約2か月にわたって,「社会調査の基礎」に取り組んできました。
いよいよ出題基準の最後の「社会調査の実施にあたってのITの活用方法」です。
ITは,どんどんどんどん進化していますが,倫理や法規制などは,その進化に遅れます。
これを「文化遅滞」といいます。
社会調査でも,ITが用いられます。
2015年の国勢調査では,インターネットが使われたことは記憶に新しいところかもしれません。
「社会調査の実施にあたってのITの活用方法」が出題されたのは,第24回と第28回の2回です(第26回に選択肢の1つのちょこっと出題を合わせると3回)。
3回おきに出題されると考えると,第32回は出題の可能性は高いと言えます。
先述のようにITはどんどんどんどん進化しています。
だからと言って,最新の用語などがわからなくても解けるように出題されているので安心してください。
それでは今日の問題です。
第24回・問題83 社会調査においてコンピューターやインターネットを利用することに関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 ノートパソコンやタブレット型コンピューターは,調査対象者とのラポールを阻害するので,調査対象者宅を訪問するタイプの個別面接法で用いてはいけない。
2 コンピューターでデータを集計したり分析したりするためには,質問への回答はすべて数値化されていなければならない。
3 CATI(ComputerAssistedTelephoneInterviewing)と呼ばれる,コンピューターを併用した電話調査は,対象者の側でもコンピューターを用意しなければならない。
4 インターネット上で調査協力者を集める方法はいくつも存在するが,国民全体を代表するような無作為標本が得られる方法はまだ考案されていない。
5 インターネットにつながったコンピューターを使って調査の質問に回答する方法は,入力ミスが多発するので,用いてはいけない。
第24回国試は,2012年1月に実施されたものです。
この時点では,まだまだタブレット型コンピューターは一般的とは言えなかったものです。
そのために絡めて出題してきたと言えるでしょう。
この問題は,この当時としては,珍しく語尾の表現をそろえて出題されています。
その分,難易度は上がります。
それでは解説です。
1 ノートパソコンやタブレット型コンピューターは,調査対象者とのラポールを阻害するので,調査対象者宅を訪問するタイプの個別面接法で用いてはいけない。
これは間違いです。
ラポールとは信頼関係を指します。
「ラポールができないのは,使用する機器のせいだ」と思うのは,防衛機制では「合理化」といいます。
ラポールができないのは,調査者に原因があると言えるでしょう。使用する機器を理由にしてはいけないと思います。
それよりも,この時点で「タブレット型コンピューター」は今よりも一般的でなかったので,判断できなかったという受験者もいたのではないかと思います。
IT関連は,あまり知られたものではないものが出題される可能性があることを覚えておくと良いでしょう。
2 コンピューターでデータを集計したり分析したりするためには,質問への回答はすべて数値化されていなければならない。
これも間違いです。
現在は,質的データを解析するテキストマイニングというものも開発されています。
これに絡めて出題されたのが,第26回の以下の選択肢です。
第26回。問題90・選択肢5
量的調査データの分析とは異なり,質的調査データにはコンピューターを使った分析はなじまない。
これも間違いです。
テキストマイニングは,観察やインタビューなどで得られた質的データの中で出てくる文節,例えば「楽しい」と言葉がどのくらいの頻度で出現するのか,どのような言葉と一緒に出現するのか,などを分析してくれるものです。
コンピューターを使ったデータ分析というと,量的データが頭に浮かぶ人が多いことが予測されるので,そこをねらって出題されたと考えられます。
3 CATI(ComputerAssistedTelephoneInterviewing)と呼ばれる,コンピューターを併用した電話調査は,対象者の側でもコンピューターを用意しなければならない。
これも間違いです。
タブレット型コンピューターと違って,CATIは現在でも一般に知られたものではありません。
CATIは,電話調査支援コンピュータと訳すことができるように,電話調査を楽にしてくれ,しかも高度化したデータを収集することができるものです。
