ソーシャルワークの源流には,慈善組織協会(COS),セツルメントがあることは,これまで学んできたとおりです。
これらが始められた当時は,資本主義国家が福祉国家になる以前のこととは言え,制度の中から発生してきたものではないことが特筆ものです。
制度があって,ソーシャルワークが生まれてきたものではありません。
公的な福祉制度が整備されてきたのは,19世紀後半以降のことです。
日本は第二次世界大戦での敗戦を経て,今日に至ります。
明治以降の救貧制度には,恤救規則,救護法,旧生活保護法,現生活保護法があります。
現生活保護法は,日本国憲法に基づき,国民の最低限度の生活保障と自立の助長を目的としています。
生活保護は,社会福祉主事によって行われます。
仲村優一先生は,
ケースワークは公的扶助に即したものである
と主張し,
岸勇先生は,
公的扶助とケースワークを分離させるべきだ
と主張しました。
これがいわゆる1950年代に展開された「仲村・岸論争」と呼ばれるものです。
それから60年が経ちます。
今日では,経済自立のみならず,日常生活自立,社会自立など多様な自立があると感化背えられています。
現業員のケースワークはますます重要になることでしょう。
仲村先生の主張と岸勇先生の主張の内容は別なものですが,いずれもよりよい生活保護制度はどうあるべきかを目指したものであることは間違いありません。
国試での「仲村・岸論争」を見てみたいと思います。
第20回・問題4・選択肢4
仲村優一は,要保護者が生存権を自ら自覚し,権利意識を強くもつことが重要であって,公的扶助からケースワークを除外すべきであると主張した。
これは,岸先生の主張です。
岸先生が,なぜ公的扶助とケースワークを分離すべきだと主張したのかがよく分かる問題です。
第31回・問題94・選択肢4
小河滋次郎は,論文「公的扶助とケースワーク」において,公的扶助に即したケースワークの必要性を示した。
これが,仲村先生の出張です。
ようやく,この出題で「仲村・岸論争」の内容が出揃ったことになります。
<今日の一言>
岸先生は1995年,仲村先生は2015年に亡くなりました。
生きている人は出題しにくいですが,亡くなると出題しやすくなります。
第31回に出題されたばかりなので,第32回には続けて出題されることはないと思いますが,覚えておきたいです。
最新の記事
障害者総合支援法における相談支援
今日のテーマは,「障害者総合支援法における相談支援」です。 同法に規定される相談支援機関の中心は,基幹相談支援センターです。 〈基幹相談支援センターの業務〉 ・総合的・専門的な相談の実施 ・地域の相談支援体制強化の取組 ...
過去一週間でよく読まれている記事
-
1990年(平成2年)の通称「福祉関係八法改正」は,「老人福祉法等の一部を改正する法律」によって,老人福祉法を含む法律を改正したことをいいます。 1989年(平成元年)に今後10年間の高齢者施策の数値目標が掲げたゴールドプランを推進するために改正されたものです。 主だった...
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
模擬試験を受験するとその場で解答をもらえることが多いので,すぐ自己採点する人も多いことと思います。 しかし,ここで気を付けなければならないのは,模擬試験は,実際の国家試験よりも点数が取りにくい傾向にあることです。 そこを押さえておかないと「あれだけ勉強したのに点数が取れな...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
まずは戦後の社会保障制度の変遷を考えてみたいと思います。 昭和 20 年代 は,国民全体が貧しく,救貧の時代です。救貧の中心的制度は,公的扶助です。 昭和 30 年代 に入ると,高度経済成長の時代になり,防貧の時代になります。防貧の中心的制度は,社会保険で...
-
システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。 それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。 エコロジカルアプローチを提唱したジャーメインとギッターマンが,エコロジカル(生態学)の視点をソーシャルワークに導入したものです。 生活モデルでは,クライエントの...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
ソーシャルワーカーは,場面によってさまざまな役割を演じます。 今日は前説なしに,ソーシャルワーカーの役割についての問題です。 第 31 回・問題 107 ソーシャルワークの援助過程におけるソーシャルワーカーの役割に関する次の記述のうち,最も適切なもの...
-
横断調査も縦断調査も意味がつかみにくいので,覚えるのが大変だと思います。 横断調査 ある時点で行う調査。 縦断調査 一定の期間を開けて,複数回行う調査。 同じ対象者(パネル)に対して複数回行うパネル調査は縦断調査の一つ。 それでは今日の問題です。 第33回・問題87 横断調...