2018年7月31日火曜日

「障害者に対する支援」の都道府県と市町村の役割の整理法~その2


都道府県と市町村の役割について,今回も続けていきたいと思います。

介護保険法に基づく介護保険サービスと障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスは共通点が多いですが,異なる点もあります。

大きく異なるのは・・・

①介護保険サービスには,地域密着型サービスがある

地域密着型サービスは,市町村が独自に整備するものです。

そのため,地域密着型サービス提供事業者を管轄するのは市町村です。

障害福祉サービスには,地域密着型サービスのようなものはありません。


②障害福祉サービスには,相談支援事業者が2種類ある

 指定一般相談支援事業者
  基本相談支援と地域相談支援を行う。
  指定は,都道府県が行う

 指定特定相談支援事業者
  基本相談支援と計画相談支援を行う。
  指定は,市町村が行う。

ちょっと複雑に感じるかもしれませんが,一般相談支援は,もともと精神障害者地域移行事業として始まったので,市町村ではないのです。

精神障害者の地域移行は,高度な判断が求められます。何か問題があると社会からの非難を浴びることになるからです。

それに対して,指定特定相談支援事業者が行う計画相談支援は,障害福祉サービスのケアマネジメントなので,介護保険サービスの居宅介護支援事業者と同じく市町村が管轄します。

それでは,今日の問題です。

27回・問題58 「障害者総合支援法」の実施にかかわる関係機関の役割に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 市町村は,障害福祉サービス事業者の指定を行う。

2 都道府県は,障害支援区分の認定を行う。

3 都道府県は,補装具費の支給を行う。

4 国民健康保険団体連合会は,市町村から委託を受けて介護給付費等の支払業務を行う。

5 公共職業安定所(ハローワーク)は,就労移行支援事業者の指定を行う。


前説では,詳しく説明していないので,難しく感じるかもしれません。

それでは解説です。

1 市町村は,障害福祉サービス事業者の指定を行う。

市町村が,事業者の指定を行うのは

指定特定相談支援事業者のみ

介護保険サービスには,地域密着型サービスがあって,指定は市町村が行います。

しかし障害福祉サービスにはそれがないので,極めてシンプルなのです。

障害福祉サービス事業者の指定は,都道府県の役割です。

地域密着型サービス事業者の指定と居宅支援事業者の指定は,市町村ですが,それを除く介護保険サービス事業者の指定は,都道府県の役割です。


2 都道府県は,障害支援区分の認定を行う。

障害支援区分認定と要介護認定は,高度な判断が求められますが,市町村の役割です。

これは,例外事項です。


3 都道府県は,補装具費の支給を行う。

障害福祉サービスの支給認定と支給は市町村の役割です。



4 国民健康保険団体連合会は,市町村から委託を受けて介護給付費等の支払業務を行う。

これが正解です。介護保険と共通部分です。



5 公共職業安定所(ハローワーク)は,就労移行支援事業者の指定を行う。


就労移行支援も含めて,障害福祉サービス事業者の指定を行うのは,都道府県です。

2018年7月30日月曜日

「障害者に対する支援」の都道府県と市町村の役割の整理法

社会福祉士の国家試験は,「出題基準」と呼ばれる出題の範囲を示すものがあります。
参考書類は,出題基準に沿ってまとめられています。

法制度に関連した科目の多くには,国の役割,都道府県の役割,市町村の役割が含まれています。

分野が違っても共通部分があります。それらを整理しておけば,かなり応用できます。

国は,基本指針を定めます。

都道府県は,専門的な判断が求められる業務を行います。専門職の研修なども都道府県の役割です。サービス事業者の指定も基本的には都道府県です。

「基本的には」というのは,介護保険法の地域密着型サービス事業者,居宅介護支援事業所,障害者総合支援法の特定相談支援事業所の指定は都道府県だからです。

市町村は,住民に最も身近な自治体として,各種の窓口があります。比較的高度な判断が求められない業務を行います。高度な判断が求められるにもかかわらず市町村の業務なのは,介護保険法の要介護認定と,障害者総合支援法の障害支援区分認定です。これらは例外事項です。

障害者総合支援法に規定される自立支援医療は,児童福祉法の育成医療,身体障害者福祉法の更生医療,精神保健福祉法の精神通院医療があります。

このうち,育成医療と更生医療の支給決定は市町村,精神通院医療の支給決定は都道府県です。

ここだけがちょっと混乱しそうですが,精神通院医療は,ライシャワー事件によってできたものなので,都道府県が責任をもってやりなさい,ということなのでしょう。

それでは今日の問題です。

22回の問題なので,法律名が自立支援法,障害支援区分が障害支援区分になっていますが,それぞれ読み替えていただけましたら幸いです。

22回・問題131 障害者自立支援法における国及び地方公共団体の役割に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 国の役割として,厚生労働大臣は,障害福祉サービス,相談支援及び地域生活支援事業の提供体制を整備し,自立支援給付及び地域生活支援事業の円滑な実施を確保するための基本指針を定め,公表しなければならない。

2 市町村は,育成医療,更生医療,精神通院医療という3つの自立支援医療の支給認定の役割を担っている。

3 市町村は,身体障害者に関する相談及び指導のうち,専門的な知識及び技術を必要とする相談支援のために身体障害者更生相談所を設置しなければならない。

4 都道府県は,指定障害福祉サービス事業者が事業の設備及び運営に関する基準に従って適切な運営をしていないときは,その旨を厚生労働大臣に通知しなければならない。

5 都道府県は,市町村の相談支援をバックアップする観点から,指定相談支援事業者に障害程度区分の認定及び支給要否決定のための心身の状況,置かれている環境等を調査することを委託する役割を担う。

障害者に関する法には,障害者基本法と障害者総合支援法があります。

障害者基本法は,障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進することを目的としてもので,所管は内閣府です。

障害者総合支援法は,障害福祉サービスの給付と地域生活支援事業の実施を目的としたもので,所管は厚生労働省です。

それでは解説です。


1 国の役割として,厚生労働大臣は,障害福祉サービス,相談支援及び地域生活支援事業の提供体制を整備し,自立支援給付及び地域生活支援事業の円滑な実施を確保するための基本指針を定め,公表しなければならない。


これが正解です。

障害者総合支援法に基づく基本方針の策定 → 厚生労働大臣

障害者基本法に基づく基本計画の策定 → 内閣総理大臣

2 市町村は,育成医療,更生医療,精神通院医療という3つの自立支援医療の支給認定の役割を担っている。


市町村 → 育成医療,更生医療

都道府県 → 精神通院医療

3 市町村は,身体障害者に関する相談及び指導のうち,専門的な知識及び技術を必要とする相談支援のために身体障害者更生相談所を設置しなければならない。


身体障害者更生相談所・知的障害者更生相談所 → 都道府県


4 都道府県は,指定障害福祉サービス事業者が事業の設備及び運営に関する基準に従って適切な運営をしていないときは,その旨を厚生労働大臣に通知しなければならない。


市町村は,指定障害福祉サービス事業者が事業の設備及び運営に関する基準に従って適切な運営をしていないときは,その旨を都道府県に通知しなければなりません。


5 都道府県は,市町村の相談支援をバックアップする観点から,指定相談支援事業者に障害程度区分の認定及び支給要否決定のための心身の状況,置かれている環境等を調査することを委託する役割を担う。


障害支援区分認定は,市町村の業務です。都道府県がかかわるのは,不服申立てです。

2018年7月29日日曜日

障害者福祉の発展過程(その5)~知的障害者福祉の発展過程の整理

日本の知的障害者福祉は,1947(昭和22)年の児童福祉法によって精神薄弱児施設が規定されたことに始まります。

精神薄弱児施設は児童福祉法の施設ですから,18歳になったら退所しなければなりません。

しかし成人になったからといって,地域で生活できる体制はありません。また家庭に戻ることも厳しいでしょう。

そのため,18歳を超えても精神薄弱児施設に引き続き入所する人もいました。

親がいなくなっても生活できる施設の創設を求めて,全日本精神薄弱者育成会(現在の全日本手をつなぐ育成会)が,活動を始めます。

それも契機となって,1960(昭和35)年に精神薄弱者福祉法(現在の知的障害者福祉法)ができます。

同法によって,精神薄弱者援護施設が規定されました。

つまりこの法は,もともと児童福祉法に規定される精神薄弱児施設に入所していた18歳以上の知的障害者の生活の場づくりであったと言えるでしょう。

身体障害者福祉法では,生活施設は身体障害者療護施設の創設(1972)までなかったのとは対照的です。

その後,大規模コロニーが全国につくられていきました。

1987(昭和62)年に,身体障害者雇用促進法が改正されて,知的障害者も対象となり,法律名も「障害者雇用促進法」となりました。

1999(平成11)年に,精神薄弱者福祉法が「知的障害者福祉法」に改正されます。

それでは,今日の問題です。

第30回・問題57 障害者福祉制度の発展過程に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 児童福祉施設入所中に18歳以上となる肢体不自由者が増加する問題に対応するため,身体障害者福祉法が制定された。

2 学生や主婦で任意加入期間中に国民年金制度に加入していなかったために無年金になった障害者を対象に,障害基礎年金制度が創設された。

3 支援費制度の実施により,身体障害者,知的障害者,障害児のサービスについて,利用契約制度が導入された。

4 障害者の権利に関する条約を批准するため,同条約の医学モデルの考え方を踏まえて,障害者基本法等の障害者の定義が見直された。

5 「障害者総合支援法」の施行により,同法による障害者の範囲に発達障害者が新たに含まれた。

(注) 「障害者総合支援法」とは,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。



正解は,選択肢3です。


支援費制度は,2003~2005年の3年間の制度でした。この制度で障害者福祉にも契約制度が導入されました。

精神障害者は対象ではなかったことは,しっかり覚えておきましょう。

それでは,他の選択肢も見ていきましょう。

1 児童福祉施設入所中に18歳以上となる肢体不自由者が増加する問題に対応するため,身体障害者福祉法が制定された。

児童福祉施設に入所する18歳以上の知的障害者が増加する問題に対応するために,精神薄弱者福祉法が制定されました。

2 学生や主婦で任意加入期間中に国民年金制度に加入していなかったために無年金になった障害者を対象に,障害基礎年金制度が創設された。

無年金者の救済のために創設されたのは,特別障害給付金です。

4 障害者の権利に関する条約を批准するため,同条約の医学モデルの考え方を踏まえて,障害者基本法等の障害者の定義が見直された。

医学モデルではなく。社会モデルです。この時に「社会的障壁」が加わりました。

5 「障害者総合支援法」の施行により,同法による障害者の範囲に発達障害者が新たに含まれた。

新たに加わったのは,制度のはざまになっていた難病等です。

2018年7月28日土曜日

障害者福祉の発展過程(その4)~身体障害者福祉の発展過程の整理



わが国の障害者福祉の特徴は,障害別に発展してきたことです。
その理由は,最初に成立した身体障害者福祉法が,身体障害者に対象を限定したためです。
障害別で理解するのではなく,3障害を並行して理解することが適切なのかもしれませんが,今日は,身体障害者に絞っていきたいと思います。