電話調査は,電話をかけた人が調査対象者が答えたものを聞き取りしながら調査票に記入しますが,その記入をコンピューターが行ってくれるのがCATIです。
しかも記入だけではなく,分析も行ってくれます。
CATIを知らないとひるむかもしれません。しかし,ちょっと頭をひねると調査対象者も用意しなければならないのであれば,電話調査で行う必要はないと思えるのではないでしょうか。
国試はこういったものを含めて出題することで,合格基準点をある程度のところに押さえていると考えられます。
4 インターネット上で調査協力者を集める方法はいくつも存在するが,国民全体を代表するような無作為標本が得られる方法はまだ考案されていない。
これが正解です。
現時点でも,無作為標本が得られる方法はありません。
インターネットにアクセスできる環境がある人は,スマホの普及に伴い,この当時よりも増えたことでしょう。
しかし,国民全体がその環境があるわけではありません。
インターネットにアクセスできる人の代表的なデータを収集することはできますが,国民全体を代表したものではありません。
5 インターネットにつながったコンピューターを使って調査の質問に回答する方法は,入力ミスが多発するので,用いてはいけない。
これも間違いです。
インターネットを使って,調査対象者が入力するのは,自記式といいます。
自記式であっても,調査者が記入する他記式であっても,入力ミスなどの測定誤差は発生します。
しかしだからといって,用いてはならないということはありません。
実際に,インターネットで調査を行うことはよく行われています。
<今日の一言>
ITに限らず,国試では難しいものを含めて出題します。
正解はそれほど難しいものでなかったとしても,難しいものを含めて出題することで,正解にたどり着くのが難しくなります。
しかし多くの場合は,そういったところに正解はありません。
答えがわからなくも慎重に読んで,消去できる選択肢が一つでも多くなれば,正解に近づくことができます。正解にたどり着く確率は,5分の1よりも4分の1や3分の1の方が良いに決まっています。
最新の記事
ノーマライゼーションの国家試験問題
今回は,ノーマライゼーションに取り組みます。 前説なしで,今日の問題です。 第26回・問題93 ノーマライゼーションの理念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 1 すべての人間とすべての国とが達成すべき共通の基準を宣言した世界人権宣言の理念として採用された。 2...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
バートレットは,ソーシャルワークの共通基盤として 「価値」「知識」「介入(技術)」 を挙げています。 ソーシャルワーカーなら,フィールドが違えど,共通してもっているもの,という意味です。 3 つの中のうち「 価値 」は,「相談援助の基盤と専門職」で中心的...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ノーマライゼーションとは,「ノーマル(普通)」の派生語で「ノーマル化する」という意味です。 「ノーマル化する」のは,障害者の生活です。 世界で最初にノーマライゼーションを提唱したのは,デンマークのバンク-ミケルセンです。 1950年代のデンマークでは,保護の名のもとに...
-
繰り返しになりますが,ソーシャルワークは欧米生まれです。 なじみのない外国語がたくさん使われますが,苦手だと思うととても損です。 さて,今日のテーマは「ジェネラリスト・アプローチとは何だろう?」です。 まずは前回の復習からです。 ソーシャルワークは,ケースワーク,...
-
ソーシャルワーカーは,場面によってさまざまな役割を演じます。 今日は前説なしに,ソーシャルワーカーの役割についての問題です。 第 31 回・問題 107 ソーシャルワークの援助過程におけるソーシャルワーカーの役割に関する次の記述のうち,最も適切なもの...
-
様々なアプローチが第31回国試までに出題された回数を整理すると以下のようになります。 アプローチ名 出題回数 ・心理社会的アプローチ 9 ・機能的アプローチ 4 ・問題解決アプローチ ...
-
国試での出題実績のあるアプローチは以下の12種類です。 出題基準に示されているもの ・心理社会的アプローチ ・機能的アプローチ ・問題解決アプローチ ・課題中心アプローチ ・危...