2018年10月31日水曜日

診療報酬制度の徹底理解~その2

モチベーションが上がらない方へ

社会福祉士は,多くの場合,社会福祉士の資格を持たなくても仕事ができます。

現時点(2018年10月時点)で社会福祉士が配置されなければならないのは,介護保険法に基づく地域包括支援センターのみです。

そのほかの多くの任用資格は,社会福祉主事(任用資格)あるいは社会福祉士です。

そのため,社会福祉士の配置が報酬上で評価されるのはほとんどありません。

それが社会福祉士の資格取得を目指すとき,勉強でモチベーションが上がらない理由の一つになることでしょう。つまり今の仕事で資格を得ても,給料が上がることはない,と思ってしまうのです。

これからも社会福祉士は数が必要ではないため,急激に合格率を上げて,数を確保するということはこれからもないでしょう。

しかし,確実に年1万人以上誕生している国家資格です。

社会福祉士を取得している専門職種はおそらく介護支援専門員だと思います。配置基準がないにもかかわらず,社会福祉士を目指す人が多いのは,資格を仕事に活かそうというものではなく,資格取得してよりよい仕事がしたいという人が多いように思います。

もし,今モチベーションが上がらないとしたら,なぜ資格取得を目指そうと思ったのか,その初心を思い出してほしいと思います。そこには必ず現状を打破する糸口があるはずです。

加算等は枝葉

話を戻します。社会福祉士が配置されることで報酬上の評価があるのは,現在のところ診療報酬のみです。

そのため,法的な配置基準はないものの加算を得るために,医療ソーシャルーカーは,実質上社会福祉士が採用されています。

これはとても重要なことです。

さて,保健医療サービスは,現行カリキュラムで登場した新しい科目です。そのため,試験委員は最初の頃は張り切りすぎた傾向にあったようです。

張り切るというのは,「MSWならこのくらい知っておく必要がある」というハードルが高かったことを言います。別な言い方をすれば,出題が細かすぎたということです。

診療報酬上の加算が国試で初めて出題されたのは,現行カリキュラムによる3回目の国試である第23回です。

加算は経営上重要なものです。

しかし,加算の算定は頻繁に変わるため,社会福祉士という国家資格を考えたとき,本当に国試で問わなければならない,という内容ではないように思います。

第24回では,一問丸ごと加算等が出題されています。

その後も加算は出題されていますが,加算の内容で正解があったのは,丸ごと出題された第24回のみです。

試験委員は張り切って出題したものの,その問題の正解率は極端に低かったのではないかと思います。

試験センターは,膨大なデータを持っています。

国試で不適切な問題は,合格基準点を超えた人の多くが間違ってしまうものです。

勉強した人は得点できる。
勉強が足りない人は得点できない。

これが国試の理想です。

加算は経営上重要ですが,細かい制度は仕事をしてからでも覚えられます。

変わったところが出題されるよ

このようなアドバイスがあります。

しかし,実際には制度改正があったもので,すぐ出題されるのは,多くても150問中1~2問です。

枝葉を追うのではなく,制度の根幹をしっかり押さえていくことが国試で得点するために極めて重要なのです。

今日の問題はお休みして,次回,関する出題の傾向を分析します。

今日言ったことの意味がよく分かると思います。

試験センターも試行錯誤しながら,国試を実施しているのです。

枝葉を正解にしてしまうこともありますが,社会福祉士に本当に必要な知識が正解選択肢に選ばれるのです。MSWに必要な知識ではなく,社会福祉士に必要な知識です。

2018年10月30日火曜日

診療報酬制度の徹底理解~その1

日本の医療保障は,社会保険制度です。

日本の医療保障は社会保険ですが,税によって運営されるイギリスの国民保健サービス(NHS)のようなタイプの医療保障を採用している国もあります。

NHSは,基本的に無料で医療サービスを受けられます。しかし医療サービスを受ける家庭医(GP)は決まっており予約する必要があるので,何か月も待たされることはよくあります。そのため,民間医療保険に加入する人も少なくないと言われています。

日本の医療保障は社会保険なので,社会保険料を納付する必要があります。しかしNHSと違い,どこでも自由に診療が受けられるフリーアクセスが特徴です。

さて診療には,医療保険が適用される保険診療と医療保険が適用されない保険外診療があります。

診療報酬は,そのうち保険診療を実施した場合に保険医療機関に支払われるものです。

診療報酬が支払われるためには,厚生労働大臣から保険医療機関として指定を受ける必要があります。

診療報酬の不正請求などで保険指定を取り消されることがあります。医療保険が適用されないことは,患者が100%負担しなければならないので,医療機関としては致命的です。

診療報酬の審査支払権限は保険者にあります。

実際には,被用者保険の場合は,社会保険診療報酬支払基金,国民健康保険と後期高齢者医療制度の場合は,国民健康保険団体連合会(国保連)に委託して,審査して合致していれば保険医療機関に診療報酬が支払われます。国保連は診療報酬のほかに介護報酬の審査支払も行っています。

診療報酬は,1点10円の点数表(料金表)の表され,全国一律です。介護報酬のように地域差は設けられていません。診療報酬の決定は,中央社会保険医療協議会(中医協)に諮問され,その意見をもとに厚生労働大臣が行います。

基本的には2年ごとに改定されています。介護報酬は3年ごとに改定されるので,診療報酬と介護報酬のダブル改定は6年に一度ということになります。2018年がダブル改定の年でした。次のダブル改定は2024年となります。

それでは今日の問題です。

第23回・問題64 保険診療は,被保険者,保険医療機関等,審査支払機関,医療保険者の4者によって構成されるが,その仕組みに関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 被保険者が受診するときは,所属する医療保険者が選んだ保険医療機関を受診しなければならない。

2 医師や歯科医師,薬剤師は,それぞれの国家資格を取得すれば病院や診療所において保険診療,保険の調剤ができる。

3 保険医療機関は,診療行為の費用を医師会が決める料金表を基に計算し,「レセプト」として審査支払機関に請求する。

4 審査支払機関は,「レセプト」が保険医療機関及び保険医療養担当規則等に合致しているか,また,医学的に妥当かなどを審査して,その療養の給付に関する費用を保険医療機関等に支払いをする。

5 審査支払機関に対し審査及び支払に関する事務を委託した医療保険者は,審査支払機関から送付された審査済みの「レセプト」に基づいて,保険医療機関等に診療報酬の支払いを直接行う。

(注) 「レセプト」とは,「診療報酬請求書及び診療報酬明細書並びに調剤報酬請求書及び調剤報酬明細書」のことである。

余計な話ですが,設問から今はないスタイルのものですね。

今ならおそらく「保険診療の仕組みに関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい」というシンプルな言い回しがされることでしょう。


それでは解説です。


1 被保険者が受診するときは,所属する医療保険者が選んだ保険医療機関を受診しなければならない。

これは間違いです。日本の医療保険制度の特徴は患者が自分で保健医療機関を選んで受診するフリーアクセスが特徴です。


2 医師や歯科医師,薬剤師は,それぞれの国家資格を取得すれば病院や診療所において保険診療,保険の調剤ができる。

これも間違いです。保険適用されるためには,厚生労働大臣によって保険指定を受けなければなりません。


3 保険医療機関は,診療行為の費用を医師会が決める料金表を基に計算し,「レセプト」として審査支払機関に請求する。

これも間違いです。診療報酬を決定するのは厚生労働大臣です。


4 審査支払機関は,「レセプト」が保険医療機関及び保険医療養担当規則等に合致しているか,また,医学的に妥当かなどを審査して,その療養の給付に関する費用を保険医療機関等に支払いをする。

これが正解です。保険者が審査支払権限を持っていますが,実際には審査支払機関に委託してレセプトの審査を行い,適切であれば審査支払機関が診療報酬を支払います。


5 審査支払機関に対し審査及び支払に関する事務を委託した医療保険者は,審査支払機関から送付された審査済みの「レセプト」に基づいて,保険医療機関等に診療報酬の支払いを直接行う。

これは間違いです。保険者は審査支払を審査支払機関に委託しています。言葉通り,審査だけではなく,支払いも審査支払機関が実施しています。

審査支払機関は審査済みの請求書を医療保険者に送り,医療保険者はその金額を審査支払機関に納付します。

審査支払機関は保険医療機関等に診療報酬を支払います。

たくさんの支払先があるので,保険者が診療報酬を直接保険医療機関に支払うのは大変なので,その部分も委託しているのです。

2018年10月29日月曜日

国民医療費は出題確率100%!!~その10

国民医療費は今日が最終回です。

まずは今まで出題されたものをまとめてみましょう。


国民医療費にかかわる出題ポイント(2)

・国民医療費 ➡ 40兆円を超えている。40兆円を超えたのは平成25年度
・対NI(国民所得)比 ➡ 10%を超えている。
・公費が保険料を超えることはない!!
・入院 4割 入院外 4割 その他 2割
・最も多いのは「循環器系の疾患」
・65歳以上の医療費は約6割,70歳以上 約5割 75歳以上 約3割である。
・患者の支払う一部負担金は,国民医療費の約1割である。
・医療機関の費用のうち,人件費は5割を超える。
・国民医療費の財源は,公費 4割,保険料 5割,その他1割である。
・国民医療費のうち,病院が約5割を占める。
・国民医療費には,正常な妊娠・分娩に要する費用は含まれない。
・推計費用に含まれるのは,公費,保険料,一部負担金。
・市販の売薬は,保険外なので国民医療費には含まれない。
・国民医療費は,平成12年,平成14年,平成18年,平成28年に前年を下回っている。
・2009年度の国民医療費の伸び率は,GDP,NIの伸び率を上回っている。
・2009年度の国民医療費の総額を前年度と比べると,65歳以上,65歳未満ともに増加している。
・65歳以上の年齢層では,高齢になるにしたがって,受診率,1件当たりの日数,1日当たり医療費は増加する。
・国民医療費に占める公費負担医療給付分の割合は,増加傾向だが,一貫して増加しているわけではない。
・国民医療費に占める薬局調剤医療費は,増加傾向だが,一貫して増加しているわけではない。
・財源別国民医療費のうち患者負担は,増加傾向だか,一貫して増加しているわけではない。
・制度区分別国民医療費では,医療保険等給付分の次に比率が多いのは,後期高齢者医療給付分である。
・人口一人当たり国民医療費は,65歳以上は約70万円,70歳以上は約80万円,75歳以上は約90万円である。
・制度区分別に金額は,平成27年度までは,国民健康保険の総額は被用者保険の総額よりも多かったが,平成28年度は逆転した。
・医科診療医療費の診療種類別の割合は,入院医療費は入院外医療費よりも多い。

国試の回数を重ねるたびに,少しずつ覚えるべき内容が増えてきます。


今日取り上げる問題は,過去最高に合格基準点が高くなった第30回の問題です。

前回の問題は難易度が高い問題でしたが,今回の問題は逆に難易度がかなり低い問題です。

それでは今日の問題です。

第30回・問題70 2008年度(平成20年度)から2015年度(平成27年度)における日本の医療費に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 国民医療費に占める後期高齢者医療費の割合は,増加している。

2 国民医療費の国民所得に占める比率は,減少している。

3 国民医療費に占める入院外医療費の割合は,増加している。

4 国民医療費の公費による財源別負担割合は,国庫の負担割合よりも地方の負担割合の方が高い。

5 国民医療費に占める薬局調剤医療費の割合は,入院外医療費の割合よりも高い。


この問題の難易度が低くなった理由は,一般イメージと正解が一致しているからです。
それでは解説です。

1 国民医療費に占める後期高齢者医療費の割合は,増加している。

これが正解です。

国民医療費が増加しているのは,多くの人が知っているものです。

また高齢者の比率も高まっていることも多くの人が知っているものです。

このような状況から後期高齢者医療費が減少しているはずがありません。

2 国民医療費の国民所得に占める比率は,減少している。

これは間違いです。

国民所得(NI)に占める国民医療費の割合は,年によって増減がありますが,増加傾向にあります。年によって増減する理由は国民所得は,景気によって上下するからです。

しかし,増加傾向にあるのは間違いありません。現在の対NI比は約11%です。


3 国民医療費に占める入院外医療費の割合は,増加している。

これも間違いです。

入院外医療費は2008年度は37.7%だったものが2015年度では,34.2%に低下しています。


4 国民医療費の公費による財源別負担割合は,国庫の負担割合よりも地方の負担割合の方が高い。

これも間違いです。

国と地方の負担割合は,2:1です。

多くの制度は,国の負担は,地方よりも多い,あるいは国と地方は同等なのが一般的です。


5 国民医療費に占める薬局調剤医療費の割合は,入院外医療費の割合よりも高い。

これも間違いです。

薬剤代は約20%,入院外医療費は約35%です。


<今日のちょっと長い一言>

今日の問題は,選択肢1が一般イメージと実態が一致していたので,それを選択した人は多かったと思います。

この選択肢がもう少し明確ではないような内容だったとしたら,途端に難易度が上がります。
なぜなら,選択肢3の入院外医療費の占める割合は低下しているものの,低下率はごくわずかです。この選択肢が正解になっていたら,選択できる人はかなり少なくなるでしょう。

選択肢5も薬局調剤医療費と入院外医療費ではどちらが多いかは,知識がなければ一般イメージでは分からないものでしょう。

チームfukufuku21が試験委員なら,次の国家試験では,

選択肢3を正解選択肢として出題すると思います。

国民医療費に占める入院外医療費の割合は,減少している。

これを選択できる人は,この問題をしっかり理解した人だけであり,勉強不足の人は解けないものだからです。

試験センターは,今までの国試で膨大なデータを蓄えていると考えられます。
特に第30回は,振れ幅が大きかったので,試験センターとしては,貴重なデータを取れたと思います。

問題の作り方がちょっと違うだけで,難易度が大きく変わります。
難易度がどう変わろうと覚えるべき内容が変わるものではありません。

合格基準点の上下を気にする必要は一切ありません。
ひたすら出題基準に示された内容を覚えていくのみです。

2018年10月28日日曜日

国民医療費は出題確率100%!!~その9

国民医療費をずっと続けていますが,いよいよ大詰めです。

国民医療費の出題確率は100%ですが,決して簡単ではないのが特徴です。

なぜなら,報告書関係は,見るべきポイントが多いので,それを見たからと言って,覚えていられることは少ないからです。

学校の先生は,「〇〇白書は出題されるから目を通しておくように」と言います。

しかしそれは専門家だから見るべきポイントが定まっているので,見たら覚えられるのだと思います。

一般的には,過去に出題されたポイントを押さえていくことになるのだと思います。それ以外のところが正解選択肢になると得点するのは難しくなります。

今日の問題は,難易度が高い問題です。簡単そうで難しいのです。


それでは今日の問題です。

第29回・問題70 「平成25年度国民医療費の概況」(厚生労働省)に基づく,我が国の医療費に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 年齢階級別の割合をみると,65歳以上の医療費よりも65歳未満の医療費の方が高い。

