社会福祉調査の方法には,量的調査と質的調査があります。
それぞれの違いを押さえることが大切です。
第31回国試で出題された問題から,考えていきたいと思います。
第31回・問題90 質的調査の記録やデータの収集方法に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 仮説検証などに必要な数量的なデータの収集を行う。
2 調査対象者を抽出する方法として,主に無作為抽出法を用いる。
3 音声データや映像データを用いることができる。
4 手紙や日記などの私的文書は除外する。
5 面接者は,インタビューの場において相手の発言内容の一言一句を正確にメモすることに専念する。
この類似問題は,第24回と第27回に出題されています。
直近の3年間の国試ではありません。。
問題自体はそれほど難しくはないですが,量的調査と質的調査の特徴を押さえておかなければ,思わぬ落とし穴にはまることでしょう。
それでは解説です。
1 仮説検証などに必要な数量的なデータの収集を行う。
これは間違いです。
仮説を立てるのは,量的調査です。
その仮説が正しいのか,正しくないのか,データを収集・分析して,その検証を行います。
質的調査の中にも仮説を検証するための手法があります。しかし量的調査と根本的に違うのは,質的調査は,質的データを取り扱うことです。
データ収集の方法としては,観察。面接,ドキュメント(記録)などがあります。
これらで得られたデータが質的データです。数量的に置き換えることができない,一つひとつが大切なデータです。
大切なAさんの記録,Bさんの記録です。言葉一つひとつ,身振り手振り一つひとつか貴重なデータです。
2 調査対象者を抽出する方法として,主に無作為抽出法を用いる。
これも間違いです。
社会福祉調査は,無作為抽出で行わなければならないと思っている人は間違えます。
無作為抽出を行う理由は,本来は全数調査を行いたいところを,手間もお金もかかるので,標本調査を行うからです。
本当に欲しいデータは,全数調査で得られるデータです。
全数調査で得られるデータと大きく違わないために行うのが無作為抽出です。
質的調査でも,無作為で調査対象者を抽出することがあるかもしれません。
例えば,年収●●万円で世田谷に持ち家がある4人家族という条件から,調査対象者を無作為抽出して,面接を行うという方法もあるでしょう。
しかし多くの場合は,興味のある対象に対して,観察を行ったり,面接を行ったりしているはずです。つまり有意抽出です。
大切なAさん,調べてみたいB集落です。これらは,無作為抽出されたものではありません。
3 音声データや映像データを用いることができる。
これが正解です。
これが正解選択肢になったおかげで,この問題の難易度が下がったと思います。
変に勘繰らなければ,知識ゼロでもこの選択肢を選ぶでしょう。
4 手紙や日記などの私的文書は除外する。
これも間違いです。
ドキュメント分析の対象となる記録物は,マスコミや公文書など,そして私的な手紙や日記などです。
これまで何度も出題されてきています。
家計簿でさえ,ドキュメント分析の対象となります。
5 面接者は,インタビューの場において相手の発言内容の一言一句を正確にメモすることに専念する。
これも間違いです。
これも何度も出題されてきましたが,一言一句正確にメモすることに専念する必要はありません。
今の時代は,録音や録画する機器は多く出回っています。
事前に承諾を得ておくことで,これらの機器は利用できます。
<今日の一言>
今日の問題は,決して難しくはありません。
しかしこういった問題でも,うっかりすると間違えます。
例えば選択肢2などがそうです。
勉強の仕方はいろいろあるでしょう。
しかし短期で詰め込みタイプの勉強は,知識を生きた知識として落とし込む余裕がないため,間違いやすくなります。
合格の条件は・・・
正解できる問題で確実に正解できること
難しい問題が正解できても,正解できる問題,つまり,後から読めば解ける問題が正解できなければ,ざるから水がこぼれ落ちるようなものです。
合格基準点に到達することは難しいです。
何度も受験して,不合格になっている人は,特に注意です。
合格できないのは,知識不足もあるかもしれませんが,それ以外の理由が必ずあるはずです。
最新の記事
社会的ジレンマ
今回は,社会的ジレンマを取り上げます。 社会的ジレンマとは,個々人の行動の結果が社会に不利益をもたらすことをいいます。 国家試験では,社会的ジレンマの例として ・フリーライダー ・囚人のジレンマ ・共有地の悲劇 が出題されています。 フリーライダー は,負担なしに公共財などを利用...
過去一週間でよく読まれている記事
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。 それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。 エコロジカルアプローチを提唱したジャーメインとギッターマンが,エコロジカル(生態学)の視点をソーシャルワークに導入したものです。 生活モデルでは,クライエントの...
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
人は,一人で存在するものではなく,環境の中で生きています。 人と環境を一体のものとしてとらえるのが「システム理論」です。 人は環境に影響を受けて,人は環境に影響を与えます。 人⇔環境 この双方向性を「交互作用」と言います。 多くのソーシャルワークの理論家が「人...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
ソーシャルワークにおけるネットワーキングとは,福祉課題を解決するために様々な機関,住民たちが連携することをいいます。 誰かが「それは良いことだ,やろう」と思っても,人を動かすのは,決して簡単なことではありません。 社会福祉士が連携の専門家だとしたら,ネットワーキングは,社会福祉士...
-
1990年(平成2年)の通称「福祉関係八法改正」は,「老人福祉法等の一部を改正する法律」によって,老人福祉法を含む法律を改正したことをいいます。 1989年(平成元年)に今後10年間の高齢者施策の数値目標が掲げたゴールドプランを推進するために改正されたものです。 主だった...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
グループワークは以下の過程で実施されます。 準備期 ワーカーがグループワークを行う準備を行う段階です。 この段階には「波長合わせ」と呼ばれるクライエントの抱える問題,環境,行動特性をワーカーが事前に把握する段階が含まれます。波長合わせは,準備期に行うので注意が必要です。 ...
-
様々なアプローチが第31回国試までに出題された回数を整理すると以下のようになります。 アプローチ名 出題回数 ・心理社会的アプローチ 9 ・機能的アプローチ 4 ・問題解決アプローチ ...