2019年3月4日月曜日

質的調査における記録の方法と留意点~フィールドノーツって何?

質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。

その際にとる記録をフィールドノーツといいます。

一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。

こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがうかがわれます。

さて,今回から2回にわたって,「質的調査における記録の方法と留意」に取り組んでいきます。

国家試験で出題されたのは,第24回,第27回,第31回の3回です。

決して頻出のものとは言えないかもしれませんが,そんなに難しくはないと思いますので,この機会にしっかり覚えておきたいです。

それでは今日の問題です。


第24回・問題82 質的調査における記録やデータに関する次の記述のうち,最も適切なものを一つ選びなさい。

1 インタビューの場において,面接者は相手の発音内容に集中し,一言一句を正確にメモすることに専念するべきである。

2 データ収集の対象となる文書資料には,官公庁などの公的機関による記録のみならず,手記や日記などの私的文書も含まれる。

3 フィールドノーツを書く際には,事実だけを記述するようにして,調査者としての解釈は含めないことが望ましい。

4 アクションリサーチにおいては,専ら観察による記録を用い,面接や質問紙による記録は用いない。

5 参与観察においては,録音機や写真,ビデオ等を用いて記録を行うことは望ましくない。


この問題を見て「アッ」と思った人もいるかもしれません。
第31回に酷似した問題が出題されているからです。

それでは早速解説です。


1 インタビューの場において,面接者は相手の発音内容に集中し,一言一句を正確にメモすることに専念するべきである。


これは間違いです。

正確にメモをとる必要があるのなら,速記できる記録係が一緒にいけばよいです。

実際にやってみればわかりますが,インタビューしながら一字一句正確にメモするのは,ほとんど困難です。


2 データ収集の対象となる文書資料には,官公庁などの公的機関による記録のみならず,手記や日記などの私的文書も含まれる。


これが正解です。

質的調査は,文書(=記録,ドキュメント)からもデータを収集して分析します。これをドキュメント分析といいます。

公文書,新聞,私的な日記など,様々な文書がドキュメント分析の対象となります。

例えば,今話題になっているようなキーワードは,いつごろから使われるようになったのか,といったものを新聞などで登場する回数などを調べるというのもあります。

歌詞なども分析対象となります。

現代では,女性が男性を呼ぶ時,「君」と呼ぶ歌が多いですが,それはいつごろからそうなったのか,オリコンの年間ランキングという文書を通して分析します。

手記や日記は,公文書ではつかめないデータを収集することができます。


3 フィールドノーツを書く際には,事実だけを記述するようにして,調査者としての解釈は含めないことが望ましい。


これも間違いです。

ソーシャルワークの記録も同様ですが,解釈を含めて記録するのは適切です。ただしその際には,事実と解釈が混同しないようにすることが大切です。


4 アクションリサーチにおいては,専ら観察による記録を用い,面接や質問紙による記録は用いない。


これも間違いです。


アクションリサーチも質的調査の手法ですから,面接も行います。

引っかかるのは,質問紙という部分でしょう。

アクションリサーチが,ほかの調査手法と大きく違う点は,調査の過程を通して,問題解決を図ることを重視することです。

まずは,何が問題になっているのかを明らかにする必要があります。

その時に,質問紙も用います。

面接では言いにくいことも匿名性のある質問紙になら書けることもあるでしょう。


5 参与観察においては,録音機や写真,ビデオ等を用いて記録を行うことは望ましくない。


これも間違いです。

事前に承諾を取って,使用することができます。

録音や録画をすることで,後から正確にインタビューや観察したものを再現することさえできます。


<今日の一言>

今日の問題は,決して難易度が高い問題ではありません。

国試ではこのような問題でいかに点数を積み重ねていくことができるかが合否にかかわります。

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