおめでとうございます。

合格は努力の結果です。

社会福祉士の国試は出題範囲が広いため,知っていたところがたまたま出た,ヤマを張っていたところが的中した,といった運で合格できるものではありません。

努力した結果としての合格です。

決して運ではありません。

合格された方へのお願い

運が良かったから自分は合格した

といったことは絶対に言わないようにしてください。

そう思うと達成動機の低い人になってしまいます。
そして何より,国試の価値を下げてしまいます。

「運が良くて・・・」と言うのは,照れもあるでしょう。

確かに運も味方してくれるでしょう。

しかし,その運は,自分が切り開いたものです。

決して誰かが与えてくれたものではありません。

努力の結果,合格したのだ

こう思うと達成動機の高い人になります。

堂々とこう言ってください。

そしてこれから社会福祉士を目指す人に正しい努力を伝えていただきたいと思います。

過去3年間の過去問を3回解けば合格できる試験ではないことは,合格した多くの人が知っています。

ぜひ

私は,努力したから合格した

と言ってください。

チームfukufuku21からのお願いです。

合格基準点が下がったから合格したのではありません。
合格する実力をもって国家試験に臨んだからこそ合格できたのです。


残念ながら,合格できなかった方は,ちょっとだけ点数が足りなかっただけです。

この学習部屋に訪れていただいている多くの人は,知識量は合格した人とそれほど変わらなかったと思います。

今回の国試では努力は実りませんでしたが,努力は必ず次回に実ります。

今の国試は正しい努力をした人は合格できる問題となっています。

今はとても悔しいと思いますが,受験した時の思考を覚えている間に,必ず振り返りしましょう。

その結果として,いくつも残念なことが見つかるかもしれません。

例えば

最初に選んだ答えを変えたために間違った
問題を読み間違った

などです。

その現実を知ることは,とても辛いことかもしれません。
振り返りを行っても同じ問題は出題されないので無駄だと思うかもしれません。

しかし

最初に選んだ答えを変えたために間違った
問題を読み間違った

といった傾向は,必ず次回も起きます。

確実な知識をつけることは大切ですが,正解できるための思考のプロセスを身につけることも意識すると確実に得点力はアップします。

辛い思いは,努力した証拠です。


第31回の国試結果の特徴は,複数回受験された方の合格率があまり高くないことが挙げられます。

第30回国試の悪い影響が出たように思います。

というのは,第30回の合格基準点が99点になってしまったことで,そんな難しい試験は合格できない,と思ってしまいませんでしたか?

国試の合格基準点は,国試問題の難易度によって補正されます。

合格率の調整も行われるので単純ではないですが,

第30回国試で99点だった人も第31回国試で89点だった人も実力は一緒です。

国試の合格基準は6割程度なので,勉強する内容が変わることはありません。

合格基準点が上下するとそれに振り回されがちになりますが,それは点数を絶対値として見ているためです。

難易度で補正されなかったら,受験生はものすごく不利になります。

慎重に出題したつもりでも,意図通りにならなかった場合,特に難しくなってしまった場合,合格するのはとても難しくなってしまうからです。

振り返りの方法は次回から詳しくお伝えします。

ご期待ください。


<今日の一言>

第31回国試の結果
合格率 28.9% 合格基準点 89点

試験センターが理想とするのは,合格率30%,合格基準点90点だと推測しています。
第26回以降は,それにチャレンジしてきた歴史です。

合格基準点が公表された第15回以降,第31回国試が最もそれに近い数値です。

ようやくその着地点を見つけることができたのではないでしょうか。

次のカリキュラム改正はいつのことになるのかは,現在のところまったくわかりません。
しかし,そこに向けた国試データの準備は,どんどん進んでいます。

2019年3月15日金曜日

「第31回社会福祉士国家試験合格発表」の日です

平成とともに始まった社会福祉士の国家試験の平成最後の合格発表の日です。

トピック的な内容はすぐ情報が古くなってしまいますが,合格発表だけはやっぱり特別です。

国試当日に結果は既に決まっています。

国試を受験した後には,国試に関して様々な感想が聴かれます。

しかし個人の感想を集めても,その国試がどうであったのかを伺い知ることは不可能です。

なぜなら国試は,難しい問題や超簡単な問題が混在しているので

難しい問題に着目すると

「難しかった」

簡単な問題に着目すると

「簡単だった」

という感想になるからです。


国試の難易度は,主観的なものではなく,客観的なデータで計られなければなりません。

試験センターは,受験者の詳細なデータは示しませんが,得点分布がどうなっているのかはとても興味のあるところです。

社会福祉士の国家試験は,合格者よりも不合格者の方が多いです。
決して簡単なものではありません。

しかし予測するのは,合格基準点を中心にプラスマイナス10点の範囲に8~9割程度の人が入っているのではないかということです。

プラスマイナス5点に絞っても5割程度の人が分布しているのではないかとも予測されます。

つまり受験者全体の点数の差はほとんどないということです。

合格する人は数点の差で合格する
不合格の人も数点の差で不合格になる

本当に数点の差が結果を大きく分けます。


次のカリキュラム改正について,現時点でもまだ発表されていないので,第32回からすぐ変わるということはありませんが,第31国試は転換期に位置づけられるものです。

その一つは,第26~30回国試の安定期には,国試の文字数を減らしてきましたが,第31回ではそれにピリオドを打って,文字数を増やしたことです。

合格基準点も合格率も転換期に位置すると思います。

第31回の傾向が,今後の傾向に引き継がれていくことと思います。

それが事実かどうかは,後の時代の人が判断してくれることでしょう。

ということで,合格発表の朝の雑感でした。

真面目に勉強してきた多くの方が合格をつかむことができることをお祈りしています。

※今日の問題はお休みします。

2019年3月14日木曜日

第32回国試に合格できる勉強法

現時点での直近の国家試験は,第31回です。

平成最後の合格発表直前です。
受験された方は,ドキドキ感が高まってきていることでしょう。

国家試験に合格するのは決して簡単なものではありません。

合格できるためには

出題基準に沿って,勉強を積み重ねること

3年間の過去問を繰り返して勉強することで合格できるものではありません。

勉強は大変ですが,決して深い知識は問われないので,ひたすら勉強すれば合格できる実力はつきます。


ある程度の分量がある参考書なら,どれでも良いです。

本屋さんで実際に自分の目で見て,覚えやすいものを選ぶのがコツです。

大切なことは,一つ購入したらひたすらそれを繰り返すことです。

あの人が良いと言ったから,その参考書を買う
別のあの人が良いと言ったから,その参考書を買う

こういった行為はとても危険です。

ネットの情報も参考書選びの参考になるかもしれませんが,国試は3割程度の人しか合格できません。
同じものを使っても合格できる人とできない人がいる事実を忘れてはなりません。

どのように覚えるかが一番大切なことです。

第32回国試を受験される予定の多くの人はまだ試験勉強は始めていないでしょう。

その理由は,新しい参考書がまだ発売されていないからです。

しかし,新しい参考書でなくても勉強はできます。
最新の制度改正はほとんど出題されないからです。

数字だって,ざっくりしか出題されないので,最新の数字にアップデートした知識は必要とされません。

合格発表後には,参考書の中古本がネットにたくさん出回ります。

それらを購入して勉強を始めるのも良いでしょう。

2018年に制度改正があったもので,第31回国試に出題されたものは,おそらく一つだけです。

それでさえ,消去法で答えられます。

国試の実態を知らない人は,

最新の参考書で勉強した方が良い

変わったところが出題されるよ

といった,でたらめなアドバイスをするので注意が必要です。

※今日の問題はお休みします。

2019年3月13日水曜日

ソーシャルワークはどのように発展したの?