身体障害者福祉の発展過程

1947年・昭和22年 
 身体障害者授産施設が創設される。
1949年・昭和24年 
 身体障害者福祉法が成立する。国に身体障害者更生援護施設(現・身体障害者社会参加支援施設)の設置を義務づける。
1960年・昭和35年
 身体障害者雇用促進法(現・障害者雇用促進法)が成立する。
1963年・昭和38年
 重度身体障害者更生施設が創設される。
1964年・昭和39年
 重度身体障害者授産施設が創設される。
1970年・昭和45年
 心身障害者対策基本法が設立する。
1972年・昭和47年
 身体障害者療護施設が創設される。
1981年・昭和56年
 国際障害者年
1993年・平成5年
 心身障害者対策基本法を改正し,障害者基本法が成立する。
2006年・平成18年
 障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)が成立する。

それでは,今日の問題です。        


第28回・問題58 障害者福祉制度の発展過程に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 身体障害者福祉法(1949年(昭和24年))では,国に身体障害者更生援護施設の設置が義務づけられた。

2 東京パラリンピック(1964年(昭和39年))の開催を契機に,知的障害者を対象としたスペシャルオリンピックスが法制化された。

3 社会福祉基礎構造改革の理念に基づき,大規模コロニー計画が進められた。

4 障害者基本法の改正(2004年(平成16年))で,同法による障害者の範囲に難病等の者も含まれるようになった。

5 「障害者総合支援法」の施行により,重度訪問介護の対象者が障害児にも拡大された。


正解は,選択肢1です。

この時の身体障害者更生援護施設施設は,

①身体障害者更生指導施設
②中途失明者更生施設
③身体障害者収容授産施設
④義肢要具製作施設
⑤点字図書館
⑥点字出版施設

6つある施設のうち,3つが身体障害者,残りの3つが視覚障害者を対象としたものです。
身体障害者福祉法の法案づくりをしていた1948・昭和23年にヘレン・ケラーが来日したことで,視覚障害者の当事者団体が出来て,法の成立を後押ししました。

それでは,他の選択肢も見ていきたいと思います。

2 東京パラリンピック(1964年(昭和39年))の開催を契機に,知的障害者を対象としたスペシャルオリンピックスが法制化された。

障害者のスポーツ大会は,

パラリンピック(視覚障害者を含む身体障害者)
スペシャルオリンピックス(知的・発達障害者)
デフオリンピック(聴覚障害者)
があります。
東京パラリンピックは,東京パラリンピック競技大会特別措置法に規定されていますが,スペシャルオリンピックスもデフオリンピックも法制化されたものではありません。


3 社会福祉基礎構造改革の理念に基づき,大規模コロニー計画が進められた。

大型コロニーは,1960・昭和35年の精神薄弱者福祉法(現・知的障害者福祉法)により,精神薄弱者援護施設が法制化されたことを契機に,1960年代・70年代に多く設置されていきます。

施設中心の施策からの転換期は,1981・昭和56年の国際障害者年によって,ノーマライゼーション思想が広まったことです。

1990年代から,地域での生活支援が始まっていきます。

4 障害者基本法の改正(2004年(平成16年))で,同法による障害者の範囲に難病等の者も含まれるようになった。

2004年改正のポイントは,障害者差別の禁止が含まれたことです。

難病等が含まれたのは,2011年改正です。


5 「障害者総合支援法」の施行により,重度訪問介護の対象者が障害児にも拡大された。

重度の肢体不自由者を対象としていた重度訪問介護の対象が拡大されたのは,重度の知的障害者と精神障害です。障害児ではありません。

2018年7月27日金曜日

障害者福祉の発展過程(その3)~ノーマライゼーション

ノーマライゼーションとは

障害のある人の生活を障害のない人の生活に近づけること。

このように解説されることが多いと思います。

1950年代のデンマークで,バンク-ミケルセンが知的障害児の親の会と一緒に処遇改善を求めた運動がノーマライゼーションの始めです。

その後,デンマークの1959年法にノーマライゼーションが規定されます。

日本と重ねてみると,その次の年の1960年に精神薄弱者福祉法(現・知的障害者福祉法)ができて,入所施設としての精神薄弱者援護施設が規定されます。

その後,大規模コロニーが建設されていきます。

身体障害者福祉法では入所施設がつくられませんでしたが,精神薄弱者福祉法では施設が中心となったのは対照的です。このあと,重症心身障害児施設,重度身体障害者施設ができます。

因みに重度と重症の違いは,

重度は一つの障害の程度が重いこと,重症は複数の障害の程度が重いことを表します。

その後の「社会福祉施設緊急整備5か年計画」(1970)で,施設整備が進み,身体障害者福祉法でも,1972(昭和47)年に,生活施設としての身体障害者療護施設ができます。

大規模コロニーは,障害者を隔離するものではありませんが,実際には町の中心部に広い土地を確保するのは厳しいために,郊外に建設されました。

デンマークでノーマライゼーションが生まれたあと,スウェーデンのニィリエが「障害者のノーマルな生活とは何か」を示した「ノーマライゼーションの8つ原理」を発表します。

そのあと,北米では,ヴォルフェンスベルガーが,生活だけではなく,文化的・社会的な役割にも着目した「ソーシャルロール・バロリゼーション」を提唱します。

これらによって,デンマークで生まれたノーマライゼーションは世界に広まっていきました。

日本では,今まで述べてきたように,施設中心の施策が進められてきました。

自立生活運動(IL運動)が日本に紹介されたこともあり,施設ではなく地域生活を送る動きが出てきます。

日本でノーマライゼーションが広まったのは,1981年の国際障害者年の実施です。

国際障害者年のテーマは「完全参加と平等」です。完全参加とは,社会生活への参加と政策決定過程への参加,平等は健常者と平等の生活を送ること,社会の利益の平等な配分を受けることを指します。

この後に,国連・障害者の十年,それに続くアジア太平洋障害者の10年で障害者施策は,日本国内のものではなく,世界規模で進んでいくことになります。

この動きの中で,障害者の地域移行,障害者への差別禁止などが進められました。

それでは今日の問題です。


第27回・問題56 障害児者福祉制度の歴史的展開に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 精神薄弱者福祉法(1960年(昭和35年))において,ノーマライゼーションの促進が目的規定に明記された。

2 重度精神薄弱児扶養手当法(1964年(昭和39年))の制定当初から,重度身体障害児も支給対象とされていた。

3 国際障害者年(1981年(昭和56年))を契機として,重症心身障害児施設が制度化された。

4 障害者自立支援法(2005年(平成17年))により,身体障害者福祉法は廃止された。

5 「障害者差別解消法」(2013年(平成25年))では,「障害者」について,障害者基本法と同様の定義がなされた。



分かるものと分からないものがあると思います。


正解は,選択肢5です。

身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害がある者であって,障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。

とされています。

それでは,ほかの選択肢も確認していきます。


1は,精神薄弱者福祉法では,精神障害者援護施設が規定されます。

この時代は施設中心の施策が進められていきます。

ノーマライゼーションの考え方が日本で広まっていくのは,1981年の国際障害者年以降です。


2は,重度精神薄弱児扶養手当法は現在の特別児童扶養手当法のことで,1964年の法の成立当時は,法の名称どおりに重度精神薄弱児を対象としていました。

重度身体障害児を対象に含めたのは,1966年の法改正です。

その時に現行の法律名に変わっています。


3は,重症心身障害児施設は,1963年の島田療育園(現・島田療育センター)から始まり,1964年のびわこ学園等が設立されて,1967年の児童福祉法改正で規定されました。


この流れは知らなくても,ノーマライゼーション思想と施設志向は逆のものと言えるので,重症心身障害児施設の制度化は国際障害者年が契機とはならないことは何となくでも分かってほしいと思います。


4は,身体障害者福祉法も知的障害者福祉法も精神保健福祉法も現存します。

2018年7月26日木曜日

障害者福祉の発展過程(その2)~身体障害者福祉法の定義(1949)

1949(昭和24)年に成立した身体障害者福祉法は,障害者福祉の始まりとなるものです。

当初の目的は,

身体障害者の更生を援助し,その校正のために必要な援助を行い,もつて身体障害者の福祉を図ること

とされていました。

更生とはリハビリテーションを意味し,職業的リハビリテーションを目的としたものでした。


職業的リハビリテーションを目的としたために,法の適用対象は,身体障害に限定し,精神障害,知的障害は対象にしませんでした。

そのために,日本の障害者福祉は,障害別に発展していくことになりました。

身体障害者,知的障害者,精神障害者の施策が一元化されるのは,2006(平成18)年に施行された障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)まで待たなければなりません。

身体障害者福祉法の現在の目的は,

障害者総合福祉法と相まつて、身体障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するため,身体障害者を援助し,及び必要に応じて保護し,もつて身体障害者の福祉の増進を図ることを目的とする。

というように,当初にあった「更生」がなくなり,「参加」となっています。

それでは,今日の問題です。


第24回・問題129 障害者福祉の歴史的展開に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 昭和24年制定当時の身体障害者福祉法は,身体障害者の定義を,身体上の障害のため生活能力が損傷されている18歳以上の者であって,都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けた者とした。

2 昭和35年制定当時の精神薄弱者福祉法は,精神薄弱者援護施設を法的に位置づけ,入所施設の設置体制を整備した。

3 平成2年の福祉関係八法改正により,老人福祉法以外に身体障害者福祉法,精神薄弱者福祉法,精神保健法も改正され,在宅福祉サービスの推進,在宅福祉サービスと施設福祉サービスの市町村への一元化が図られた。

4 障害を理由とする差別を禁止し,障害者に他者と平等な権利を保障する国の責務を定めた障害者の権利に関する条約は,批准国が20か国に達しないため,平成23年7月現在,発効していない。

