2019年3月6日水曜日

社会調査におけるITの活用方法

約2か月にわたって,「社会調査の基礎」に取り組んできました。

いよいよ出題基準の最後の「社会調査の実施にあたってのITの活用方法」です。

ITは,どんどんどんどん進化していますが,倫理や法規制などは,その進化に遅れます。

これを「文化遅滞」といいます。

社会調査でも,ITが用いられます。

2015年の国勢調査では,インターネットが使われたことは記憶に新しいところかもしれません。

「社会調査の実施にあたってのITの活用方法」が出題されたのは,第24回と第28回の2回です(第26回に選択肢の1つのちょこっと出題を合わせると3回)。

3回おきに出題されると考えると,第32回は出題の可能性は高いと言えます。

先述のようにITはどんどんどんどん進化しています。

だからと言って,最新の用語などがわからなくても解けるように出題されているので安心してください。

それでは今日の問題です。


第24回・問題83 社会調査においてコンピューターやインターネットを利用することに関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 ノートパソコンやタブレット型コンピューターは,調査対象者とのラポールを阻害するので,調査対象者宅を訪問するタイプの個別面接法で用いてはいけない。

2 コンピューターでデータを集計したり分析したりするためには,質問への回答はすべて数値化されていなければならない。

3 CATI(ComputerAssistedTelephoneInterviewing)と呼ばれる,コンピューターを併用した電話調査は,対象者の側でもコンピューターを用意しなければならない。

4 インターネット上で調査協力者を集める方法はいくつも存在するが,国民全体を代表するような無作為標本が得られる方法はまだ考案されていない。

5 インターネットにつながったコンピューターを使って調査の質問に回答する方法は,入力ミスが多発するので,用いてはいけない。


第24回国試は,2012年1月に実施されたものです。

この時点では,まだまだタブレット型コンピューターは一般的とは言えなかったものです。

そのために絡めて出題してきたと言えるでしょう。

この問題は,この当時としては,珍しく語尾の表現をそろえて出題されています。

その分,難易度は上がります。

それでは解説です。


1 ノートパソコンやタブレット型コンピューターは,調査対象者とのラポールを阻害するので,調査対象者宅を訪問するタイプの個別面接法で用いてはいけない。


これは間違いです。

ラポールとは信頼関係を指します。

「ラポールができないのは,使用する機器のせいだ」と思うのは,防衛機制では「合理化」といいます。

ラポールができないのは,調査者に原因があると言えるでしょう。使用する機器を理由にしてはいけないと思います。

それよりも,この時点で「タブレット型コンピューター」は今よりも一般的でなかったので,判断できなかったという受験者もいたのではないかと思います。

IT関連は,あまり知られたものではないものが出題される可能性があることを覚えておくと良いでしょう。


2 コンピューターでデータを集計したり分析したりするためには,質問への回答はすべて数値化されていなければならない。


これも間違いです。

現在は,質的データを解析するテキストマイニングというものも開発されています。

これに絡めて出題されたのが,第26回の以下の選択肢です。

第26回。問題90・選択肢5

 量的調査データの分析とは異なり,質的調査データにはコンピューターを使った分析はなじまない。

これも間違いです。

テキストマイニングは,観察やインタビューなどで得られた質的データの中で出てくる文節,例えば「楽しい」と言葉がどのくらいの頻度で出現するのか,どのような言葉と一緒に出現するのか,などを分析してくれるものです。

コンピューターを使ったデータ分析というと,量的データが頭に浮かぶ人が多いことが予測されるので,そこをねらって出題されたと考えられます。


3 CATI(ComputerAssistedTelephoneInterviewing)と呼ばれる,コンピューターを併用した電話調査は,対象者の側でもコンピューターを用意しなければならない。

これも間違いです。

タブレット型コンピューターと違って,CATIは現在でも一般に知られたものではありません。

CATIは,電話調査支援コンピュータと訳すことができるように,電話調査を楽にしてくれ,しかも高度化したデータを収集することができるものです。

電話調査は,電話をかけた人が調査対象者が答えたものを聞き取りしながら調査票に記入しますが,その記入をコンピューターが行ってくれるのがCATIです。

しかも記入だけではなく,分析も行ってくれます。

CATIを知らないとひるむかもしれません。しかし,ちょっと頭をひねると調査対象者も用意しなければならないのであれば,電話調査で行う必要はないと思えるのではないでしょうか。

国試はこういったものを含めて出題することで,合格基準点をある程度のところに押さえていると考えられます。


4 インターネット上で調査協力者を集める方法はいくつも存在するが,国民全体を代表するような無作為標本が得られる方法はまだ考案されていない。


これが正解です。

現時点でも,無作為標本が得られる方法はありません。

インターネットにアクセスできる環境がある人は,スマホの普及に伴い,この当時よりも増えたことでしょう。

しかし,国民全体がその環境があるわけではありません。

インターネットにアクセスできる人の代表的なデータを収集することはできますが,国民全体を代表したものではありません。


5 インターネットにつながったコンピューターを使って調査の質問に回答する方法は,入力ミスが多発するので,用いてはいけない。


これも間違いです。

インターネットを使って,調査対象者が入力するのは,自記式といいます。

自記式であっても,調査者が記入する他記式であっても,入力ミスなどの測定誤差は発生します。

しかしだからといって,用いてはならないということはありません。

実際に,インターネットで調査を行うことはよく行われています。


<今日の一言>

ITに限らず,国試では難しいものを含めて出題します。

正解はそれほど難しいものでなかったとしても,難しいものを含めて出題することで,正解にたどり着くのが難しくなります。

しかし多くの場合は,そういったところに正解はありません。

答えがわからなくも慎重に読んで,消去できる選択肢が一つでも多くなれば,正解に近づくことができます。正解にたどり着く確率は,5分の1よりも4分の1や3分の1の方が良いに決まっています。

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