そのため,試験委員は少々細かい出題だということを承知していても,実生活の中である程度理解していることを前提にして,作問しているようにも感じます。
さて,日本の医療保険制度の特徴は,職域保険と地域保険に分かれていること,現役世代と高齢者は別の制度になっていること,そしてそれをつなぐための制度があることです。
職域保険と地域保険に分かれているのは,歴史的発展によるものです。これは「社会保障」で詳しく学びます。
後期高齢者医療制度は,2008年の「高齢者の医療の確保に関する法律」によって,国民健康保険から高齢者を独立させたものです。
国民の多くは被用者です。そのため,職域によって分かれている健康保険の加入者は多いです。
仕事をやめると国民健康保険に加入します。定年を迎えた人は国民健康保険に加入することになります。ただし,家族に健康保険加入者がいた場合は,被扶養者になるという道もあります。
国民健康保険は,2018年4月から都道府県が市町村とともに保険者になったとは言え,体力の小さい自治体にとってはかなり負担になります。
そこで「前期高齢者医療制度」があります。
あまり聞き慣れない言葉だと思います。これは制度として独立しているものではなく,65~74歳までの前期高齢者の医療費を現役世代の医療保険が負担しているものです。
そして,75歳になると国民健康保険や健康保険の被扶養者から離れて,後期高齢者医療制度に加入します。
国民健康保険も後期高齢者医療制度も,保険料の納付義務者は世帯主です。
医療保険の自己負担割合を確認すると・・・
75歳以上は1割負担。
70~74歳は2割負担。
70歳未満は3割負担。
義務教育就学前は2割負担。
70歳以上の現役並み所得者は3割負担
となります。
自己負担割合からみると
1割負担は75歳以上。
2割負担は義務教育就学前。
3割負担は70歳未満と70歳以上の現役並み所得者
となります。
年齢と所得によって違いがあるので覚えるのが面倒ですが,しっかり覚えておきましょう。
さて,それでは今日の問題です。
年齢に気を付けて問題を読むことが大切な問題です。
第25回・問題70 事例を読んで,医療保険に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Cさんは40年以上勤めあげた会社を63歳で退職し,年金生活を送ることになった。Cさんは民間の大手企業に勤める息子と同居している。退職すると,自分が属していた健康保険組合の被保険者証を返還しなければならず,その翌日から所属していた会社の被保険者資格がなくなる。Cさんは新たな医療保険に加入するため,その方法について決める必要があった。
1 Cさんは,引き続きその会社の任意継続被保険者として加入できるが,被保険者の適用期間は最長1年間である。
2 Cさんが国民健康保険の適用対象者となれば,世帯ごとに都道府県が算定した額に基づいて保険料が請求される。
3 Cさんが国民健康保険の適用になれば,その自己負担の割合は3割である。
4 Cさんは前期高齢者医療制度の適用対象者となる。
5 Cさんは自分の保険料を支払って,同居する息子が加入する健康保険の被扶養者(家族)となることができる。
Cさんは,63歳です。
それでは解説です。
1 Cさんは,引き続きその会社の任意継続被保険者として加入できるが,被保険者の適用期間は最長1年間である。
これは間違いです。
任意継続できる期間は,最長2年間です。
この間の保険料は当然ですが,事業主負担はありませんので,全額が本人負担となります。
2 Cさんが国民健康保険の適用対象者となれば,世帯ごとに都道府県が算定した額に基づいて保険料が請求される。
国民健康保険は,2018年4月から都道府県も保険者となり,運営主体となりました。
制度改正があってすぐのものは出題されにくい傾向がありますが,保険者の変更は社会保険制度の根幹にかかわる部分です。これは出題される可能性が高いと言えます。
さて,問題に戻ります。これは間違いです。
保険料率は,都道府県が市町村ごとの標準保険料率を算定し,市町村はそれを参考にして保険料率を決定します。
都道府県が保険者になった理由は,市町村による負担差を減少させるためです。
3 Cさんが国民健康保険の適用になれば,その自己負担の割合は3割である。
これが正解です。Cさんは63歳なので,自己負担割合は3割です。
Cさんが70歳になると2割負担,75歳になると1割負担となります。
いずれも,現役並み所得があった場合は,3割負担のままです。
4 Cさんは前期高齢者医療制度の適用対象者となる。
これは間違いです。
前期高齢者医療制度は,65~74歳の前期高齢者の医療費の一定割合について,現役世帯の保険者が負担するものです。
5 Cさんは自分の保険料を支払って,同居する息子が加入する健康保険の被扶養者(家族)となることができる。
これも間違いです。
息子の加入する健康保険の被扶養者は,保険料負担がありません。