社会福祉士は,社会福祉士及び介護福祉士法に規定された国家資格です。

社会福祉士=ソーシャルワーカー

ではありません。

しかし,社会福祉士がソーシャルワーカーであると仮定するなら
ソーシャルワークの発展過程は知らなければなりません。

発展過程を学ぶことは,実務には直結しないかもしれません。

しかし,ソーシャルワーカーが専門職であるためには,ソーシャルワーカーとしての独自文化があることが必要です。

文化はすぐできるものではありません。

時間をかけて醸成されるものでしょう。

発展過程を学ぶことは,ソーシャルワーカーが専門職であるために必要です。

専門職同士が了解し合える文化の一つがソーシャルワークの歴史だと考えます。

実務に関係ないから,歴史は学ぶ必要はない

と考えるなら,専門職であることを放棄しています。

それでは今日の問題です。


第22回・問題86 ソーシャルワークの形成過程に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 慈善組織協会は,慈善活動による救済の偏りを防止するために設立され,貧困の原因を社会の構造に求めて,貧困者に対する救済を社会の義務ととらえていた。

2 セツルメント運動は,大学生たちが貧困地区に住み込むことによって展開され,貧困からの脱出に向けて,勤勉と節制を重視する道徳主義を理念とした。

3 YMCAは,キリスト教の信仰を深める青年運動として始められ,個別面接を繰り返すことによって,心理的な側面を重視した面接技法の体系化を進めた。

4 リッチモンド(Richmond,M.)の提案に基づいて,ニューヨークで6週間に及ぶ博愛事業に関する講習会が初めて開催され,専門教育へと発展していった。

5 フレックスナー(Flexner,A.)によって「ソーシャルワークはすでに専門職である」と結論づけられ,専門性が社会的に認知されるきっかけとなった。


古い出来事を学んで何になるのか

と思う人もいるかもしれません。

しかし,過去の連続で現在があります。

積み重ねてきた知恵,実践は,現在も生かせることはたくさんあります。

ゼロからスタートするよりも,そういったものを参考にしながら,独自に考えていったほうがより深まるということもあります。

その領域の歴史は,その領域の人の共通財産と言えるでしょう。

それでは,一緒に発展過程を学んでいきましょう。


1 慈善組織協会は,慈善活動による救済の偏りを防止するために設立され,貧困の原因を社会の構造に求めて,貧困者に対する救済を社会の義務ととらえていた。


これから何度も慈善組織協会(COS)は目にすることがあるでしょう。

少しずつ理解を深めてほしいと思います。

古典的な福祉ニーズは,貧困です。

特に,産業化(工業化)が進展することにより,生産するための資産をもつ資本家と資産を持たない労働者が生まれていきます。

現在は,多くの法制度で労働者が保護されていますが,国はできるだけ国民生活にかかわらない古典的な自由主義が支配していた時代があります。

自由は,市民が勝ち取った権利だからです。

現代では,福祉国家が形成されているので,国民生活を守るのが国の役割という意識が普通でしょう。

福祉国家も過去の学びから出来上がったものです。

COSは,問題文にあるように,慈善活動による救済の偏りを防止するために設立されたものです。

イギリスでは地区訪問員,アメリカでは友愛訪問員と呼ばれた訪問活動が,ケースワークに発展し,またアウトリーチの原型でもあります。

しかしこの時代は,貧困に陥る原因は,個人の問題だと捉えていました。

貧困の原因が社会構造にあることが明らかにされていくのは,ブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査がきっかけです。

まだまだ先の出来事です。


2 セツルメント運動は,大学生たちが貧困地区に住み込むことによって展開され,貧困からの脱出に向けて,勤勉と節制を重視する道徳主義を理念とした。


これも間違いです。

COSは,貧困の原因は,個人の問題だと捉えていました。

セツルメントは,貧困は社会問題だと捉えていました。

セツルメントは移住を意味しています。知識階級が貧困地区に移住し,貧困者とともに生活することで,問題の解決を目指しました。貧困からの脱出に必要なのは,教育と環境です。それは今も昔も変わりません。

そのために,日本では,生活困窮者自立支援法に基づいて,学習支援事業が行われています。


3 YMCAは,キリスト教の信仰を深める青年運動として始められ,個別面接を繰り返すことによって,心理的な側面を重視した面接技法の体系化を進めた。


これも間違いです。

個別面接を繰り返すことによって,心理的な側面を重視した面接技法の体系化を進めたのはCOSです。これがケースワークの発展につながっていきます。

YMCAは,グループワークの源流となった活動です。


4 リッチモンド(Richmond,M.)の提案に基づいて,ニューヨークで6週間に及ぶ博愛事業に関する講習会が初めて開催され,専門教育へと発展していった。


これが正解です。

リッチモンドは,アメリカCOSの活動にかかわり,ケースワークを理論化します。

その功績で,ケースワークの母と呼ばれます。

リッチモンドは,ケースワークを

人と環境の間を,個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる諸過程である

と定義しています。

「意識的に」とは,「意図的に」を意味し,ケースワークの科学性を追求していきます。

リッチモンドは,環境を強く意識していたことをよく覚えておいてください。


5 フレックスナー(Flexner,A.)によって「ソーシャルワークはすでに専門職である」と結論づけられ,専門性が社会的に認知されるきっかけとなった。


これも間違いです。

ソーシャルワークの専門職性に言及したものとして,次の2つが国試で出題されます。


ソーシャルワーカーはいまだ専門職ではない(1915年)

フレックスナーが述べたものです。

その理由は,専門職に共通の条件がないことです。


ソーシャルワークは既に専門職である(1957年)

グリーンウッドが述べたものです。

その理由は,次のものが備わっていることが専門職の条件であり,ソーシャルワーカーには,専門職であると結論づけました。

・体系的理論
・専門職的権威
・社会的承認
・倫理綱領
・専門職的副次文化

フレックスナーからグリーンウッドまで実に40年もの歳月が流れています。

そしてようやくソーシャルワークが専門職となったのです。


<今日の一言>

副次文化は,サブカルチャーの訳語です。

現代のサブカルチャーは,サブカルと略されてアニメやマンガ本を指すことが多いですが,もともとの意味は,主流文化に対するものです。

ソーシャルワークの主流文化は,ソーシャルワーク技術の研鑽など。

副次文化は,権利擁護の意識などでしょう。

その下支えとなるものの一つが歴史ではないでしょうか。

2019年3月12日火曜日

2007年社会福祉士及び介護福祉士法改正のポイントって何?

社会福祉士及び介護福祉士法は,1987年にできたもので,その後何度も改正して現在に至ります。

最も大きな改正は,2007年改正です。

この改正の背景には,

介護・福祉ニーズの多様化・高度化に対応し,人材の確保・資質の向上を図ることが求められてきたこと

があります。

この改正で,社会福祉士の定義に連携が加わりました。

これによって,相談援助と関係者との連絡・調整が社会福祉士の業務となったのです。

この時に,社会福祉士の義務等に「誠実義務」と「資質向上の責務」が加わっています。

それでは今日の問題です。

第22回・問題84 平成19年の社会福祉士職及び介護福祉士法の改正における社会福祉士の役割への期待に関する次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。

1 社会福祉施設内における入所者及び職員の人間関係を調整できる社会福祉士が求められるようになった。

2 関係機関やボランティア等との連携を行い,利用者の自立生活を地域で総合的かつ包括的に支える社会福祉士の役割が期待されるようになった。

3 クライエントの心理的な側面に働きかけるケースワークの意義が,再び見直されるようになった。

4 地域における介護の担い手として,社会福祉士が期待されるようになった。

5 市民やボランティアが,社会福祉士の資格をもつことが期待されるようになった。


落ち着いて問題文を読まなければ,正解するのは簡単ではない問題です。

法制度は,法制度を確実に覚えれば正解することができますが,こういった問題は,思考力が求められるものです。

それでは解説です。


1 社会福祉施設内における入所者及び職員の人間関係を調整できる社会福祉士が求められるようになった。

これは間違いです。

調整という文字が入っているので,思わず飛びつきそうな選択肢です。

入所者や職員の人間関係の調整も円滑な施設運営のためには必要なことでしょう。

しかしそれは必ずしも社会福祉士が担うものではないでしょう。


2 関係機関やボランティア等との連携を行い,利用者の自立生活を地域で総合的かつ包括的に支える社会福祉士の役割が期待されるようになった。


これが正解です。

社会福祉士及び介護福祉士法の制定当時から改正時点で大きく変わったことは,サービス利用が措置から契約に代わり,今まで以上に権利擁護が求められるようになったことです。