2 制度区分別に金額をみると,国民健康保険の総額よりも被用者保険の総額の方が多い。

3 医科診療医療費の傷病分類別の割合をみると,呼吸器系の疾患が最も高い。

4 医科診療医療費の診療種類別の割合をみると,入院医療費よりも入院外医療費の方が高い。
5 国民医療費の総額をみると,初めて40兆円を超えた。


このような問題を見ると,国家試験で得点するのは難しいと思ってしまいますが,このような問題はめったにはありません。

難しい理由は,後述します。

それでは解説です。


1 年齢階級別の割合をみると,65歳以上の医療費よりも65歳未満の医療費の方が高い。

これは間違いです。

65歳以上は約6割,65歳未満は約4割です。これを消去するのはそれほど難しくないです。


2 制度区分別に金額をみると,国民健康保険の総額よりも被用者保険の総額の方が多い。

これも間違いです。ただし「この時点において」です。

おそらく専門家の中では,被用者保険よりも国民健康保険の総額の方が多いというのは常識的なものだったのではないでしょうか。

しかし一般的なイメージでは,被用者の方が加入人数は多いので,総額も被用者の方が多い,と思われがちです。

しかし,実はずっと国保の方が多かったのです。

とはいうものの,被用者保険の金額は増えてきて,とうとう平成28年度では逆転してしまいました。

現在は,一般イメージと事実が同じとなったわけです。

この問題の出題はしばらく封印されることでしょう。

頻繁に順位が入れ替わる問題は出題されませんし,頻繁ではなくても順位が入れ替わったものは,それが固定されたと思われる時点ではないと出題されないからです。


3 医科診療医療費の傷病分類別の割合をみると,呼吸器系の疾患が最も高い。

これも間違いです。最も多いのは「循環器系の疾患」です。「呼吸器系の疾患」ではなく,「新生物」と出題されていれば,正解にした人が多くなっと思います。しかし一般イメージでも「呼吸器の疾患」が最も多いとは思わないでしょう。


4 医科診療医療費の診療種類別の割合をみると,入院医療費よりも入院外医療費の方が高い。

これも間違いです。

入院外医療費よりも入院医療費の方が高くなっています。患者数は圧倒的な入院外(つまり通院)の方が多いですが,入院した場合の医療費は高いのは誰もが納得するところでしょう。


5 国民医療費の総額をみると,初めて40兆円を超えた。

これが正解です。


<今日の一言>

国民医療費は40兆円を超えていることは,ある程度勉強した人なら誰もが知っているとものです。

しかしそれがいつ超えたのかを問われると答えられる人は決して多くはないでしょう。

後から歴史的に振り返れば,40兆円を超えた年は区切りとして認識されるかもしれません。

しかしその時代に生きている人は,いつのことだったかを正しく認識している人は少ないものです。

マニアにとっては,「40兆円を超えた年は平成25年度」と覚えることに意味があるかもしれませんが,マニアではない人にとって,それは平成24年度でも平成26年度でも良い話のように思います。

この出題は「国民医療費の総額は,40兆円を超えている」で良かったのではないでしょうか。

それよりもこの問題の難易度が高くなったのは,

2 制度区分別に金額をみると,国民健康保険の総額よりも被用者保険の総額の方が多い。

この選択肢の影響です。

わずか3年のうちに逆転してしまい,平成28年度ではとうとう被用者保険の方が多くなってしまいました。

国家試験の合格基準点の6割程度という数字は,別の角度から見ると,受験生の6割が解ける難易度で国試を構成しているということに他なりません。

この問題も決して難易度を高く設定した問題ではなかったと思いますが,選択肢2という伏兵にやられたという感じではないでしょうか。

2018年10月27日土曜日

国民医療費は出題確率100%!!~その8

今回も国民医療費を続けていきます。

前回まとめたものを振り返ってみましょう。



国民医療費にかかわる出題ポイント(1)

・国民医療費 ➡ 40兆円を超えている。

・対NI(国民所得)比 ➡ 10%を超えている。

・公費が保険料を超えることはない!!

・入院 4割 入院外 4割 その他 2割

・最も多いのは「循環器系の疾患」

・65歳以上の医療費は約6割,70歳以上 約5割 75歳以上 約3割である。

・患者の支払う一部負担金は,国民医療費の約1割である。

・医療機関の費用のうち,人件費は5割を超える。

・国民医療費の財源は,公費 4割,保険料 5割,その他1割(一部負担金等)である。

・国民医療費のうち,病院が約5割を占める。

・国民医療費には,正常な妊娠・分娩に要する費用は含まれない。

・推計費用に含まれるのは,公費,保険料,一部負担金。

・市販の売薬は,保険外なので国民医療費には含まれない。

・国民医療費は,平成12年,平成14年,平成18年,平成28年に前年を下回っている。

・2009年度の国民医療費の伸び率は,GDP,NIの伸び率を上回っている。

・2009年度の国民医療費の総額を前年度と比べると,65歳以上,65歳未満ともに増加している。

・65歳以上の年齢層では,高齢になるにしたがって,受診率,1件当たりの日数,1日当たり医療費は増加する。

・国民医療費に占める公費負担医療給付分の割合は,増加傾向だが,一貫して増加しているわけではない。

・国民医療費に占める薬局調剤医療費は,増加傾向だが,一貫して増加しているわけではない。

・財源別国民医療費のうち患者負担は,増加傾向だか,一貫して増加しているわけではない。

・制度区分別国民医療費では,医療保険等給付分の次に比率が多いのは,後期高齢者医療給付分である。

・人口一人当たり国民医療費は,65歳以上は約70万円,70歳以上は約80万円,75歳以上は約90万円である。


整理されていませんが,一応基本ラインは押さえられるでしょう。

それでは今日の問題です。


第28回・問題71 「平成24年度国民医療費の概況」(厚生労働省)に基づく,国民医療費に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 国民医療費には,特定健康診査・特定保健指導の費用が含まれる。

2 国民医療費は,患者が医療機関で直接支払う一部負担金を差し引いて推計したものである。

3 国民医療費には,保険適用外で請求される補装具の費用が含まれる。

4 財源別国民医療費では,公費の割合が保険料の割合よりも大きい。

5 国民医療費に占める65歳以上の医療費の割合は,50%以上である。



過去に出題されたものとようやく重なってきていますね。

答えは分かるとは思いますが,解説です。

もし答えが分からなければ,もう一度「国民医療費にかかわる出題ポイント(1)」を復習しましょう。


1 国民医療費には,特定健康診査・特定保健指導の費用が含まれる。

これは間違いです。

国民医療費は,傷病の治療等にかかる費用なので,健康の増進を目的とした特定健康診査,特定保健指導の費用は含みません。


2 国民医療費は,患者が医療機関で直接支払う一部負担金を差し引いて推計したものである。

これも間違いです。

国民医療費の推計費用には,保険料,公費,そして一部負担金が含まれます。


3 国民医療費には,保険適用外で請求される補装具の費用が含まれる。

これも間違いです。

国民医療費は,保険診療の対象となる費用です。保険適用外の費用は含みません。


4 財源別国民医療費では,公費の割合が保険料の割合よりも大きい。

これも間違いです。

公費よりも保険料の割合が大きくなっています。

日本の医療保障は社会保険なので,公費が保険料を上回ることはないのです。

公費4割,保険料5割,その他1割です。

何度も何度も出題されています。しっかり覚えておきたいです。


5 国民医療費に占める65歳以上の医療費の割合は,50%以上である。

これが正解です。

65歳以上は約6割です。65歳未満よりも多い割合です。

70歳以上 約5割 75歳以上 約3割となっています。



<今日の一言>

国家試験の合格基準は,約6割です。

試験によっては,7割を基準とするものもあるので,それに比べると決して高い合格基準ではありません。

それにもかかわらず,合格率が3割程度にとどまるのは,出題範囲が広いことが大きいように思います。

しかしなるべく苦手科目は作りたくありません。

国試まであと3か月あまり。

模擬試験が実施される時期になってきました。

あまり芳しくなくても,模試は本試験よりも点数が取りにくい傾向にあるので,必要以上に落ち込むことがないようにしてください。

模試で6割ラインを超えるのは,至難の業です。

模試で点数が取れない科目があったとしても,それイコール苦手とは言えません。

模試受験で重要なことは,点数を取ることよりも,その後の対策を考えることです。

苦手科目であっても,必ず突破口は見つけられます。

その突破口となる糸口を見つけて,対策を打つことがとても重要なのです。

2018年10月26日金曜日

国民医療費は出題確率100%!!~その7

今回も国民医療費を進めていきたいと思います。

今までの出題で覚えてきたことをまとめてみましょう。

国民医療費にかかわる出題ポイント(1)

・国民医療費 ➡ 40兆円を超えている。

・対NI(国民所得)比 ➡ 10%を超えている。

・公費が保険料を超えることはない!!

・入院 4割 入院外 4割 その他 2割

・最も多いのは「循環器系の疾患」

・65歳以上の医療費は約6割,70歳以上 約5割 75歳以上 約3割である。

・患者の支払う一部負担金は,国民医療費の約1割である。

・医療機関の費用のうち,人件費は5割を超える。

・国民医療費の財源は,公費 4割,保険料 5割,その他1割(一部負担金等)である。

・国民医療費のうち,病院が約5割を占める。

・国民医療費には,正常な妊娠・分娩に要する費用は含まれない。

・推計費用に含まれるのは,公費,保険料,一部負担金。

・市販の売薬は,保険外なので国民医療費には含まれない。

・国民医療費は,平成12年,平成14年,平成18年,平成28年に前年を下回っている。

・2009年度の国民医療費の伸び率は,GDP,NIの伸び率を上回っている。

・2009年度の国民医療費の総額を前年度と比べると,65歳以上,65歳未満ともに増加している。

・65歳以上の年齢層では,高齢になるにしたがって,受診率,1件当たりの日数,1日当たり医療費は増加する。

・国民医療費に占める公費負担医療給付分の割合は,増加傾向だが,一貫して増加しているわけではない。

・国民医療費に占める薬局調剤医療費は,増加傾向だが,一貫して増加しているわけではない。

・財源別国民医療費のうち患者負担は,増加傾向だか,一貫して増加しているわけではない。

・制度区分別国民医療費では,医療保険等給付分の次に比率が多いのは,後期高齢者医療給付分である。

・人口一人当たり国民医療費は,65歳以上は約70万円,70歳以上は約80万円,75歳以上は約90万円である。


実にさまざまな数字が出題されているのが分かると思います。

覚えなければならないものは,他の科目もたくさんある中で,これもしっかり覚えるのはとても大変だと思います。

数字をそのまま覚えるのはとても大変ですが,それを乗り越えたところに国試合格はあります。

必ず頭の中で整理しながら押さえていきましょう。

「急がば回れ!」

何となく覚えると,あいまいな知識になりがちですので注意が必要です。

それでは今日の問題です。

第27回・問題71 「平成23年度国民医療費の概況」(厚生労働省)に基づく次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 国民医療費は38兆円を超えているが,前年度に比べて増加しているわけではない。

2 国民医療費の国内総生産(GDP)に対する比率は,10%を超えている。

3 国民医療費を財源別にみると,事業主及び被保険者による保険料負担が全体の60%以上を占めている。

4 国民医療費の医科診療医療費を傷病分類別にみると,「新生物」が最も多い。

5 国民医療費を年齢階級別にみると,「75歳以上」が全体の約3分の1を占めている。


数字がいろいろ入れ替わっていますが,今までの知識で解ける問題です。

それでは解説です。


1 国民医療費は38兆円を超えているが,前年度に比べて増加しているわけではない。

これは間違いです。

出題は平成23年度です。平成12年度以降,前年よりも減少したのは,平成12,14,18,28年度の4回しかありません。したがって平成23年度は増加していたということになります。


2 国民医療費の国内総生産(GDP)に対する比率は,10%を超えている。

これも間違いです。

国民医療費は,対国民総生産(GDP)比と対国民所得(NI)比があります。

そのうち10%を超えているのは,対NI比です。

対GDP比は10%を超えていません。

チームfukufuku21は,これを「10%の攻防」と呼んでいます。

覚え方はいろいろあると思いますが,10%を境にしてそれを上回っているもの,下回っているものという構図を頭に入れます。

10%を超えるのは,対NI比です。NIとGDPでは,NIが約400兆円,GDPは約500兆円です。それぞれを分母として,国民医療費を分子として計算すると,分母の小さい対NI比の方が数値が大きくなります。国民医療費は約40兆円なので,約10%ということになります。


3 国民医療費を財源別にみると,事業主及び被保険者による保険料負担が全体の60%以上を占めている。

これも間違いです。

財源別では,最も多いのは保険料ですが,約50%です。

保険料約50%,公費約40%,自己負担等約10%の割合です。このうち,公費は,国2:地方1の割合です。


4 国民医療費の医科診療医療費を傷病分類別にみると,「新生物」が最も多い。

これも間違いです。

最も多いのは,「循環器系の疾患」です。死因のうち,最も多いのは新生物ですが,医療費で最も多いのは「循環器系の疾患」です。これで2回目の出題ですね。


5 国民医療費を年齢階級別にみると,「75歳以上」が全体の約3分の1を占めている。

これが正解です。


<今日の一言>

数値について

国試で,数値を出題するときは,

●%

●割

●分の〇

●割を超えている


といったように出題されます。

決して細かい数値は出題されません。

ざっくり覚えることが何よりも大切です。

しかも天文学的な数字なので,年度によって大きく傾向が変わるものではありません。

国民医療費は,増大しているというイメージが強いので,減少している年度があることは勉強不足の人は知りません。

こういった一般イメージと違うところが,引っ掛けポイントとなりがちです。

勉強中に「あれっ?」と思ったところは,ぜひメモしておきましょう。

数値に限らず,そういったところが引っ掛けどころなのです。





2018年10月25日木曜日

国民医療費は出題確率100%!!~その6

前回は,今日の問題はお休みしましたが,今回は国民医療費を続けます。

国民医療費の問題は出題率100%ですが,実はそれほど簡単ではありません。

過去に出題されたことがないものが次から次へと繰り出されてくるからです。

この辺りは,先日まで取り組んできた「低所得者に対する支援と生活保護制度」とはかなり違う点です。

とはいうものの,今まで勉強してきたことを総動員して落ち着いて問題を読むことができたら,答えは導き出すことは可能です。

それでは,今日の問題です。

第26回・問題71 2010年度(平成22年度)までの「国民医療費の概況」(厚生労動省)に関する次の記述のうち, 正しいものを1つ選びなさい。

1 国民医療費に占める公費負担医療給付分の割合は,過去4年間一貫して減少し続けている。

2 薬局調剤医療費は,過去4年間一貫して減少し続けている。

3 財源別国民医療費では,患者負担は,過去4年間一貫して増加し続けている。

4 制度区分別国民医療費では,医療保険等給付分の次に比率が多いのは,後期高齢者医療給付分である。

5 75歳以上の人口一人当たり国民医療費は,年間100万円を超えている。


またまた古いデータですみません。

年度を追う問題は,他の科目ではあまり見られないものです。

難しいですが,消去するためのワードは満載です。

その一つは「一貫して」というものです。

一般論で言えば,一貫するためには,1位と2位の間がかなり開いていないと一貫するというのは難しいです。

国民医療費に関しては,増加傾向にはありますが,平成12,14,18,28年は前年度よりも減少しています。

おおもとのデータが一貫していないので,その下にあるデータも一貫していなさそうだ,という見当をつけておくことが大切です。

それでは解説です。


1 国民医療費に占める公費負担医療給付分の割合は,過去4年間一貫して減少し続けている。

もちろん間違いです。

「一貫して」ですが,国民医療費は増加している中,公費負担の医療費が一貫して減少するとは思えないでしょう。

増加傾向ですが,減少していることもあります。


2 薬局調剤医療費は,過去4年間一貫して減少し続けている。

これも間違いです。

この時点では,一貫して増加していました。

近年では2016年に減少しているので,一貫して増加しているわけではありません。


3 財源別国民医療費では,患者負担は,過去4年間一貫して増加し続けている。

これも間違いです。減少している年もあります。


4 制度区分別国民医療費では,医療保険等給付分の次に比率が多いのは,後期高齢者医療給付分である。

これが正解です。

制度区分別という聞き慣れないものが出題されました。

多い順に,医療保険等給付分,後期高齢者医療給付分,公費負担医療給付分,患者等負担分となります。


5 75歳以上の人口一人当たり国民医療費は,年間100万円を超えている。

これが最も難しいものだったと思います。

75歳以上は約90万円です。

因みに70歳以上では,約80万円,65歳以上では約70万円です。


<今日の一言>

高齢者の一人当たりの国民医療費の覚え方です。

数字はおおざっぱで十分です。

65歳は70万円

ここだけ覚えて,あとは5歳刻みで10万円ずつ高くなる。

覚える数字はなるべくシンブルにした方が忘れづらいと思います。

2018年10月24日水曜日

急がば回れ!!

