社会福祉士の国家試験は,平成元年に始まりました。
そのため,年号と国試の回は同じです。
第1~21回までが旧カリキュラム,第22回以降が現行カリキュラムでの出題となっています。
旧カリキュラム時代の合格発表は年度末の3/31に行われていました。
現行カリキュラムになってからの合格発表は,3月中旬,おおむね3/15に行われています。
合格発表を早めた理由は,学生が資格取得を要件として就職内定をもらっている場合,不合格になると内定取り消しになるため,新年度までに就職活動ができるように考慮したからです。
今までの国試で大きく変わったことは,第15回から合格基準点と正答を発表するようになったことです。
第15回国試では,4/25に701名に追加合格を出すという事態が発生しました。
この中には,内定取り消しになった人も含まれているのではないかと思います。
平成最後の国試となった第31回国試では,3/28に418名に追加合格が出ました。
不適切問題はこの間にもありましたが,合格発表の時には既に明らかとなり,追加合格が出たのは,第15回と第31回の2回のみです。
合格発表前に不適切問題が発見されるのと合格発表の後に不適切問題が発見されるのでは,大きな違いがあります。
もともとの問題の正解率にもよりますが,合格発表の前に不適切問題が見つかった場合は,全員得点なることを見越して,その分を上乗せした点数を合格基準点にすることもあります。
合格発表後に発見された場合は,そのような調整を行うことができません。
第31回国試の場合,もし不適切問題が合格発表の前に明らかとなった場合は,もしかすると合格基準点を90点にした可能性もあったのです。
第31回の不適切問題となった問題133はそれほど難易度が高い問題ではないので,もともと多くの人が正解できていたと考えられるので,90点になった可能性は低いと思います。
しかし,誰も解けないような難易度の高い問題が不適切問題になった場合は,確実に合格基準点を上乗せすることでしょう。
不適切問題で救われる人もいますが,不適切問題のために泣く人も出てくる可能性があるのです。
試験実施後から合格発表まで不適切問題の発生を望む声が聞かれることがありますが,合格発表前に不適切問題が明らかになった場合,受験生にとって必ずしもハッピーなものにならないことは覚えておきたいところです。
さて,本題に入ります。
国試問題は絶えず変化しています。
近年の傾向は,相談援助の2科目にわが国の人が出題されるようになったことです。
その始まりは,第27回です。
第27回・問題98 ソーシャルワークが対象としている「人と環境との関係」に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。
5.ジャーメイン(Germain,C)は,社会生活の基本的要求を充足するために,社会成員が社会制度との間に取り結ぶ関係としてとらえた。
この問題は,ジャーメインではなく,岡村重夫が正しいということになります。
今回は,岡村重夫と竹内愛二を学びたいと思います。
このような方は,たくさんの著書などがあり,多くのことを述べていますが,出題されるのは,重箱の隅をつつくようなものではなく,中心理論です。
そのため,出題ポイントは極めてシンプル及び明確です。
まずは岡村重夫です。
先日紹介したように,岡村先生は,大阪市立大学や関西学院大学などで教授を務められた方です。
社会福祉固有の視点として,社会関係の主体的側面に焦点を当てました。社会関係とは個人と社会制度の関係性を指しています。
個人側からの視点は「社会関係の主体的側面」,制度側からの視点は「社会関係の客体的側面」です。社会関係の主体的側面に働きかけるのが社会福祉固有の視点,つまり専門ソーシャルワークだということになります。
社会福祉が必要となるのは,
①社会関係の不調和
②社会関係の欠損
③社会制度の欠損
であると述べています。
次に竹内愛二です。
竹内先生は,同志社大学や関西学院大学などで教授を務められた方です。竹内先生は,日本に初めてケースワーク理論を持ち込んだ人として知られます。
竹内先生によると社会事業とは,
(個別的・集団・組織)社会事業とは,(個人・集団・地域社会)が有する社会(関係)的要求を,その他の種々なと要求との関係において,自ら発見し,かつ充足するために,能力,方法,社会的施設等あらゆる資源を自ら開発せんとするのを。専門職業者としての(個別・集団・組織)社会事業者が,その属する施設・団体の職員として,側面から援助する,社会福祉事業の一専門領域を成す過程をいう。
と定義しています。
「側面から援助する」というソーシャルワークの基本姿勢も述べられています。
さらに,行動科学に基礎づけられた専門的な援助技術の体系を,特に「専門社会事業」と呼び,社会事業の中心としてとらえています。