権利擁護は,ソーシャルワークの機能の一つです。

社会福祉士のもつ力が発揮できるように時代が近づいてきたと言えます。


3 クライエントの心理的な側面に働きかけるケースワークの意義が,再び見直されるようになった。


これは間違いです。

ソーシャルワークには

ケースワーク
グループワーク
コミュニティワーク

があり,それぞれが発展してきました。

旧カリキュラム時代の国試は,現在の相談援助に関連する科目に「社会福祉援助技術」という科目があり,その当時は,この3つがバランスよく出題されてきました。

21世紀の福祉は,地域福祉の時代です。

これらを背景として,現在求められるのは,コミュニティ・ソーシャルワークです。

コミュニティワークとコミュニティ・ソーシャルワークの違いは,コミュニティワークは地域組織化活動と呼ばれるコミュニティ・オーガニゼーションなどの間接援助技術ですが,コミュニティ・ソーシャルワークは,地域を基盤とした直接援助技術です。

コミュニティ・ソーシャルワークは,1982年にイギリスのバークレイ報告で提唱されています。


4 地域における介護の担い手として,社会福祉士が期待されるようになった。


これも間違いです。

21世紀は,地域福祉の時代です。

だからといって地域における介護の担い手としての役割が期待されているわけではありません。


5 市民やボランティアが,社会福祉士の資格をもつことが期待されるようになった。

これも間違いです。

社会福祉士の資格を持つ市民やボランティアは貴重な存在かもしれません。

しかし社会福祉士は,相談援助の専門職です。

誰もが資格取得を目指せるような養成カリキュラムにはなっていません。

市民には市民として担う役割があるでしょう。


<今日の一言>

クライエントを支えるチームの一員として活動することもありますが,社会福祉士の活動は,多くの場合,自分で判断し行動しなければなりません。

国試は,社会福祉士に必要な素養を問います。

記憶力に秀でただけの社会福祉士は必要ありません。
その瞬間その瞬間で的確な判断が求められます。

国試にもそれが求められます。
後から解説を読めば分かるではだめなのです。

初見でいかに判断できるか

これこそが大切なところです。

2019年3月11日月曜日

社会福祉士って何をするの?

社会福祉士は「社会福祉士及び介護福祉士法」に規定された国家資格です。

介護福祉士は「介護を行う人である」と誰もが分かります。

しかし,一般の人に聞いたら,

そんな資格があるんだ

とか

名前は聞いたことがあるけれど,何をする人なのかまでは分からない

といった答えが返ってくるのではないでしょうか。

「知る人ぞ知る」といった資格なのかもしれません。

第30回,第31回と2回続けて2,000人ずつ受験者が減っているのが,とても気になるところです。

社会人ルートで社会福祉士を目指す人の基礎資格は,ケアマネジャーが最も多いと思われます。

ケアマネジャーの受験者も減ってきているので,将来的に社会福祉士を目指す人も減るのではないか,ということも懸念されるところです。


社会福祉士及び介護福祉士法で,社会福祉士は以下のように定義されています。

「社会福祉士」とは,社会福祉士の名称を用いて,専門的知識及び技術をもって,身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ,助言,指導,福祉サービスを提供する者又は医師その他の保健医療サービスを提供する者その他の関係者との連絡及び調整その他の援助を行うことを業とする者をいう。


社会福祉士は,福祉が必要な人への相談援助,福祉サービス関係者等との連絡・調整などを行う者である,ということが分かります。

これが今日の問いの答えです。

専門職でなくても,相談・助言等は行うでしょう。

専門職が行う相談援助とどこが違うのでしょうか?

そのヒントは,「ソーシャルワークのグローバル定義」にあります。

それはまたの機会に紹介したいと思います。


さて今日の問題です。


第31回・問題91 社会福祉士及び介護福祉士法に規定されている社会福祉士に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 相談援助に関する知識と技能の向上に努めなければならない。

2 診療の補助として喀痰吸引業務を行うことができる。

3 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し,その結果を分析することを業とする。

4 資格更新のため所定の講習を受講しなければならない。

5 相談援助の業務を独占的に行う。


またまたおなじみのものが出題されましたね。

今までは,精神保健福祉士に絡めた問題でしたが,今回は目新しいものが含まれています。

それでは解説です。


1 相談援助に関する知識と技能の向上に努めなければならない。


これが正解です。

社会福祉士の責務の一つの「資質向上の責務」です。


2 診療の補助として喀痰吸引業務を行うことができる。


これは間違いです。

平成28年以降の国試に合格した介護福祉士は,医師の指示のもとで,喀痰吸引業務が行えるようになりました。

貴重な資格である社会福祉主事任用資格が取得できた介護福祉士養成校もあったのですが,カリキュラムに「医療的ケア」が含まれたために,社会福祉主事の養成をやめてしまった養成校が多くなったのは,とても残念に思います。

カリキュラムがパンパンになってしまうので致し方ないことなのでしょう。


3 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し,その結果を分析することを業とする。


これも間違いです。

この規定があるのは「公認心理師」です。

この資格は,心理系の人にとって念願の国家資格です。

2018年に第1回の国試が実施されたばかりのホカホカの新資格です。
今後は,福祉現場で連携を取ることも出てくることでしょう。


4 資格更新のため所定の講習を受講しなければならない。


これも間違いです。

毎回出題されていますが,国家資格に資格更新のために講習の受講が必要なものは存在しません。


5 相談援助の業務を独占的に行う。


これも間違いです。

社会福祉士は,名称独占の資格ですが,業務独占の資格ではありません。


<今日の一言>

増加する外国人,ひきこもり,そして児童虐待など,新しい社会問題はどんどん発生します。

こういった問題は,単一の福祉ニーズではなく,様々なものが複雑に絡み合って発生します。そのため,問題解決のために多職種がかかわることになるでしょう。

社会福祉士は,相談援助の専門職であると同時に,福祉サービス関係者等の連絡・調整を行う専門職でもあります。

転職することがなくても,現在の職場でも,社会福祉士として学んだことを活かせる場面は必ずあります。

時代がようやく資格に追いついてきたと言えるのではないでしょうか。

2019年3月10日日曜日

社会福祉士は業務独占? それとも名称独占?

社会福祉士は,「社会福祉士及び介護福祉士法」に規定された国家資格です。

「社会福祉主事」を名刺に入れている人がいますが,社会福祉主事は,福祉事務所に配置される公務員です。

福祉事務所に配置されない場合は,「社会福祉主事任用資格」と入れるのが正式です。

社会福祉主事は,戦後にできた誇り高き制度です。

保護事務は,救護施設では方面委員,旧生活保護法では方面委員から名称が変わった民生委員が実施しました。

ところが民生委員は今と同じく,基本は民間ボランティアのようなものです。

そこに専門職として,社会福祉主事が誕生しました。

福祉の専門職の誕生です。

このほかには,査察指導員,老人福祉指導主事,身体障害者福祉司,知的障害者福祉司,児童福祉司などが社会福祉主事任用資格を持つ者の中から任用されます。

民間でも社会福祉主事任用資格を持つ者を任用するものがあります。

例えば,施設長,生活相談員,福祉活動専門員などです。

福祉の国家資格は存在しなかったため,主事資格をそれらに適用していたのです。
そのため,民間でも主事資格は,現在でも貴重な資格となっています。

そして,国家資格として,社会福祉士が誕生します。
それでも,主事資格はいまだに貴重な資格であることには変わりません。

さて,国家資格の多くは免許ではないので,名称独占であるのが大半です。
免許とは,その業務を行うことを許可するものです。

医師,看護師など古くからある国家資格は,業務独占の性格を持っているので,医師免許,看護師免許といった言い方がされます。

それに対して,社会福祉士は,社会福祉士免許とは言いません。業務独占ではないからです。

「社会福祉士及び介護福祉士法」では,

社会福祉士でない者は,社会福祉士という名称を使用してはならない。

と規定されています。

しかし

社会福祉士でない者は,相談援助の業務を行ってはならない。

という規定はありません。


今日の問いである「社会福祉士は業務独占? それとも名称独占?」の答えは

「名称独占」ですが,「業務独占」ではない

です。


なぜあなたは業務独占ではない社会福祉士の資格を取ろうとしているでしょうか?

