社会福祉法は,社会福祉の基本法とも言えるものなので,国家試験までには必ず目を通しておきたい法律の一つです。
社会福祉法では,「福祉サービスの質の向上のための措置等」として,以下のように規定しています。
福祉サービスの質の向上のための措置等
第七十八条 社会福祉事業の経営者は、自らその提供する福祉サービスの質の評価を行うことその他の措置を講ずることにより、常に福祉サービスを受ける者の立場に立つて良質かつ適切な福祉サービスを提供するよう努めなければならない。 2 国は、社会福祉事業の経営者が行う福祉サービスの質の向上のための措置を援助するために、福祉サービスの質の公正かつ適切な評価の実施に資するための措置を講ずるよう努めなければならない。 |
特に重要なのが,社会福祉事業の経営者に対する責務です。
自らその提供する福祉サービスの質の評価を行うことその他の措置を講ずること
この規定によって,第三者評価が行われています。
その他の措置という規定がついているのもポイントです。
それでは,今日の問題です。
第22回・問題31 福祉制度の利用に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 T.H.マーシャル(Marshall,T.H.)はシティズンシップの三要素のうち,「社会の標準的な水準に照らして文明市民としての生活を送る権利」を含む諸権利を市民的権利と呼んだ。
2 真に福祉サービスを必要としている人々を選別する仕組みを導入することによって,福祉制度の利用に伴うスティグマ付与の要因を排除することができる。
3 医療や福祉サービスのような専門的サービスで生じやすい情報の非対称性を是正するためには,利用者に関する個人情報をサービス提供者に開示し,エンパワメントする必要がある。
4 日本では1990年の社会福祉事業法等の改正により行われた社会福祉基礎構造改革に基づき,福祉サービスの利用関係が契約による利用制度から行政が関与する支援費制度に変更された。
5 社会福祉法では社会福祉事業の経営者に対して,自らその提供する福祉サービスの質を評価することなどによって,良質で適切な福祉サービスを提供するよう努めるべきことを定めている。
この問題は,ちょっとくせ者です。
最初に難しい選択肢が来ているので,受験者は混乱します。
試験委員はそういった効果をねらったわけではないと思いますが,結果的には,受験者は慌てふためいて,自滅していきます。
こんな問題の時こそ,より落ち着いて問題を読むことが必要です。
それでは解説です。
1 T.H.マーシャル(Marshall,T.H.)はシティズンシップの三要素のうち,「社会の標準的な水準に照らして文明市民としての生活を送る権利」を含む諸権利を市民的権利と呼んだ。
日本では,あまり意識されないと思いますが,世界の歴史をみた場合,市民は革命を起こし,自由権を獲得しました。
フランス革命が有名です。
フランス革命の時に使われた革命軍の印がトリコロールと呼ばれる三色で,「自由,平等,博愛」を意味しています。
このうちの「自由」と「平等」が市民的権利です。
それでは「社会の標準的な水準に照らして文明市民としての生活を送る権利」とは何でしょうか?
これは,フランス革命の時にはまだなかった概念です。
生存権に代表されるような「社会的権利」が,「社会の標準的な水準に照らして文明市民としての生活を送る権利」です。
こういったものには,正解が配置されることはまずないと考えられますが,もし全く判断ができない場合は,△をつけて,さっさと次の選択肢に読み進めるのが賢明です。
そうしないと深い深い迷いの道に入り込み,出てくることが困難になります。
2 真に福祉サービスを必要としている人々を選別する仕組みを導入することによって,福祉制度の利用に伴うスティグマ付与の要因を排除することができる。
スティグマを感じやすいのは,選別主義の場合です。
スティグマを感じにくいのは,普遍主義の場合です。
これでは,選別主義が悪者のように感じるかもしれませんが,選別主義にもメリットがあります。
選別主義を取ることによって,必要としている人に分厚く財を配分することができます。
普遍主義では,より多くの人に財を配分することができるかもしれませんが,その分,一人に配分する量は少なくなります。
3 医療や福祉サービスのような専門的サービスで生じやすい情報の非対称性を是正するためには,利用者に関する個人情報をサービス提供者に開示し,エンパワメントする必要がある。
慌てるとこんなものでさえ,正しく見えてくるのが国家試験の怖いところです。
情報の非対称性とは,情報の持っている量がサービスの提供者側とサービスの受け手側では異なることをいいます。
多いのは,提供者側
少ないのは,受け手側
開示するのは,提供者側の情報です。
4 日本では1990年の社会福祉事業法等の改正により行われた社会福祉基礎構造改革に基づき,福祉サービスの利用関係が契約による利用制度から行政が関与する支援費制度に変更された。
支援費制度は,今となっては知っている人が少なくなってきたのではないかと思います。
社会福祉基礎構造改革に基づいて行われたのは,「措置」から「契約」へ,という制度です。
介護保険が2000年に導入された際に,契約制度になりました。
障害福祉サービスは,その時点では,まだ措置制度が残っていました。
2003年から2005年までは,措置費ではなく,支援費を支給する支援費制度を導入して,契約制度に移行していきました。
支援費は,2003~2005年までの3年間だけ実施された制度でした。
今と同じ契約制度になったのは,2006年の障害者自立支援法の時です。
5 社会福祉法では社会福祉事業の経営者に対して,自らその提供する福祉サービスの質を評価することなどによって,良質で適切な福祉サービスを提供するよう努めるべきことを定めている。
これが正解です。
社会福祉法第78条に規定されています。