それでは今日の問題です。
第19回・問題2 社会福祉・社会事業の理論形成に貢献した人物に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 大河内一男は,社会政策が資本主義の基本問題である社会問題を対象とするのに対して,社会事業は「関係的・派生的な社会的問題」を対象とするという前提に立って理論を形成した。
2 竹内愛二は,社会福祉の問題を社会構成体的に理解し,対象と政策主体と運動の三元的な力動関係において捉え,そこから「福祉労働」を規定した
3 岡村重夫は,個人がその基本的要求を充足するために利用する社会制度との関係を「社会関係」と呼び,その主体的側面に立つときに見えてくる生活上の困難を,社会福祉の固有の対象領域とした。
4 孝僑正一は,社会事業を「経済秩序外的存在」である貧困者に対する施策と位置づけ,同時に社会政策の強化・補強策と規定した。
5 真田是は,人間関係を基盤に駆使される専門的な援助技術の体系を,特に「専門社会事業」と呼び,社会事業概念の中軸に位置づけた。
極めて難しい出題です。
第19回国試は,この問題が出題された「社会福祉原論」という科目が0点となって,不合格となった人が多かったのですが,その理由を伺い知ることができます。
しかし,岡村先生と竹内先生の中心概念を押さえておくことで,突破できます。
それでは解説です。
1 大河内一男は,社会政策が資本主義の基本問題である社会問題を対象とするのに対して,社会事業は「関係的・派生的な社会的問題」を対象とするという前提に立って理論を形成した。
これは間違いです。
社会政策が資本主義の基本問題である社会問題を対象とするのに対して,社会事業は「関係的・派生的な社会的問題」を対象とするという前提に立って理論を形成したのは,孝橋正一(こうはし・しょういち)です。
孝橋先生は,
社会政策 → 社会問題を対象
社会事業 → 社会的問題を対象
という2つに分けて捉えました。
社会問題とは,賃金に由来する資本主義の問題
社会的問題は,社会問題から派生した問題
をいいます。
2 竹内愛二は,社会福祉の問題を社会構成体的に理解し,対象と政策主体と運動の三元的な力動関係において捉え,そこから「福祉労働」を規定した。
これも間違いです。
運動とは,社会福祉の改善や要求を行うことを指しています。
福祉労働を規定したのは,真田是(さなだ・なおし)です。
運動論を展開したのは,真田先生のほかには,一番ヶ瀬康子(いちばんがせ・やすこ)先生,高島進先生がいます。この人たちのキーポイントは「運動」です。
3 岡村重夫は,個人がその基本的要求を充足するために利用する社会制度との関係を「社会関係」と呼び,その主体的側面に立つときに見えてくる生活上の困難を,社会福祉の固有の対象領域とした。
これが正解です。
難しい問題ですが,岡村先生の理論を正解にしたところが,この問題が永遠に残るものであり,今後の出題を考えるときのポイントになるでしょう。
4 孝僑正一は,社会事業を「経済秩序外的存在」である貧困者に対する施策と位置づけ,同時に社会政策の強化・補強策と規定した。
これも間違いです。
社会事業を「経済秩序外的存在」である貧困者に対する施策と位置づけ,同時に社会政策の強化・補強策と規定したのは,大河内一夫です。
大河内先生は,東京大学の学長まで務められた方で,社会政策が専門です。
社会政策 → 経済秩序内的存在である労働者を対象
社会事業 → 経済秩序外的存在である貧困者を対象
と捉えました。
社会政策と社会事業の2つに分けたのは孝橋先生と一緒ですが,孝橋先生は問題を切り口にしていることに対して,大河内先生は対象を切り口としていることに違いがあります。
5 真田是は,人間関係を基盤に駆使される専門的な援助技術の体系を,特に「専門社会事業」と呼び,社会事業概念の中軸に位置づけた。
これも間違いです。
人間関係を基盤に駆使される専門的な援助技術の体系を,「専門社会事業」と呼んだのは,竹内先生です。
<今日の一言>
今日の問題は,相談援助系の科目ではなく,現行カリキュラムでは「現代社会と福祉」につながる旧カリキュラムの「社会福祉原論」で出題されたものです。
「現代社会と福祉」は,福祉政策が中心の科目になったこともあり,福祉理論に関する出題はされていません。
しかし,第27回以降は,相談援助系科目,特に相談援助の基盤と専門職で取り上げられるようになってきています。
覚えて正解しても1点,覚えなくて正解できなくても1点なので,苦手なら深追いするする必要は現時点ではないと言えます。
しかしこの科目は,どんどん広がりを見せる可能性があることを予感させるので,覚えられることなら,覚えておいた方が良いのかもしれません。
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