人によって,様々な理由があるでしょう。

1年後の資格取得に向けて,今一度自分自身に問いかけてみてはいかがでしょうか。

それほど資格取得を欲していなかったら,受験をやめるのも一つの方法です。

「資格を必ず取得するのだ」という強い意志がなければ,勉強を続けるのは難しいです。

しかし,少しでも資格を取りたい気持ちがあるなら,あきらめるのはもったいないです。

本当はそれほど欲しい資格ではなかった。だから受験をやめる。

と思うのは「合理化」です。

社会福祉主事も貴重な資格であることは,昔も今も変わるものではありません。
しかし一定科目を履修すれば取得できる資格です。

社会福祉士は,厳しい試験を潜り抜けてきた人だけが得られる資格です。

名刺に肩書を入れることも意味がありますが,それ以上に,ジェネラリストとして,社会福祉全体を知っていることに意味があります。

その分,試験は難しくなりますが,「資格を必ず取得するのだ」という強い意志があれば,決して資格取得は難しいものではありません。

ぜひ,今一度自分に問いかけてみてください。

正しい勉強法で,正しく理解すれば,必ず合格できます。

前置きが長くなりましたが,今日の問題です。


第30回・問題91 社会福祉士及び介護福祉士法で定められている社会福祉士の業務と義務に関する次の記述のうち,正しいものを2つ選びなさい。

1 社会福祉士でなければ社会福祉士の名称を用いて業務を行ってはならない。

2 業務を行う上で主治医の指示を受けなければならない。

3 5年ごとに更新のための研修を受けなければならない。

4 秘密保持の義務は,社会福祉士でなくなった後においては適用されない。

5 業務を行うに当たり,福祉サービス関係者等との連携を保たなければならない。


第30回の国試らしく,とても素直な問題だと思います。

しかし,だからと言って必ずしも正解できるとは限らないのが,国試の怖いところです。
最も怖いのは,勘違いです。

普段は冷静に文章が読める人でも,国試会場の中では,勘違い,思い違い,読み間違い,見落としなど多くのことが起きます。

第31回・問題35はいかにもそんな問題です。

国試直後に各社から解答速報を出しますが,選択肢2を正解にした大手出版社があります。
この問題の答えは合格発表まで分かりませんが,少なくとも選択肢2は明らかに間違いです。

この問題の解答を担当した専門家でさえ,読み間違いすることがあることをよく物語っている例だと思います。

まして,試験会場では本当によく起きます。

こういうミスをしないためには,問題を解く練習が欠かせないのです。


特に正解を2つ選ぶ問題は要注意です。

それでは解説です。


1 社会福祉士でなければ社会福祉士の名称を用いて業務を行ってはならない。

これは正解です。

社会福祉士は名称独占の国家資格です。


2 業務を行う上で主治医の指示を受けなければならない。


これは間違いです。

またまた出題されましたが,この規定に似たものがあるのは「精神保健福祉士」です。

ただし,精神保健福祉士が主治医から受けなければならないのは「指導」であり,「指」ではありません。

社会福祉士にはこういった規定はありません。

精神障害者は,精神疾患と精神障害を同時に持っていることが特徴です。

身体障害などのように,治療が終わり,障害が固定されることによって,障害者として認定されるのとは違いです。

そのために,精神保健福祉士には,社会福祉士に規定されない「主治医の指導を受けなければならない」という規定が必要なのです。


3 5年ごとに更新のための研修を受けなければならない。

これも間違いです。

社会福祉士に限らず,更新研修が定められている国家資格は,今のところ存在していません。


4 秘密保持の義務は,社会福祉士でなくなった後においては適用されない。


これも間違いです。

秘密保持義務
正当な理由がなく,その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。社会福祉士でなくなった後においても,同様とする。

と規定されています。


5 業務を行うに当たり,福祉サービス関係者等との連携を保たなければならない。


これは正解です。

連携
その業務を行うに当たっては,その担当する者に,福祉サービス及びこれに関連する保健医療サービスその他のサービスが総合的かつ適切に提供されるよう,地域に即した創意と工夫を行いつつ,福祉サービス関係者等との連携を保たなければならない。

と規定されています。


<今日の一言>

社会福祉士の国試は,合格率が示している通り,誰もが簡単に合格できるものではありません。

しかし,正しい勉強,正しい理解を一つひとつ積み重ねていけば,必ず資格取得はできます。

だからこそチームfukufuku21は,本気で社会福祉士を目指す人を応援しているのです。

2019年3月9日土曜日

社会福祉士及び介護福祉士法に規定される社会福祉士の責務って何?

社会福祉士は,社会福祉士及び介護福祉士法に規定される国家資格です。

同法では以下のようなものが規定されています。


誠実義務
その担当する者が個人の尊厳を保持し,自立した日常生活を営むことができるよう,常にその者の立場に立って,誠実にその業務を行わなければならない。

信用失墜行為の禁止
信用を傷つけるような行為をしてはならない。

秘密保持義務
正当な理由がなく,その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。社会福祉士でなくなった後においても,同様とする。

連携
その業務を行うに当たっては,その担当する者に,福祉サービス及びこれに関連する保健医療サービスその他のサービスが総合的かつ適切に提供されるよう,地域に即した創意と工夫を行いつつ,福祉サービス関係者等との連携を保たなければならない。

資質向上の責務
社会福祉を取り巻く環境の変化による業務の内容の変化に適応するため,相談援助等に関する知識及び技能の向上に努めなければならない。


今日の問いである「社会福祉士の責務って何?」の答えは,

①誠実義務
②信用失墜行為の禁止
③秘密保持義務
④連携
⑤資質向上の責務

の5つです。

この後に,名称使用の制限が規定されています。

社会福祉士及び介護福祉士法に関する出題があるときは,必ずこれらを含めて出題されます。

これらの責務を果たさなかった場合に,社会福祉士及び介護福祉士法に罰則規定があるのは,秘密保持義務のみです。

秘密保持義務違反の場合の罰則
一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

信用失墜行為の禁止は,同法では罰則がありませんが,実際には名称剥奪等の処分がなされることもあります。しかし,社会福祉士及び介護福祉士法には,罰則は規定されていません。

それでは今日の問題です。


第29回・問題91 社会福祉士及び介護福祉士法に規定されている社会福祉士に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 社会福祉士の名称使用は,登録後でなければならない。