国試まであと3か月あまりになりました。

これからが実力が伸びてくる時です。

試験で使える知識にするためには,自分の言葉で理解することが大切です。

問題を解くことが多くなると思いますが,理解しにくかったり,混同してしまうことなどがあった場合,抜き出してノートに書いてみるのも一つの方法です。

手間がかかりますが,しっかりした知識になるための効果は高いです。

模擬試験を受けるのも良い方法です。

模擬試験を受けるのはお金がかかってしまいますが,模試の受験は得点力を養うには極めて重要です。

国試当日の午前中は2時間15分で83問を解くという過酷な試験です。最後はふらふらになることでしょう。

ものすごく脳の体力を使います。

脳の体力をつけるには,訓練が必要です。

それが模試ということになります。

「知識があっても得点できない」のは,問題を読み解く力そのものが不足していることと同時に,脳のスタミナ切れを起こしているということです。

 今の時点でも不安は尽きないと思います。これからはもっと迷いや不安が出てくることでしょう。勉強すればするだけ,その思いは強くなるはずです。

でもその思いはみんな同じ。自分だけではなく他の受験生も同じ思いをしていると思うと少しは楽になりませんか?

それを乗り越えた時に,合格が近づきます。

今はとてもつらい時だと思いますが,頑張っていきましょう。

※今日の問題はお休みします。

2018年10月23日火曜日

国民医療費は出題確率100%!!~その5

国家試験の合格基準は,6割程度です。

6割程度は90点ということになりますが,難易度によって補正されますので,毎年合格基準点は上下しています。

合格基準点が発表されるようになったのは,第15回以降です。

今まで16回実施されており,最も合格基準点が高かったのは,第30回の99点,最も合格基準点が低かったのは,第25回の72点です。

6割(90点)を基準とすると

第30回はプラス9点
第25回はマイナス18点

これだけ振れ幅が大きいと,どれだけ点数を取ればよいのか不安になると思います。

合格基準点がどうなろうと6割程度の得点ができる実力をつけることが合格のために必要なことです。

現行カリキュラムの国家試験を検討した時,絶対評価であるべきであるが,問題の難易度によって補正するのが適切である,と意見されているからです。

絶対評価で90点となると,第25回では合格した人はおそらく5%もいなかったのではないかと予測します。

第25回までは,高い点数を取ることが極めて困難な試験が続いていたからです。

この試験があったからこそ

勉強した人は得点できる。
勉強が足りない人は得点できない

という国試が適切だと思うわけです。

さて,今回は,魔の第25回の国試問題を取り上げます。

国試問題が迷走を続け,最も得点するのが困難になった年の問題です。

第25回・問題71 2009(平成21)年度の国民医療費等に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 国民医療費の対前年度伸び率は,同年度の国内総生産(GDP),国民所得(NI)の伸び率を下回っている。

2 国民医療費の総額を前年度と比べると,65歳以上で増加しているが,65歳未満では減少している。

3 「平成21年度医療給付実態調査」(厚生労働省)によれば,65歳以上の年齢層では,高齢になるにしたがって,受診率,1件当たりの日数は低下するが,1日当たり医療費は増加する。

4 65歳以上の年齢層の国民医療費の総額は,それ未満の年齢区分の総額よりも大きい。

5 国民医療費の国民所得に対する比率は,依然として10%未満を保っている。


試験委員は,この問題の難易度は,6割程度の人が解ける問題だと思って作成したと思います。

しかし「保健医療サービス」は,現行カリキュラムで新設された科目なので,試験センターではどんな問題を出題すればどのくらいの正解率になるのか,といったデータが少なかったために,難易度を測り間違ったのではないかと思うのです。


この問題の難易度は高いですが,答えを導き出す糸口はあります。

ただし今はこの手の言い回しはほとんどされません。

なぜなら,言い回しで分かってしまう問題は不適切だからです。

勉強不足の人でも勘の良い人は解けてしまいます。勉強不足にもかかわらず,正解してしまうような問題は極めて不適切です!!

それでは解説です。


1 国民医療費の対前年度伸び率は,同年度の国内総生産(GDP),国民所得(NI)の伸び率を下回っている。

このようなピンポイントの知識が必要な問題は,出題されることはないでしょう。

答えは,2009年度の国民医療費の伸び率は,GDP,NIの伸び率を上回っているので,間違いです。

なぜなら,国民医療費は一貫して伸びているわけではなく,GDP,NIも年度によって上下しています。

特にGDP,NIは景気によって大きな影響を受けるので,上下に変化します。

つまりこの選択肢で生かされる知識は,2009年度だけにとどまります。汎用性がありません。クイズマニアの領域だと言えます。

しかし,深く考えなければ,一般的な知識では「国民医療費は伸びている」という認識があれば,この選択肢を消去できるでしょう。とは言うものの,この選択肢は実は極めて難しいのです。


2 国民医療費の総額を前年度と比べると,65歳以上で増加しているが,65歳未満では減少している。

これも間違いです。国民医療費が,前年度よりも減少したのは,平成12,14,18,28年度です。平成12年度は,医療費の一部が介護保険に移ったため,それ以外の年は,診療報酬や薬価引き下げが理由です。

国民医療費が減少するのは診療報酬や薬価引き下げという理由を考えると,65歳以上と65歳未満では,同じ方に動くと考えられます。この年は,どちらも増加しています。


3 「平成21年度医療給付実態調査」(厚生労働省)によれば,65歳以上の年齢層では,高齢になるにしたがって,受診率,1件当たりの日数は低下するが,1日当たり医療費は増加する。

これも間違いです。

医療給付実態調査という,何ともマニアックな報告書からの出題です。

これを事前に勉強した人はまずいないと考えられます。高齢になると医療が必要になることが多いので,受診率,1件当たりの日数,1日当たり医療費ともに増加します。

これらはセットなので,どちらかが低下して,どちらかが増加するという動きはしません。


4 65歳以上の年齢層の国民医療費の総額は,それ未満の年齢区分の総額よりも大きい。

正解はこれです。

65歳以上の国民医療費は約6割を占めます。

しかし正解できた人でも「答えはこれだ」と思った人は少なかったはずです。

ほかの選択肢を消去して,ようやくこの選択肢が残ったことだと思います。


5 国民医療費の国民所得に対する比率は,依然として10%未満を保っている。

これは間違いです。

対NI比は,10%を超えています。

ただし,対GDP比は,10%を超えていないので注意が必要です。

この選択肢を消去するポイントは,「依然として」です。

今はこんな表現はされないと思います。

もし,正解選択肢にするなら,国民医療費の国民所得に対する比率は,10%未満である。
で良いと思います。


<今日の一言>

第25回国試が難しかった理由は,それまでの問題を下敷きにして作らなかった問題が多かったためです。

そのために,今日の問題のように,今までの知識ではなく,想像力で消去しなければなりませんでした。

しかも正解選択肢も今まで出題されたことのないものが配置されています。

この反省のためなのか,その後第28回では,同じ内容のものが正解にされています。

第30回国試は,第25回国試とは逆に正解でき過ぎたものとなりました。

試験センターは,得点できない問題と得点できる問題のデータが取れたので,今後はその折衷で問題をつくるはずです。

つまり,勘で消去しなければならない選択肢を織り交ぜるということです。

このような選択肢が一つ含まれるだけで,正解率は大きく下がるのです。

しかし,すべてをそのような選択肢にすると正解率は低くなりすぎてしまうので,正解選択肢は,勉強した人なら解けるものを配置するはずです。

これによって,勉強した人は解ける,勉強不足の人は解けない,という国試としては理想的な問題が出来上がります。

このような問題で正解するためには,とにかく落ち着いて問題文を読むことが大切です。難しそうに見える問題でも,勉強した人なら解けるように仕掛けがされているからです。

2018年10月22日月曜日

国民医療費は出題確率100%!!~その3

今回も国民医療費を続けます。

国民医療費が増大していることは知っていても,その規模や内容まで詳しく知る国民はそんなに多くはないと思います。

知っていそうで知らない国民医療費と言えるかもしれません。

しかし,慌てることがなければ,得点できます!

こういったところで,得点できるか,できないか,が合否を分けると言っても決して過言ではありません。

今日の問題は,費用推計に関してです。

厚生労働省では,国民医療費の費用推計について,以下のようにまとめています。

 「国民医療費」は、当該年度内の医療機関等における保険診療の対象となり得る傷病の治療に要した費用を推計したものである。

 この費用には、医科診療や歯科診療にかかる診療費、薬局調剤医療費、入院時食事・生活医療費、訪問看護医療費等が含まれる。

 なお、保険診療の対象とならない評価療養(先進医療(高度医療を含む)等)、選定療養(入院時室料差額分、歯科差額分等)及び不妊治療における生殖補助医療などに要した費用は含まない。

 また、傷病の治療費に限っているため、(1)正常な妊娠・分娩に要する費用、(2)健康の維持・増進を目的とした健康診断・予防接種等に要する費用、(3)固定した身体障害のために必要とする義眼や義肢等の費用も含まない。

としています。

これをまず押さえて,今日の問題です。

第24回・問題63 国民医療費に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 国民医療費は,当該年度の医療機関における傷病の治療と正常な妊娠や分娩等に要する費用を推計したものである。

2 患者による一部負担は推計費用に含まれない。

3 保険薬局の調剤費は含まれるが,市販の売薬の費用は推計費用に含まれない。

4 財源別国民医療費(平成20年度)では,国庫及び地方負担の総額である公費の割合が,事業主及び被保険者の総額である保険料よりも大きい。

5 国民医療費総額は平成12年度から平成20年度まで,一貫して伸び続けている。


分かるものと分からないものがあるかもしれませんが,落ち着けば何とかなります。

それでは解説です。


1 国民医療費は,当該年度の医療機関における傷病の治療と正常な妊娠や分娩等に要する費用を推計したものである。

これは間違いです。

国民医療費には,正常な妊娠・分娩に要する費用は含まれません。


2 患者による一部負担は推計費用に含まれない。

これも間違いです。

推計費用に含まれるのは,公費,保険料,一部負担金です。


3 保険薬局の調剤費は含まれるが,市販の売薬の費用は推計費用に含まれない。

これが正解です。

市販の売薬は,保険外なので国民医療費には含まれません。


4 財源別国民医療費(平成20年度)では,国庫及び地方負担の総額である公費の割合が,事業主及び被保険者の総額である保険料よりも大きい。

これも間違いです。

ここでようやく前回までの知識が使えます。

公費が保険料を超えることはない!!


5 国民医療費総額は平成12年度から平成20年度まで,一貫して伸び続けている。

これも間違いです。

国民医療費は増えてきていますが,一貫しているわけではありません。

国民医療費は,平成12年,平成14年,平成18年,平成28年に前年を下回っています。

平成12年が減少したのは,老人医療費の一部が介護保険に移行したこと,それ以外は診療報酬の引き下げが理由です。


<今日の一言>

勉強不足の人の傾向を考えた時,選択肢5を正解にする人が比較的多かったのではないかと思います。

「一貫して」という間違い選択肢になりやすい言葉は入っていますが,国民医療費は増大していることは知っているので,選んでしまいがちなのです。

右肩上がりではありますが,平成12年,14年,18年,28年は減少しているので,一貫して増大しているわけではありません。

この問題には,他にも正常分娩,市販の売薬など,勉強不足の人の判断を惑わせる仕掛けが含まれています。

しかし落ち着いて考えると,市販の売薬が国民医療費に含まれることはあり得ないのです。自己責任において使用されるものであり,国がわざわざその費用を統計に入れる必要がないからです。

2018年10月21日日曜日

国民医療費は出題確率100%!!~その2

現行カリキュラムは,第22回から実施されています。

保健医療サービスはその時に加わった科目です。

国民医療費に関する問題は,毎年欠かさず出題されます。

しかし内容は決して簡単ではありません。過去3年間の過去問をかじったくらいでは得点できません。
しっかりその範囲を押さえることが基本です。

それでは今日も問題を解きながら,覚えていきましょう!!