5 平成23年6月に成立した「障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する支援等に関する法律」は,障害者虐待の定義を,養護者・障害者福祉施設従事者・病院従事者・使用者による虐待としている。


正解は,選択肢2です。

精神薄弱者福祉法(現・知的障害者福祉法)が,日本の障害者福祉にとって,大きな転機となったのは,入所施設を創設したことです。

身体障害者福祉法は,傷痍軍人優遇政策を解体したGHQを意識してなのか,法成立は,身体障害者の生活支援のものではない,と関係者が説明しているように,生活施設は当初はありませんでした。

知的障害児は,児童福祉法に基づく施設に入所していましたが,児童福祉法は18歳以下を対象としているので,18歳になると退所しなければなりません。

そのため,成人の入所施設として,精神薄弱者援護施設が創設されたのです。

こののち,コロニーと呼ばれる大規模な入所施設が全国で作られていくことになります。

それでは,ほかの選択肢も解説します。


1は,当時の障害者の定義は,「身体上の障害のため職業能力が損傷されている18歳以上の者であって,都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けた者」です。職業的リハビリテーションを目的としていたためです。


3は,平成2年の福祉関係八法改正で,在宅福祉サービスと施設福祉サービスの市町村への一元化されたのは,老人福祉法と身体障害者福祉法です。

4 間違いです。障害者権利条約は,2006(平成18)年に採択,2008(平成20)年に発効しています。日本は,2007(平成19)年に署名しましたが,批准するので時間がかかり,批准したのは2014(平成26)年です。

5は,障害者虐待防止法における虐待者の定義は,病院従事者は含まず,養護者,障害者福祉施設従事者,使用者です。障害者虐待防止法は,別の機会に詳しく紹介したいと思います。


障害者権利条約の批准について

条約は,法的拘束力を持つので,国内法が不適切なまま批准してしまうと,国際的なペナルティを受けてしまいます。

そのため日本は,同条約を批准するために,障害者基本法改正などを整備して,ようやく2016年に批准したのです。

2018年7月25日水曜日

障害者福祉の発展過程(その1)~福祉関係八法改正(1990)

日本の福祉の発展過程には,いくつかの節目があります。

その一つは,1990・平成2年のいわゆる「福祉関係八法改正」でしょう。

この改正では,近く到来するであろう高齢社会(高齢化率14%)に向けて,住民に身近な市町村が在宅福祉サービスと施設福祉サービスを一元的に提供するために,老人福祉法と身体障害者福祉法の施設入所措置を都道府県から権限移譲しました。

また,在宅福祉サービスを第2種社会福祉事業として規定しました。

この辺りから,福祉公社や市町村社会福祉協議会が在宅福祉サービスを提供し始めて,在宅福祉の担い手になっていきます。

福祉関係八法改正は,現行カリキュラムでは,第22・23・24・26・27・29回に出題されています。

さすがは,節目の改正だけに頻出度が高いです。

絶対に覚えておきたいです。

それでは,今日の問題です。

第23回・問題13 障害者制度の発展過程に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 昭和45年心身障害者対策基本法が施行され,障害者福祉制度は急激に発展し,障害種別による施設入所施策の強化の方向性が強く示された。

2 「国連・障害者の十年」は,我が国の障害者福祉制度に大きな影響を与え,その結果,重症心身障害児施設が制度化された。

3 昭和59年の宇都宮病院事件は,病院における非人道的な処遇が国際的にも注目され,昭和62年の精神衛生法の成立に影響を与えた。

4 平成2年の福祉関係八法改正により,身体障害者福祉行政について,在宅福祉と施設福祉の市町村への一元化が図られた。

5 平成12年の社会福祉事業法等の改正により,障害者福祉制度に支援費制度が導入され,身体障害,知的障害,精神障害の3障害の制度格差が解消された。


知識がなければ,絶対に正解できない問題だと思います。

正解は,選択肢4です。福祉関係八法改正で,老人福祉法と身体障害者福祉法に基づく入所措置事務は,市町村に移譲されて在宅福祉と施設福祉は市町村に一元化されています。


それでは,他の選択肢を見ていきましょう。

1の心身障害者対策基本法は,1993・平成5年に改正されて,障害者基本法となっています。

基本法という名称の法律なので,具体的なものではなく,障害者福祉の理念を示したものです。

障害者福祉は,それ以前にできた,身体障害者福祉法,精神薄弱者福祉法,児童福祉法によって発展してきました。

心身障害者対策基本法は,それらの基本法となるものとして,障害者福祉の理念を規定したものです。

障害種別が一元化されるのは,障害者自立支援法の成立まで待たなければなりません。

2の重症心身障害児施設は,1961・昭和36年,島田療育園が設立されたところに始まり,1967・昭和42年に児童福祉法の改正で規定されています。

「重症心身障害児施設ができたのはいつか」ということを問われることがこのほかにも数回あります。

細かい年は覚える必要はありません。

「日本の重度障害児・者の施策は1960年代に成立した」

これだけで良いです。この流れは後日詳しく紹介します。

3は,宇都宮病院事件がきっかけとなり,成立したのは「精神保健法」です。この時に任意入院が制度化されています。

現在の精神保健福祉法は

精神衛生法 → 精神保健法 → 精神保健福祉法

と変遷しています。


4は正解です。

5の支援費制度は,2003~2005年のわずか3年間のみの制度でした。

これによって,ようやく障害者福祉も措置から契約制度に変わりました。

しかし,精神障害者は支援費制度の対象ではありませんでした。

精神障害者が含められたのは,障害者自立支援法です。



<今日の一言>

障害者福祉の発展過程は,現行カリキュラムでは,第26回を除いて毎回出題されています。

しかし,出題されるのはたった1問です。

歴史を覚えるのが苦手だと思う人は捨てても1点,取れても1点です。

しかし,まだ捨てるのは早いです。

2018年7月24日火曜日

障害者に対する支援と障害者自立支援制度の攻略法~まずはここを読んで!!

今日から科目は「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」に移ります。

まずは,発展過程から学んでいきたいと思います。


<身体障害者>

日本の一般的な障害者対策は,救貧対策として,恤救規則や救護法でわずかに対象とされていたにすぎません。

それに比べると,戦争で傷ついた軍人(傷痍軍人)に対しては,明治期に廃兵院法ができてリハビリテーションを受けることができました。このように傷痍軍人は一般の障害者よりも優遇されていました。廃兵院はその後傷兵院に変わり,戦後は国立療養所になりました。

第二次世界大戦後,GHQは徹底して日本を非軍事化していきます。

そのため,問題となったのは傷痍軍人に対する優遇対策です。傷痍軍人を優遇するのは,戦前の軍事体制を認めることにもつながりかねません。

身体障害者福祉法が成立したのは,1949(昭和24)年のことです。

旧・生活保護法が1946(昭和21)年,児童福祉法が1947(昭和22)年に成立しているのに,身体障害者福祉法の成立は遅いと思ったことはないでしょうか。

同法の成立に時間がかかったのは,GHQとのかかわりの中で,傷痍軍人対策としての法ではなく,すべての身体障害者を対象とする必要があったからです。

法制定には時間がかかりましたが,傷痍軍人対策は何もしていなかったわけではなく,1947(昭和22)年には,身体障害者授産施設がつくられています。

そして,ようやく身体障害者福祉法が成立します。

同法による身体障害者の定義は,

身体上の障害のため職業能力が損傷されている18歳以上の者であって,都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けた者

とされました。

職業能力が損傷」されているということから分かるように,当初は,職業リハビリテーションが目的をしていました。

同法では,更生への努力として「すべて身体障害者は,自ら進んでその障害を克服し,すみやかに社会経済活動に参与することができるように努めなければならない」と規定しました。

一方,国の責務は明記していません。

国の責務を明記しなかったのは,GHQの批判をかわすためだと考えられています。

その代わり,国には「身体障害者更生援護施設」の設置が義務づけられました。これはGHQに一矢報いるためだと考えられます。

そんな駆け引きの中で誕生したのが,日本の障害者福祉の幕開けとなった「身体障害者福祉法」です。

身体障害者更生援護施設は,その後,社会福祉事業法で社会福祉法人ができたことで,多くの施設が出来上がっていきます。身体障害者更生援護施設は,2006(平成14)年改正で,身体障害者社会参加支援施設になっています。

重度化対策としては,昭和30年代に,重度身体障害者更生施設,重度身体障害者授産施設が創設されています。

政府は,職業リハビリテーションにこだわり,身体障害者福祉法では生活型施設の設置を認めてきませんでしたが,1972(昭和47)年にようやく身体障害者療護施設を創設しました。


<知的障害者>

知的障害者対策は,もともとは児童福祉法に精神薄弱児施設が規定されていました。

しかし,18歳になると施設を出なければならず,その後の対応策がありませんでした。

その当時の入所施設は,生活保護法に規定される救護施設など限られた入所施設しかありませんでした。

そこで,1960(昭和35)年の精神薄弱者福祉法(現・知的障害者福祉法)で,18歳以上の知的障害者を対象とした入所施設である精神薄弱者援護施設を創設しました。


<精神障害者>

精神障害者は,人権との闘いの歴史でもあります。

精神病者監護法(1900・明治33年)は,私宅監護(いわゆる座敷牢)を認めたものです。

戦後,同法を廃止して,精神衛生法(1950・昭和25年)の成立で私宅監護が禁止されます。この時に措置入院が規定されています。

社会福祉士の国家試験には出題されたことはありませんが,1964・昭和39年にライシャワー駐日大使を統合失調症患者が刺傷させる「ライシャワー事件」が起きました。

1963・昭和38年のいわゆるケネディ白書に影響を受け,社会の動きは精神障害者の脱施設化に向かっていましたが,この事件で精神障害者の野放しを問題にする世論が高まります。