2 業務を行うに当たっては,クライエントの主治医の指導を受けなければならない。

3 専門性の維持・向上を目的として,資格更新研修を受けなければならない。

4 所属する勤務先の立場を優先して業務を行わなければならない。

5 資質向上の責務として,相談援助に関わる後継者の教育指導に努めなければならない。


前回紹介した問題と重なっている内容もありますね。
出題ポイントが決まっているのが分かるでしょう。

「相談援助の基盤と専門職」は,19科目ある科目の中では,中心をなすものです。

国試で出題される内容は,決して簡単ではありません。

しかし,社会福祉士を目指す者としては,この科目は本当に重要です。

ぜひ得意になってほしいと思います。

この科目で0点なんて取ることがあってはなりません。


それでは解説です。


1 社会福祉士の名称使用は,登録後でなければならない。

これが正解です。

社会福祉士は,試験に合格した後,社会福祉士登録簿に登録しなければなりません。

合格通知が届いた後,すぐ手続きすれば,4月初旬には社会福祉士登録証が届きます。

そうすると念願の「社会福祉士」の名前を使うことができます。


2 業務を行うに当たっては,クライエントの主治医の指導を受けなければならない。

これは間違いです。

これと似た規定は精神保健福祉士にはありますが,社会福祉士にはこのような規定はありません。

精神保健福祉士法では,

精神保健福祉士は,その業務を行うに当たって精神障害者に主治の医師があるときは,その指導を受けなければならない。

と規定されています。


社会福祉士は,その業務を行うに当たってクライエントに主治の医師があるときは,その指導を受けなければならない。

は間違いですが,

精神保健福祉士は,その業務を行うに当たって精神障害者に主治の医師があるときは,その指導を受けなければならない。

は正解となります。

実際には,今までこのような引っ掛けは一度も出題されたことはありませんが,出題基準には,「精神保健福祉士法」も含まれているので,注意が必要です。


3 専門性の維持・向上を目的として,資格更新研修を受けなければならない。


これも間違いです。

社会福祉士を始めとして,国家資格には更新制のあるものはありません。

更新制のあるのは,民間資格か,都道府県知事などから交付される「免許」です。


4 所属する勤務先の立場を優先して業務を行わなければならない。


これも間違いです。

誠実義務として,

その担当する者が個人の尊厳を保持し,自立した日常生活を営むことができるよう,常にその者の立場に立って,誠実にその業務を行わなければならない。

と規定されています。

常にクライエントの立場に立って,誠実に業務を行う義務があります。

勤務先の立場が優先されることはありません。


5 資質向上の責務として,相談援助に関わる後継者の教育指導に努めなければならない。


これも間違いです。

資質向上の責務として,

社会福祉を取り巻く環境の変化による業務の内容の変化に適応するため,相談援助等に関する知識及び技能の向上に努めなければならない

と規定されています。

後継者の教育指導に努める責務はあるかもしれませんが,それは法で定められているものではありません。

「法に規定される」という問題なのに,法に規定されないものを選んでは当然のごとく間違いとなります。

結構やりがちでから気をつけなければなりません。


<今日の一言>

先に述べたように,「相談援助の基盤と専門職」は,19科目の中心をなす科目です。

バートレットは,ソーシャルワーク実践の共通基盤として「価値」「知識」「技術(介入)」を示しました。

この科目は,まさにソーシャルワーカーとしての「価値」「知識」を学ぶものです。
難しいものもたくさんありますが,避けてはだめです。

一年後には,得意科目になることを期待しています。

そして,社会福祉士になったあともずっと追い求めていきましょう。

2019年3月8日金曜日

社会福祉士及び介護福祉士法のポイント~更新制のある国家資格はあるの?

社会福祉士は,「社会福祉士及び介護福祉士法」に規定される国家資格です。

一度くらいは目を通すことをおすすめします。

ボリュームのある法律ではありませんし,介護福祉士に関する部分と試験センターに関する部分があるので,社会福祉士に関する部分はそれほど多くはありません。

現行カリキュラムで出題されたのは,以下の内容です。

第24回 社会福祉士の義務
第27回 法改正にかかわるもの
第29回 法規定全般
第30回 業務と義務
第31回 法規定全般

第27回を除けば,義務を含む法規定全般が出題されていることがわかります。

第29回の出題は

問題91社会福祉士及び介護福祉士法に規定されている社会福祉士に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 社会福祉士の名称使用は,登録後でなければならない。
2 業務を行うに当たっては,クライエントの主治医の指導を受けなければならない。
3 専門性の維持・向上を目的として,資格更新研修を受けなければならない。
4 所属する勤務先の立場を優先して業務を行わなければならない。
5 資質向上の責務として,相談援助に関わる後継者の教育指導に努めなければならない。

第31回の出題は

問題91 社会福祉士及び介護福祉士法に規定されている社会福祉士に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 相談援助に関する知識と技能の向上に努めなければならない。
2 診療の補助として喀痰吸引業務を行うことができる。
3 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し,その結果を分析することを業とする。
4 資格更新のため所定の講習を受講しなければならない。
5 相談援助の業務を独占的に行う。

それほど難解なものではないと思いますが,これらの問題は後日改めて紹介したいと思います。

それでは,今日の問題です。


第24回・問題84 社会福祉士及び介護福祉士法に定められた社会福祉士の義務に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 クライエントが施設を離れて地域で自立生活を営めるよう,その業務を行わなければならない。

2 専門性の維持・向上を目的として,5年に一度の資格更新研修を受けなければならない。

3 クライエントに関する秘密保持の義務は,社会福祉士でなくなった後においては適用されない。

4 その業務を行うに当たり,福祉サービス関係者等との連携を保たなければならない。

5 クライエントに主治の医師があるときは,その指導に従わなければならない。


同じようなものが繰り返し出題されていることがわかるでしょう。

出題ポイントは限られているのです。

それでは解説です。


1 クライエントが施設を離れて地域で自立生活を営めるよう,その業務を行わなければならない。

これは間違いです。

これに似た規定は,精神保健福祉士の業務に規定されています。

精神保健福祉士は,精神科病院その他の医療施設において精神障害の医療を受け,又は精神障害者の社会復帰の促進を図ることを目的とする施設を利用している者の地域相談支援の利用に関する相談その他の社会復帰に関する相談に応じ,助言,指導,日常生活への適応のために必要な訓練その他の援助を行うことを業とする者をいう。
つまり,精神保健福祉士は,地域相談支援,社会復帰に関する相談を行う者であることが明記されているのです。


社会福祉士は,以下のように規定されています。

社会福祉士は,身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ,助言,指導,福祉サービスを提供する者又は医師その他の保健医療サービスを提供する者その他の関係者との連絡及び調整その他の援助を行うことを業とする者をいう。

つまり,社会福祉士は,相談援助と連絡・調整を行う者です。

精神保健福祉士とは,大きく違うのがよくわかるでしょう。


2 専門性の維持・向上を目的として,5年に一度の資格更新研修を受けなければならない。

これも間違いです。

社会福祉士を含めて,国家資格に更新制のあるものはありません。


3 クライエントに関する秘密保持の義務は,社会福祉士でなくなった後においては適用されない。


これも間違いです。

秘密保持義務は,

社会福祉士又は介護福祉士は,正当な理由がなく,その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。社会福祉士又は介護福祉士でなくなった後においても,同様とする。

と規定されています。


4 その業務を行うに当たり,福祉サービス関係者等との連携を保たなければならない。


これが正解です。

連携は,

社会福祉士は,その業務を行うに当たっては,福祉サービス関係者等との連携を保たなければならない。

と規定されています。


5 クライエントに主治の医師があるときは,その指導に従わなければならない。


これは間違いです。

これに似た規定があるのは,精神保健福祉士です。

精神保健福祉士は,その業務を行うに当たって精神障害者に主治の医師があるときは,その指導を受けなければならない。

と規定されています。

「指導に従わなければならない」ではなく,「指導を受けなければならない」です。

指導は受けなくはなりませんが,その指導に必ずしも従わなければならないということではありません。

精神保健福祉士が福祉の専門職としての独自性のあるところでしょう。

また,「指導」であって,「指示」ではないことも注意ポイントです。


<今日の一言>

問題文の中には,精神保健福祉士という文言は使用されていませんが,精神保健福祉士法を意識したものが含まれていることがわかります。

他職種と比較することで,社会福祉士の役割を浮き彫りにするためだと思います。

資格の更新制のあるものの代表には,介護支援専門員があります。

これも社会福祉士と介護支援専門員の資格の違いが浮き彫りにされます。

介護支援専門員が行うケアマネジメントは,ソーシャルワークの一技法を切り取って,介護保険法に規定したものです。

更新制のある国家資格はありません。新しい国家資格である公認心理師も同様です。更新制があるのは,民間資格である認定心理士です。

更新制がないのが,国家資格の特徴であると言えるのかもしれません。

公認心理師は,創設されたばかりということもあり,まだ広く認知されているとは言えません。

そのため

公認心理師は,5年に一度の資格更新研修を受けなければならない。

といった出題がされると迷ってしまいます。

しかし「更新制のある国家資格はない」と押さえておけば,公認心理士に限らず,他の国家資格でも迷うことはありません。

国試で得点力を上げるためには,原則を覚えて,その上で例外があった場合は例外だけを押さえるのが効率的で,効果が高い覚え方ということになります。

今日のタイトルの問いの答えは

更新制のある国家資格は存在しない。
※2021/07/02追記 最近では更新制のある国家資格があるらしいです。しかし社会福祉士国試に出題されるようなメジャーどころの資格にはありません。


です。

なお,公的なもので期限が定められているものがあります。

それは国家資格ではなく都道府県知事などの「免許」です。自動車免許のように,期限を定めてその業務を行うことを許可するものです。

医師や看護師などは,免許であり国家資格です。
そのために,業務独占の資格となるのです。

2019年3月7日木曜日

社会福祉調査にインターネットは使えるの?