第23回・問題63 平成19年度の国民医療費(34兆円)の負担・分配・費用に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 患者が病院や診療所,調剤薬局で支払う一部負担は,国民医療費全体の約3割を占めている。 

2 国民医療費は,入院・入院外・歯科診療・薬局調剤などの医療費に分配されるが,このうち入院医療費は全体の約6割を占めている。 

3 医療機関の運営に関する費用のうち,最も大きいのは医師や看護師など医療サービス従事者の人件費であり,全体の約5割を占めている。

4 国民医療費の財源には,一部負担,保険料,公費負担があり,このうち公費負担は国民医療費全体の約2割を占めている。

5 国民医療費は,病院・一般診療所・歯科診療などの医療費に分配されるが,このうち病院の医療費は全体の約7割を占めている。


現在の国民医療費は,約42兆円ですが,わずか9年前は34兆円だったことにちょっとした驚きを感じます。

国民医療費に関する出題は,今まで9回出題されていますが,そのうち,人件費に関する出題があったのは,この時のたった1回です。

まだカリキュラムが始まって2回目のこの年は,出題内容がまだこなれていなかったのでしょう。

多くの場合は,正解選択肢に使われたものは,その後には何度も使われるものだからです。それが使われていないというのは,正解選択肢としてふさわしくなかったものだと考えられます。

それでは解説です。

1 患者が病院や診療所,調剤薬局で支払う一部負担は,国民医療費全体の約3割を占めている。 

これは間違いです。

もしかすると,これを正解と人も多かったのではないでしょうか。

知らないものが出題されたら,自分の知っている知識を総動員して考えなければなりません。
知らないことがあったら調べるのは悪いことではありません。

しかし国試会場では知らないことがあっても調べることができません。

勉強の時は,知らないものに出会ったときは,まずは自分で考えてみることです。その推論が正しければ正解できます。それでどうしても理解できない,分からない時は調べてみます。推測して推論を導き出すことは,国試で得点力を上げるためには欠かせないのです。

第30回国試は,これをしなくても解ける問題が多かったために,多くの人が高い得点を挙げました。しかし,第31回も同じようになるとは限りません,というか,そうはならないでしょう。

必ず自分で考えてみること。これが大切です。

問題に戻ります。

推論です。被用者や被扶養者,国民健康保険の加入者は,基本的に3割負担です。

しかし,小学校就学前と70~74歳までは2割負担,75歳以上は1割負担であることを考え合わせれば,全体で3割にはならないと推論を導き出せます。

実際には1割程度です。


<ここで覚えておくべき数字>
患者の支払う一部負担金は,国民医療費の約1割である。


2 国民医療費は,入院・入院外・歯科診療・薬局調剤などの医療費に分配されるが,このうち入院医療費は全体の約6割を占めている。

これも間違いです。

<ここで覚えておくべき数字>
入院 4割 入院外 4割 その他 2割

本当はその他は約3割ですが,そこまで細かくは出題されないので,この理解だけで十分です。

3 医療機関の運営に関する費用のうち,最も大きいのは医師や看護師など医療サービス従事者の人件費であり,全体の約5割を占めている。

これが正解でした。

正解選択肢になったにもかかわらず,その後出題されない理由はいろいろ考えられますが,医療機関の人件費は,厚生労働省の「国民医療費の概況」には示されていないものだからかもしれません。

その後出題されていないとは言え,正解選択肢に一度は選ばれたものです。しっかり押さえておきましょう。

<ここで覚えておくべき数字>
医療機関の費用のうち,人件費は5割を超える。


4 国民医療費の財源には,一部負担,保険料,公費負担があり,このうち公費負担は国民医療費全体の約2割を占めている。

これも間違いです。

国民医療費の財源は,
公費 4割
保険料 5割
その他 1割

この割合はずっと変わりません。

<ここで覚えておくべき数字>
国民医療費の財源は,公費 4割,保険料 5割,その他1割である。

公費の内訳がその後出題されています。国:地方は2:1です。合わせて覚えておきましょう。

国と地方が同じ負担構造になっているものはありますが,地方が国よりも多いというのはめったにありません。


5 国民医療費は,病院・一般診療所・歯科診療などの医療費に分配されるが,このうち病院の医療費は全体の約7割を占めている。

これも間違いです。

前回は,入院4割,入院外4割,その他2割を覚えました。

今回の出題は,それを別に算定したものです。

入院約4割(約40%)の内訳は,病院約35%,診療所約1%
入院外約4割(約40%)内訳は,病院約15%,診療所約20%

となっています。

病院は,合わせて約50%(約5割)です。

この傾向は,今も変わりません。

<ここで覚えておくべき数字>
国民医療費のうち,病院が約5割を占める。

2018年10月20日土曜日

国民医療費は出題確率100%!!

今回から,国民医療費に入ります。

現行カリキュラムは,第22回から実施されており,国民医療費は毎年必ず出題されています。

何と出題確率100%!!

おそらく出題確率100%なのは,そのほかには「心理学理論と心理的支援」の「心理療法」,「相談援助の理論と方法」の「さまざまなアプローチ」のみだと思います。

国民医療費は,年々数字が変わります。しかし金額が巨大なので,傾向はほとんど変わりません。


細かい数字は絶対に絶対に出題されない!!

受験せいが悩むことの一つに「どの年度のものを覚えたらよいか?」があります。

しかし社会福祉士の国試では,国民医療費も含めて,違った年度のものを覚えたからといって答えられない問題は存在しません。

もちろん知識は常にアップデートしなければならないものですが,数字に関しては,ざっくりした覚え方が重要です。

覚える数字の元データは,8.91%でも9.10%でも良いです。


大事なのは,

元データを次の段階のものに置き換えて覚えること!!

つまり,約〇割である,という覚え方です。

先述の例で言えば「1割には達していない」といったことです。

細かい数字を覚えるのは大変ですが,このような覚え方ならイメージで頭に残りやすいです。しかも,覚える時間が短縮できます。

傾向は,ほとんど変わらないことが分かる問題を今日の問題として取り上げたいと思います。

前説なしで行きます。


第22回・問題64 平成18年度の国民医療費に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 国民医療費は約26兆円であり,国民所得に対する比率は7.2%となっている。

2 国民医療費の財源別構成割合を大きい順序に並べると,公費,保険料,その他(患者負担等)となる。

3 国民医療費の診療種類別構成割合はおおよそ,一般診療費(入院)4割,一般費(入院外)4割,歯科診療費その他2割となっている。

4 国民医療費の傷病別一般診療医療費の構成割合上位3つは,順に循環器系の疾患,新生物,精神及び行動の障害である。

5 国民医療費の年齢階級別構成割合のうち,65歳以上の高齢者分は約7割を占めている

ずいぶんと古い問題だと思うことでしょう。

それでは,当時の数字と現在の数字を合わせて解説していきましょう。

1 国民医療費は約26兆円であり,国民所得に対する比率は7.2%となっている。

これは間違いです。

平成18年度の国民医療費は,約33兆円でした。平成28年は,42兆円です。

10年で9兆円増えていることが分かります。

驚異的な伸びです。

もう一つの対国民所得比(対NI比)は,平成18年度は8.88%。平成28年度は10.76%です。国民医療費が増えているので,対NI比も伸びていることが分かります。


<ここで覚えておくべき数字>

国民医療費 ➡ 40兆円を超えている。

対NI比 ➡ 10%を超えている。

因みに40兆円を超えたのは,平成25年度です。わずか3年で2兆円も増えています。

生活保護給付費は,約3兆8千億円です。この規模の半分がわずか3年で増加しているのです。

平成12年以降のデータを見ると,国民医療費は,平成12年,平成14年,平成18年,平成28年に前年を下回っています。

国民医療費は,増加を続けていますが,毎年増加しているわけではありません。

平成12年が減少したのは,老人医療費の一部が介護保険に移行したこと,それ以外は診療報酬の引き下げが理由です。

数字が大きいので,国民医療費の増加を食い止めるには制度的な対応が最も効果的であることが分かると思います。

2 国民医療費の財源別構成割合を大きい順序に並べると,公費,保険料,その他(患者負担等)となる。

これは間違いです。

( )内の数字は平成28年度 以下同じ。
公費 36.6%(38.6%)
保険料 49.0%(49.1%)
その他 14.4%(12.2%)

10年経ってもほとんど変わっていないことが分かるでしょう。


<ここで覚えておくべき数字>

公費が保険料を超えることはない!!

数字ではなくてすみません。

しかし,この理解で十分です。

日本の医療保障は,社会保険制度です。

日本は社会保険に公費を投入していますが,基本は社会保険料によって運営されるものです。

そのため公費が保険料を超えることはあり得ないのです。

介護保険は,公費50%,保険料50%で制度設計されていますが,やっぱり公費は保険料を超えません。

社会保障給付費を見ても,やっぱり公費は保険料を超えません。

日本の社会保障制度は,社会保険制度が中心だからです。

3 国民医療費の診療種類別構成割合はおおよそ,一般診療費(入院)4割,一般費(入院外)4割,歯科診療費その他2割となっている。

これが正解です。

一般診療費(入院) 37.0%(37.5%)
一般費(入院外) 38.6%(34.2%)
歯科診療費その他 24.4%(28.3%)

入院外が若干減った分,その他の比率が上がっていますが,おおよそは変化していません。

<ここで覚えておくべき数字>

入院 4割 入院外 4割 その他 2割

正確に言うとその他は約3割に近いですが,そんな細かな出題はされません。

だからこれで良いのです。

4 国民医療費の傷病別一般診療医療費の構成割合上位3つは,順に循環器系の疾患,新生物,精神及び行動の障害である。

これは間違いです。

第3位まで
第1位 循環器系の疾患(同じ)
第2位 新生物(同じ)
第3位 呼吸器系の疾患(筋骨格系及び結合組織の疾患)

精神及び行動の疾患は,いずれも第3位まで入っていません。

<ここで覚えておくべき数字>

最も多いのは「循環器系の疾患」

このような出題があると「第3位まで覚えなければならない」と思うかもしれません。

しかし,第3位を変えて出題されたのは,たった1回だけです。

さらには,現在は問題の文字数が少なくなっていることで,第3位まで問う余裕はないと思われます。

この後の出題は,ずっと第1位を問う出題に変わってきています。

余談ですが,正解選択肢よりも間違い選択肢の方を選ぶ率が高い問題は,良い問題とは言えません。この問題はそうだった問題だったと考えられます。

ということで,最も多いのは「循環器系の疾患」である,という覚え方で良いのです。

一般的には,新生物が多いように思うかもしれませんが,新生物は多くの場合,短期間の
治療で終わるからです。悲しい現実です。

それに対して,循環器系の疾患の治療は一生にわたります。


5 国民医療費の年齢階級別構成割合のうち,65歳以上の高齢者分は約7割を占めている。

これも間違いです。

65歳以上の医療費 51.7%(57.4%)

<ここで覚えておくべき数字>

65歳以上の医療費は約6割。

つまり65歳未満の医療費と比べると65歳以上の医療費が大きいということです。

次の数字もついでに覚えておきましょう!!

70歳以上 約5割 75歳以上 約3割


<今日の一言>

10年前と比べても,国民医療費で覚えるべき数字は,国民医療費自体以外は,ほとんど傾向が変わっていないことが分かるでしょう。

数字はざっくり覚えることが何よりも大切なのです。

細かい数字は問われることがないからです。

それにしても,第3位を変えて出題するなんて,いじわるにも程が過ぎますね(怒)。

2018年10月19日金曜日

医療保険の徹底理解~その4

日本の医療保険制度の特徴の一つとして,高齢者に対するものが独立したものとなっていることがあります。

それが「後期高齢者医療制度」です。

老人保健は,社会保障制度の5本柱の一つであり,歴史を紐解くと,1963年の老人福祉法の制定から始まります。

1973年に老人福祉法改正で老人医療費無料が始まり,1983年老人保健法で老人福祉法から老人保健が独立しました。この時に老人医療費の一部負担ができます。

老人保健法は,2008年に改正されて高齢者の医療を確保する法律になり,後期高齢者医療制度が生まれています。

後期高齢者医療制度の成り立ちと概要は,「社会保障」で出題されるので,しっかり押さえておきたいです。

まず前回の復習です。
https://fukufuku21.blogspot.com/2018/10/blog-post_18.html

復習したところで,今日の問題です。

第26回・問題70 事例を読んで,後期高齢者医療制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
 長い間農業に従事し,現在無職のDさん(80歳,男性)は,認知症を発症し,その治療のため精神科を,その他に耳鼻科,内科を受診している。Dさんは年金以外の収入はなく,息子夫婦と孫と合わせて5人で生活しており,息子夫婦は共働きの民間企業のサラリーマンで,標準的な所得の家庭である。

1 Dさんは息子夫婦の被扶養者であるから,後期高齢者医療制度の保険料を負担しなくてよい。

2 Dさんが医療機関を受診すると,被扶養者なので一部負担金を3割支払うことになる。

3 Dさんのように治療が多岐にわたるなど,一部負担が一定額を超えた場合,後期高齢者医療制度の一部負担は高額療養費制度の対象となる。

4 Dさんが死亡しても,後期高齡者医療広域連合は葬祭の給付や葬祭費を支給することはない。

5 後期高齢者の療養給付には,食事の提供,光熱費や環境に関する生活療養も含む。


後期高齢者医療制度と高額療養費制度の合わせ技の問題となっています。

法制度に関連する事例問題は,制度を知らないと絶対に解けないものです。

そしてさらに落ち着いて読むことが求められます。

特に年齢には注意しましょう。

それでは解説です。


1 Dさんは息子夫婦の被扶養者であるから,後期高齢者医療制度の保険料を負担しなくてよい。

これは間違いです。

74歳までは,息子夫婦の健康保険の被扶養者となっていれば,保険料負担はありません。

しかし75歳になると,息子夫婦の健康保険の被扶養者から抜けて,後期高齢者医療制度に加入しなければなりません。

後期高齢者医療制度には,国民健康保険と同様に被扶養者というものはなく,加入者は保険料を支払わなければなりません。

保険料納付義務者は世帯主です。


2 Dさんが医療機関を受診すると,被扶養者なので一部負担金を3割支払うことになる。

これも間違いです。

後期高齢者医療制度には,被扶養者というものがありません。

一部負担金は1割です。現役並み所得者は3割です。


3 Dさんのように治療が多岐にわたるなど,一部負担が一定額を超えた場合,後期高齢者医療制度の一部負担は高額療養費制度の対象となる。

これが正解です。

高額療養費制度は,ひと月の一部負担が一定額を超えると,超えた分が償還払いされる制度です。後期高齢者医療制度にも適用されています。


4 Dさんが死亡しても,後期高齡者医療広域連合は葬祭の給付や葬祭費を支給することはない。

これは間違いです。

葬祭を行った者が申請すれば,葬祭費が支給されます。

申請ということは,もちろん時効があります。


5 後期高齢者の療養給付には,食事の提供,光熱費や環境に関する生活療養も含む。

これも間違いです。

食事,光熱費などいわゆるホテルコストと呼ばれる費用は,生活療養費標準負担額を負担します。保険給付はされません。

これは他の医療制度も同様です。



2018年10月18日木曜日

医療保険の徹底理解~その3

日本には社会保険は5つありますが,そのうち多くの人にとって,最もお世話になるものは医療保険かもしれません。

そのため,試験委員は少々細かい出題だということを承知していても,実生活の中である程度理解していることを前提にして,作問しているようにも感じます。

さて,日本の医療保険制度の特徴は,職域保険と地域保険に分かれていること,現役世代と高齢者は別の制度になっていること,そしてそれをつなぐための制度があることです。

職域保険と地域保険に分かれているのは,歴史的発展によるものです。これは「社会保障」で詳しく学びます。

後期高齢者医療制度は,2008年の「高齢者の医療の確保に関する法律」によって,国民健康保険から高齢者を独立させたものです。

国民の多くは被用者です。そのため,職域によって分かれている健康保険の加入者は多いです。

仕事をやめると国民健康保険に加入します。定年を迎えた人は国民健康保険に加入することになります。ただし,家族に健康保険加入者がいた場合は,被扶養者になるという道もあります。

国民健康保険は,2018年4月から都道府県が市町村とともに保険者になったとは言え,体力の小さい自治体にとってはかなり負担になります。

そこで「前期高齢者医療制度」があります。

あまり聞き慣れない言葉だと思います。これは制度として独立しているものではなく,65~74歳までの前期高齢者の医療費を現役世代の医療保険が負担しているものです。

そして,75歳になると国民健康保険や健康保険の被扶養者から離れて,後期高齢者医療制度に加入します。

国民健康保険も後期高齢者医療制度も,保険料の納付義務者は世帯主です。

医療保険の自己負担割合を確認すると・・・

 75歳以上は1割負担。
 70~74歳は2割負担。
 70歳未満は3割負担。
 義務教育就学前は2割負担。
 70歳以上の現役並み所得者は3割負担

となります。

自己負担割合からみると

1割負担は75歳以上。
2割負担は義務教育就学前。
3割負担は70歳未満と70歳以上の現役並み所得者

となります。

年齢と所得によって違いがあるので覚えるのが面倒ですが,しっかり覚えておきましょう。

さて,それでは今日の問題です。

年齢に気を付けて問題を読むことが大切な問題です。

第25回・問題70 事例を読んで,医療保険に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
Cさんは40年以上勤めあげた会社を63歳で退職し,年金生活を送ることになった。Cさんは民間の大手企業に勤める息子と同居している。退職すると,自分が属していた健康保険組合の被保険者証を返還しなければならず,その翌日から所属していた会社の被保険者資格がなくなる。Cさんは新たな医療保険に加入するため,その方法について決める必要があった。

