今回のテーマは「ニーズのとらえ方と充足方法」です。
このように書くとソーシャルワークの話かと思う人もいると思いますが,福祉政策のニーズを考えてみたいと思います。
結局は一緒です。
ポイントは,以下の通りです。
・バイオ(身体的)
・サイコ(心理的)
・ソーシャル(社会的)
これに加えて
・スピリチュアル(霊的)
スピリチュアルは,霊的だとオカルトチックになるので,「実存的」と訳されることもあります。実存的とは,生き方といった意味です。
この4つをマズローに重ね合わせると,以下のようになります。
マズロー |
ニーズ |
自己実現欲求 |
スピリチュアル |
自尊・承認欲求 |
サイコ&ソーシャル |
所属・愛の欲求 |
サイコ&ソーシャル |
安全・安定欲求 |
サイコ&ソーシャル |
生理的欲求 |
バイオ |
古典的な福祉ニーズは,貧困です。
貧困は,肉体の危機です。
日本国憲法第25条に規定される生存権保障は,バイオに関するニーズの充足に当たります。
社会保障制度審議会の1995年勧告の副題は「~安心して暮らせる21世紀の社会をめざして~」となっています。「バイオ」(生存権保障)から「サイコ&ソーシャル」への視点の変化が見て取れます。「スピリチュアル」も含まれることでしょう。
ソーシャルワークのアセスメントと同じように福祉政策でもニーズ判定が大切です。
何をもって福祉ニーズとするのかを明確にする必要があるからです。
そうすることで,限りある財を適切に使うことができます。
福祉政策と考えると難しく感じるかもしれませんが,ソーシャルワークのプロセスであるアセスメントしてプランニングして,インターベンションといった一連の流れと何ら変わるものではありません。
それでは,今日の問題です。
第22回・問題26 福祉政策における需要とニーズ(必要)の概念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 ニーズ(必要)に応じた分配とは,人々の出身,能力,貢献などとは無関係に,各人が必要とする資源を分配することを意味する。
2 福祉サービスの需要のうち,その存在が気付かれていないものを無効需要ないし潜在需要といい,気付かれているものを有効需要という。
3 必要即応の原則とは,福祉サービスは,年齢や性別など個人や世帯の相違を考慮して有効かつ適切に提供すべきことを意味し,社会福祉法で定められている。
4 福祉サービスに対する行政需要とは,国民の政府に対する要求や要望のうち,市場を通じて供給することが特に可能な消費者の需要のことである。
5 ブラッドショー(Bradsbaw,J.)のいう「エクスプレスト・ニード」とは,専門家が自らの経験に基づいて感じとったニーズ(必要)のことを意味する。
漢字が多くて,読むのが面倒に感じてしまいそうな問題ですが,頑張って読むことが大切です。
脳のスタミナがない人は,脳のスタミナをつけるようにすることが求められます。
それでは,解説します。
1 ニーズ(必要)に応じた分配とは,人々の出身,能力,貢献などとは無関係に,各人が必要とする資源を分配することを意味する。
これが正解です。
財の配分には,「ニーズ(必要)原則」と「貢献原則」があります。
ニーズ原則は,ニーズがある人に対してニーズを充足するように財を配分するものです。
貢献原則は,多く支払った人には,より多く財を配分するものです。
日本で言えば,ニーズ原則によって制度が設計されている例としては,生活保護制度があります。
貢献原則によって制度が設計されている例としては,厚生年金制度があります。
2 福祉サービスの需要のうち,その存在が気付かれていないものを無効需要ないし潜在需要といい,気付かれているものを有効需要という。
これは,覚えなくてよいものでしょう。
一応説明すると,潜在需要は,ニーズがあってもそれを認識していないものです。
ブラッドショウでは,感得されたニーズ以前のニーズだということができるでしょう。
有効需要は,ニーズがあることの認識があり,さらにそのニーズを充足するための方法があることをいいます。
3 必要即応の原則とは,福祉サービスは,年齢や性別など個人や世帯の相違を考慮して有効かつ適切に提供すべきことを意味し,社会福祉法で定められている。
必要即応の原則は,生活保護制度で定められている保護の原則の1つです。
4 福祉サービスに対する行政需要とは,国民の政府に対する要求や要望のうち,市場を通じて供給することが特に可能な消費者の需要のことである。
行政需要は,国民の政府に対する要求や要望です。市場を通して供給できるものもあるかもしれませんが,市場を通すことが困難なものもあるでしょう。
行政はむしろ,そういったものを供給するのに向いています。
5 ブラッドショー(Bradsbaw,J.)のいう「エクスプレスト・ニード」とは,専門家が自らの経験に基づいて感じとったニーズ(必要)のことを意味する。
ブラッドショウのニード論は,
・感得されたニード
・表出されたニード
・規範的ニード
・比較ニード
の4種類があります。
エクスプレスト・ニードは,このうちの「表出されたニード」のことです。
表出されたニードとは,本人がニードがあることに気づいてニーズ充足のために行動を起こすことをいいます。
感得されたニードと表出されたニードは,本人の視点です。
規範的ニードと比較ニードは,第三者による視点です。ここに専門職としての役割があります。
介護保険制度を例にすれば,要介護認定の申請を行うことが「表出されたニード」,要介護度の基準を定めるのが,規範的ニードや比較ニードにあたります。
その基準によって,要介護認定を行うことがニーズ判定です。
介護保険もニーズ原則で設計された制度です。
このように,福祉政策は決して遠い世界の話ではなく,実は身近な話です。