インターネットが一般的に使われるようになったのは,1990年代のことです。

その当時,今と違って通信するのに電話料金がかかっていました。
常時接続の定額料金のサービスができたのはそのあとです。

それから20年が経ち,今は手軽にインターネットが使える時代になりました。

インターネットに多くの人が利用することで,膨大なデータが蓄積されています。
それらは「ビッグデータ」と呼ばれます。

ビッグデータを分析する市場調査の技術を持って活用しているグーグルのような企業もあります。

社会調査に活用するためには,まだまだ課題はありますが,活用しないのはもったいないと言えます。

ビッグデータから,量的データ及び質的データの収集ができるからです。


それでは今日の問題です。


第28回・問題90 社会調査におけるコンピューターやインターネットの活用に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。

1 インターネット調査は,調査対象がインターネット利用者に限定されるため,目標母集団に照らして,調査漏れが生じやすい。

2 発言の当事者を特定できないインターネット上の掲示板の書き込みは,社会調査の分析対象として活用することができない。

3 国勢調査では,インターネットで回答することができない。

4 調査票調査の自由回答や介護記録の記述など大量の文字データの分析には,コンピューターを活用することができない。

5 国の統計データについては一つに集約されたポータルサイトが整備されている。


たった3年前の出題ですが,問題の作り方が荒いと感じます。

現在だとおそらく修正して出題されるでしょう。


それはさておき,解説です。


1 インターネット調査は,調査対象がインターネット利用者に限定されるため,目標母集団に照らして,調査漏れが生じやすい。

これは正解です。

第24回国試でも正解になったように,インターネットを使った社会調査では,母集団を代表するデータを収集するのは困難です。

インターネットにアクセスすることができる人は20年前よりも確実に増えていますが,それでも全員がアクセスできるほどではありません。


2 発言の当事者を特定できないインターネット上の掲示板の書き込みは,社会調査の分析対象として活用することができない。

これは間違いです。

掲示板の書き込みは,社会調査の分析対象として有効です。

どんなニュースに飛びついて,どんな反応をするのかが分析できます。
例えば,北朝鮮とアメリカのトップ会談について,報道されたニュースの後に国民がどのような反応を示したのか,といった分析ができます。

社会心理学,あるいは心理社会学などの研究領域にとって,掲示板の書き込みは重要な情報であふれています。


3 国勢調査では,インターネットで回答することができない。

これも間違いです。

国勢調査は,1920年に第一回調査が実施されて,10年ごとに大規模調査,その中間に調査が実施されています。

2015年の簡易調査は,インターネットでの回答を導入した記念すべき国勢調査となりました。

留置調査とインターネットを併用することで,全数調査を確保しています。


4 調査票調査の自由回答や介護記録の記述など大量の文字データの分析には,コンピューターを活用することができない。


これも間違いです。

第24回と第26回に出題されたように,文字データ(テキストデータ)を分析する「テキストマイニング」という分析方法があります。

たとえば,認知症の人の介護記録をテキストマイニングで分析することで,BPSDの要因などが明らかになる可能性をもっています。

ヒヤリハットなどのインシデントレポートでは,どのような場面でどんなことが発生しやすいのかも分析してくれます。

これらを手作業で行えばかなり手間がかかりますが,テキストマイニングのコンピューターソフトを使うことで楽に,しかも見落としてしまいそうなものも見えてくる可能性があります。

ただし,調べる単語に区切るのはコンピューターでは行ってくれないので,自分で行わなければなりません。今後はAIによって,それさえも自動化される時代がやってくるかもしれません。


5 国の統計データについては一つに集約されたポータルサイトが整備されている。


これは正解です。

総務省統計局にポータルサイトが整備されています。

総務省のポータルサイト

https://www.stat.go.jp/


「今日の問題の作り方が荒い」というのは,間違い選択肢はすべて「できない」となっています。

正解選択肢の2つはそれ以外です。

こういった作り方をすると,知識ではないもの,つまり「勘」が良い人は解けてしまう可能性が出てきてしまいます。

勉強せずとも勘の良い人が合格してしまうような資格試験は避けなければなりません。

それにもかかわらず,第31回国試では,またまた表現にばらつきが出てきています。
表現をそろえながら,正解選択肢と間違い選択肢を作るのは,とても難しいということなのでしょう。

勉強した人が,さらに得点力を高めるためには,こういったところにも着目しながら,国試に取り組むと良いと思います。


<今日の一言>

「統計は国家なり」という言葉があるように,統計は様々な意思決定を行うのに,極めて重要です。

現在は,厚生労働省が実施している基幹統計の信ぴょう性が疑問視されています。

本来は,全数調査で行わなければならないものを標本調査で実施していた問題です。

精度の高い無作為抽出を行えば,それほど母集団とずれなかったと思います。

厚生労働省は,国家予算の30%を使っている最も大きな省庁です。

再発防止のために,なぜそのようなことが起きたのか,関係者のメールや記録などをテキストマイニングで分析すると,その理由が明らかになります。そんなことはしないと思いますが・・・


インターネットはこれからもますます発展していくでしょう。

5年後,10年後にどのように発展しているのかとても楽しみです。

2019年3月6日水曜日

社会調査におけるITの活用方法

約2か月にわたって,「社会調査の基礎」に取り組んできました。

いよいよ出題基準の最後の「社会調査の実施にあたってのITの活用方法」です。

ITは,どんどんどんどん進化していますが,倫理や法規制などは,その進化に遅れます。

これを「文化遅滞」といいます。

社会調査でも,ITが用いられます。

2015年の国勢調査では,インターネットが使われたことは記憶に新しいところかもしれません。

「社会調査の実施にあたってのITの活用方法」が出題されたのは,第24回と第28回の2回です(第26回に選択肢の1つのちょこっと出題を合わせると3回)。

3回おきに出題されると考えると,第32回は出題の可能性は高いと言えます。

先述のようにITはどんどんどんどん進化しています。

だからと言って,最新の用語などがわからなくても解けるように出題されているので安心してください。

それでは今日の問題です。


第24回・問題83 社会調査においてコンピューターやインターネットを利用することに関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 ノートパソコンやタブレット型コンピューターは,調査対象者とのラポールを阻害するので,調査対象者宅を訪問するタイプの個別面接法で用いてはいけない。

2 コンピューターでデータを集計したり分析したりするためには,質問への回答はすべて数値化されていなければならない。

3 CATI(ComputerAssistedTelephoneInterviewing)と呼ばれる,コンピューターを併用した電話調査は,対象者の側でもコンピューターを用意しなければならない。

4 インターネット上で調査協力者を集める方法はいくつも存在するが,国民全体を代表するような無作為標本が得られる方法はまだ考案されていない。

5 インターネットにつながったコンピューターを使って調査の質問に回答する方法は,入力ミスが多発するので,用いてはいけない。


第24回国試は,2012年1月に実施されたものです。

この時点では,まだまだタブレット型コンピューターは一般的とは言えなかったものです。

そのために絡めて出題してきたと言えるでしょう。

この問題は,この当時としては,珍しく語尾の表現をそろえて出題されています。

その分,難易度は上がります。

それでは解説です。


1 ノートパソコンやタブレット型コンピューターは,調査対象者とのラポールを阻害するので,調査対象者宅を訪問するタイプの個別面接法で用いてはいけない。


これは間違いです。

ラポールとは信頼関係を指します。

「ラポールができないのは,使用する機器のせいだ」と思うのは,防衛機制では「合理化」といいます。

ラポールができないのは,調査者に原因があると言えるでしょう。使用する機器を理由にしてはいけないと思います。

それよりも,この時点で「タブレット型コンピューター」は今よりも一般的でなかったので,判断できなかったという受験者もいたのではないかと思います。

IT関連は,あまり知られたものではないものが出題される可能性があることを覚えておくと良いでしょう。


2 コンピューターでデータを集計したり分析したりするためには,質問への回答はすべて数値化されていなければならない。


これも間違いです。

現在は,質的データを解析するテキストマイニングというものも開発されています。

これに絡めて出題されたのが,第26回の以下の選択肢です。

第26回。問題90・選択肢5

 量的調査データの分析とは異なり,質的調査データにはコンピューターを使った分析はなじまない。

これも間違いです。

テキストマイニングは,観察やインタビューなどで得られた質的データの中で出てくる文節,例えば「楽しい」と言葉がどのくらいの頻度で出現するのか,どのような言葉と一緒に出現するのか,などを分析してくれるものです。