1 Cさんは,引き続きその会社の任意継続被保険者として加入できるが,被保険者の適用期間は最長1年間である。

2 Cさんが国民健康保険の適用対象者となれば,世帯ごとに都道府県が算定した額に基づいて保険料が請求される。

3 Cさんが国民健康保険の適用になれば,その自己負担の割合は3割である。

4 Cさんは前期高齢者医療制度の適用対象者となる。

5 Cさんは自分の保険料を支払って,同居する息子が加入する健康保険の被扶養者(家族)となることができる。

Cさんは,63歳です。

それでは解説です。


1 Cさんは,引き続きその会社の任意継続被保険者として加入できるが,被保険者の適用期間は最長1年間である。

これは間違いです。

任意継続できる期間は,最長2年間です。

この間の保険料は当然ですが,事業主負担はありませんので,全額が本人負担となります。

2 Cさんが国民健康保険の適用対象者となれば,世帯ごとに都道府県が算定した額に基づいて保険料が請求される。

国民健康保険は,2018年4月から都道府県も保険者となり,運営主体となりました。

制度改正があってすぐのものは出題されにくい傾向がありますが,保険者の変更は社会保険制度の根幹にかかわる部分です。これは出題される可能性が高いと言えます。

さて,問題に戻ります。これは間違いです。

保険料率は,都道府県が市町村ごとの標準保険料率を算定し,市町村はそれを参考にして保険料率を決定します。

都道府県が保険者になった理由は,市町村による負担差を減少させるためです。


3 Cさんが国民健康保険の適用になれば,その自己負担の割合は3割である。

これが正解です。Cさんは63歳なので,自己負担割合は3割です。

Cさんが70歳になると2割負担,75歳になると1割負担となります。

いずれも,現役並み所得があった場合は,3割負担のままです。


4 Cさんは前期高齢者医療制度の適用対象者となる。

これは間違いです。

前期高齢者医療制度は,65~74歳の前期高齢者の医療費の一定割合について,現役世帯の保険者が負担するものです。


5 Cさんは自分の保険料を支払って,同居する息子が加入する健康保険の被扶養者(家族)となることができる。

これも間違いです。

息子の加入する健康保険の被扶養者は,保険料負担がありません。

2018年10月17日水曜日

医療保険の徹底理解~その2

今回も高額療養費を続けていきたいと思います。

まずは前回の復習です。

https://fukufuku21.blogspot.com/2018/10/blog-post_16.html


ここでも書きましたが,金額そのものや細かい数字が出題されたのは,その時のみです。

この科目が始まった第1回の国試だったので,試験委員が張り切って出題したものの,そこまでの知識は社会福祉士の国試には求められていなかったということなのでしょう。

それでは今日の問題です。

第27回・問題70 医療保険の高額療養費制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 高額療養費における自己負担額の「世帯合算」では,被保険者と被扶養者の住所が異なっていても合算できる。

2 高額療養費における自己負担額の「世帯合算」では,家族が別々の医療保険に加入していても合算できる。

3 高額療養費制度の支給対象には,入院時の「食費」・「居住費」も含まれる。

4 高額療養費の申請を受け付けた場合,受診した月から少なくとも1か月で支給しなければならない。

5 高額療養費の支給申請を忘れていても,消滅時効はなく,いつでも支給を申請できる。


制度は,知っていれば解ける,知らなければ解けない,という資格取得試験にとって極めて重要な出題がなされるものです。

勉強しない人が解けてはいけないのです。

その面では,「細かい数字は出題しない」というルールがあるのかないのか,分かりませんが,この問題は妙に中途半端な印象がします。

それでは,解説です。


1 高額療養費における自己負担額の「世帯合算」では,被保険者と被扶養者の住所が異なっていても合算できる。

これが正解です。ちゃんと復習してから解いた人は,解けたと思います。いかがでしたか?

住所が違っていても扶養関係にあれば世帯合算できます。


2 高額療養費における自己負担額の「世帯合算」では,家族が別々の医療保険に加入していても合算できる。

これは間違いです。

世帯合算できるのは,同じ医療保険に加入している場合です。夫が健康保険,子どもは夫の扶養,妻は夫とは別の健康保険,という場合,世帯合算できるのは

夫と子どものみです。

妻と子ども,あるいは夫と妻では世帯合算できません。


3 高額療養費制度の支給対象には,入院時の「食費」・「居住費」も含まれる。

これも間違いです。

入院時の食費,居住費は含まれません。


4 高額療養費の申請を受け付けた場合,受診した月から少なくとも1か月で支給しなければならない。

これも間違いです。このような規定はありません。

第30回国試ではでたらめな選択肢はほとんど出題されませんでしたが,第31回では,このようなタイプのでたらめ選択肢が含まれることでしょう。

ちゃんと勉強した人なら,「知らないものは,でたらめ選択肢なのだ」と自信を持ちましょう。


5 高額療養費の支給申請を忘れていても,消滅時効はなく,いつでも支給を申請できる。
これも間違いです。

第22回のような出題なら,おそらくこの選択肢は,高額療養費の支給申請は,3年を過ぎると時効になる,といった出題になっていたと思われます。

時効は,診療月の次の月の1日を起算として,そこから2年で消滅します。

いつでもということになれば,何十年後先でもできることになってしまいますが,そんなことはないことは想像つきます。


<今日の一言>

第30回国試は,でたらめ選択肢がほとんど出題されていないので,勉強した人はしっかり得点を積み上げていきました。

今後も同じ方針でいくか,変えて出題してくるかどうかは分かりません。

しかし,またでたらめ選択肢のようなものを絡めることは十二分に考えられます。

そのようなタイプの問題は,急激に正解率が下がります。

なぜなら,正解は比較的分かりやすいものが選ばれていたとしても,でたらめ選択肢に引きずられることで,冷静な判断ができなくなってしまうからです。

何度も受験しても合格できないという方は大勢いるでしょう。

多くの場合,知識の有無ではなく,マインドの問題だと考えています。

これから国試までは,どれだけ勉強しても不安は尽きることはありません。

昨日は理解できなかったことは今日は理解できた

昨日は解けなかった問題が今日は解けた

といった小さなことを喜びに変えましょう。

その積み重ねが自信につながることでしょう。

ブトゥリムは,「人間尊重」「人間の社会性」「変化の可能性」をソーシャルワーク固有の価値前提としています。

そのうち,変化の可能性は,自分の意思で変化することができるという意味です。

「だめだ」「自分に能力がない」と思うと気持ちはマイナスに傾きます。

これからは,前だけを向いていきましょう。

2018年10月16日火曜日

医療保険制度の徹底理解~その1

今回から科目は,保健医療サービスに移ります。

この科目は,現行カリキュラムで新しく加わった科目です。

日本のソーシャルワーク4団体のうち,日本医療社会福祉協会は最も古い歴史を持っています。

医療ソーシャルワーカーのための独自の国家資格実現を目指していたためなのか,社会福祉士のカリキュラムには,当初医療ソーシャルワークにかかわる科目は含んでいませんでした。

その後,同協会が医療ソーシャルワーカーの基礎資格に社会福祉士を位置づけ,実習先にも病院が含まれるようになりました。

そして現在は,診療報酬の加算に社会福祉士が評価されるようになりました。そのため,医療ソーシャルワーカーは実質的に社会福祉士の資格を持つ者が採用されています。

さて,国試の話題に移ります。

現行カリキュラムに加わった科目なので,旧カリキュラム時代には,診療報酬についての出題があったくらいで,実質的にも現行カリキュラムから始まったと考えて良いです。

そのため,前回まで取り上げた「低所得者に対する支援と生活保護制度」とは違い,出題ポイントは安定していないのが実状です。

今振り返ってみると当初は,医療ソーシャルワークを専門とする試験委員が張り切りすぎたような内容に感じます。

ようやく近年になって,内容に安定性がみられるようになり,それに従って医療分野以外の人であっても得点しやすく変化しています。

まずは,医療保険制度を押さえていきたいと思います。

医療保険全体の枠組みは,「社会保障」で出題されます。

この科目では,主に高額療養費制度が出題されています。医療ソーシャルワーカーの業務には,経済的問題の解決が含まれるからです。

高額療養費制度とは,1か月の個人負担金が基準額を超えた場合,超えた分が償還されるものです。

同じ医療保険制度であれば,世帯合算することもできます。

それでは,今日の問題です。この問題は制度改正により成立しません。

第22回・問題63 現行の医療保険制度のうち,高額療養費制度に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 高額療養費の自己負担限度額は70歳未満の場合,所得水準ごとに3つの限度額が設けられている。

2 高額療養費の自己1負担限度額は70歳以上75歳未満の場合,高齢者であることを踏まえて所得水準ごとに5つの限度額が設けられている。

3 高額療養費の世帯合算基準額は,70歳未満の者については同一月における34,000円以上の負担が複数発生した場合はこれを合算して,支給される。

4 12月間に4回以上高額療養費制度に該当した場合,5回目からの自己負担限度額は別に定められている。

5 血友病,人工透析を行う慢性腎不全の患者等の長期高額疾病患者については,負担軽減の観点から自己負担限度額は30,000円となっている。

この問題が現在成立しないのは,自己負担限度額の区分が変更になっているからです。

それでは解説です。ちなみにすべて不正解です。


1 高額療養費の自己負担限度額は70歳未満の場合,所得水準ごとに3つの限度額が設けられている。

現在は,70歳未満の場合は,5区分です。

第31回の国試に限って言えば,自己負担限度額の区分は出題されないように思います。

70歳未満と70~74歳未満では,区分が違うことが分かっていれば十分です。


2 高額療養費の自己1負担限度額は70歳以上75歳未満の場合,高齢者であることを踏まえて所得水準ごとに5つの限度額が設けられている。

現在は,70歳以上75歳未満の場合は,6区分です。出題同時はこれが正解でした。


3 高額療養費の世帯合算基準額は,70歳未満の者については同一月における34,000円以上の負担が複数発生した場合はこれを合算して,支給される。

世帯合算基準額は,21,000円です。


4 12月間に4回以上高額療養費制度に該当した場合,5回目からの自己負担限度額は別に定められている。

高額療養費制度では,12月間に3回以上高額療養費制度に該当した場合,4回目からの自己負担限度額は別に定められています。


5 血友病,人工透析を行う慢性腎不全の患者等の長期高額疾病患者については,負担軽減の観点から自己負担限度額は30,000円となっている。

長期高額疾病患者の自己負担限度額は10,000円です。


<今日の一言>

この問題は,現行カリキュラムの第1回の国試の第22回のものです。しかも1問目です。

近年の問題と大きく違う点は,細かい数字が出題されていることです。
反省したのか,その後,二度と細かい数字を問う出題はされていません。

医療ソーシャルワーカーとしては,経済的問題の解決のためには,細かい数字を理解しておくことは必須でしょう。

しかし,社会福祉士=医療ソーシャルワーカーではないので,そこまでの知識は必要とされなかったというのが,実状ではないでしょうか。

そういう面で,試験委員が張り切りすぎたと感じるのです。

2018年10月15日月曜日

生活困窮者自立支援法の徹底理解

「低所得者に対する支援と生活保護制度」は,約1か月半にわたって紹介してきました。
いよいよ今回が最終回です。

この科目の中心の法制度は,生活保護法ですが,平成25年に成立した「生活困窮者自立支援法」は,もう一つの柱になるべき重要な法制度です。

生活緊急者自立支援法とは,

目的 生活困窮者の自立支援体制を構築と自立促進

実施主体 福祉事務所を設置する自治体

必須事業
・自立相談支援事業
・住居確保給付金の支給

任意事業
・就労準備支援事業
・一時生活支援事業
・家計相談支援事業
・学習支援事業 その他

国の負担率 3/4

なお,これらの事業は,民間等に委託することができます。

事業はたくさんありますが,絶対に覚えておかなければならないものは,必須事業です。

自立相談支援事業
生活困窮者等からの相談を受けて,自立プランの作成支援等。

住居確保給付金の支給
離職などにより住居を失った者などに対する一定期間の家賃相当額の支給。

生活困窮者自立支援法は,本格的に出題されたのは第30回国試が初めてです。

そのため,制度を周知するため,まだまだ基本的な出題が続くことと思われます。

それでは今日の問題です。

第30回・問題63 生活困窮者自立支援法に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 住居の確保を目的とした給付金を支給する制度が設けられている。

2 一時生活支援事業とは,住居を有する生活困窮者に対して食事の提供を行う事業である。

3 自立相談支援事業は,相談支援を通して生活困窮者に就職のあっせんを行う事業である。

4 就労準備支援事業は,3年を限度として訓練を提供する事業である。

5 家計相談支援事業は,生活困窮者の家計に関する問題につき生活困窮者からの相談に応じ,必要な資金の貸付けをする事業である。

任意事業がいろいろ出題されていますが,任意事業よりも重要ななのは,まず必須事業です。

それでは解説です。


1 住居の確保を目的とした給付金を支給する制度が設けられている。

これが正解です。住居確保給付金の支給は必須事業です。


2 一時生活支援事業とは,住居を有する生活困窮者に対して食事の提供を行う事業である

これは間違いです。

事業を知らなければ引っ掛けられてしまいそうになると思いますが,住居を有しない生活困窮者に対して,衣食住等の提供を行うものです。


3 自立相談支援事業は,相談支援を通して生活困窮者に就職のあっせんを行う事業である。

これも間違いです。

就職のあっせんなら,わざわざ新しい制度を設けなくてもハローワークが実施しています。

相談支援は相談支援。就職のあっせんは就職のあっせんです。

自立相談支援事業では,自立プランを作成して,必要な場合は,任意事業である就労準備支援事業等のあっせんを行います。


4 就労準備支援事業は,3年を限度として訓練を提供する事業である。

これも間違いです。

就労準備支援事業が分からなくても,3年間は長すぎると感じるでしょう。正解は1年が限度です。


5 家計相談支援事業は,生活困窮者の家計に関する問題につき生活困窮者からの相談に応じ,必要な資金の貸付けをする事業である。

これも間違いです。

必要な資金を貸し付けるなら,生活福祉資金貸付制度があります。

新しい法制度がつくられるのは,今までの制度ではカバーできないものをカバーするためです。

家計相談支援事業は,家計を自ら設計できるようにするための相談支援です。


<今日の一言>

生活困窮者自立支援法に基づく必須事業は,自立相談支援事業と住居確保給付金の支給です。

今回は,住居確保給付金の支給が正解選択肢となりました。

次回は,自立相談支援事業が選択肢に選ばれる可能性は高いです。

しっかり押さえておきましょう。

2018年10月14日日曜日

自立支援プログラムの徹底理解~その6

今回は,自立支援プログラムそのものではなく,本来の自立支援の問題を取り上げます。

自立支援は,実は自治事務に属するものと考えられています。

ケースワーカーがソーシャルワークを発揮する場面でしょう。

さて,それでは今日の問題です。

第29回・問題68 事例を読んで,生活保護制度における自立支援について,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
Hさん(55歳)は,仕事中頻繁に飲酒していたことから解雇され,預貯金も底をついたので生活保護を受け始めたところ,アルコール依存症の診断を受けた。担当の生活保護ケースワーカーはHさんと話し合いの上,自立支援の計画を作成することになった。

1 抗酒剤の服用により,飲酒の欲求を抑えることができると説明した。

2 求職活動の前に専門的な医療機関での治療を優先する計画を立てた。

3 飲酒しながら自立生活を営むことができるよう自立支援の計画を策定した。

4 生活習慣を見直す必要があるため,Hさんの意に反して更生施設へ入所させることにした。

5 一度作成した自立支援の計画は,変更できないと説明した。


事例問題は現行カリキュラムでは,4回出題されています。

第24・25回は,解雇等による失業。
第26・29回は,精神障害による失業。


保護に至る理由が変化してきています。

これは,社会問題が複雑化していることを表しているように感じます。

制度とともに,クライエントの背景も考えなければならないので,事例としてのグレードはワンステップ向上していると考えられます。

それでは解説です。


1 抗酒剤の服用により,飲酒の欲求を抑えることができると説明した。

これは間違いです。

生活保護に限らず,医療判断は,医療職が行うものです。ワーカーの範囲ではありません。

このようなことは絶対にあってはなりません。


2 求職活動の前に専門的な医療機関での治療を優先する計画を立てた。

これが正解です。

Hさんは,アルコール依存症です。

仕事中に飲酒して解雇されたことを考えると仕事をしてもまた飲酒する恐れがあります。

最も重視されるのは,アルコール依存症を治療したうえでの日常生活自立だと考えられます。

就労による経済的自立がいつも優先されるものではありません。


3 飲酒しながら自立生活を営むことができるよう自立支援の計画を策定した。

これは間違いです。

Hさんは,アルコール依存症です。

治療には断酒が必要です。

医療の素人が中途半端な計画を立てるのは絶対にあってはなりません。

医療は医療の専門家に任せることが大切です。


4 生活習慣を見直す必要があるため,Hさんの意に反して更生施設へ入所させることにした。

これは間違いです。

更生施設への入所が必要だとしても,自己決定の原則に基づき,Hさんの同意が必要です。

しかしこの場合は,治療が優先されます。

生活習慣の見直しではどうにもなりません。だからこそアルコール依存症なのです。


5 一度作成した自立支援の計画は,変更できないと説明した。

これも間違いです。

対人援助に関する計画は,状況によって変更されるものです。

それは被保護者に関しても同様です。

ケースワーカーはソーシャルワーカーです。そこには自立支援にかかわる専門性があります。

2018年10月13日土曜日

自立支援プログラムの徹底理解~その5

自立支援プロクラムにおける自立とは?

