ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークに分かれて発展しました。それらの共通基盤を明らかにしようとする試みを「統合化」といいます。
このうち,ケースワークは,慈善組織協会(COS)の活動が源流です。
COS設立のきっかけとなったのは,資本家などによる慈善活動がそれぞれバラバラに行われていたために不正受給の問題が生じて,調整が必要となったためです。
当初は,ボランティアである友愛訪問員による友愛訪問を実施しました。有給の職員が友愛訪問を行うようになり,訓練を行って専門化していきます。
この活動の科学性を追求したのが,アメリカCOSの指導者であり「ケースワークの母」と呼ばれるリッチモンドです。
それでは今日の問題です。
第29回・問題93 慈善組織協会(COS)に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 COSは,労働者や子どもの教育文化活動,社会調査とそれに基づく社会改良を目的に設立された。
2 COSの救済は,共助の考えに基づき,社会資源を活用して人と人が支え合う支援を行った。
3 COSは,把握した全ての貧困者を救済の価値のある貧困者として救済活動を行った
4 COSは,友愛訪問員の広い知識と社会的訓練によって友愛訪問活動の科学化を追求した。
5 COSの友愛訪問活動の実践を基に,コミュニティワーカーに共通する知識,方法が確立された。
COSに関連する問題が現行カリキュラムで出題されたのは,第22,23,25,27,28,29,30回です。
出題確率は70%です。
2年連続して出題されなかったことはないので,第32回は出題される可能性が高いと言えます。
出るか出ないか分からないレアものを追っかけるよりも,このようなものをしっかり押さえることが得点を伸ばすポイントです。
特に,歴史は多くの人が苦手としているため,他の受験生と差をつけることができやすいと言えます。
それでは解説です。
1 COSは,労働者や子どもの教育文化活動,社会調査とそれに基づく社会改良を目的に設立された。
これは間違いです。
COSは,不正受給を防止することを目的に設立されました。
教育文化活動などを実施したのは,グループワークの源流となるセツルメントです。
COSもセツルメントも極めて重要です。
2 COSの救済は,共助の考えに基づき,社会資源を活用して人と人が支え合う支援を行った。
これも間違いです。
共助の考えに基づき,社会資源を活用して人と人が支え合う支援を行ったのは,COSの友愛訪問の源流となった,チャルマーズという牧師がイギリスのスコットランドにあるグラスゴーで行った「隣友運動」です。隣友運動は後述します。
3 COSは,把握した全ての貧困者を救済の価値のある貧困者として救済活動を行った。
これも間違いです。
COSは,貧困に陥る原点は,本人の道徳的問題にあるととらえていました。
そのため,貧民を「救済の価値がある貧民」「救済の価値のない貧民」に分けて,「救済の価値がある貧民」のみを救済しました。「救済の価値のない貧民」はどうなるのでしょうか?
COSでは,救済の価値のない貧民は,懲罰的な色合いを濃くしていた救貧法による救済が適切だと考えていました。
4 COSは,友愛訪問員の広い知識と社会的訓練によって友愛訪問活動の科学化を追求した。
これが正解です。
イギリスで誕生したCOSは,その後アメリカでも組織されます。アメリカCOSでは,友愛訪問員に対して訓練を実施し,高度化していきます。
その後,リッチモンドは友愛訪問員の手引書となる1899年『貧しい人々への友愛訪問(Friendly Visiting Among the Poor - A Handbook for Charity Workers)』を著して,COSの指導者として認められる存在になっていきます。
5 COSの友愛訪問活動の実践を基に,コミュニティワーカーに共通する知識,方法が確立された。
これは間違いです。
COSの友愛訪問活動の実践を基に確立していくのは,ケースワークです。
アメリカCOSの活動は,コミュニティワークの源流にもなりましたが,それをもってコミュニティワーカーに共通する知識,方法が確立されたとは言えません。
<今日の一言>
COSの友愛訪問の源流となったのは,チャルマーズによる「隣友運動」です。
チャルマーズは,地域のもつ力に着目し,貧困者の自助,貧困者同士の相互扶助,血縁者による援助,富裕者による援助を理念として,貧困家庭への訪問である隣友運動を行いました。
隣友運動は,現行カリキュラムでは第27回に出題されたのみですが,現在の地域包括ケアシステムの「自助・互助・共助・公助」の原型を見ることができます。
ただし,隣友運動には公助は念頭にありません。チャルマーズは,救貧法では貧民の根本的救済にならないと考えて,当時救貧法が実施されていなかったグラスゴーに赴任して隣友運動を行ったからです。
チャルマーズがグラスゴーで活動を行ったのは,1819年から1823年の間です。
つまり,2019年は,隣友訪問から200年のメモリアルイヤーとなります。
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