国家試験では「●●に基づく」といった条件を示した問題が出題されることがあります。
事例問題では,対応の適切性が問われているのではなく,「●●に基づく」ものを選ばなければなりません。
ここを間違うと,この手の問題で正解することはできません。
今回は,解決志向アプローチを用いた事例問題を取り上げます。
第22回・問題105 事例を読んで,解決志向アプローチに基づくP相談員(社会福祉士)の対応に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
P相談員は総合病院の医療相談室で働いている。Qさん(40歳代,男性)は難病で入院3か月目を迎えても退院のめどが立たず,うつ状態にある。P相談員がQさんと5日目の面接に臨んだところ,Qさんは「夜は,なかなか眠れません。このまま職を失って,家族を路頭に迷わせるのではないかと考えたり,職場のみんなにも負担をかけるばかりで…。いっそ死んでしまったほうが楽になるのかもしれません。そのほうが誰にも迷惑をかけないような気がして」と消え入りそうな声で言葉をつないだ。
1 問題があまりにも深刻なため,安易にコメントをせずにうなずきを繰り返した。
2 Qさんの気持ちが言葉に込められているので,その一つ一つを丁寧に復唱することにとどめた。
3 Qさんの気持ちが少しでも前向きになるよう,「もうすぐよくなるから大丈夫ですよ」と明るく声かけをした。
4 死にたくなるつらさを受け止め,「Qさんがこれまでやってこれたのはなぜでしょうか」と問いかけた。
5 「家族を支えられるのはQさんだけなので,何とか頑張りましょう」と励ました。
この問題は,現行カリキュラムの初回となる第22回国試の問題です。
そのためなのか,解決志向アプローチがわからなくても正解できる問題となっているのが特徴です。
この問題を下書きにして,第25回の超難しい問題が作られたのだと考えられます。
極端ですね。
第25回の解決志向アプローチの問題
https://fukufuku21.blogspot.com/2019/05/blog-post_15.html
さて,この問題の正解は,選択肢4です。
4 死にたくなるつらさを受け止め,「Qさんがこれまでやってこれたのはなぜでしょうか」と問いかけた。
解決志向アプローチで用いられる質問の技法の中の「コーピング・クエスチョン」が用いられています。
このほかの選択肢は,解決志向アプローチを用いたものという条件がなくても,適切な対応とは言えないでしょう。
<今日の一言>
今日の問題は,解決志向アプローチに基づくものはどれか,というものでした。
たまたまほかの選択肢が適切ではないので,正解しやすい問題となっていますが,多くの場合はこういったスタイルにはなっていません。
つまり「●●に基づく」ものではないけれど,対応自体は不適切ではない,といった出題スタイルです。
ここを間違えると正解できないので,国試の際は,細心の注意が必要です。
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