就労による経済的自立だけではなく,自分で自分の健康・生活管理を行うなど日常生活において自立した生活を送ることができる日常生活自立,地域社会の一員として充実した生活を送ることができる社会生活自立があります。

これらは,どれが優先するというものではありません。

自立の一般的イメージは,経済的自立だと思われがちです。

そこがひっかけポイントになることはよく見えてきたことでしょう。

それでは,今日の問題です。

第26回・問題68 事例を読んで,自立支援プログラムによる支援の進め方に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例)

Cさんは重いうつ病を発症し療養に専念するために退職したが,経済的に困窮したため生活保護を申請した。保護開始後,Cさんは療養を要するものの病状は安定してきた。しかしCさんには,なお就労に対する躊躇があるようである。

1 Cさんには,できるだけ早期に保護から脱却することを目指す就労支援プログラムへの参加が提案された。

2 Cさんの自立支援プログラムへの参加は,ケースワーカーの判断で決定された。

3 Cさんの自立支援の内容は,共通の統一した支援目標に基づき作成されることになった。

4 Cさんに対しては,自立支援プログラムに参加することが,生活保護を継続するための必要条件であるとの説明がなされた。

5 Cさんには,ボランティア活動や試行雇用の機会の提供を視野に入れた自立支援プログラムが提案された。


自立支援プログラムの事例問題は,第24回,第25回,第26回,第29回に出題されています。

今日の問題はそのうち,第26回のものです。
第24回
https://fukufuku21.blogspot.com/2018/10/blog-post_11.html

第25回
https://fukufuku21.blogspot.com/2018/10/blog-post_12.html

同じような内容ですが,少しずつ違っています。

しかし,自立支援プログラムのことが分かっていれば,何ら難しくはありません。気を付けるべきポイントは,Cさんはうつ病患者であるというこです。

それでは解説です。


1 Cさんには,できるだけ早期に保護から脱却することを目指す就労支援プログラムへの参加が提案された。

これは間違いです。

就労支援プログラムは,自立支援プログラムの一つです。ここで初めて出題されました。

就労支援プロクラムとは,福祉事務所の就労支援員が,就労するために必要な面接の受け方,履歴書の書き方,あるいはハローワークまで同行するものです。

うつ病は回復期が一番大切な時期です。下手するとまた悪化する恐れがあるからです。

ここは焦らずじっくり支援していくことが必要です。


2 Cさんの自立支援プログラムへの参加は,ケースワーカーの判断で決定された。

これも間違いです。

参加は,説明を受けたうえで,被保護者の同意が必要です。


3 Cさんの自立支援の内容は,共通の統一した支援目標に基づき作成されることになった。

これも間違いです。

プログラムは類型化されたものかもしれませんが,支援目標は個別に設定されます。


4 Cさんに対しては,自立支援プログラムに参加することが,生活保護を継続するための必要条件であるとの説明がなされた。

これも間違いです。

自立支援プログラムは,被保護者の同意によって実施されます。参加しなくても,保護停止や廃止があるものではありません。


5 Cさんには,ボランティア活動や試行雇用の機会の提供を視野に入れた自立支援プログラムが提案された。

これが正解です。

Cさんはうつ病患者です。しかも現在は回復期にあります。この時期に自信をなくしてしまうとまた悪化してしまう恐れがあります。

経済的自立も大切ですが,今の時点では,社会生活自立を視野に入れることが大切でしょう。

経済的自立が最優先されるものでは決してないことを心に銘記しておきましょう。



<今日の一言>

国試までは限られた時間しかありませんが,今本格的に勉強を始めてもまだまだ合格できる実力をつけるだけの時間はあります。

国試の出題範囲は広いですが,決して深掘りしないからです。

ここで重要なのは,どれだけ勉強するか,ではなく,どのように勉強するか,です。

どれだけ勉強時間を使っても思考を動かさない勉強は,何の意味もありません。

頭で考えながら,確実な知識にしていくことが大切です。


2018年10月12日金曜日

自立支援プログラムの徹底理解~その4

生活保護法の目的は,日本国憲法第25条に基づく最低限度の生活保障と自立の助長です。

自立の助長は重要ですが,忘れがちですからしっかり押さえておきましょう。

自立には,就労による経済的自立のみならず,身体や精神の健康を回復・維持して自分で自分の健康・生活管理を行う日常生活自立,社会的なつながりを回復・維持して地域社会の一員として充実した生活を送る社会生活自立があります。

生活保護を受けている人の自立というと,経済的自立というイメージがあるかもしれません。

しかし,保護を受けているのは,高齢者や障害者など稼働能力を有しない世帯もあります。

経済的に自立していないと自立と言わないのではなく,今日の自立の概念は広いので,稼働能力を有しない世帯であっても,自立は可能です。

それでは,早速今日の問題です。


第25回・問題68 事例を読んで,自立支援プログラムによる就労支援の進め方に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
 雇用先から解雇されたBさんは,就職先がなかなか見つからず生活に困窮したことから,生活保護の申請をすることになった。生活保護が開始されて間もなく,担当ケースワーカーから自立支援プログラムを使って就労自立を目指すことがBさんに対して提案された。

1 Bさんの就労支援は,生活保護法第27条の被保護者に対する指導・指示に基づいて開始される。

2 Bさんの就労支援は,公共職業安定所(ハローワーク)の就労支援員に委託されて行われる。

3 Bさんの就労支援は,期間を定めて行われ,支援終了時には生活保護も廃止となる。

4 Bさんの就労支援は,福祉事務所長の措置による支援決定によって開始される。

5 Bさんの就労支援は,就労自立に向けて必要な場合には,日常生活自立や社会生活自立のための支援も行われる。


前回の問題と内容が酷似していますが,少し変えて出題されています。

ここが国試の難しいところです。

しかし,基本を押さえておけば,まったく恐れることはありません。

それでは解説です。


1 Bさんの就労支援は,生活保護法第27条の被保護者に対する指導・指示に基づいて開始される。

これは間違いです。

今まで何度も出てきたように,自立支援プログラムへの参加は,被保護者の同意によっ行われます。

指導・指示に基づいて開始されるものではありません。


2 Bさんの就労支援は,公共職業安定所(ハローワーク)の就労支援員に委託されて行われる。

これも間違いです。

被保護者の就労支援は,ハローワークもかかわります。

しかし自立支援プログラムは,あくまで保護の実施機関が実施するものです。

就労による経済的自立を目指す時に,ハローワークが実施している就労支援サービスを活用します。


3 Bさんの就労支援は,期間を定めて行われ,支援終了時には生活保護も廃止となる。

これも間違いです。

自立支援プログラムと保護の停止・廃止は連動しているものではありません。

Bさんの場合,保護が廃止になるとすれば,就労による経済的自立ができたときだと言えるでしょう。


4 Bさんの就労支援は,福祉事務所長の措置による支援決定によって開始される。

これも間違いです。

自立支援プログラムは,保護が決定された後,Bさんに合った自立支援プログラムを選定して,Bさんの同意があった場合に実施されます。

主体はあくまでもBさんにあります。


5 Bさんの就労支援は,就労自立に向けて必要な場合には,日常生活自立や社会生活自立のための支援も行われる。

これが正解です。

解雇されて仕事先がなかなか決まらず,その焦りから自暴自棄になってしまうかもしれません。

もしかするとそんなところが見え隠れして,仕事が見つからないのかもしれません。

日常生活自立や社会生活自立のための支援も必要かもしれません。

経済的自立が常に優先されるものではありません。


<今日の一言>

自立支援プログラムの最重要ポイント

実施は,被保護者の同意によって実施されるもので,拒否したからといって保護が廃止,停止されるものではありません。

なぜなら自立支援プログラムは保護の受給要件ではないからです。

補足すると,自立支援プログラムは被保護者全員に実施されるものではありません。

対象に選ばれた被保護者が自立支援プログラムを受けることを拒否したとき,保護が停止・廃止されるとしたら,被保護者にとって,自立支援プログラムによる支援の対象者に選定されることは,ババ抜きのババを引き当てることようなものです。

自立支援プログラムは,そういったものではないことをしっかり押さえておきましょう。

2018年10月11日木曜日

自立支援プログラムの徹底理解~その3

社会福祉士の国家試験は,一問一答式の問題と事例問題があります。

事例問題は,旧カリキュラムの時は,現在も精神保健福祉士にある長文事例問題として出題されていました。

現在のカリキュラムになって,長文事例問題はなくなり,短文事例問題となりました。

さて,その短文事例問題には,2種類あります。

1つは,相談援助や高齢者などにみられる対人援助に関連する事例問題です。

これは,事例を丁寧に読んで考えると解けます。


もう1つは,法制度の知識を問う事例問題です。

これは事例のスタイルですが,法制度を知らなければ解けません。

今回は,自立支援プログラムに関する短文事例問題を取り上げてみたいと思います。

知っていれば解けますし,知らなければ解けません。

知っていれば,難易度は高くない問題だと言えるでしょう。

それでは今日の問題です。

第24回・問題61 事例を読んで,次の記述のうち,生活保護を受給しているEさんに対する自立支援プログラムに基づく支援として,最も適切なものを一つ選びなさい。

〔事 例〕
 Eさん(39歳)は,自動車工場の製造ラインで派遣社員として働いていた。しかし,いわゆる「派遣切り」で職場と住居を失い,ワンストップサービスの相談窓口を介して生活保護の受給に至った。Eさんは,以前に痛めた腰痛が再発して医療機関を受診しており,すぐに仕事を探すことには拒否的な様子がみられた。

1 Eさんの自立支援プログラムの導入に際して,担当ケースワーカーの個人的な努力や経験に基づき必要な支援を行う。

2 Eさんの実情を把握し,個別支援プログラムを選定して説明する。

3 Eさんの状況から判断して,就労による経済的自立に焦点化した自立支援プログラムを行う。

4 Eさんの主体性を引き出すために,自立支援プログラムに参加するよう積極的に生活保護法に基づく指導又は指示を行う。

5 Eさんに対して自立支援プログラムに基づき検診命令を行い,嘱託医に対して就労が可能であるかどうかを相談する。


まずは,自立支援プログラムのおさらいです。


自立支援プログラムとは・・・
生活保護受給者の自立を阻害する要因を分析して自立支援を行うためのプログラムです。プログラムは,個別に作られるものではなく,類型化したもので,それに合う被保護者を選定し,本人の承諾のもとに実施されます。
自立とは,就労による経済的自立だけではなく,自分で自分の健康・生活管理を行うなど日常生活において自立した生活を送ることができる日常生活自立,地域社会の一員として充実した生活を送ることができる社会生活自立があります。

おさらいしたところで解説です。

1 Eさんの自立支援プログラムの導入に際して,担当ケースワーカーの個人的な努力や経験に基づき必要な支援を行う。

これは間違いです。

前回紹介したように,自立支援プログラムを導入した背景にはこういったものがあります。

「実施機関においてはこれまでも担当職員が被保護世帯の自立支援に取り組んできたところであるが、被保護世帯の抱える問題の複雑化と被保護世帯数の増加により、担当職員個人の努力や経験等に依存した取組だけでは、十分な支援が行えない状況となっている」。(指針より)

ここから,組織的に取り組むことになったのです。


2 Eさんの実情を把握し,個別支援プログラムを選定して説明する。

これが正解です。

個別支援プログラムは,個別に作られているものではなく,類型化したプログラムの中から被保護者の実情に合ったものを選定して,説明し,同意したうえで実施されます。


3 Eさんの状況から判断して,就労による経済的自立に焦点化した自立支援プログラムを行う。

これは間違いです。

自立には,経済的自立,日常生活自立,社会生活自立があります。

どれが優先されるというものはなく,被保護者の実情に合わせて支援します。

Eさんの場合,すぐ仕事を探すことを拒否しているのは,仕事をしたくないからではなく,痛めた腰のためです。腰の痛みが癒えることで,経済的自立は果たせるので,この時点では経済的自立を目指すのは適切ではないでしょう。

むしろ日常生活自立の方が優先されると言えるでしょう。


4 Eさんの主体性を引き出すために,自立支援プログラムに参加するよう積極的に生活保護法に基づく指導又は指示を行う。

これも間違いです。

自立支援プログラムは,生活保護法に基づく指導又は指示によって実施されるものではなく,あくまでも被保護者の同意によって実施されるものです。

主体性を引き出すのであれば,自立支援プログラムに参加しなくても,生活保護法に基づく指導又は指示によって行えるでしょう。まさにそこに,「担当ケースワーカーの個人的な努力や経験」が生かされることでしょう。