コンピューターを使ったデータ分析というと,量的データが頭に浮かぶ人が多いことが予測されるので,そこをねらって出題されたと考えられます。


3 CATI(ComputerAssistedTelephoneInterviewing)と呼ばれる,コンピューターを併用した電話調査は,対象者の側でもコンピューターを用意しなければならない。

これも間違いです。

タブレット型コンピューターと違って,CATIは現在でも一般に知られたものではありません。

CATIは,電話調査支援コンピュータと訳すことができるように,電話調査を楽にしてくれ,しかも高度化したデータを収集することができるものです。

電話調査は,電話をかけた人が調査対象者が答えたものを聞き取りしながら調査票に記入しますが,その記入をコンピューターが行ってくれるのがCATIです。

しかも記入だけではなく,分析も行ってくれます。

CATIを知らないとひるむかもしれません。しかし,ちょっと頭をひねると調査対象者も用意しなければならないのであれば,電話調査で行う必要はないと思えるのではないでしょうか。

国試はこういったものを含めて出題することで,合格基準点をある程度のところに押さえていると考えられます。


4 インターネット上で調査協力者を集める方法はいくつも存在するが,国民全体を代表するような無作為標本が得られる方法はまだ考案されていない。


これが正解です。

現時点でも,無作為標本が得られる方法はありません。

インターネットにアクセスできる環境がある人は,スマホの普及に伴い,この当時よりも増えたことでしょう。

しかし,国民全体がその環境があるわけではありません。

インターネットにアクセスできる人の代表的なデータを収集することはできますが,国民全体を代表したものではありません。


5 インターネットにつながったコンピューターを使って調査の質問に回答する方法は,入力ミスが多発するので,用いてはいけない。


これも間違いです。

インターネットを使って,調査対象者が入力するのは,自記式といいます。

自記式であっても,調査者が記入する他記式であっても,入力ミスなどの測定誤差は発生します。

しかしだからといって,用いてはならないということはありません。

実際に,インターネットで調査を行うことはよく行われています。


<今日の一言>

ITに限らず,国試では難しいものを含めて出題します。

正解はそれほど難しいものでなかったとしても,難しいものを含めて出題することで,正解にたどり着くのが難しくなります。

しかし多くの場合は,そういったところに正解はありません。

答えがわからなくも慎重に読んで,消去できる選択肢が一つでも多くなれば,正解に近づくことができます。正解にたどり着く確率は,5分の1よりも4分の1や3分の1の方が良いに決まっています。

2019年3月5日火曜日

質的調査における記録の方法と留意点~録音機材などの使用方法

質的調査は,面接やインタビューなどでデータを収集します。

面接やインタビューなどはフィールドワーク,フィールドワークの記録をフィールドノーツといいます。

現代では,録音や録画機材が手軽に活用できますが,そういったものがなかった時代の記録はとても大変だったことでしょう。

質的調査は文化人類学が起源です。

20世紀は,科学化の時代です。
エジソンによって発明された録音機は,文化人類学でも積極的に用いられました。

しかし,当時は倫理的配慮がなされるような時代ではありません。
人権を無視したような研究も行われました。

その反省もあり,現在の社会調査を含めた研究活動には,倫理的配慮が求められます。


それでは,今日の問題です。


第27回・問題90 質的調査における記録とデータに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 フィールドワークにおいてメモを取る際には,現場の人々の不信感,警戒感を引き起こさないような工夫が必要である。

2 メモを基に,フィールドノートに観察・考察したことを記載していく際には,出来事の時間的順序にこだわらず,思い浮かぶままに記載する。

3 インタビューにおいて対象者から録音を許可された場合には,録音された音声が正確な記録となるので,メモを取る必要はない。

4 質的調査の対象となる文書資料は,官公庁などの公的機関による記録のみであり,情報が正確である保証のない手紙や日記などの私的文書は含まれない。

5 アクションリサーチの過程では,主にフィールドノートの記録を用い,実験室における実験データや質問紙調査のデータは用いない。


文化人類学では,民族研究のために古老などにインタビューしたり,参与観察などを通して,その文化を研究しました。

電池で動かすことができる録音機材が登場した時,ビデオカメラが手軽に入手できるようになった時,最も喜んで,そして活用したのは,もしかすると文化人類学者だったかもしれません。


それでは解説です。


1 フィールドワークにおいてメモを取る際には,現場の人々の不信感,警戒感を引き起こさないような工夫が必要である。


これが正解です。

質的調査ではメモが重要です。

しかし社会調査で求められるのは,常に調査対象者への倫理的配慮です。
メモを取る理由は,調査対象者に事前に了解を求める必要があります。


2 メモを基に,フィールドノートに観察・考察したことを記載していく際には,出来事の時間的順序にこだわらず,思い浮かぶままに記載する。


これは間違いです。

面接やインタビューしたときのメモは早い段階で,記録化します。

なるべく早く行わないと忘れていってしまいます。
その際,出来事の時間的順序を追って記録化します。

忘れていってしまうので,思い浮かぶままに記録したくなる気持ちもわかりますが,時間的順序に沿って記録しないと,前後関係がわからなくなったり,意味がつかみにくくなったりすることもあるので注意が必要です。

また,発言の順番が意味を持つこともあります。


3 インタビューにおいて対象者から録音を許可された場合には,録音された音声が正確な記録となるので,メモを取る必要はない。


これも間違いです。

録音や録画機材を用いる場合は,事前に調査対象者に許可を求めなければなりません。
そして調査後に削除を求められた場合は。削除しなければなりません。

それはさておき,録音してもメモは必要です。

非構造化面接や半構造化面接では,調査対象者が発言した内容を確認したり,深める質問を追加することがあります。

そのような場合にメモが必要です。


4 質的調査の対象となる文書資料は,官公庁などの公的機関による記録のみであり,情報が正確である保証のない手紙や日記などの私的文書は含まれない。


これも間違いです。

公的文書,刊行物,そして私的文書などがドキュメント分析の対象となります。

前回,歌詞も研究対象になることを書いたように,ドキュメント分析の対象となるドキュメントは,目的に合わせて多岐にわたります。

手紙や日記は対象とならない,という出題は何度もされますが,実はとても重要な記録物です。

例えば,大量消費社会を研究するとき,私的文書の分析は非常に役立ちます。
昭和30年代に「三種の神器」,昭和40年代に「3C」が売れまくったことは,分かっています。

日記で,我が家にテレビがやってきたとき,冷蔵庫がやってきたときが記載されていたら,当時の人の思いが伝わってくることでしょう。

家計簿なども合わせてあれば,それも分析対象となります。今と違ってかつては,電化製品は,標準小売価格が設定されていました。それを実際にはどのくらいの金額で購入したのかが分かります。

こういったものは,公的文書では明らかにならないものです。


5 アクションリサーチの過程では,主にフィールドノートの記録を用い,実験室における実験データや質問紙調査のデータは用いない。


これも間違いです。

アクションリサーチの特徴は。調査の過程を通して,問題解決を図ることを重視することです。

ここが他の質的調査と異なる点と言えます。

研究手法として,PDCAサイクルが用いられますが,その過程で質的データだけではなく,量的データを用いることがあります。

プランの段階では,こんな運動をすると介護予防につながるといったデータを示すことも行われます。

実際の結果は,量的データにすると変化の推移が見えやすいですし,改善に向けた次の一手が見えやすくなります。

質問紙を使えば,住民の意識変化を把握することもできます。


<今日の一言>

質的調査に限らず,社会調査には,倫理的配慮が求められます。

「質的調査における記録の方法と留意点」では,そこに関連した出題が多くみられます。

しかし,フィールドノーツ,アクションリサーチなどの用語かしっかり理解できていれば,今日の問題のように,難易度はそれほど高くはないと言えます。

第31回では,「質的調査における記録の方法と留意点」が出題されたばかりなので,第32回には出題されないと予測されますが,倫理的配慮は,いつも底辺に流れています。

しっかり押さえておきましょう。

2019年3月4日月曜日

質的調査における記録の方法と留意点~フィールドノーツって何?

