福祉国家とは,マーシャル(Marshall,T.H.)によれば
福祉国家=資本主義+民主主義+福祉
つまり,
福祉国家とは,
資本主義を採用している民主主義国家が福祉を行っている国家のことである
ということです。
しかし,一口に福祉国家と言っても,それぞれの福祉政策には違いがあります。
それを一定の指標をもとに類型化したのが,エスピン-アンデルセン(Esping-Andersen,G.)です。
エスピン-アンデルセンが用いた指標
脱商品化 |
個人又は家族が(労働)市場参加の有無にかかわらず,一定水準の生活を維持することができること。 |
社会階層化 |
職種や社会的階層に応じて給付やサービスに差があること。 |
脱家族化 |
家族による福祉負担を軽減すること。 |
福祉レジームによる類型化
自由主義レジーム |
市場の役割が大きい国々 |
イギリス,アメリカなど |
保守主義レジーム |
家族や職域の役割が大きい国々 |
ドイツ,フランスなど |
社会民主主義レジーム |
国家の役割が大きい国々 |
スウェーデン,デンマークなど |
日本は? と思う人もいるでしょう。
ヨーロッパの人であるエスピン-アンデルセンは,日本型のようなタイプは頭になかったのでしょう。
日本はどこにも類型化されていません。
今後,改訂されることがあったとしたら,韓国などとともに新しい福祉レジームを構成されるかもしれません。
日本は,上記に類型化されませんが,社会支出などの国際比較では,自由主義レジームのイギリスとアメリカの間にあると覚えておくと,わかりやすいです。
保守主義レジームの代表は,ドイツとフランスですが,社会支出の面では,フランスは突出していて,社会民主主義レジームのスウェーデンよりも高くなっています。
フランスは,「自由」「平等」「博愛」の国であること,特に「博愛」の精神が福祉政策に影響を与えているのでしょう。
なお,国家試験で,国際比較ではデンマークは出題されません。
社会支出を比較すると以下のようになります。
高い (社会支出) 低い |
フランス |
スウェーデン |
|
イギリス |
|
日本 |
|
アメリカ |
日本の社会保障費は多いというイメージがありますが,国際的にみると実は決して多い方ではありません。
1970・80年代まではそれほど多くなく,そのあとの伸びが大きくなったために,社会保障費が多いとイメージになります。
国際的には,決して多いグループではないことは押さえておきたいです。
それでは今日の問題です。
第22回・問題28 福祉資本主義の国際比較に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 1970年~1980年代末までの日本の福祉は,国際比較の視点から見ると,失業率が低くて社会保障支出の割合が高いという特徴が見られ,ワークフェアよりもウェルフェアをより重視したシステムであった。
2 エスピン-アンデルセン(Esping-Andersen,G.)の主要な関心は,社会保障給付費の対GDPに占める割合を決めるものは何かを明らかにすることであった。
3 1970年~1980年代末までのアメリカでは,国際比較の視点から見ると,失業率が高くて社会保障支出の割合も高いという特徴が見られた。
4 エスピン-アンデルセン(Esping-Andersen,G.)によれば,自由主義レジームの特徴は,社会保障制度に占める選別主義的制度の割合が高く,福祉の受給には強いスティグマ感を伴うことである。
5 エスピン-アンデルセン(Esping-Andersen,G.)の分類によれば,日本は労働力の脱商品化の程度が高く保守的階層化の程度が低いので,社会民主主義レジームに分類される。
苦手意識のある人にとっては,読むのもいやになってしまうような問題化もしれません。
正解は,選択肢4です。
4 エスピン-アンデルセン(Esping-Andersen,G.)によれば,自由主義レジームの特徴は,社会保障制度に占める選別主義的制度の割合が高く,福祉の受給には強いスティグマ感を伴うことである。
アメリカに代表される自由主義レジームは,市場の役割が大きいことが特徴です。
まずは「自助」です。それでどうにもならない人は,国や地方政府がサービスを提供します。
社会民主主義は,普遍主義的にサービスを供給します。選別主義と異なり,スティグマを感じることなくサービスを受けることができますが,多くの財源を必要とします。そのために社会民主主義の国々の社会支出は大きくなります。
それでは,ほかの選択肢も見てみましょう。
1 1970年~1980年代末までの日本の福祉は,国際比較の視点から見ると,失業率が低くて社会保障支出の割合が高いという特徴が見られ,ワークフェアよりもウェルフェアをより重視したシステムであった。
日本の特徴は,失業率が低かったことです。1970年代は,限りなく0%に近い状態でした。
社会支出の割合は,先述のように少なく,現在でも主要各国の中では低い部類です。
ウェルフェア(福祉)を重視したものだとは言えません。
ワークフェアの考え方が国際的に生まれてきたのは,1990年代以降です。
2 エスピン-アンデルセン(Esping-Andersen,G.)の主要な関心は,社会保障給付費の対GDPに占める割合を決めるものは何かを明らかにすることであった。
エスピン-アンデルセンの主要な関心がどこにあるのかは,本人のみが知ることです。しかし社会保障給付費の対GDPに占める割合を決めるもの,つまり指標を明らかにすることだけではなく,それを用いて類型化したことを考えると指標を明らかにすることが彼の関心ごとではなかったように思います。
3 1970年~1980年代末までのアメリカでは,国際比較の視点から見ると,失業率が高くて社会保障支出の割合も高いという特徴が見られた。
アメリカは,自由主義レジームの代表です。
今もかつても社会支出は高くありません。
5 エスピン-アンデルセン(Esping-Andersen,G.)の分類によれば,日本は労働力の脱商品化の程度が高く保守的階層化の程度が低いので,社会民主主義レジームに分類される。
日本は,どこにも分類されません。