5 Eさんに対して自立支援プログラムに基づき検診命令を行い,嘱託医に対して就労が可能であるかどうかを相談する。

これも間違いです。

健診命令は,保護の決定の際に行われるものです。Eさんの場合は,健診命令がなくても,既に医療機関を受診しています。


<今日のまとめ>

自立支援プログラムに関する出題は,実施は被保護者の同意によって行われる,というところに集約されます。

2018年10月10日水曜日

自立支援プログラムの徹底理解~その2

今回も「自立支援プログラム」を取り上げます。

前回の問題の答えは,

自立支援プログラムの支援対象は,被保護者である。

でした。

潔いと言うべきか,ひねりがないと言うべきか,いずれにしても,実にストレートなものが答えでした。

しかし,これが解けるのはちゃんと勉強した人です。

勉強が足りない人はこんな問題でさえ間違えます。

誰もが苦手とする歴史や人名などではなく,誰もが解ける問題で確実に正解できることが合格をつかみます。

一応,復習しておいてください。
https://fukufuku21.blogspot.com/2018/10/1.html


それでは今日の問題です。


第30回・問題68 生活保護の自立支援プログラムの「基本方針」に示される内容に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 各自治体の地域の実情に応じて設定されるものではない。

2 民間事業者等への外部委託は想定されていない。

3 組織的支援ではなく,現業員の個人の努力や経験により支援を行うことにしている。

4 就労による経済的自立のみならず,日常生活自立,社会生活自立など多様な課題に対応するものである。

5 被保護世帯の自立阻害要因の把握は求められていない。

(注) 「基本方針」とは,「平成17年度における自立支援プログラムの基本方針について」(平成17年3月31日社援発第0331003号厚生労働省社会・援護局長通知)のことである。


聴き慣れない「基本指針」という言葉に怖気づく人もいたかと思いますが,内容は超簡単です。


「平成17年度における自立支援プログラムの基本方針について」(平成17年3月31日社援発第0331003号厚生労働省社会・援護局長通知)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2918&dataType=1&pageNo=1


自立支援プログラムとはどういうものなのか分からなくても,今日の問題の正解は選択肢3であろうと想像がつきます。

このように,勉強した人も解けて,勉強しない人も解ける問題は,国家試験にはふさわしくないと考えます。

そういった面では悪問だと言えます。

このような問題が,第30回の国家試験の合格基準点を上げたとも言えます。

勉強した人が解ける
勉強が足りない人は解けない

そうでなければ,またまた合格基準点が上がってしまうことになります。

合格基準点が上がったとしても,基本を押さえておけば十分クリアできますが,そうなると本当にサバイバルゲームのように,ケアレスミスをした人が脱落するといったかなり過酷なものとなってしまいます。

それでは解説です。


1 各自治体の地域の実情に応じて設定されるものではない。

通知では

自立支援プログラムとは、実施機関が管内の被保護世帯全体の状況を把握した上で、被保護者の状況や自立阻害要因について類型化を図り、それぞれの類型ごとに取り組むべき自立支援の具体的内容及び実施手順等を定め、これに基づき個々の被保護者に必要な支援を組織的に実施するものである。

ということで,地域の実状に応じて設定されます。間違いです。


2 民間事業者等への外部委託は想定されていない。

通知では

他の実施機関における取組事例等を積極的に参考とするほか、専門的知識を有する者の非常勤職員や嘱託職員等としての雇用、地域の適切な社会資源(民生委員、社会福祉協議会、社会福祉法人、民間事業者等)への外部委託(アウトソーシング)等により、実施体制の充実を積極的に図るとともに、セーフティネット支援対策等事業費補助金や生業扶助を積極的に活用する。

ということで,外部委託は想定されています。間違いです。


3 組織的支援ではなく,現業員の個人の努力や経験により支援を行うことにしている。

通知では

個々の担当職員の努力により培われた経験や他の実施機関での取組の事例等を具体的な自立支援の内容や手順等に反映させていくことにより、こうした経験等を組織全体として共有することが可能となり、自立支援の組織的対応や効率化につながるものと考えられる。

自立支援プログラムは組織的支援です。間違いです。

組織的に取り組むことの背景にはこういったものがあります。

(通知から)

実施機関においてはこれまでも担当職員が被保護世帯の自立支援に取り組んできたところであるが、被保護世帯の抱える問題の複雑化と被保護世帯数の増加により、担当職員個人の努力や経験等に依存した取組だけでは、十分な支援が行えない状況となっている。


4 就労による経済的自立のみならず,日常生活自立,社会生活自立など多様な課題に対応するものである。

これが正解です。

自立には,経済的自立,日常生活自立,社会生活自立があり,それらはどれが優先するというものはありません。


5 被保護世帯の自立阻害要因の把握は求められていない。

選択肢1に書いたように

実施機関が管内の被保護世帯全体の状況を把握した上で、被保護者の状況や自立阻害要因について類型化を図り・・・

ということで間違いです。

自立支援プログラムの問題は,なぜかいつも難しくないのです。

不思議です。


<今日のおまけ>

この問題がなぜ誰でも解ける問題になってしまったのか?

理由は簡単です。

間違い選択肢に書き換える前の文章

1 各自治体の地域の実情に応じて設定される。
2 民間事業者等への外部委託は想定されている。
3 現業員の個人の努力や経験ではなく,組織的支援により支援を行うことにしている。
5 被保護世帯の自立阻害要因の把握が求められている。

選択肢1,2,5は,否定形に変えることで間違い選択肢にしています。

選択肢3は,前半と後半を入れ替えることで間違い選択肢にしています。

自分で問題を作ってみると分かりますが,間違い選択肢をそれっぽく見せるのは,とても難しいものです。

今日の問題のようなものは,もうほとんど出題されないとは思いますが,もし間違い選択肢をつくるときの常とう手段を用いている問題があったら・・・

試験委員さん,ご苦労さん!!

と思いましょう。

心に余裕をもてる人が,国試で普段通りの実力を発揮します。

しかし,答えが簡単に分かる問題は,はっきり言って悪問です!!














2018年10月9日火曜日

自立支援プログラムの徹底理解~その1

勉強は,やってもやってもこれで良いという安心は得られませんし,覚えたかどうかも確認できないもどかしさがあります。

皆さんが受験するのは,社会福祉士の国家試験です。

社会福祉士の国試対策の勉強が必要です。

テキストや参考書を読む勉強は大切ですが,実際の問題を解いて覚えるという方法もあります。

これだと解ければ覚えたことが実感できます。そして最初は解けなくても繰り返すことで解けるようになれば,知識が増えたことになります。

勉強の手ごたえを感じないと張り合いを感じることは難しいので,ぜひ問題を解くという勉強も取り入れることをおすすめします。

さて,今回から自立支援プログラムを取り上げます。

自立支援プログラムとは・・・

生活保護受給者の自立を阻害する要因を分析して自立支援を行うためのプログラムです。プログラムは,個別に作られるものではなく,類型化したもので,それに合う被保護者を選定し,本人の承諾のもとに実施されます。

自立とは,就労による経済自立だけではなく,自分で自分の健康・生活管理を行うなど日常生活において自立した生活を送ることができる日常生活自立,地域社会の一員として充実した生活を送ることができる社会生活自立があります。


それでは今日の問題です。

第23回・問題60 生活保護における自立支援プログラムに関する次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。

1 自立支援プログラムの支援対象者に対する「説明・同意」は,生活保護申請時に行われる。

2 自立支援プログラムの支援対象者は,提供されるプログラムを「選択・決定」しなければならない。

3 自立支援プログラムの支援対象は,被保護者である。

4 自立支援プログラムに参加しない場合は,保護の停止又は廃止が行われる。

5 経済的自立に関するプログラムは,他のプログラムに優先する。


難しそうに見える問題ですが,よく見れば答えは簡単なところにあります。

それでは解説です。


1 自立支援プログラムの支援対象者に対する「説明・同意」は,生活保護申請時に行われる。

自立支援プログラムは,被保護者のうちからそのプログラムに合った人を選定し,同意を得て実施します。申請時ではなく,保護受給中です。よって間違いです。

2 自立支援プログラムの支援対象者は,提供されるプログラムを「選択・決定」しなければならない。

自立支援プログラムは,「選択・決定しなければならない」といった性格のものではなく,その人に合ったものが提示され,同意して実施されます。

自分で選択するものではありません。よって間違いです。


3 自立支援プログラムの支援対象は,被保護者である。

何のひねりもなく,これが正解です。


4 自立支援プログラムに参加しない場合は,保護の停止又は廃止が行われる。

参加は,同意に基づいて実施されます。

参加することが保護の受給要件ではないので,参加さなかったからといって,保護の停止又は廃止が行われるようなものではありません。

よって間違いです。


5 経済的自立に関するプログラムは,他のプログラムに優先する。

自立は,経済自立,日常生活自立,社会生活自立がありますが,どれが優先するというものではありません。

よって間違いです。

自立支援プログラムに関するものをこれから数回にわたって紹介していきますが,問われる内容はいつも一緒です。

2018年10月8日月曜日

生活保護の実施の徹底理解~その3

3か月で合格する!!

70%の人が合格し,30%の人が不合格になるなら,不合格になるのはちょっと恥ずかしいような気がします。

しかし,社会福祉士の国家試験で不合格になるのは70%です。つまり大半の人は不合格になります。

だからと言って

国試の合格率は30%程度だから,落ちてもともと

と考えていると必ず不合格になります。


「合格できたらもうけもの」とは思わず,「合格するんだ」という強い意志を持って勉強に取り組んでいくことが大切です。

真剣に勉強したのにもかかわらず万が一不合格だった場合は,とても悔しいはずです。しかし,その悔しさは必ず次の受験につながります。もう不合格になりたくないからです。


 逆に「合格できたらもうけもの」と思っていると不合格になってもそれほど悔しくはありません。もしかすると防衛機制かもしれませんね。しかし悔しくないので,次の年もあまり勉強せずに受験に突入することになります。
もちろん何年もかかって合格される人はたくさんいます。受験をあきらめないで受験を続けることは大切なことです。

もともとこのブログは,毎年数点の差で不合格になっている人たちを応援するつもりで始めたものです。あと数点の得点を伸ばすための受験のコツを伝えてきました。

3割しか合格できない試験なので,決して易しいものではないことは確かです。

だからこそ価値のある資格であるとも言えます。

試験に向けて強い意志を持って,自分との戦いに勝ってください。

すべてはそこから始まります。

そうすれば,必ず合格をつかめます。

私たちチームfukufuku21は,真剣に合格を目指す方々のサポーター集団です。
合格するために必要な情報をお届けしていきます。

さて,今回も「低所得者への支援と生活保護制度」に取り組みたいと思います。
生活保護の実施のまとめです。

それでは,早速今日の問題です。

第29回・問題69 生活保護の決定と実施に関する次の記述のうち,正しいものを2つ選びなさい。

1 他の法律に定める扶助は,生活保護法による保護に優先して行われる。

2 生活に困窮していても借金がある場合は,保護を受けることができない。

3 資力調査等に日時を要する場合は,保護の開始の申請から60日まで保護の決定を延ばすことができる。

4 急迫した状況にある場合は,資産等の調査を待たずに保護を開始することができる。

5 生活保護法による生活扶助は,居宅よりも保護施設において行うことが優先される。


問題の難易度はそれほど難しいものではないと思います。

しかし注意しなければならないのは,正しいものを2つ選ぶ問題になっているところです。

毎年12~15問程度,2つ選ぶ問題が出題されます。それほど数が多くはないので,見落とさない細心の注意が必要です。

国試までにその対策を必ずしておいてください。

まず生活保護の基本原理・基本原則をおさらいしておきましょう。

生活保護の原理・原則~その1
https://fukufuku21.blogspot.com/2018/09/1_9.html

原理と原則の違いは,

原理 → 例外のないルール
原則 → 例外のあるルール

それでは,復習したところで解説です。


1 他の法律に定める扶助は,生活保護法による保護に優先して行われる。

④保護の補足性の原理
 保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2 民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3 前二項の規定は,急迫した事由がある場合に,必要な保護を行うことを妨げるものではない。

第二項のように,他の法律に定める扶助は,生活保護法による保護に優先して行われます。

よって正解です。


2 生活に困窮していても借金がある場合は,保護を受けることができない。

②無差別平等の原理
 すべて国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護を,無差別平等に受けることができる。

無差別平等の原理は,困窮に陥った理由は問わなない例外のないルールです。

借金があろうがなかろうが,労働能力があろうがなかろうが,困窮の事実をもって保護します。

よって間違いです。


3 資力調査等に日時を要する場合は,保護の開始の申請から60日まで保護の決定を延ばすことができる。

国試は少しずつ重なっていて,少しずつ違う

何度も述べてきました。

この選択肢は現行カリキュラムではこの時初めて出題されたものです。

そのため,参考書によって書かれていないものもあったと思います。

勉強してもしても,勉強しないものが出題されるのが国試です。

しかし多くの場合は,そういったところに正解選択肢は配置しないのです。

なぜなら,多くの人が勉強できないものを正解にすると正解できる人が極端に少なくなってしまいます。

そういった問題が多くなると,第25回国試のように合格基準点が72点になるといったことが起きます。

勉強した人も解けない

といった国試は不適切です。

さて,問題に戻ります。


(申請による保護の開始及び変更)
通知は、申請のあつた日から十四日以内にしなければならない。ただし,扶養義務者の資産及び収入の状況の調査に日時を要する場合その他特別な理由がある場合には,これを三十日まで延ばすことができる。

つまり延長できるのは60日ではなく,30日だということです。よって間違いです。

これを知らなくても,通知が60日まで延長するのは長すぎると思えると思います。


4 急迫した状況にある場合は,資産等の調査を待たずに保護を開始することができる。

これは正解です。

①申請保護の原則
 保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し,要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の申請がなくても,必要な保護を行うことができる。

原則は,原理と違って,例外のあるルールです。

原則は申請保護,例外は職権保護です。


5 生活保護法による生活扶助は,居宅よりも保護施設において行うことが優先される。

保護施設には,生活扶助を目的とする救護施設と更生施設があります。

しかし,保護は居宅保護が原則です。

保護施設は,全部で5つの種類があります。

そのうち最も多い救護施設でさえ,全国には約180箇所しかありません。


<今日の一言>

国試合格は,毎日の勉強の積み重ねです。

勉強は進んでいないから,今年は記念受験。次回にかけよう!