そこで精神衛生法が改正され,自傷他害の恐れのある者に対する緊急措置入院制度が創設されました。隔離政策です。

また通院医療費公費負担制度も創設されています。

この制度は,現在は,障害者総合支援法の自立支援医療の精神通院医療となっています。

医療法の改正で,一般病院から精神科病院(この時代は精神病院)に診療科を変える病院が増え,精神障害者の社会的入院の時代が始まります。

これも社会福祉士の国試には出たことがありませんが,1970年代には診察もせずMSWの判断で入院させる「Y問題」が発生します。

1984・昭和59年に起きた事件は,看護職員が入院患者を死亡させるという「宇都宮病院事件」です。

この事件をきっかけに1987・昭和62年に,精神衛生法を改正して精神保健法になり,任意入院が規定されます。

そしてようやく1995・平成7年に精神保健法を改正して,現行法である精神保健福祉法になりました。この時に精神障害者保健福祉手帳ができました。

身体障害者,知的障害者,精神障害者は,このように別々の制度として発展してきたことが分かるでしょう。

精神障害者については,社会福祉士では出題されませんが,精神障害者では,もっともっと悲しい出来事やそれに挑んでいった人が出題されています。

3障害のサービスが一元化されたのは,2005・平成17年に成立し,2006・平成18年に施行された障害者自立支援法です。

障害者自立支援法は,2012・平成24年に改正されて,障害者総合支援法となっています。
障害者自立支援法は,3障害のサービスを一元化したこと,日中活動と生活の場を分けたこと,などが特徴です。



ここからは,チームfukufuku21の私見ですが,この法律を作った人たちは,大きな夢を持って作ったのではないかと思います。障害者に対する世間の目は,ともすると「社会的に必要ではないもの」といったスティグマに向きがちです。

障害者,特に精神障害者の歴史は人権との戦いであったことが分かるでしょう。

障害者自立支援法は,スティグマをいかになくすかに力を注いだイギリスのベヴァリッジに似たものを感じます。

なぜそう思うかといえば,障害者自立支援法は,社会福祉制度には極めて珍しい「応益負担」を採用したからです。

社会福祉制度では多くの場合,「応能負担」が採用されます。

応益負担は,利用したサービス量に応じて,利用料を負担する方法です。

多くの場合には,社会保険制度で採用されています。

1962年の社会保障制度審議会による勧告では,

一般所得者層に対する施策は社会保険制度が対応

低所得者層に対する施策は社会福祉制度が対応

貧困者層は生活保護制度が対応

と述べています。

つまり,障害者自立支援法は社会福祉制度ではあるもののスティグマをなくすために社会保険制度の要素を取り入れたのではないかと思います。

そう考えると,応益負担をやめてしまった障害者総合支援法はもったいないようにも思います。

応益負担は,サービスを受けた量に対して利用料を支払うので,スティグマを感じることもなく,サービスは権利として受けることができます。サービス提供者もサービス提供の対価として利用料をいただくので,「してあげる」という気持ちにもなりづらいと言えます。

「応益負担」が批判されたのは,負担が大きいというものです。障害者の多くは,障害基礎年金が唯一の収入です。

障害基礎年金は,老齢基礎年金と違い定額制です。1級の場合の年額は老齢基礎年金の満額の1.25倍なので,2018年4月時点では,97万4,125円です。2級の場合は,満額と同じ779,300円です。これに子がいた場合は子の加算があります。配偶者の加算はありません。

応益負担が厳しいのであれば,障害基礎年金を引き上げるという方法もできたはずです。

応益負担であっても応能負担であっても,運営にかかる費用は一緒のはずですから,障害基礎年金を引き上げた分,障害福祉サービス等報酬は引き下げられます。

そのため障害基礎年金を引き上げても全体の費用は上がらないのではないでしょうか。



<今日のまとめ>

日本の障害者福祉は,身体障害者を対象とする職業リハビリテーションから始まりました。

それから重度障害者を対象として,現在では3障害を一元化した障害者総合福祉法による障害福祉サービスが提供されています。

この間には,障害者権利条約の批准に向けた制度の整備を行ってきています。

これからしばらくは,障害者福祉の発展過程を追いかけていきたいと思います。

※今日の問題は,今日はお休みします。

2018年7月23日月曜日

社会保障の徹底攻略法~傷病手当金

今回も健康保険を続けたいと思います。

傷病手当金とは・・・

医療保険の被保険者が,けがや病気のために仕事に就けないために,給与が支払われない場合に給付されるものです。

ただし4日目からという条件があります。

傷病手当金は,健康保険と共済は法定給付で,国民健康保険は任意給付です。

市町村国民健康保険で給付しているところはありません。国保組合では半分くらいが給付しています。

それでは今日の問題です。

第29回・問題54 事例を読んで,Dさんの保険給付に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
 健康保険の被保険者であるDさんは,勤務先の業務がない日に自動車の運転を誤って電柱に衝突し,骨折したため病院に人院し,翌日から会社を休んだ。

1 Dさんには労働者災害補償保険から休業補償給付が支給される。

2 Dさんの骨折の治療には自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)が適用される。

3 Dさんには,雇用保険から基本手当が支給される。

4 Dさんが協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)の被保険者である場合,健康保険の傷病手当金は,受給できない。

5 Dさんが二日間入院して退院し,その翌日から休業せずに勤務を続けた場合,健康保険の傷病手当金は支給されない。


正解は,選択肢5です。傷病手当金は,4日以降の休業に対して給付されます。


4日以降の休業に対して給付されるのは,労働者災害補償保険の休業補償給付(休業給付)と同じです。

もしこの事例が,業務のある日のけがだとしたら,休業補償給付が優先され,傷病手当金は給付されません。どちらも同じ事由による所得保障だからです。

ただし,休業補償給付で受け取る金額が傷病手当金で受け取る金額よりも低かった場合は,その差額が傷病手当金として給付されます。


それでは,他の選択肢も解説します。

1は,業務がない日のけがなので,労災には適用されません。

労災保険には,メリット制と呼ばれる災害率によって保険料が上下する制度があるので,業務のある日のけがでも業務のない日にけがをしたことにして「労災隠し」をする事業者がいます。

しかし,労災隠しは犯罪です。


2は,自賠責保険は,民間保険ですが,自動車損害賠償保障法によって実施されている特殊な保険です。

保障内容は対人に限定されています。現在の補償額は死亡の場合1,200万円です。

対物や運転手本人のけがは保障されません。


3は,雇用保険の基本手当は失業した場合に給付されます。この場合は休業であり,失業ではありません。


4は,健康保険である協会けんぽには,傷病手当金があります。傷病手当金がないのは,市町村国民健康保険の場合です。


<今日のおまけ>~ここまで覚えることはない

傷病手当金は,仕事以外のけが・病気の場合,給料の2/3(67%)相当が給付されます。

休業補償給付は,仕事上のけが・病気の場合,給料の60%相当が給付されます。

同じ休業の所得保障なのに,給付率が違うところが不思議な感じがします。


傷病手当金の給付期間は,最大1年6か月です。

1年6か月と聞いて「何かにもあったなぁ」と思った人はかなり勉強が進んでいると思います。

障害基礎年金の障害認定日は初診日から1年6か月です。

障害のために休業している場合,1年6か月までは傷病手当金がカバーします。

1年6か月を経過した時,国民年金法の障害等級1・2級に該当する場合は,障害基礎年金と障害厚生年金が給付されます。

3級に該当する場合は障害厚生年金が給付されます。

傷病手当金は,退職しても給付されますが,退職日に出勤してしまうと労働可能とみなされ,それ以降は給付されません。休業したまま退職することが条件です。


一方労災保険の休業補償給付は,1年6か月を経過した時,労働者災害補償保険法の障害等級の1~3級に該当する場合,傷病補償年金(傷病年金)が給付されます。

該当しない場合は,引き続き休業補償給付が給付されます。

休業補償給付も受給中に退職しても,引き続き休業補償給付を受けることができます。

「社会保障」は,今回で終わりです。

次回からは,「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」に移ります。

2018年7月22日日曜日

社会保障の徹底攻略法~保険外併用療養費とは?

日本の社会保険立法で最も早く成立したのは,健康保険法(1922)です。そのあとに年金制度が出来上がっていきます。

現役世代の被用者にとって,最も多く利用する機会があるのは,健康保険です。

そのため,健康保険に関する出題は多いです。

絶対に押さえておきたい領域です。なじみがある領域だから覚えるのは比較的簡単でしょう。

それにしても,1984年までは,健康保険の被保険者は10割給付だったために,本人負担がなかったというのはすごいですね。

第26回・問題55 健康保険の給付に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 

1 健康保険組合は,人間ドックなどの健康診査を療養の給付の対象とすることができる。

2 受診時の自己負担の額は,被保険者本人については3割であるが,被扶養者である義務教育就学前の児童については1割となっている。

3 高額療養費は,1年間に被保険者が支払った健康保険と介護保険の自己負担額の合計が基準額を超えた場合に支給される。

4 薬事法上は承認されたが,薬価基準に収載されておらず医療保険が適用されない医薬品を用いて治療を行う場合,保険外併用療養費が支給されることがある。

5 被保険者本人が出産した場合には,出産手当金が支給されるため,出産育児一時金は支給されない。 


正解は,選択肢4です。保険外併用療養費は必ず覚えておきたいです。

日本の診療報酬では,いわゆる混合診療と呼ばれる保険診療と保険外診療を一緒に提供することは認められていません。

保険外診療が提供されると,保険診療もすべて自己負担となります。

混合診療を認めるものではないですが,すべて自己負担とならないようにするための制度として,保険外併用療養費というものがあります。

現在は,評価療養,選定療養,患者申出療養の3種類があります。

評価療養は,簡単に言うとまだ保険適用となっていない治験や先進医療を用いたものです。

選定療養は,簡単に言うと患者が選べるもの,具体的には差額ベッド代などです。

患者申出療養は,2016年に導入された制度で,先進医療にも治験にも対象となっていないものを利用したいと患者が申し出て認められると保険診療と併用することができるものです。


保険外の部分はすべて自己負担なので,とても負担があります。そのために民間の保険会社では,保険外併用療養費を対象とするものも出てきています。

それでは,ほかの選択肢も解説します。

1は,人間ドックなどの健康診査は,療養の給付(現物給付)にはできません。


<療養の給付(現物給付)の範囲>
 ①診察
 ②薬剤・治療材料
 ③処置・手術など
 ④在宅療養
 ⑤入院療養

健保組合には,協会けんぽには認められていない「付加給付」があるので,人間ドックなどの健康診査は,付加給付の対象とすることができます。

健康保険の法定給付には,現物給付である「療養の給付」のほかに,現金給付があります。

現金給付の種類には,傷病手当金,出産育児一時金,出産手当金などがあります。

傷病手当金は,健康保険では法定給付ですが,国民健康保険では任意となっており,市町村国民健康保険では,給付しているところは1か所もありません。

国保組合では半分くらいが給付しています。

なお,療養の給付は,被扶養者に給付される場合は「家族療養費」と言います。


2は,被扶養者である義務教育就学前の児童は,2割給付です。

市町村によって無料であったり定額であったりしますが,それは市町村の施策によって,市町村が負担しているからです。法制度上は,2割負担です。


3は,高額療養費ではなく,高額介護合算療養費です。これらは,「保健医療サービス」で詳しく学ぶ範囲です。


5は,出産手当金と出産育児一時金は併給できます。

出産育児一時金は,医療保険の被保険者本人と被扶養者の出産の際に給付されるものです。

出産手当金は,被保険者が出産して,産前産後に仕事ができなかったために給料がもらえない場合の所得保障です。

しっかり違いを押さえておきましょう。

2018年7月21日土曜日

社会保障の徹底攻略法~障害年金

今回は,年金保険に戻りたいと思います。

年金保険が複雑なのは,国民年金(基礎年金)と厚生年金があるからでしょう。

保険事故には,

65歳になること(老齢)

