社会福祉振興・試験センターの出題基準では,
中項目「ソーシャルワークの形成過程」
小項目「慈善組織協会」「セツルメント」「その他」
が示されています。
小項目は例示ですが,最低限押さえておかなければならないものであることには間違いありません。
慈善組織協会とセツルメントの出題は前回まで見てきました。
その他に当たる部分は,
第28回 ソーシャルワークの発展に寄与した人物(外国)
第27・30・31回 ソーシャルワークの形成過程(日本)
が出題されています。
外国については,相談援助の理論と方法で押さえることにして,今回から日本のソーシャルワークの形成過程に取り組んでいきたいと思います。
難易度がかなり高いものですが,がんばりましょう!
それでは早速今日の問題です。
第27回・問題93 日本におけるソーシャルワークの形成過程に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。
1 大正期には,公営のセツルメントが誕生し活動を展開した。
2 昭和初期から第二次世界大戦中には,感化救済事業が活発化した。
3 第二次世界大戦直後には,社会福祉教育の実践が連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の指示で中断された。
4 高度経済成長期には,エビデンスに基づくソーシャルワークのあり方が重視された。
5 社会福祉基礎構造改革時には,ソーシャルワークの統合化の考え方が外国から初めて紹介された。
「現代社会と福祉」で学ぶ内容も含まれています。
そこをクリアすると,何とか正解できる可能性があります。
それでは解説です。
1 大正期には,公営のセツルメントが誕生し活動を展開した。
これが正解です。
セツルメントは,明治期の岡山博愛会,キングスレー館など民間慈善事業が広く知られています。
その後,公営のセツルメントである隣保館が設立されていきます。
わが国の公営のセツルメントは,1921年(大正10年)に設立された大阪市立市民館が始まりです。
この時期は,公私のセツルメントが増加し,積極的な活動がみられた時期です。
公営のセツルメントといっても,国の制度のもとで行われたものではありません。
地域のニーズに即して,工夫しながら設立されていったのではないでしょうか。
2 昭和初期から第二次世界大戦中には,感化救済事業が活発化した。
それは間違いです。
感化救済事業とは,それまで慈善事業と呼んでいたものを呼び変えたものです。
明治末期から,感化救済事業に携わる職員を対象として,明治末期から始まり,途中,社会事業講習会と改称して大正末期まで続きます。
3 第二次世界大戦直後には,社会福祉教育の実践が連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の指示で中断された。
これも間違いです。
戦後の福祉政策は,GHQ主導で行われました。
福祉教育もその一環として,1946年(昭和21年)日本社会事業学校に設立されています。
この学校は,現在の日本社会事業大学の源流の一つとなっています。
4 高度経済成長期には,エビデンスに基づくソーシャルワークのあり方が重視された。
これも間違いです。
高度経済成長期とは,昭和30~40年代にかけての時期です。
この時期,社会福祉施設は増加していきますが,まだまだ手探り状態の時代です。
エビデンスに基づくソーシャルワークのあり方が重視されるようになったのは,平成に入ってからです。
5 社会福祉基礎構造改革時には,ソーシャルワークの統合化の考え方が外国から初めて紹介された。
これも間違いです。
社会福祉基礎構造改革は,1990~2000年に行われたものです。
ソーシャルワークの統合化は,アメリカでは1929年のミルフォード会議報告書に既にみることができます。
1929年(昭和4年)は,日本がアメリカと関係が良かった時代です。
その直後に紹介されていても不思議ではありません。
日本に初めて紹介されたのはいつのことかよくわかりませんが,1980年には,ミネルヴァ書房から岡村重夫先生などが訳した「社会福祉実践方法の統合化」が出版されています。
<今日の一言>
出題基準の小項目を思い出してみましょう。
「慈善組織協会」
「セツルメント」
「その他」
今日の問題は,いきなり日本に飛んだような印象を持つかもしれません。
しかし,正解選択肢に注目すると,セツルメントが位置づけられています。
ソーシャルワークは日本でも根付いて発展しているのだということを示す内容になっているのです。
これ以降,日本に着目した出題がなされていきます。
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