と決して思ってはいけません。

3か月あれば,十分合格できる実力は身につきます。

まして今は3か月どころか,4か月近くあります。

今ならまだ間に合います。



2018年10月7日日曜日

生活保護の実施の徹底理解~その2

社会福祉士の国家試験とは,7割が不合格になる試験である

今日は,強烈な言葉から入りました。

社会福祉士の国家試験は,今まで30回実施されています。

そのうち,最も合格率が高かったのは,第15回の31.4%です。

この第15回国家試験は,初めて合格基準点と正解が発表された年です。

第1~14回までは,今とは違いそれらは発表されていませんでした。

第15回国試で初めてそれらを発表するようになったとたん,不適切問題が指摘され,追加合格が701名も出たのです。

それがない当初の合格率は29.1%でした。

これを合格率30%以上だとカウントしたとしても,30回中,合格率が30%を超えたのは

第8回
第15回
第20回
第30回

のたった4回しかありません。

7割は確実に不合格になります。

7割が合格できる試験ではありません。

しかし,社会福祉士国試の問題の難易度自体は決して難しくはありません。

それらは,今までの解説で分かっていただけるのではないでしょうか。

不合格になる7割の人は,国試問題がどうの,という前に,自分に負けているように思います。

勉強ができない言い訳はたくさんできます。

国試全体のことを考えると,合格するつもりがないのに国試を受験するのは,とてもありがたいことです。そういう人が多ければ多いほど合格基準点を引き下げてくれるからです。

記念受験組ではない人は,しっかり勉強していきましょう。

勉強ができないことをマイナスに思うのではなく,少しでも勉強できる有難さを感じて,そして見守っていてくれている人に感謝して,国試に向かっていきましょう。

試験に勝つためには,まず自分に勝つことが大切です。

自分に勝った先には,必ず合格が待っています。

国家試験は,スポーツなど他人と競争するようなものではありません。

他人と競い合うものではなく,戦う相手は自分です。
これから国試までは,気持ちが弱くなることもあるでしょう。

それにも負けず,一歩一歩確実に進んでいくことが大切です。

自分の敵は自分です。

それでは,今日の問題です。

第29回・問題65 生活保護の実施に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 保護の実施機関は,厚生労働省の地方厚生局である。

2 保護の実施機関は,被保護者に対して生活の維持のための指導をしてはならない。

3 保護の実施機関は,被保護者であった者について,保護を受けていた当時の雇主から報告を求めることができない。

4 扶養義務者がいる要保護者は,生活保護を受給することができない。

5 生業扶助には,高等学校就学費が含まれる。

難易度は,決して高くはない問題です。

このような問題を確実に正解していくことが大切です。

正解は,選択肢5です。今まで何度も見てきたものだと思います。

正しくは,高等学校等就学費ですが,細かいことにこだわっていては正解にたどりつくのは厳しいです。

なぜなら,高等学校就学費は,高等学校に通うための扶助を意味していて,扶助の具体的な名称を聞いているわけではないからです。

高等学校就学費は教育扶助でなく,生業扶助なのだ,ということが分かっていれば十分です。

国家試験では,細かい間違いを問うような問題は絶対に出題されないからです。

「等」が抜けているから間違い,といったことは絶対に絶対にありません。

<今日の一言>

自分に自信がないと,国試では心が弱くなります。

自信を持って国試に臨むことは,極めて難しいことかもしれません。

今,やっている勉強は,国試の時の不安を1つでも2つでも減らすためのものと言えます。

国試で心が弱くなると,今日の問題のようなものでさえ,疑心暗鬼になり,最初に選んだ答えを変えてしまい,間違ってしまいます。

何度も受験された方は,特にこの傾向が強いです。

これだけ勉強したのだから,私は大丈夫!!

こう思えるように,私たちチームfukufuku21と一緒に合格を目指していきましょう。

本当の敵は,自分自身です。

2018年10月6日土曜日

生活保護の実施の徹底理解~その1

今回からまた「低所得者に対する支援と生活保護制度」に戻ります。

まずは基本を押さえましょう。


<質問>

居住地がない,又は明らかではない要保護者は,誰が保護を実施するでしょうか?


<答え>

現在地の実施機関が保護を行います。

それでは,早速今日の問題です。

第22回・問題61 35歳独身のDさん(本籍地P市)は,Q市の会社で働いていたが,解雇されるまで住んでいたR市のアパート(住所地)を出ざるを得なくなった。新たな仕事は見つからずS市にある公園で野宿を続けていた。ある日公園で倒れていたところを警察官が発見し,通報により救急車で隣県T市の病院に搬送された。Dさんは,病院で肝硬変で当面入院が必要と診断されたが,医療費と生活費の捻出が困難なため生活保護の申請に至った。
 次のうち,Dさんに対して生活保護を実施する福祉事務所の所在地として,適切なものを一つ選びなさい。

1 P市(Dさんの本籍地)
2 Q市(会社の所在地)
3 R市(Dさんの住所地)
4 S市(野宿をしていた公園の所在地) 
5 T市(搬送された病院の所在地)


この手の問題は,たくさんの市が出てくるので,とても複雑に見えます。

しかし,基本を押さえれば,複雑に絡み合うものを掻き分けて答えにたどり着くことができます。

しかもこの問題は,各市のあとに,それは何かということを丁寧に書いてくれています。

居住地がない,又は明らかではない場合は,現在地の保護の実施機関が保護します。

この事例では,野宿していた公園が現在地となるので,答えはS市である選択肢3となります。


それではもう一問いきましょう。


第28回・問題66 事例を読んで,Gさんの保護を行う実施機関として,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
単身のGさんは,非正規雇用でP市の会社で働いていたが雇用期間が満了しそれまで住んでいたQ市のアパートを退去した。1か月後,野宿をしていたR市にある河川敷で体調をくずし倒れた。通報によりS市の医療機関に救急搬送され入院した。Gさんは,T市に住民登録をしているが,医療費と生活費の捻出が困難な状況にある。

1 P市の実施機関である。
2 Q市の実施機関である。
3 R市の実施機関である。
4 S市の実施機関である。
5 T市の実施機関である。

第22回の問題とそっくりです。

第22回と違うのは,選択肢に説明書きがないということになります。

その分慎重に,現在地を見つけなければなりません。

そうすると野宿していたR市が見つけられます。

正解は,選択肢3です。

糸口が見つかれば,ぜんぜん難しくはないですが,基本が分かっていなければ,決して解けない問題です。

社会福祉士の国試の特徴は,出題範囲は広いですが,決して深掘りしないことです。

そのために,第22回と第28回はそっくりな問題となっています。


<今日の一言>

社会福祉士の国試は,基本を押さえれば,絶対に何とかなります。

法制度に関する出題に応用力は必要としないのです。

それが法制度の特徴です。

法制度とは,適用範囲を明確にするものだからです。

だからこそ,法制度のすき間に入ってしまうクライエントが生じます。

法制度にあいまいさはないからです。それが法制度です。

2018年10月5日金曜日

残り3か月で合格する勉強法

第31回社会福祉士国家試験は,今日(10/5)が受験申し込みの締め切りです。

ここからがとても大事な時期です。

自分との闘いと言っても良いでしょう。

早い時期から勉強し始めた人は,実力を高めていく時です。

これから本格的に勉強をスタートさせる人は,ひたすら基礎力をつけていく時です。

受験生の気持ちになると,藁をもつかみたくなる時期だと言えます。

試験対策研修などの売り文句では

最新の出題傾向から出題ポイントを予測する

といった耳当たりのよい言葉が並んでいると思います。

しかしこの試験で絶対にやってはいけない勉強法があります。

ヤマを張る

ある程度勉強していて,最後の最後に確認するときは,ある程度絞り込んで良いと思います。

しかし,知識がない段階で絞り込んだら,必要な知識の量が圧倒的に少なくなってしまいます。

社会福祉士の国家試験は,国が示す出題基準に沿って出題されます。

合格するには,出題基準に示された範囲をまんべんなく押さえていくことが何よりも大切です。

なぜヤマを張った勉強が不適切かと言えば,市販されている参考書類は,過去の出題傾向から絞り込んでいるものだからです。

社会福祉士の国家試験は,出題範囲が広いのが特徴です。

出題される問題数も多いです。

ヤマを張って合格した

という人も中にはいることでしょう。

しかしそういう人は,そのほかの問題が解ける実力があったからこそ合格基準点を超えることができたと思います。

そういった人のことばを鵜呑みにすると合格できない7割に入ってしまう確率がかなり高まってしまいます。

合格するために必要な勉強は,

出題基準に示された範囲の内容をひたすら勉強する方法しかありません。

その時,重要なのは,ネガティブな言葉は言わないということです。

・勉強する時間がない
・覚えられない

といった言葉です。

勉強時間は誰もが潤沢にあるわけではありません。

しかし,少しでも勉強する時間があれば,それを良しとしましょう。

今日勉強する時間が取れなくても,明日できれば良しとしましょう。

覚えても覚えても忘れてしまっても,その中で一つでも覚えているものがあれば良しとしましょう。

昨日よりも一つでも多く知識が増えれば良しとしましょう。

2018年10月4日木曜日

福祉事務所の徹底理解~その4

今回は,福祉事務所の徹底理解のまとめです。

「低所得者に対する支援と生活保護制度」における福祉事務所に関する出題は,旧カリキュラム時代の問題も含めると第21回,第26回,第27回に出題されています。

もっとさかのぼれば,もっとたくさんありますが,同じような問題なので,この3回に絞りたいと思います。

出題されたのは

①所員の定数は,標準数が定められている。

②社会福祉主事でなければならないのは,査察指導員と現業員である。

③民生委員は協力機関である。

④社会福祉主事は補助機関である。

⑤福祉事務所を設置しなければならないのは,都道府県と市である。

⑥都道府県福祉事務所が取り扱うのは,生活保護法,児童福祉法,母子及び父子並びに寡婦福祉法である。

⑦市が設置する福祉事務所の長は市長の指揮監督を受ける。

⑧福祉事務所に置かれる社会福祉主事は,18歳以上でなければならない。

⑨査察指導員と現業員は,生活保護法以外の業務に従事することができる。

の9個だけです。

参考書は,過去問を分析して作成されるので,これらのことは必ず記載されていると思います。

たった9個ですが,覚えるのはあまりに無味乾燥ではないでしょうか。

というか,面白くないです。

おそらく,受験生が最も多く使っているだろうと思われる中央法規『受験ワークブック』は,特に面白くないです。

理由は「単純」。

参考書は基本的に,国試問題を正文にして,いくつかをくっつけてまとめたものだからです。

国試に合格するための必要最低限の知識はつくとは思いますが,とても勉強が辛いです。

そこでやっぱり必要なのは,過去問です。


これだとどうでしょう?

福祉事務所に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 福祉事務所の社会福祉主事は,都道府県知事又は市町村長の協力機関である。
2 福祉事務所の指導監督を行う所員(査察指導員)及び現業を行う所員(地区担当員)は,社会福祉法で定める社会福祉主事でなければならない。
3 市町村は,その区域を所管区域とする福祉事務所を設置しなければならない。
4 福祉事務所の長は,社会福祉士でなければならない。
5 福祉事務所の指導監督を行う所員(査察指導員)及び現業を行う所員(地区担当員)は,生活保護法以外の業務に従事してはならない。

一つひとつの文章がとてもいきいきして,迫ってくるように感じませんか?

これが国試問題です。

もうそろそろ参考書中心の勉強から,実践型の勉強に切り替える時です。


参考書で勉強するのは,とても大事です。

基礎力をつけなければなりません。


しかし,そこからもう一歩踏み出すことが大切です。

勉強の工夫が大切です。

2018年10月3日水曜日

福祉事務所の徹底理解~その3

福祉事務所を今回も続けます。

それでは,前説なしに今日の問題です。

第27回・問題69 福祉事務所に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 福祉事務所の社会福祉主事は,都道府県知事又は市町村長の協力機関である。

2 福祉事務所の指導監督を行う所員(査察指導員)及び現業を行う所員(地区担当員)は,社会福祉法で定める社会福祉主事でなければならない。

3 市町村は,その区域を所管区域とする福祉事務所を設置しなければならない。

4 福祉事務所の長は,社会福祉士でなければならない。

5 福祉事務所の指導監督を行う所員(査察指導員)及び現業を行う所員(地区担当員)は,生活保護法以外の業務に従事してはならない。



しっかり勉強した人なら,正解をすぐ選ぶことができるでしょう。

しかし,問題自体は,勉強が足りない人が簡単に解ける問題ではありません。

これが法制度に関する問題の怖さです。

誰も解けないような難しい問題が解けると気持ちが良いですが,合格基準点を超えるために重要なのは,誰もが解ける問題で確実に点数することです。

勉強した人は合格する。

勉強が足りない人は不合格になる。

極めて単純明快な論理です。

勉強した人の基準は,こういった問題が確実に解けることです。
難解な問題が解けることではありません。

それでは解説です。


1 福祉事務所の社会福祉主事は,都道府県知事又は市町村長の協力機関である。

社会福祉主事は,戦後GHQの指導により,作られたものです。

歴史を紐解けば・・・


救護法で,民生委員の前身である方面委員が市町村長の補助機関となりました。

旧生活保護法でも救護法に引き続き,民生委員が市町村長の補助機関となりました。

方面委員は,今の民生委員のように,地域のボランティアのような立場です。

補助機関とは,救護(保護)の執行を実際に行うことをいいます。

GHQは,これを問題視して,「有給の官吏」(ちゃんとした公務員)に補助をさせることを指示します。

その結果,生まれたのが社会福祉主事です。

社会福祉主事が補助機関となり,民生委員が協力機関となり,現在に至っています。

社会福祉主事は補助機関です。よって間違いです。



2 福祉事務所の指導監督を行う所員(査察指導員)及び現業を行う所員(地区担当員)は,社会福祉法で定める社会福祉主事でなければならない。

これが正解です。

査察指導員と現業員は社会福祉主事でなければなりません。

出題3回目でようやく正解選択肢となりました。


3 市町村は,その区域を所管区域とする福祉事務所を設置しなければならない。

福祉事務所を設置しなければならないのは,都道府県及び市です。町村は任意で設置することができます。

よって間違いです。

ケアすべきポイントは「市町村」です。旧カリ時代から幾度も同じように間違い選択肢として出題されてきたものです。



4 福祉事務所の長は,社会福祉士でなければならない。

これも間違いです。

現在のところでは,社会福祉士を置かなければならないのは,介護保険法に基づく地域包括支援センターのみです。

任用資格ついては,社会福祉士のみが任用資格になっているものは存在しません。

つまり,

「社会福祉士でなければならない」という出題があったら,すべて間違いだということになります。すぐさま消去してください。

今後は社会福祉士のみが任用資格になるものが登場するかもしれません。しかし福祉事務所は社会福祉主事の聖域なので,社会福祉主事は絶対に残されることでしょう。


5 福祉事務所の指導監督を行う所員(査察指導員)及び現業を行う所員(地区担当員)は,生活保護法以外の業務に従事してはならない。

これも間違いです。

社会福祉法では,「その職務の遂行に支障がない場合に、これらの所員が、他の社会福祉又は保健医療に関する事務を行うことを妨げない」と規定しています。


<今日の一言>

3回にわたって,福祉事務所を取り上げました。

正解選択肢は,

第21回は,福祉事務所を設置しなければならないはどこ?

第26回は,市の設置する福祉事務所の長は,誰の指揮監督を受ける?

第27回は,福祉事務所の職員のうち,社会福祉主事でなければならないのは誰?


といったものになります。

決して奇をてらったものではありません。

正解選択肢は,正解選択肢としての意義があります。


つまり・・・

正しく覚えてほしいものを正解選択肢とします。

国試問題を解いてみて,正解選択肢はどれであるかは分かるけれど,他の選択肢はどこがどう違っているので間違い選択肢であるのかが分からないものも実はあります。

過去問題集が発行された後に,「こういうことだったのか」と分かることも多々あります。

しかし,多くの場合・・・

参考書や教科書を調べれば分かるものが正解選択肢となり,ネットで調べてようやく分かるといったものは,正解選択肢にはなりにくいものです。

もし,あまり知られていないものが正解選択肢として選ばれるとするならば,他の選択肢は確実に消去できるものでなければなりません。

いずれにしても,正解選択肢として選ばれるためには,それだけの意味のあることなのだということを覚えておきましょう。

そこには試験委員のメッセージが隠されているのです。

他の国試は分かりませんが,社会福祉士の国試では,正解選択肢に明らかなメッセージ性があります

これからの時期は,過去問で仕上げていくときだと思いますが,正解選択肢と間違い選択肢の違いに着目すると良いと思います。

慣れてくると,正解選択肢はキラキラと浮き上がって見えてくるはずです。

そうなれば,国試での得点力はかなり増すことでしょう。

私たちチームfukufuku21は,正解選択肢がキラキラして見えてくるように,メッセージを送り続けたいと思います。

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