ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークという技術として発展してきました。
これらの共通基盤を明らかにしようとするものが「統合化」です。
ケースワークは,リッチモンドが,1922年の「ソーシャル・ケース・ワークとは何か?」を書き上げて,その後のソーシャルワークに大きな影響を与えたことがよく知られています。
そのため,リッチモンドと言えば「ケースワークに科学性を導入した人物」という印象が7あるので,グループワークやコミュニティワークとは縁がなさそうに思えるかもしれません。
しかし,グループワークやコミュニティワークの重要性についても指摘しています。
それでは今日の問題です。
第29回・問題94 アメリカにおけるソーシャルワークの統合化に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 統合化の背景には,専門分化されたソーシャルワーク実践が多様化する社会問題に対応できていたことがある。
2 統合化とは,ケースマネジメントとカウンセリングに共通する新しい知識や方法を明らかにする動きのことである。
3 ミルフォード会議の報告書(1929年)において,「ソーシャルケースワーク」という概念が初めて示され,統合化への先駆けとなった。
4 ジェネラリスト・アプローチは,ソーシャルワークの統合化の一形態である。
5 精神分析学は,ソーシャルワークの統合化に大きな影響を与えた。
上手な出題だと思います。
発展から現在までまとめて学ぶことができる問題です。
それでは,解説です。
1 統合化の背景には,専門分化されたソーシャルワーク実践が多様化する社会問題に対応できていたことがある。
これは間違いです。
この文章に違和感がありませんか?
問題の構成は上手ですが,問題の作り方が下手です。
もともとの文章,つまり正しいのは
統合化の背景には,専門分化されたソーシャルワーク実践が多様化する社会問題に対応できていなかったことがある。
これを否定形にした文章なので,違和感を生じるのです。
2 統合化とは,ケースマネジメントとカウンセリングに共通する新しい知識や方法を明らかにする動きのことである。
これも間違いです。
統合化は,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークの共通基盤を明らかにしようとするものです。
3 ミルフォード会議の報告書(1929年)において,「ソーシャルケースワーク」という概念が初めて示され,統合化への先駆けとなった。
これも間違いです。
ミルフォード会議は,統合化の先駆けとなったものです。しかし,この報告書で示されたのは「ジェネリック」という概念です。
4 ジェネラリスト・アプローチは,ソーシャルワークの統合化の一形態である。
これが正解です。
ジェネラリスト・アプローチは,多様化する社会問題に対応するための方法です。
5 精神分析学は,ソーシャルワークの統合化に大きな影響を与えた。
これは間違いです。
精神分析学が影響を与えたのは,ケースワークです。
その中でも,診断主義ケースワークの理論基盤となりました。
診断主義ケースワークは,現在,心理社会的アプローチに発展しています。
<今日の一言>
「相談援助の基盤と専門職」は,社会福祉士の国試の中で最も重要な科目です。
難しい科目ですが,この科目をしっかり学ぶことは,ソーシャルワーク実践の共通基盤である「価値」「知識」「介入」のうち,「価値」「知識」を身につけることになるからです。
最新の記事
ノーマライゼーションの国家試験問題
今回は,ノーマライゼーションに取り組みます。 前説なしで,今日の問題です。 第26回・問題93 ノーマライゼーションの理念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 1 すべての人間とすべての国とが達成すべき共通の基準を宣言した世界人権宣言の理念として採用された。 2...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
バートレットは,ソーシャルワークの共通基盤として 「価値」「知識」「介入(技術)」 を挙げています。 ソーシャルワーカーなら,フィールドが違えど,共通してもっているもの,という意味です。 3 つの中のうち「 価値 」は,「相談援助の基盤と専門職」で中心的...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ノーマライゼーションとは,「ノーマル(普通)」の派生語で「ノーマル化する」という意味です。 「ノーマル化する」のは,障害者の生活です。 世界で最初にノーマライゼーションを提唱したのは,デンマークのバンク-ミケルセンです。 1950年代のデンマークでは,保護の名のもとに...
-
繰り返しになりますが,ソーシャルワークは欧米生まれです。 なじみのない外国語がたくさん使われますが,苦手だと思うととても損です。 さて,今日のテーマは「ジェネラリスト・アプローチとは何だろう?」です。 まずは前回の復習からです。 ソーシャルワークは,ケースワーク,...
-
ソーシャルワーカーは,場面によってさまざまな役割を演じます。 今日は前説なしに,ソーシャルワーカーの役割についての問題です。 第 31 回・問題 107 ソーシャルワークの援助過程におけるソーシャルワーカーの役割に関する次の記述のうち,最も適切なもの...
-
様々なアプローチが第31回国試までに出題された回数を整理すると以下のようになります。 アプローチ名 出題回数 ・心理社会的アプローチ 9 ・機能的アプローチ 4 ・問題解決アプローチ ...
-
国試での出題実績のあるアプローチは以下の12種類です。 出題基準に示されているもの ・心理社会的アプローチ ・機能的アプローチ ・問題解決アプローチ ・課題中心アプローチ ・危...