障害があること(障害)

死亡すること(遺族)

の3種類もあります。

組み合わせると6種類にもなります。

老齢年金と障害年金は,給付を受ける人の背景の違いによって,制度が若干異なります。

老齢年金の受給者の多くは保険事故が発生する前は,労働者だったと思います。

障害年金の受給者は,20歳以上になってからの障害と20歳未満からの障害に分かれます。

20歳未満の20歳前傷病の場合は,被保険者期間(20~60歳)ではない時に障害となることになります。

今日は,障害年金に着目したいと思います。

障害年金には,障害基礎年金と障害厚生年金があります。

20歳前傷病の人に給付されるのは,障害基礎年金です。

障害厚生年金は報酬比例なので,保険料納付することによって給付されます。

さて,それでは今日の問題です。事例問題ですが,知識がなければ絶対に解けません。

しかし,障害基礎年金の制度理念が理解していれば,対応可能です。制度理念を理解しているのとしていないのでは,雲泥の差となります。

知らない制度が出題されたとしても制度理念に照らせば,何となく見えてくるものが多くなります。この違いはとてつもなく大きいです。


第29回・問題52 事例を読んで,Cさんの年金の取扱いに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
 先天性の視覚障害で,全盲のCさん(25歳,子どもなし)は,20歳になった翌月から1級の障害基礎年金を受給している。これまでは,仕事に就かず,年金以外にほとんど収入はなかったが,今年からU社に就職し,厚生年金に加入した。Cさんの視覚障害は,今後も回復が見込めないものとする。

1 Cさんは,障害基礎年金を受給しているので,厚生年金の保険料を免除される。

2 Cさんは,先天性の視覚障害により,障害厚生年金を受給できる。

3 Cさんは,先天性の視覚障害により,労災保険の障害補償年金を受給できる。

4 Cさんの障害基礎年金は,就職後の所得の額によっては,その全部又は一部の支給が停止される可能性がある。

5 今後,Cさんに子どもが生まれても,Cさんの障害基礎年金の額が加算される可能性はない。

正解は,選択肢4です。

20歳前傷病は,保険料を一度も納付していなくても障害基礎年金の受給資格者となります。そのため,所得によって,支給額に差をつけることで,制度全体の公平性を保っています。被保険者でない者でも受給できる障害基礎年金は特別なものなのです。そこをしっかり押さえましょう。


1は,障害基礎年金受給者は,国民年金の保険料は免除されます。免除されるのは,厚生年金の保険料ではありません。

障害基礎年金受給者のうち,20歳前傷病の場合,ほとんどの人は,障害基礎年金が唯一の所得です。そこからまた保険料を納付するのは,厳しいでしょうし,すでに保険事故が起きているのに保険料を納付するのはおかしいです。

なぜなら,今後発生する可能性のある保険事故は,老齢と死亡です。

しかし,基礎年金同士は併給されません。

つまり障害基礎年金を受給している人は,老齢基礎年金(遺族基礎年金も)は受給できません。社会保険は将来の保険事故発生に備えて,保険料を納付するものです。保険事故が発生しても受給できないのに保険料を納付するのは,実におかしなことです。

それに対して,厚生年金の保険料は,障害基礎年金を受給していても納付しなければなりません。

20歳前傷病では障害厚生年金は受給できませんが,将来の保険事故に対して,老齢厚生年金あるいは遺族厚生年金は受給できます。基礎年金と基礎年金は併給できませんが,基礎年金と厚生年金は併給できます。そのため厚生年金の保険料は免除されないのです。

ここが大きな違いです。


2は,20歳前傷病の場合(この場合場合は先天性の障害)は,障害基礎年金が対象となります。
障害厚生年金は,報酬比例なので,保険料の納付額によって給付額が変わります。保険料納付がゼロの場合は,当然受給できません。


3は,労災保険の保険事故は,業務上と通勤中の事故です。

それらによって視覚障害になった場合は受給できますが,先天性の障害なので,労災保険の保険事故ではありません。


5は,しっかり押さえなければなりません。子の加算は,障害基礎年金,障害厚生年金のいずれにもあります。

整理してみましょう。

障害年金の加算

基礎年金 → 子の加算(人数によっ変わる)

厚生年金 → 子の加算+配偶者の加算

子の加算は,どちらにもありますが,配偶者の加算は厚生年金にしかありません。


配偶者の加算

基礎年金 ×

厚生年金 〇


複雑である故,引っ掛けポイントは簡単に作りやすいです。

しかも制度を覚えていないと正解できません。


出題パターンは以下が考えられます。


障害基礎年金には,配偶者の加算がある。×

障害厚生年金には,配偶者の加算がある。〇

障害基礎年金には,配偶者の加算はない。〇

障害厚生年金には,配偶者の加算がない。×


整理して覚えておけば対応可能です。



2018年7月20日金曜日

社会保障の徹底攻略~事例問題の攻略法

「社会保障」には,事例問題があります。

法制度の事例は,制度を知らないと解けないやっかいなものです。

事例の形をとっていても,相談援助系の事例とはまったく違うものです。

それでは今日の問題です。

第22回・問題53 事例を読んで,Bさんの考えに関する次の記述のうち,制度的に正しいものを一つ選びなさい

〔事 例〕

 主婦のBさんは,不況のため夫の給料が下がったので,少しでも家計を補おうと思い,パートで働きに出ることにし,新聞の折込み広告で職を探し,X社(法人)かY社(法人)にしようと考えている。求人欄には,X社は「社会保険完備」,Y社は「社会保険応相談」と記載されている。

 この事例において,社会保険とは,健康保険と厚生年金保険のことをいうこととする。

1 X社については,パートでも必ず社会保険に加入できると思った。

2 Y社については,Bさんが希望すれば,その勤務条件にかかわらず,社会保険に加入できると思った。

3 一定の勤務条件を満たせば社会保険に加入できるはずなので,社会保険については特に気にしなかった。

4 Bさんが働いて夫の被扶養配偶者でなくなると,子どもも一緒に被扶養者ではなくなってしまうのが心配だった。

5 パートで働いて自分に少しでも収入があると,夫の被扶養配偶者ではなくなるので,個人で保険料を負担して医療保険制度に加入しなければならないと思った。


この問題は,日本語的に解けるので,そんなに難しくないかもしれません。

正解は,選択肢3です。

健康保険と厚生年金保険の適用範囲は,昨年から拡大されて短期労働者の場合は,週20時間以上となっています。

1は,「必ず」ではないので間違いです。今の国試は,「必ず」といったように内容は分からなくても,正解ではなさそうだ,と感じてしまうような言い回しはしていません。実力がない人は得点できなくするためです。

それにもかかわらず「社保完備」という求人があるかと言えば,かつての名残とも言えます。

1984年までは,健康保険の本人負担がなかった時代があるのです。国民健康保険は3割負担です。健康保険に加入するのは,とても重要な意味合いがありました。

年金保険でも,国民年金よりは厚生年金の方が年金の将来の受取額も大きく変わります。


2は,勤務条件によって加入できるかどうか決まります。

「社保完備」は,社会保険の適用事業所です,と言っているだけです。

3は,正解です。「応相談」の意味は,扶養の範囲で働きたいのだったら,短時間労働もOKといった意味合いです。


4は,本人が扶養から向けても子どもはそのまま夫の扶養のままです。


5は,年収は130万円までは被扶養配偶者でいられます。



2018年7月19日木曜日

社会保障の徹底理解~国試問題の劇的変化について

社会福祉士の国家試験の文字数は,第24回をピークとして,年々少なくなっています。


合格できる勉強法~基礎勉強をしっかり行う重要性
https://fukufuku21.blogspot.com/2018/02/20170206.html

ここにも書いたように,問題文の文字数が多いことは,引っ掛けポイントがいくつも作れるので,国試の難易度が上がります。

逆に,文章が長くなれば,余計な言葉が入ってくるので,勘の良い人は,知識がなくても解けます。

勉強した人が解けて,勉強が足りない人は解けない。

これが正しい国試のあり方です。

問題を一問見てみましょう。

第26回・問題52 社会保険の適用対象や給付と負担に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 国民年金の被保険者としての期間がなかった者でも,国民年金法に定める給付を受けられる場合がある。

2 国民健康保険は,農業者や自営業者等を対象とするものであり,事業所に使用される者は対象とはならない。

3 国民年金の第3号被保険者は,専業主婦など夫に扶養されている妻を対象とする制度であり,妻に扶養されている夫は対象にならない。

4 健康保険法及び厚生年金保険法で定める標準報酬月額の上限は,同一である。

5 生活保護を受けている者は,介護保険の保険料を拠出できないので,介護保険に加入できない。

第26回でもすでに文字数は少なくなっていますが,余計な言い回しは随所に見られます。

1 国民年金の被保険者としての期間がなかった者でも,国民年金法に定める給付を受けられる場合がある。

2 国民健康保険は,農業者や自営業者等を対象とするものであり,事業所に使用される者は対象とはならない。

3 国民年金の第3号被保険者は,専業主婦など夫に扶養されている妻を対象とする制度であり,妻に扶養されている夫は対象にならない。

4 健康保険法及び厚生年金保険法で定める標準報酬月額の上限は,同一である。

5 生活保護を受けている者は,介護保険の保険料を拠出できないので,介護保険に加入できない。

アンダーライン部分が余計な部分です。

人は嘘をつくとき,饒舌になる

の典型的なパターンです。

もう一つ典型的だと言えば,

あいまい表現に正解多し

も見受けられます。

そう,答えは,選択肢1です。

勘の良い人は,理由は分からなくてもこれを正解選択肢として選べるはずです。

年金制度は複雑なので覚えるのが面倒ですが,障害基礎年金は,20歳前傷病の場合は20歳になったら年金がもらえる場合があります。なぜ「もらえる場合がある」という表現をしているかと言えば,本人の収入によっては年金は受け取れないからです。

