2019年5月4日土曜日

心理社会的アプローチにおける介入技法

ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。

その時に用いられるのがコミュニケーションです。
コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。
いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的アプローチっぽいですね。

ホリスは,介入技法として,以下のものを提唱しています。

①持続的支持
 傾聴や共感など。

②直接的指示
 ワーカーの意見などを明確にすること。

③浄化法
 感情を浄化すること。いわゆるカタルシス。

④人と状況の全体関連性の反省
 人(クライエント)と環境の関連で生じる思考,感情などの気づき。

⑤パターン力動的反省
 クライエント自身の考え方のパターン,行動の傾向などを明確にすること。

⑥発達的な反省
 幼少期の体験を振り返ること。


訳し方が独特なので,覚えにくくとらえにくいと思います。

国家試験では,旧カリキュラム時代の出題も含めて,これらの介入技法は一度しか出題されたことはありません。

というか,心理社会的アプローチの出題頻度は高いですが,一問まるごと心理社会的アプローチが出題されたのは,第27回と第31回の2回のみです。

それでは今日の問題です。


第31回・問題102 ホリス(Hollis,F.)が示した心理社会的アプローチの介入技法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 「福祉事務所の相談窓口に行って話を聞くといいですよ」とアドバイスするのは,発達的な反省である。

2 「親に心配を掛けまいとして,泣きたいのをずっとこらえていたのですね」という言葉掛けは,直接的指示である。

3 「うんうん,なるほど。そうだったのですね」とうなずきながら話を聞くのは,持続的支持である。

4 「教室に入ろうとすると,友だちの視線が気になってつらくなり入れなくなるのですね」という言葉掛けは,浄化法である。

5 「子どもにきつく当たってしまうということですが,あなたが子どもの頃のお母さんとの関係はどうでしたか」と聞くのは,パターン力動的反省である。


とても難しい問題です。

こういった問題は,勘を駆使して答えを考えなければなりません。

知識ではなく,「勘」が決め手になります。

国試では,勉強した人が解けて,勉強が足りない人は解けない問題でなければ,差が明確にならないので,本来は適切な出題とは言えませんが,今後の布石になるものとしてとても重要な意味をもつ問題だと言えます。


さて,この問題の答えは選択肢3です。

3 「うんうん,なるほど。そうだったのですね」とうなずきながら話を聞くのは,持続的支持である。

持続的支持は,共感や受容を意味します。

「支持」という言葉の意味から,共感や受容をイメージできれば正解できたかもしれません。

しかしこの国試が実施された時点で,心理社会的アプローチの介入技法を理解していた受験生はそれほど多くなかったと思います。

介入技法が出題されたのは,この時が初めてだったために多くの参考書ではここまでカバーしていなかったからです。

それではほかの選択肢も簡単に解説します。


1 「福祉事務所の相談窓口に行って話を聞くといいですよ」とアドバイスするのは,発達的な反省である。

発達的な反省は,幼少期の体験を振り返ることです。


2 「親に心配を掛けまいとして,泣きたいのをずっとこらえていたのですね」という言葉掛けは,直接的指示である。

直接的指示は,ワーカーの意見などを明確にすることです。


4 「教室に入ろうとすると,友だちの視線が気になってつらくなり入れなくなるのですね」という言葉掛けは,浄化法である。

浄化法は,感情を浄化することです。

「教室に入ろうとすると,友だちの視線が気になってつらくなり入れなくなるのですね」という言葉掛けは,人(クライエント)と環境の関連で生じる思考,感情などの気づきを促しているので,「人と状況の全体関連性の反省」だと言えます。


5 「子どもにきつく当たってしまうということですが,あなたが子どもの頃のお母さんとの関係はどうでしたか」と聞くのは,パターン力動的反省である。

パターン力動的反省は,クライエント自身の考え方のパターン,行動の傾向などを明確にすることです。

「子どもにきつく当たってしまうということですが,あなたが子どもの頃のお母さんとの関係はどうでしたか」と聞くのは,幼少期の体験を振り返ることを促しているので,「発達的な反省」だと言えます。


<今日の一言>

心理社会的アプローチにおける重要な概念は「状況の中の人」です。

今日の問題によって,心理社会的アプローチの具体的な介入技法が明らかとなりました。

初めて出題するものは,多くの人は知識を持ちません。

そのために,出題の仕方によって,難易度は高くも低くもできます。

この問題の場合は,6つの技法のうち,言葉のもつイメージとその実際がリンクする「持続的支持」を正解にすることで,難易度をそれほど低くしない方法が取られました。

パターン力動的反省
人と状況の全体関連性の反省

などを正解にするとほとんどの人は正解できなくなります。

この問題は,その方法を用いなかったので,正解率が中くらいの問題になることを目指した問題だったことが伺われます。

次に出題される時は,しっかり勉強した人は,知識をもって国試に臨むことができるので,理解が難しい「パターン力動的反省」や「人と状況の全体関連性の反省」などを正解にするでしょう。

そのことによって,しっかり勉強した人は得点できる,勉強が足りない人は得点できないという資格試験に向く問題が出来上がります。

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