2019年3月7日木曜日

社会福祉調査にインターネットは使えるの?

インターネットが一般的に使われるようになったのは,1990年代のことです。

その当時,今と違って通信するのに電話料金がかかっていました。
常時接続の定額料金のサービスができたのはそのあとです。

それから20年が経ち,今は手軽にインターネットが使える時代になりました。

インターネットに多くの人が利用することで,膨大なデータが蓄積されています。
それらは「ビッグデータ」と呼ばれます。

ビッグデータを分析する市場調査の技術を持って活用しているグーグルのような企業もあります。

社会調査に活用するためには,まだまだ課題はありますが,活用しないのはもったいないと言えます。

ビッグデータから,量的データ及び質的データの収集ができるからです。


それでは今日の問題です。


第28回・問題90 社会調査におけるコンピューターやインターネットの活用に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。

1 インターネット調査は,調査対象がインターネット利用者に限定されるため,目標母集団に照らして,調査漏れが生じやすい。

2 発言の当事者を特定できないインターネット上の掲示板の書き込みは,社会調査の分析対象として活用することができない。

3 国勢調査では,インターネットで回答することができない。

4 調査票調査の自由回答や介護記録の記述など大量の文字データの分析には,コンピューターを活用することができない。

5 国の統計データについては一つに集約されたポータルサイトが整備されている。


たった3年前の出題ですが,問題の作り方が荒いと感じます。

現在だとおそらく修正して出題されるでしょう。


それはさておき,解説です。


1 インターネット調査は,調査対象がインターネット利用者に限定されるため,目標母集団に照らして,調査漏れが生じやすい。

これは正解です。

第24回国試でも正解になったように,インターネットを使った社会調査では,母集団を代表するデータを収集するのは困難です。

インターネットにアクセスすることができる人は20年前よりも確実に増えていますが,それでも全員がアクセスできるほどではありません。


2 発言の当事者を特定できないインターネット上の掲示板の書き込みは,社会調査の分析対象として活用することができない。

これは間違いです。

掲示板の書き込みは,社会調査の分析対象として有効です。

どんなニュースに飛びついて,どんな反応をするのかが分析できます。
例えば,北朝鮮とアメリカのトップ会談について,報道されたニュースの後に国民がどのような反応を示したのか,といった分析ができます。

社会心理学,あるいは心理社会学などの研究領域にとって,掲示板の書き込みは重要な情報であふれています。


3 国勢調査では,インターネットで回答することができない。

これも間違いです。

国勢調査は,1920年に第一回調査が実施されて,10年ごとに大規模調査,その中間に調査が実施されています。

2015年の簡易調査は,インターネットでの回答を導入した記念すべき国勢調査となりました。

留置調査とインターネットを併用することで,全数調査を確保しています。


4 調査票調査の自由回答や介護記録の記述など大量の文字データの分析には,コンピューターを活用することができない。


これも間違いです。

第24回と第26回に出題されたように,文字データ(テキストデータ)を分析する「テキストマイニング」という分析方法があります。

たとえば,認知症の人の介護記録をテキストマイニングで分析することで,BPSDの要因などが明らかになる可能性をもっています。

ヒヤリハットなどのインシデントレポートでは,どのような場面でどんなことが発生しやすいのかも分析してくれます。

これらを手作業で行えばかなり手間がかかりますが,テキストマイニングのコンピューターソフトを使うことで楽に,しかも見落としてしまいそうなものも見えてくる可能性があります。

ただし,調べる単語に区切るのはコンピューターでは行ってくれないので,自分で行わなければなりません。今後はAIによって,それさえも自動化される時代がやってくるかもしれません。


5 国の統計データについては一つに集約されたポータルサイトが整備されている。


これは正解です。

総務省統計局にポータルサイトが整備されています。

総務省のポータルサイト

https://www.stat.go.jp/


「今日の問題の作り方が荒い」というのは,間違い選択肢はすべて「できない」となっています。

正解選択肢の2つはそれ以外です。

こういった作り方をすると,知識ではないもの,つまり「勘」が良い人は解けてしまう可能性が出てきてしまいます。

勉強せずとも勘の良い人が合格してしまうような資格試験は避けなければなりません。

それにもかかわらず,第31回国試では,またまた表現にばらつきが出てきています。
表現をそろえながら,正解選択肢と間違い選択肢を作るのは,とても難しいということなのでしょう。

勉強した人が,さらに得点力を高めるためには,こういったところにも着目しながら,国試に取り組むと良いと思います。


<今日の一言>

「統計は国家なり」という言葉があるように,統計は様々な意思決定を行うのに,極めて重要です。

現在は,厚生労働省が実施している基幹統計の信ぴょう性が疑問視されています。

本来は,全数調査で行わなければならないものを標本調査で実施していた問題です。

精度の高い無作為抽出を行えば,それほど母集団とずれなかったと思います。

厚生労働省は,国家予算の30%を使っている最も大きな省庁です。

再発防止のために,なぜそのようなことが起きたのか,関係者のメールや記録などをテキストマイニングで分析すると,その理由が明らかになります。そんなことはしないと思いますが・・・


インターネットはこれからもますます発展していくでしょう。

5年後,10年後にどのように発展しているのかとても楽しみです。

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