遺族基礎年金の場合は,18歳以下の子はもらえる場合もあります。これも「もらえる場合がある」という表現をしているのは,子が婚姻していたらもらえないからです。

他の選択肢は

2は,健康保険の加入対象にからない人は,国民健康保険に加入しなければなりません。

3は,第3号被保険者は,第2号被保険者の被扶養配偶者なので,妻も夫も対象なります。

4は,健康保険と厚生年金保険の標準報酬月額の上限は異なります。金額まで覚える必要はありません。

5は,第1号被保険者になれます。保険料は,生活扶助の介護保険料加算として給付されます。

さて,最新の国試問題です。

第30回・問題51 社会保険の保険者に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 国民年金の保険者は,日本年金機構である。

2 介護保険の保険者は,国である。

3 国民健康保険組合の保険者は,市町村である。

4 健康保険の保険者は,全国健康保険協会及び健康保険組合である。

5 労働者災害補償保険の保険者は,都道府県である。


無駄な言い回しが一切ないので,日本語的に答えを導くことができません。
知識がある人は解けますし,知識がない人は解けません。

実はこの問題は多くの人が引っ掛けられた問題です。

正解は4ですが,3をうっかり選んでしまいそうになります。

3が間違いのは,市町村国民健康保険なら,保険者は市町村及び都道府県ですが,この選択肢は,国民健康保険組合なので,保険者は国保組合ということになります。

1は,国民年金の保険者は政府です。

2は,介護保険の保険者は,市町村(及び市町村の広域連合)です。

5は,労災保険の保険者は,政府です。雇用保険も同じです。


<今日のまとめ>

おそらく,第31回の問題も第30回と同様の基準で問題をつくられることでしょう。

言い回しで答えがわかる問題は少ないことが想像できます。

第30回と違うだろう,と想像するのは,

選択肢の中にもっともらしい文章で,見たことがないものを入れ込んでくる

作問する際,この処理をすることで,問題を正解することがかなり難しくなります。

しかし多くの場合,

そこには正解選択肢は配置されない

しっかり勉強した人は正解できるはずです。

勉強が足りない人は,その選択肢に動揺し,頭が真っ白になって,間違えます。

理想的な国試問題となります。

国試は,しっかり勉強した人が解けて,勉強が足りない人が解けない問題でなければならないのです。

2018年7月18日水曜日

社会保障の徹底理解~社会保険料の納付

「社会保障」は,社会保障という名称がついている科目ですが,社会保険がその中心です。

日本の社会保障制度は,社会保険が中心なのですから当然ですね。


<社会保険の基本>
・保険事故
・保険者
・被保険者
・保険料
・保険料の納付
・保険の具体的内容


社会保険は社会保険料が財源なので,保険料に関するものは絶対に押さえなければなりません。

それでは今日の問題です。


第24回・問題50 社会保険料の徴収,納付に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 世帯員に国民健康保険の被保険者がいる場合,世帯主は国民健康保険以外の医療保険制度の被保険者であっても国民健康保険料の納付義務者となる。

2 介護保険の第1号被保険者と第2号被保険者,後期高齢者医療制度の被保険者が負担する保険料は,特別徴収の方法によって徴収される。

3 国民年金の学生納付特例制度により,保険料納付の猶予を受けた者が保険料を追納しなかった場合,当該期間の国庫負担分のみが老齢基礎年金の支給額に反映される。

4 雇用保険の保険料は,賃金総額に保険料率を乗じて算出された額を事業主が負担する。

5 厚生年金保険料と健康保険料の納付義務者は,被保険者である。


社会保険料の納付は,社会保険制度で押さえなければならない太い太い柱の一つです。

それでは,解説です。

1 世帯員に国民健康保険の被保険者がいる場合,世帯主は国民健康保険以外の医療保険制度の被保険者であっても国民健康保険料の納付義務者となる。

世帯主は

健康保険の被保険者であっても,世帯員に国民健康保険の被保険者がいれば,世帯主に納付義務があります。

よって正解です。


社会保険料の納付義務者


世帯主 
・国民健康保険
・国民年金
・介護保険の第1号被保険者
・後期高齢者医療制度


事業主
・健康保険
・厚生年金
・介護保険の第2号被保険者
・雇用保険
・労災保険


2 介護保険の第1号被保険者と第2号被保険者,後期高齢者医療制度の被保険者が負担する保険料は,特別徴収の方法によって徴収される。

特別徴収は,年金額が年18万円以上ある場合は,年金から天引きして徴収する制度です。それ以下は普通徴収です。

介護保険の第2号被保険者の保険料は,事業主が被保険者の保険料を各医療保険の保険者に納付します。

つまり特別徴収の方法はありません。よって間違いです。


3 国民年金の学生納付特例制度により,保険料納付の猶予を受けた者が保険料を追納しなかった場合,当該期間の国庫負担分のみが老齢基礎年金の支給額に反映される。


またまた学生納付特例制度です。

保険料猶予の場合は,免除と違い,追納しないとまったく支給額に反映されません。よって間違いです。


保険料猶予
 猶予は,納付義務がありますが,事情を考慮して,後払い(つまり追納)にしてくれるものです。追納は過去10年までさかのぼって行うことができます。学生納付特例制度と納付猶予制度(若年者納付猶予制度の対象を50歳未満まで広げたもの)があります。
 学生の場合は,本人の所得が規定以下であれば,申請すれば親の所得に関係なく猶予を受けられます。納付猶予の場合は,本人と配偶者の所得が規定以下の場合に申請することで猶予を受けられます。
 猶予の場合は,追納しないと将来受け取る年金額に反映されません。

免除
 失業などで保険料が納付できなくなった場合に,免除してくれる制度です。全額免除と一部免除があります。
全額免除の場合は,国庫負担分(2分の1)が年金額に反映されます。
 生活保護受給者,障害基礎年金受給者は法定免除,失業者やDV被害者は申請することで免除されます。

未納
 保険料を納付しないことです。未納の場合も追納することができますが,さかのぼることができるのは,過去5年分です。年金受給資格を得る期間が25年から10年に短縮されたときに,追納できる期間が2年から5年に拡大されました。

追納
 免除,猶予を受けていた場合,追納することで,将来の受け取る年金額を増やすことができます。


4 雇用保険の保険料は,賃金総額に保険料率を乗じて算出された額を事業主が負担する。


雇用保険は,失業等給付と雇用保険二事業があります。

保険料負担
 失業等給付は,事業主と被保険者。
 雇用保険二事業は,事業主のみ。

よって間違いです。


5 厚生年金保険料と健康保険料の納付義務者は,被保険者である。

またまた納付義務者です。

厚生年金保険料と健康保険料の納付義務者は,事業主です。


<今日の一言>

法制度は,バラバラに覚えると忘れやすい

日本の社会保障の中心は,社会保険制度です。

社会保険制度は,保険という技術を用いて制度設計がなされているので,制度は違っても共通点を見出すことができます。

日本には,5つの社会保険があります。

それぞれをそれぞれ覚えていっても良いのですが,それぞれの共通点と相違点をまとめて覚えたほうが効率的ですし,忘れにくいものです。

2018年7月17日火曜日

社会保障の徹底理解~児童に関する手当のまとめ

「社会保障」と「児童と家庭」の科目で児童に関する手当の出題を整理してみると覚えるべきポイントは以下のようになります。

児童手当

・財源は,国:3分の2,地方:3分の1,事業主も拠出している。

・所得制限がある。

・第1子から支給される。

・支給は,児童が18歳に達する日以後の最初の3月31日まで。

・支給金額は,子ども年齢によって違いがある。

・支給認定は市町村長(児童扶養手当も同様)。




児童扶養手当

・児童扶養手当と児童手当は併給できる。

・公的年金とは併給できない(ただし,当該年金が手当よりも低額だった場合,その差額を支給する)

・児童扶養手当の支給は,扶養義務の程度又は内容を変更するものではない。

といった感じです。


特別児童扶養手当については,「児童と家庭」の科目で取り上げたいと思います。 


それでは,今日の問題です。

第26回・問題141 現行の児童手当制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 

1 児童手当は,児童の年齢にかかわらず同一の金額が支給される。

2 児童手当の支給に要する費用の一部には,事業主からの拠出金が充てられる。

3 児童手当は,児童が18歳に達する日以後の最初の3月31日まで支給される。

4 児童手当は,第3子の児童から支給される。

5 児童手当を受けようとする父母等は,都道府県知事の認定が必要である。

答えはすぐわかることでしょう。

そうです,選択肢2です。

1は,金額は年齢によって違います。

2は,正解。

3は,児童手当の支給は,児童が15歳に達する日以後の最初の3月31日までです。

4は,第1子から支給されます。

5は,市町村長の認定が必要です。


<おまけ>

児童手当は,児童手当法に基づいたものですが,子ども・子育て支援法の「子ども・子育て支援給付」の現金給付に位置付けられています。

子ども・子育て支援給付は,市町村の役割です。

子ども・子育て支援給付は,現金給付のほかに,教育・保育給付があり,認定こども園,幼稚園,保育所への給付などを行います。

子ども・子育て支援法の子ども・子育て支援給付はすべて市町村の役割です。

児童福祉法に基づく障害児支援のように,都道府県の役割はありません。

その理由は,子ども・子育て支援給付の対象サービスはすべて通所だからです。児童福祉法には,通所だけではなく入所もあります。


児童の場合

通所系サービスは市町村

入所系サービスは都道府県

と分かれます。

入所は。親子を引き離すことになるので,高度かつ専門的な判断が求められるので,市町村の役割の範囲を超えます。

高度かつ専門的な判断が求められるにもかかわらず,市町村の役割なのは,介護保険法の要介護認定,障害者総合支援法の障害支援区分認定です。

これらはレアケースなのです。

2018年7月16日月曜日

社会保障の徹底攻略~児童に関する手当③~物価スライド制

児童に関する手当に関する出題は

第22回 社会保障&児童と家庭
第24回 社会保障&児童と家庭
第27回 社会保障&児童と家庭
第29回 児童と家庭
第30回 社会保障

で出題されています。かなり高頻度であることが分かります。しかも「社会保障」,「児童と家庭」の2科目にわたって出題されているだけに絶対に押さえなければなりません。

それでは今日の問題です。

第30回・問題55 児童手当,児童扶養手当に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 児童手当の支給対象となる児童の年齢は,12歳到達後の最初の年度末までである。

2 児童手当の費用は,国と地方自治体が50%ずつ負担している。

3 児童手当の支給額には,物価スライド制が適用されている。

4 児童扶養手当の費用は,国が全額負担する。

5 児童扶養手当の支給対象となる児童の年齢は,障害がない子どもの場合,18歳到達後最初の年度末までである。


正解は,選択肢5です。

1は,15歳到達後の最初の年度末までです。

2は,国が3分の2,地方が3分の1です。

3は,児童手当には,物価スライド制はありません。

4は,国が3分の1,都道府県,市及び福祉事務所設置している町村は3分の2を負担です。

児童手当と負担割合が逆になっていることに着目しましょう。
5が正解です。


<今日の問題で注目すべき点>

国試は,布石を打ってくる!!