質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。

その際にとる記録をフィールドノーツといいます。

一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。

こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがうかがわれます。

さて,今回から2回にわたって,「質的調査における記録の方法と留意」に取り組んでいきます。

国家試験で出題されたのは,第24回,第27回,第31回の3回です。

決して頻出のものとは言えないかもしれませんが,そんなに難しくはないと思いますので,この機会にしっかり覚えておきたいです。

それでは今日の問題です。


第24回・問題82 質的調査における記録やデータに関する次の記述のうち,最も適切なものを一つ選びなさい。

1 インタビューの場において,面接者は相手の発音内容に集中し,一言一句を正確にメモすることに専念するべきである。

2 データ収集の対象となる文書資料には,官公庁などの公的機関による記録のみならず,手記や日記などの私的文書も含まれる。

3 フィールドノーツを書く際には,事実だけを記述するようにして,調査者としての解釈は含めないことが望ましい。

4 アクションリサーチにおいては,専ら観察による記録を用い,面接や質問紙による記録は用いない。

5 参与観察においては,録音機や写真,ビデオ等を用いて記録を行うことは望ましくない。


この問題を見て「アッ」と思った人もいるかもしれません。
第31回に酷似した問題が出題されているからです。

それでは早速解説です。


1 インタビューの場において,面接者は相手の発音内容に集中し,一言一句を正確にメモすることに専念するべきである。


これは間違いです。

正確にメモをとる必要があるのなら,速記できる記録係が一緒にいけばよいです。

実際にやってみればわかりますが,インタビューしながら一字一句正確にメモするのは,ほとんど困難です。


2 データ収集の対象となる文書資料には,官公庁などの公的機関による記録のみならず,手記や日記などの私的文書も含まれる。


これが正解です。

質的調査は,文書(=記録,ドキュメント)からもデータを収集して分析します。これをドキュメント分析といいます。

公文書,新聞,私的な日記など,様々な文書がドキュメント分析の対象となります。

例えば,今話題になっているようなキーワードは,いつごろから使われるようになったのか,といったものを新聞などで登場する回数などを調べるというのもあります。

歌詞なども分析対象となります。

現代では,女性が男性を呼ぶ時,「君」と呼ぶ歌が多いですが,それはいつごろからそうなったのか,オリコンの年間ランキングという文書を通して分析します。

手記や日記は,公文書ではつかめないデータを収集することができます。


3 フィールドノーツを書く際には,事実だけを記述するようにして,調査者としての解釈は含めないことが望ましい。


これも間違いです。

ソーシャルワークの記録も同様ですが,解釈を含めて記録するのは適切です。ただしその際には,事実と解釈が混同しないようにすることが大切です。


4 アクションリサーチにおいては,専ら観察による記録を用い,面接や質問紙による記録は用いない。


これも間違いです。


アクションリサーチも質的調査の手法ですから,面接も行います。

引っかかるのは,質問紙という部分でしょう。

アクションリサーチが,ほかの調査手法と大きく違う点は,調査の過程を通して,問題解決を図ることを重視することです。

まずは,何が問題になっているのかを明らかにする必要があります。

その時に,質問紙も用います。

面接では言いにくいことも匿名性のある質問紙になら書けることもあるでしょう。


5 参与観察においては,録音機や写真,ビデオ等を用いて記録を行うことは望ましくない。


これも間違いです。

事前に承諾を取って,使用することができます。

録音や録画をすることで,後から正確にインタビューや観察したものを再現することさえできます。


<今日の一言>

今日の問題は,決して難易度が高い問題ではありません。

国試ではこのような問題でいかに点数を積み重ねていくことができるかが合否にかかわります。

2019年3月3日日曜日

社会調査の基礎の苦手意識をなくす勉強法

第31回国家試験で出題されたものは,以下のとおりです。

問題84 社会調査の意義と目的
問題85 自計式調査と他計式調査
問題86 測定
問題87 量的調査の集計と分析
問題88 量的調査の集計と分析
問題89 面接法
問題90 質的調査における記録の方法と留意点&質的調査のデータの整理と分析のミックス

量的調査が7問中4問出題されています。

第30回も4問の出題です。

量的調査は難しいというイメージが先行する領域なので,いやだなぁ,と思うかもしれません。

しかし,国試にこの科目が出題されるようになって,10回を数える中,出題される内容がほぼ定まってきたように思います。

第31回の国試の出題に限ると,難易度が高いと思われる問題はありません。

参考書をしっかり覚えれば,満点が取れる内容です。

ひねりがあったと言えるのは,以下の問題です。


問題87 調査票の回収後の手続に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 調査票で記入者が回答していないところは,欠損値として数値を割り当てる必要はない。
2 回収した調査票が正確かどうかを確認する作業のことをコーディングという。
3 40歳以上65歳未満を対象とした調査で,40歳代のみを対象とした質問項目の場合,50歳以上の当該質問項目の回答は「非該当」として処理する。
4 複数の質問項目の組合せの論理的な矛盾は調査票作成時に確認するので,回収後に確認する必要はない。
5 入力ミス以外のはずれ値は,必ず除去しなければならない。

正解は選択肢3の「非該当」です。

これがわからなくでも,消去法でたどり着きます。

正解にたどり着くためのポイントは,「コーディング」です。

回収した調査票が正確かどうかを確認する作業は,何というのかがわからなくても,コーディングとは違うことはわかるでしょう。

コーディングは,コード化すること,例えば,性別は「1.男」「2.女」などと数値化します。

このコーディングにより,エクセルなどの表計算ソフトに入力することができます。
そうすることで様々な分析を行うことができるようになります。


第31回で比較的難しかったと思うのは以下の問題です。


問題88 量的データの集計や分析に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 中央値とは,データの中で出現率が一番高い値のことである。
2 度数分布表は,一つの変数について,それぞれのカテゴリー(階級)に当てはまる度数をまとめた表である。
3 分散と標準偏差は,どちらも平均値からの散布度を示すが,これら二つの指標には関係はない。
4 クロス集計表により変数間の関係を観察するには,相対度数ではなく,観測度数を表示する。
5 ピアソンの積率相関係数は,二つの変数間の非線形関係を表している。


正解は,選択肢2の度数分布表です。

得られたデータをカテゴリー化したものをまとめたものが度数分布表です。

年齢の場合は,10歳代,20歳代,30歳代など,年代別にカテゴリー化して,その人数をまとめます。これが度数分布表です。

この選択肢だけがちょっと難しいかもしれませんが,それ以外の選択肢は,すべて過去に出題されたものの焼き直しです。

ピアソンの積率相関係数は,第8回,第22回,第28回,第31回に出題されていますが,すべて過去に出題された内容で,判断できるものとなっています。
つまり繰り返しです。

第28回で出題された問題は以下です。


第28回・問題87 ピアソンの積率相関係数に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 値は0から1の範囲の間で変動する。
2 2つの変数の因果関係を表すものである。
3 年齢と所得の相関係数は,所得が円単位でもドル単位でも同じ値になる。
4 2つの変数の間に完全な相関がある場合,散布図は円形になる。
5 2つの順序変数の関連の強さを測る指標である。


この問題の正解は,選択肢3です。

第31回の問題と重なっているのは,選択肢4です。

第28回では「円形」,第31回では「非線形」と表現しているところに違いがあります。

覚えたいポイントは,相関がない場合は,「円形になる」でも「非線形」になるでもありません。

覚えるべきポイントは,「相関がある場合は『直線になる』」です。



<今日のまとめ>

「社会調査の基礎」は,勉強不足の人は,点数は取れない科目です。

しかし,勉強した人は,かなり点数が取れます。

場合によっては満点さえも可能な科目です。

もし,第22回以降の過去問題集が学校の図書館などにあったら,それを集中して勉強してみると良いです。

それが完璧に理解できれば,必ず国試では高い得点が取れる科目になります。

なぜなら,出題が限定されてきているからです。

別な言い方をすると,法制度系の問題は,制度が新しくなるたびに,そこからも出題するので,満点を取るのはなかなか簡単ではありませんが,時事ネタもなく,法制度にもほぼ関係しないこの科目は,出題するポイントが固定されるからです。

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