2019年3月13日水曜日

ソーシャルワークはどのように発展したの?

社会福祉士は,社会福祉士及び介護福祉士法に規定された国家資格です。

社会福祉士=ソーシャルワーカー

ではありません。

しかし,社会福祉士がソーシャルワーカーであると仮定するなら
ソーシャルワークの発展過程は知らなければなりません。

発展過程を学ぶことは,実務には直結しないかもしれません。

しかし,ソーシャルワーカーが専門職であるためには,ソーシャルワーカーとしての独自文化があることが必要です。

文化はすぐできるものではありません。

時間をかけて醸成されるものでしょう。

発展過程を学ぶことは,ソーシャルワーカーが専門職であるために必要です。

専門職同士が了解し合える文化の一つがソーシャルワークの歴史だと考えます。

実務に関係ないから,歴史は学ぶ必要はない

と考えるなら,専門職であることを放棄しています。

それでは今日の問題です。


第22回・問題86 ソーシャルワークの形成過程に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 慈善組織協会は,慈善活動による救済の偏りを防止するために設立され,貧困の原因を社会の構造に求めて,貧困者に対する救済を社会の義務ととらえていた。

2 セツルメント運動は,大学生たちが貧困地区に住み込むことによって展開され,貧困からの脱出に向けて,勤勉と節制を重視する道徳主義を理念とした。

3 YMCAは,キリスト教の信仰を深める青年運動として始められ,個別面接を繰り返すことによって,心理的な側面を重視した面接技法の体系化を進めた。

4 リッチモンド(Richmond,M.)の提案に基づいて,ニューヨークで6週間に及ぶ博愛事業に関する講習会が初めて開催され,専門教育へと発展していった。

5 フレックスナー(Flexner,A.)によって「ソーシャルワークはすでに専門職である」と結論づけられ,専門性が社会的に認知されるきっかけとなった。


古い出来事を学んで何になるのか

と思う人もいるかもしれません。

しかし,過去の連続で現在があります。

積み重ねてきた知恵,実践は,現在も生かせることはたくさんあります。

ゼロからスタートするよりも,そういったものを参考にしながら,独自に考えていったほうがより深まるということもあります。

その領域の歴史は,その領域の人の共通財産と言えるでしょう。

それでは,一緒に発展過程を学んでいきましょう。


1 慈善組織協会は,慈善活動による救済の偏りを防止するために設立され,貧困の原因を社会の構造に求めて,貧困者に対する救済を社会の義務ととらえていた。


これから何度も慈善組織協会(COS)は目にすることがあるでしょう。

少しずつ理解を深めてほしいと思います。

古典的な福祉ニーズは,貧困です。

特に,産業化(工業化)が進展することにより,生産するための資産をもつ資本家と資産を持たない労働者が生まれていきます。

現在は,多くの法制度で労働者が保護されていますが,国はできるだけ国民生活にかかわらない古典的な自由主義が支配していた時代があります。

自由は,市民が勝ち取った権利だからです。

現代では,福祉国家が形成されているので,国民生活を守るのが国の役割という意識が普通でしょう。

福祉国家も過去の学びから出来上がったものです。

COSは,問題文にあるように,慈善活動による救済の偏りを防止するために設立されたものです。

イギリスでは地区訪問員,アメリカでは友愛訪問員と呼ばれた訪問活動が,ケースワークに発展し,またアウトリーチの原型でもあります。

しかしこの時代は,貧困に陥る原因は,個人の問題だと捉えていました。

貧困の原因が社会構造にあることが明らかにされていくのは,ブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査がきっかけです。

まだまだ先の出来事です。


2 セツルメント運動は,大学生たちが貧困地区に住み込むことによって展開され,貧困からの脱出に向けて,勤勉と節制を重視する道徳主義を理念とした。


これも間違いです。

COSは,貧困の原因は,個人の問題だと捉えていました。

セツルメントは,貧困は社会問題だと捉えていました。

セツルメントは移住を意味しています。知識階級が貧困地区に移住し,貧困者とともに生活することで,問題の解決を目指しました。貧困からの脱出に必要なのは,教育と環境です。それは今も昔も変わりません。

そのために,日本では,生活困窮者自立支援法に基づいて,学習支援事業が行われています。


3 YMCAは,キリスト教の信仰を深める青年運動として始められ,個別面接を繰り返すことによって,心理的な側面を重視した面接技法の体系化を進めた。


これも間違いです。

個別面接を繰り返すことによって,心理的な側面を重視した面接技法の体系化を進めたのはCOSです。これがケースワークの発展につながっていきます。

YMCAは,グループワークの源流となった活動です。


4 リッチモンド(Richmond,M.)の提案に基づいて,ニューヨークで6週間に及ぶ博愛事業に関する講習会が初めて開催され,専門教育へと発展していった。


これが正解です。

リッチモンドは,アメリカCOSの活動にかかわり,ケースワークを理論化します。

その功績で,ケースワークの母と呼ばれます。

リッチモンドは,ケースワークを

人と環境の間を,個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる諸過程である

と定義しています。

「意識的に」とは,「意図的に」を意味し,ケースワークの科学性を追求していきます。

リッチモンドは,環境を強く意識していたことをよく覚えておいてください。


5 フレックスナー(Flexner,A.)によって「ソーシャルワークはすでに専門職である」と結論づけられ,専門性が社会的に認知されるきっかけとなった。


これも間違いです。

ソーシャルワークの専門職性に言及したものとして,次の2つが国試で出題されます。


ソーシャルワーカーはいまだ専門職ではない(1915年)

フレックスナーが述べたものです。

その理由は,専門職に共通の条件がないことです。


ソーシャルワークは既に専門職である(1957年)

グリーンウッドが述べたものです。

その理由は,次のものが備わっていることが専門職の条件であり,ソーシャルワーカーには,専門職であると結論づけました。

・体系的理論
・専門職的権威
・社会的承認
・倫理綱領
・専門職的副次文化

フレックスナーからグリーンウッドまで実に40年もの歳月が流れています。

そしてようやくソーシャルワークが専門職となったのです。


<今日の一言>

副次文化は,サブカルチャーの訳語です。

現代のサブカルチャーは,サブカルと略されてアニメやマンガ本を指すことが多いですが,もともとの意味は,主流文化に対するものです。

ソーシャルワークの主流文化は,ソーシャルワーク技術の研鑽など。

副次文化は,権利擁護の意識などでしょう。

その下支えとなるものの一つが歴史ではないでしょうか。

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