今回は,社会的排除と社会的包摂を学びます。
社会的排除は,何かの理由があって社会から締め出されていることに着目した概念です。
1970年代から80年代にかけて,ヨーロッパで起きた失業から生じた貧困問題によって生じた問題です。
貧困は古典的福祉ニーズではなかったの?
それなのに,なぜ現代になって社会的排除という概念が生まれてきたの?
と思う人もいるでしょう。
社会的排除という概念が重要なのは,単に貧困という状態に目を向けて,どのように救済するか,ということではなく,社会的排除に至る過程に着目しているからです。
社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)は,社会的排除とは逆の概念で,誰もが社会から排除されない社会の実現を目指すものです。
それでは,今日の問題です。
第22回・問題27 社会的排除及び社会的包摂政策に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 給付つき税額控除制度とは,控除額が所得税額を下回る場合に,その差額を現金で給付するものである。
2 社会的排除は多次元的な要因によって引き起こされる「状態」であるとともに,そこに至る「過程」に注目した概念であり,また,「社会との関係」の側面を重視する。
3 ILOが提唱したディーセントワークは労働の中身を問わないものであるが,ワークフェアは労働の中身の改善を第1の目標とする。
4 社会的包摂,もともと発展途上国の貧困を背景にして生まれてきた「社会開発」概念である。
5 ハードなタイプのワークフェアとは,教育訓練を通してエンプロイヤビリティ(雇用されうる能力)を高めて労働市場への参加を強力に推進するものである。
ものすごく難易度が高い問題だと思います。この問題が出題された時点で,正解できた人はそんなに多くはいなかったのではないかと思います。
今ならどれも参考書に書いてあると思いますので,この問題を初めて見てもそれほどの衝撃はないのではないかと思います。
しかし,国家試験では一定数の問題が予測もしなかったもので構成されていることもあり,「あれだけ勉強したのにわからない」という無力感に陥ることさえあります。
こんな問題は考えても答えは出てこないので,どうしてもわからなければ,適当に3か4あたりをマークして,次の問題に力を入れるようにするのがよいと思います。
それでは,解説です。
1 給付つき税額控除制度とは,控除額が所得税額を下回る場合に,その差額を現金で給付するものである。
最初の選択肢から難しすぎです。
一応解説すると,給付つき税額控除制度は,例えば,控除額が30万円の制度の場合,控除対象になるものがなかった時に30万円を給付する制度です。
一般的な税額控除制度は,お金を多く使った者に有利な制度です。つまりお金がある人が得します。
それに対して,給付付き税額控除制度は,お金を使わない人に有利な制度です。お金を使わない,ではなくお金を使えない人に有利になります。
2 社会的排除は多次元的な要因によって引き起こされる「状態」であるとともに,そこに至る「過程」に注目した概念であり,また,「社会との関係」の側面を重視する。
これが正解です。
そこに至る過程に着目しているというところがポイントです。
3 ILOが提唱したディーセントワークは労働の中身を問わないものであるが,ワークフェアは労働の中身の改善を第1の目標とする。
ディーセントワークとワークフェアが逆になっています。
ディーセントワークは,直訳すると「きちんとした・仕事」という意味で,「人間らしい仕事」と定義されます。
仕事をして賃金を得ればよい,というものではなく,仕事内容の改善を目指したものです。
ワークフェアは,「ワーク」と「ウェルフェア」をくっつけたもので,単に金銭給付するものではなく,就労に結びつくような福祉政策をいいます。
4 社会的包摂,もともと発展途上国の貧困を背景にして生まれてきた「社会開発」概念である。
社会的包摂の概念は,ヨーロッパで生まれたものです。
5 ハードなタイプのワークフェアとは,教育訓練を通してエンプロイヤビリティ(雇用されうる能力)を高めて労働市場への参加を強力に推進するものである。
今ならわかる人もいると思いますが,受験者の中で,ハードなタイプのワークフェアという言葉を知っていた人はほとんどいなかったのではないかと思います。
「ハードなタイプのワークフェア」は,労働することを義務づけたうえで必要なに応じた給付を行うものです。「ハード」という意味がわかるようですね。
教育訓練を通してエンプロイヤビリティ(雇用されうる能力)を高めて労働市場への参加を強力に推進するものは,「ソフトなタイプのワークフェア」と呼ばれる福祉政策です。
わが国では,若者に対するもの,母子家庭に対するもの,求職者に対するものなど,このタイプの政策が数多く実施されています。