国試は,初めて出題する内容は,間違い選択肢として先に出題しておく傾向があります。
そのため,国試では混乱しやすいですが,落ち着けば消去できます。

問題は,その後です。それを足掛かりにして,出題範囲を少し広げてきます。

このような傾向になるのは,試験委員は変わっても,重要な点は同じだということなのでしょう。

今日の問題で注目すべき点は2点です。

<物価スライド制(物価の上下によって支給額も変わる仕組み)が導入されているもの>

 児童扶養手当
 特別児童扶養手当(障害児福祉手当も特別障害者手当も)
 特別障害給付金(無年金の障害者救済のための一時金)

 物価スライド制があるもの → 児童扶養手当,特別児童扶養手当
 物価スライド制がないもの → 児童手当


<児童に関する手当の費用負担>

 児童手当 → 国:3分の2,地方:3分の1 ※事業主の拠出あり。

 児童扶養手当 → 国:3分の1,地方:3分の2

 特別児童扶養手当 → 国:4分の3,地方:4分の1

複雑そうに思えるかもしれませんが,基本的な考え方は簡単です。
国の責任の重さの違いが如実に出ていることに着目しましょう。



特別児童扶養手当(国の責任は大) 

 障害者に対する施策は国際的なものです。障害者基本法の所管は内閣府,障害者政策委員会も内閣府に置かれるなど,特別な位置づけにあります。


児童手当(国の責任は中) 

 子育て支援は,今後の日本のために重要です。そのため,事業主にも拠出してもらいます。


児童扶養手当(国の責任は小) 

 両親の離婚,あるいは死亡は,個別的な特別ニーズです。障害のある児童に給付される特別児童扶養手当,所得制限があっても規定の範囲の児童すべてを対象とする児童手当のように,普遍的なニーズのものとはちょっと異なっています。

力技で覚えるよりも,こういった工夫一つで,とてもシンプルに覚えられるようになります。

2018年7月15日日曜日

社会保障の徹底理解~児童に関する手当~その2

第30回国試の合格基準点は,99点でした。

この点数は,第15回国試から点数が発表されるようになって以来,最も高い点数です。

逆に最も低かった点数は,第25回国試の72点です。

実に27点も差があります。

このような数字を見ると何点取ればよいということがわからなくなってくるでしょう。

そのとおりです。何点取ればよい,ということではありません。

必要なのは,150点中6割程度得点ができることです。

6割程度は,問題の難易度によって変わります。

試験センターでは,受験生の得点データは受験者数,合格者数,年代別合格者数(構成比)のみです。

そのため憶測でしかありませんが,第30回国試で72点以上取った人はほぼ全員,第25回国試で99点以上取った人はほぼゼロだったのではないでしょうか。

ほぼというのはもちろん外れ値があるからです。

ここで注意していただきたいのは,第30回国試で90点取れたからといって,6割程度ではないということです。

6割程度の6割とは,概念的な6割であって,実質の6割ではないということです。

必要な勉強は,今後も変わるわけではありません。

必要なことをきちっと理解して国試に臨めば,合格しますし,あいまいなまま国試に臨めば不合格になります。

さて,今日の問題です。

第27回・問題53 児童手当に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 児童扶養手当が支給される世帯に対しては,児童手当は支給されない。

2 児童手当の支給には,所得制限が設けられている。

3 児童手当は,第2子から支給される。

4 児童手当の支給は,児童が小学校を修了するまでである。

5 児童手当の費用は,国と地方自治体が半分ずつ負担する。

勉強した人は,答えはこれだとすぐわかる問題です。

このような問題で得点できるかどうかが実は合否を分けます。

前回の問題と比べてみましょう。

第22回・問題51 我が国の社会保障制度に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 民間被用者に関する児童手当には,事業主の拠出金がある。
2 健康保険及び国民健康保険には,事業主の負担がある。
3 児童扶養手当の支給は,婚姻を解消した父等が児童に対して履行すべき扶養義務の程度を軽減する。
4 児童手当制度は,所得制限が設けられていない普遍的給付である。
5 児童手当制度は,第2子から支給される。

答えは1でした。

この問題と酷似していますが,まったく同じてはありません。

しかし内容を理解していれば必ず解けます。

今日の問題の答えは,

2 児童手当の支給には,所得制限が設けられている。

第22回国試では,
4 児童手当制度は,所得制限が設けられていない普遍的給付である。
と出題されたものです。

過去問は,何度も解くと答えを覚えてしまう

とおっしゃる方がいます。

それは実はとてもすごいことです。

中には何度解いても解けないという人もいるからです。

しかし,一つ注意してほしいのは,過去問を解くときは正解することが大事なわけではありません。

間違い選択肢もしっかり読んで理解すること。

試験問題に慣れること。

これらを注意することです。


今日の問題を簡単に解説します。

1は,児童扶養手当と児童手当は併給できます。

2は,正解です。

3は,第1子から支給されます。

4は,中学校を修了するまで支給されます。

5は,国が3分の2,地方が3分の1を負担しています。


<今日の一言>

昨日の問題は,第22回国試問題です。

今日の問題は,第27回国試問題です。

児童に関する手当で,第22回国試で,出題されて,第27回国試で出題されなかったものは,

児童扶養手当の支給は,婚姻を解消した父等が児童に対して履行すべき扶養義務の程度を軽減しない。

これは,しっかり覚えておきたいものです。

第29回では問題141「児童と家庭に対する支援」でも同様の問題が出題されています。

こういったところを確実に押さえている人は,6割程度を確実に超えられます。

2018年7月14日土曜日

社会保障の徹底理解~児童に関する手当

社会保障の提供方法には,社会保険方式と社会扶助方式があります。

日本では,社会保険は,年金保険,医療保険,労災保険,雇用保険,介護保険の5つがあります。

社会扶助方式は,税を財源とするもので,公的扶助,社会手当,各福祉サービスがあります。

さて,児童に関する手当は社会扶助方式の社会手当に当たります。



児童に関する手当

一般児童を対象  → 児童手当(児童手当法)
一人親などの児童を対象 → 児童扶養手当(児童扶養手当法)
障害児を対象 → 特別児童扶養手当(特別児童扶養手当法)


これらのうち,財源に事業主の拠出金(こども・子育て拠出金)が使われているのは,児童手当です。

社会扶助で事業主の拠出金があるのはとても珍しいものではないでしょうか。

それでは今日の問題です。

第22回・問題51 我が国の社会保障制度に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 民間被用者に関する児童手当には,事業主の拠出金がある。

2 健康保険及び国民健康保険には,事業主の負担がある。

3 児童扶養手当の支給は,婚姻を解消した父等が児童に対して履行すべき扶養義務の程度を軽減する。

4 児童手当制度は,所得制限が設けられていない普遍的給付である。

5 児童手当制度は,第2子から支給される。 


答えは,ズバリ選択肢1です。

児童手当の財源は,事業主の拠出金(こども・子育て拠出金)と公費です。

公費は,国が3分の2,地方が3分の1を負担しています。

健康保険・厚生年金などと違って,労使折半ではなく,事業主のみが負担しています。

平成30年から,事業主の拠出金(こども・子育て拠出金)の負担が大きくなっています。

そのほかの選択肢も見ていきましょう。

1は,正解。

2は,国民健康保険には事業主負担はありません。

3は,児童扶養手当法に「児童扶養手当の支給は、婚姻を解消した父母等が児童に対して履行すべき扶養義務の程度又は内容を変更するものではない」と規定されています。

4は,児童手当には所得制限があります。民主党政権時代に「子ども手当」が給付されていましたが,同手当は所得制限がありませんでした。

5は,第1子から支給されます。法ができた当初は,第3子から支給されましたが,現在は第1子から支給されています。


2018年7月13日金曜日

社会保障の徹底理解~雇用保険の概要

今日も雇用保険を続けます。

雇用保険の概要を押さえていきたいと思います。

社会保険の基本は,

保険事故

保険者

被保険者

保険料

保険料の納付

保険の具体的内容

これらを意識して,勉強をすすめましょう。

それでは今日の問題です。

第23回・問題54 雇用保険制度に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい 。
1 雇用保険は,都道府県が管掌している。 

2 雇用保険の被保険者とは,適用事業所に雇用される労働者であって,その所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上である者をいう。 

3 雇用保険では,被保険者が離職したことを失業の要件としているので,新卒者であって被保険者でない者が就職できない場合には,失業には該当しない。

4 雇用保険は,自分が失業したときのための保険なので,労働者が自分で公共職業安定所に被保険者となったことを届け出なければならない。

5 失業の発生は国の責任なので,雇用保険の財源は,全額国庫が負担する。


答えは,選択肢3です。

雇用保険が定める「失業」は
被保険者が離職し,労働の意思及び能力を有するにもかかわらず,職業に就くことができない状態にあることをいう。

新卒者は対象となりませんし,離職していても働く気持ちがなければ対象となりません。

他の選択肢も簡単に解説します。

1は,保険者は政府です。

2は,定労働時間が通常の労働者の4分の3以上である者ではなく,一週間の所定労働時間が20時間以上,31日以上雇用されることが見込まれる者です。

3は,正解。

4は,事業主が届出の義務があります。そして保険料の納付義務もあります。

5は,全額国庫負担ではありません。それでは社会保険ではなくなってしまいます。社会保険ですから,社会保険料が主な財源となります。

2018年7月12日木曜日

社会保障の徹底攻略法~雇用保険の整理

労働者災害補償(労災)年金と雇用保険を合わせて,労働保険と呼ばれます。

共通点
保険者は政府
財源は保険料と国庫負担
保険料率は,事業によって異なる(さらに労災保険は災害率によって変わるメリット制のために事業場ごとに異なる)
保険料の納付義務者は事業主
労働者を雇用する事業所には強制適用(雇用保険は農林水産業などは任意適用)


