2019年3月22日金曜日

慈善組織協会(COS)の設立目的とは?

先日からソーシャルワークの発展過程を取り上げています。

取り上げる順番が逆になってしまいましたが,今回からケースワークの源流について学んでいきたいと思います。

まずは「現代社会と福祉」で学ぶ領域を押さえておきたいと思います。

イギリスでは,領主による「エンクロージャー」(囲い込み)で,追い出された農民が浮浪化し貧困問題が発生します。

そのため,いくつかの貧民救済の法律を成立させます。
それらを合わせて,通称「エリザベス救貧法」と呼ばれます。
それぞれにいくつかの要素がありますが,国試で出題されるのは次の2つのポイントです。

エリザベス救貧法のポイント

①救済の対象
 労働能力のある貧民,労働能力のない貧民,13歳以下の孤児。

②財源と適用範囲
 教会の教区単位に救貧税を徴収。救済を実施しない教区あり。

その後,1834年に新救貧法が施行されます。

新救貧法のポイント

①救済の全国一律化
②劣等処遇の原則

です。劣等処遇の原則とは,救済の内容は,自活する貧民よりも下でなければならないというものです。

ここまでが公的救済です。

不十分な公的救済を補完したのは,労働者による相互扶助と資本家などによる慈善事業です。

相互扶助には,共済や生協などがあります。

この時代のイギリスは世界で最も早い時期に産業革命を成し遂げ,世界の富がイギリスに集まってきました。

資本家は,慈善活動を自分たちの義務だととらえ,積極的に活動を行います。

しかし活動は統一されておらず,そのため,濫救や漏救などが起こり,調整する機関が必要となりました。

そこで設立されたのが,慈善組織協会(COS)です。

COSは,道徳的貧困観に基づき,「救済の価値のある貧民」と「救済の価値のない貧民」に分けて,救済の価値のある貧民を救済しました。

救済の価値のない貧民は,救貧法で救済しました。

COSで行った個別訪問が,ケースワークに発展していきます。

この発展に寄与したのが,リッチモンドです。

それでは,今日の問題です。


第23回・問題84 イギリスの慈善組織協会の活動に関する次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。

1 慈善組織協会は,「救済に値する貧民」と「救済に値しない貧民」に区別することなく,あらゆる貧民を対象とした援助活動を行った。

2 慈善組織協会は,個々の慈善団体が個別の業績を上げることを目的として,ロンドンの地区ごとに地区委員会を設立した。

3 慈善組織協会は,産業革命が生み出した貧困の予防対策として設立された。

4 慈善組織協会は,被救済者の登録を行って救済の重複や不正受給の抑制を行うことを意図して始まった。

5 慈善組織協会の貧困や社会問題に対する自由主義的な認識が,セツルメントや社会運動,労働運動の考えに継承されていった。


歴史が好きではない人は,とてもいやになってしまう問題かもしれません。

しかし,ポイントを押さえるとそれほど難しくはありません。
なぜなら出題されるポイントはいつも決まっているからです。

そのため,しっかり押さえると得点しやすい領域でもあるのです。
他の受験生と差がつきやすい領域と言えるでしょう。

それでは解説です。


1 慈善組織協会は,「救済に値する貧民」と「救済に値しない貧民」に区別することなく,あらゆる貧民を対象とした援助活動を行った。


これは間違いです。

COSの活動を知らないと正解にしてしまいそうですが,救済の対象は,「救済に値する貧民」です。

救済に値しない貧民は,救貧法が救済しました。

このような民間救済と公的救済の関係を「平行棒理論」といいます。


2 慈善組織協会は,個々の慈善団体が個別の業績を上げることを目的として,ロンドンの地区ごとに地区委員会を設立した。

これも間違いです。

慈善団体がバラバラに活動していたために,濫救や漏救などが起こり,調整する機関が必要となり,COSが設立されました。

個別の業績を上げることはCOSの設立目的ではありません。


3 慈善組織協会は,産業革命が生み出した貧困の予防対策として設立された。


これも間違いです。

COSは,貧民の救済を行う慈善団体の調整を行うために設立されたものです。

貧困の予防,つまり防貧の考えが生まれてくるのはもう少し先の話です。


4 慈善組織協会は,被救済者の登録を行って救済の重複や不正受給の抑制を行うことを意図して始まった。


これが正解です。

慈善団体はバラバラに活動していたために,調整する必要が生じ,設立されたのがCOSです。


5 慈善組織協会の貧困や社会問題に対する自由主義的な認識が,セツルメントや社会運動,労働運動の考えに継承されていった。


これも間違いです。

COSの自由主義的な認識とは,怠惰などが貧困に陥る原因だととらえていたことです。

貧困の陥る原因は「社会構造」だという認識が,セツルメント,社会運動,労働運動などにつながっていきます。これらはCOSの考え方から継承されたものではありません。


<今日の一言>

COSは,貧困家庭を訪問し,貧困者の登録などを行いました。

この活動が,ケースワーク,コミュニティケア,アウトリーチなどの源流となっていきます。

イギリスCOSは,1869年にロンドンで設立
アメリカCOSは,1877年にバッファローで設立

近年の研究では,イギリスCOSの活動が,医療ソーシャルワーカー(MSW)に導入されたことがわかってきています。
国試には出題されることはないかもしれませんが,COSはMSWの源流でもあります。

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