相違点
被保険者
 労災保険 賃金労働者すべて
 雇用保険 ある一定以上の労働時間のある者(継続して31日以上の雇用見込みがあることと1週間の所定労働時間が20時間以上)
保険料負担
 労災保険 全額事業主
 雇用保険 失業等給付は事業主と被用者。雇用保険二事業は事業主のみ
窓口
 労災保険 労働基準監督署
 雇用保険 ハローワーク


今日は,雇用保険を取り上げます。

雇用保険は,昭和22年の失業保険法を昭和49年に改正して雇用保険法となっています。
失業保険から雇用保険に変わってから40年以上立ちますが,いまだに雇用保険のことを失業保険と呼ぶ人がいるのはそのためです。

雇用保険は,失業に備えたセーフティネットの機能があります。しかしそれだけで失業補償を賄えないので,求職者支援法でカバーしています。

基本手当は,雇用保険の中で最も中心的な給付です。

給付を受けるためには,原則として,離職の日以前に2年間に通算12か月以上の被保険者期間が必要です。

倒産や解雇等による離職の場合,離職の日以前に1年間に通算6か月以上の被保険者期間が必要です。

給付日数は,年齢,被保険者機関,その他の条件を考慮して決定されます。

ハローワークが紹介した職業訓練や職業を正当な理由なく拒否した場合は,給付が制限されます。

早期に再就職した場合には,就業促進手当を受給することができます。

さてそれでは今日の問題です。

第25回・問題54 雇用保険の基本手当に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 基本手当は,受給資格者が労働基準監督署において失業の認定を受けることにより支給される。

2 基本手当は,被保険者が転居や結婚など自己の都合により退職した場合には支給されない。

3 公共職業安定所(ハローワーク)で紹介された就職先の賃金がその地域の同種の業務及び同程度の技能に係る一般の賃金水準と比べて不当に低いときには,就業を拒否しても基本手当は支給される。

4 基本手当の給付日数は被保険者期間に応じて定められており,倒産や解雇などの離職理由は考慮されない。

5 基本手当の受給を終了し,受給資格を有しない者は,「求職者支援法」に基づく職業訓練受講給付金の対象者となることができない。

答えは,選択肢3です。

公共職業安定所(ハローワーク)で紹介された就職先の賃金がその地域の同種の業務及び同程度の技能に係る一般の賃金水準と比べて不当に低いときには,就業を拒否することは正当な理由に当たるからです。

それよりもそんな就職先を紹介するな,と思ってしまいます。

そのほかの選択肢も簡単に解説します。

1は,失業認定はハローワークで受けます。労働基準監督署は労災保険の窓口です。

2は,自己理由による退職であってももちろん給付されます。倒産や解雇などによる失業はそんなにあることではありません。

3は正解。

4は,給付日数は被保険者期間のほかに倒産や解雇の場合,年齢などによって決まります。

5は,求職者支援法は,雇用保険をカバーするものです。受給資格を有しない者が対象となります。

2018年7月11日水曜日

社会保障の攻略法~7問の出題になったメリット

社会福祉士の国家試験は,基本的に7問出題される科目と10問出題される科目があります。

この違いによって,出題の傾向も実は違います。

7問の科目は,基本的に出題基準に忠実に出題されています。

余談ですが・・・

今は,現行カリキュラム末期なので,出題基準にはあるのに,出題されてこなかった中項目を埋めるような出題がされるようになってきています。

さて,社会保障の攻略法です。

過去3年間の問題を持っている人は,この科目だけを見てみてください。

制度が変わってすぐ出題されたものがありますか?

制度が変わったところが出題されるよ

これは社会福祉士の国試では実はほとんどないのです。

試験の一般論を述べているに過ぎません。

出たとしても150問中1・2問です。

そんなところに力を入れて勉強するより,確実に取らなければならない問題を正解する勉強が適切です。

参考書を読むことは重要ですが,どのように出題されているかを知ってから覚えていく方法もあると思います。

できるだけ効率的に覚えたいです。

今日の問題に入る前に,前回のおさらいから・・・


<労災保険>
労災保険は,労働者の業務災害と通勤災害に対する保険です。
そのため,労働者を雇用している事業所に適用されます。
雇用形態,勤務時間,国籍に関係なく適用されます。


第26回・問題53 事例を読んで,労働者災害補償保険制度(以下「労災保険」という。)に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
 W国から日本に来たKさんは,家電量販店を営むP社に雇用され,その指揮命令を受けて,積み下ろし作業をしていたところ,荷物が崩れて大けがをした。 

1 Kさんが留学生であり,アルバイトとして働いていた場合,労災保険は適用されず,労災保険給付は行われない。

2 Kさんが故意に負傷の原因となった事故を生じさせた場合であっても,労災保険給付は行われる。

3 荷崩れの責任がP社にある場合,Kさんは,労災保険給付の価額の限度を超える損害について,民事損害賠償を請求できる。

4 P社が労災保険のための保険料を滞納していた場合,Kさんには労災保険給付は行われない。

5 Kさんの負傷が業務上の災害に当たると認定されても,KさんがW国に帰国した場合には労災保険給付は行われない。

正解は,選択肢3です。

前回とくらべてちょっとひねってある分,難しいかもしれません。
これが国試の現実です。

しかし,労災保険の基本が分かっていれば,これしか答えはないです。

ほかの選択肢も確認しましょう。

1は,労災保険は,国籍や雇用形態にかかわらず給付されます。
2は,故意に起こした事故でのけがでは給付されません。
3は,正解。
4は,事業主が滞納していても給付されます。
5は,帰国したあとでも給付されます。自国で医療を受けた際も,適切であると判断されればそれに対しても給付されます。

それでは,もう一問行きます。

第30回・問題53 事例を読んで,労働者災害補償保険(以下,「労災保険」という。)に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
 Aさんは正社員として建設会社に就職した。正社員は他に7名いて,アルバイトとして学生のBさんが雇われている。Aさんは業務上の事由により右足を骨折してしまった。 
1 この会社は,正社員が10名以下なので労災保険は適用されない。

2 Bさんは,学生なので労災保険の適用対象にならない。

3 骨折した事故が労災認定された場合,療養の給付について,Aさんに自己負担はない。

4 骨折した事故が労災認定された場合,Aさんが治療のため会社を休み,賃金が得られなくなった初日から休業補償給付を受けることができる。

5 会社が労災保険の保険料を滞納していた場合,Aさんは,労災保険の給付を受けることができない。

正解は,選択肢3です。ここが医療保険と労災保険の違うところです。

それでは,ほかの選択肢も簡単に触れておきます。

1は,労働者を一人でも雇っていれば適用されます。労働者保護ですから当然です。

2は,学生であってもアルバイトであっても適用されます。

3は,正解です。

4は,休業補償給付は,4日目から給付されます。

5は,またまた滞納です。もちろん滞納していても給付されます。


<今日の一言>

国試は,少しずつ重なっていて,少しずつ違う

前回と今日の問題は同じタイプの事例問題です。

前回の問題

第24回・問題52 事例を読んで,労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
〔事例〕
 Lさんは,飲食店を開くために会社を設立し,正社員としてMさんを雇用したほか,開業当初の手伝いのためにアルバイトとしてNさんを雇った。
1 Mさんが,店に出勤する途中で事故に遭い,けがをしてしまった場合,これは業務上の事故ではないので,労災保険から給付は受けられない。
2 Nさんが,皿洗いをしている最中に,グラスで手を切ってしまった場合,Nさんはアルバイトなので,労災保険の給付は受けられない。
3 Lさんは,飲食店の経営者であり,労働者ではないが,労災保険に任意で加入することができる。
4 Lさんに頼まれ,Mさんが近くのスーパーに足りなくなった食材を買いに行く途中で事故に遭った場合,店から離れてしまったので,労災保険の給付は受けられない。
5 Mさんが仕事の最中に包丁で指を切ってしまったが,Lさんが労災保険の保険料を滞納していた場合,Mさんは,労災保険の給付を受けることはできない。

答えは,3の「特別加入制度」が正解です。

基本を押さえれば,決して難しくないです。

ここが7問科目の特徴です。

しっかり基本を押さえていきましょう。

そうすることで,少し違っているものは,消去法で答えを導くことができるでしょう。

2018年7月10日火曜日

社会保障の攻略法~この科目を苦手だと思わない方法

社会保障は苦手です

という人は多いです。法制度系の問題では,内容が絞りにくいからかもしれません。

この科目で多く出題される内容は,

社会保障給付費(社会支出)

社会保障の発展

社会保険
・年金保険
・医療保険
・雇用保険
・労働者災害補償(労災)保険

介護保険は,過去に1回しか出題されたことはありません。

社会保険が複雑で覚えるのが難しいと思う人は,雇用保険と労災保険だけはしっかり覚えましょう。

この2つは,労働保険と呼ばれ,保険者が1つ(政府)なので制度がシンプルです。

覚えるポイントもシンプルなため,過去問を丁寧に解けば必ず得点できます。


まずは,労災保険です。

労災保険は,労働者の業務災害と通勤災害に対する保険です。
そのため,労働者を雇用している事業所に適用されます。
雇用形態,勤務時間,国籍に関係なく適用されます。

これを押さえて,今日の問題です。


第24回・問題52 事例を読んで,労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

〔事例〕
 Lさんは,飲食店を開くために会社を設立し,正社員としてMさんを雇用したほか,開業当初の手伝いのためにアルバイトとしてNさんを雇った。

1 Mさんが,店に出勤する途中で事故に遭い,けがをしてしまった場合,これは業務上の事故ではないので,労災保険から給付は受けられない。

2 Nさんが,皿洗いをしている最中に,グラスで手を切ってしまった場合,Nさんはアルバイトなので,労災保険の給付は受けられない。

3 Lさんは,飲食店の経営者であり,労働者ではないが,労災保険に任意で加入することができる。

4 Lさんに頼まれ,Mさんが近くのスーパーに足りなくなった食材を買いに行く途中で事故に遭った場合,店から離れてしまったので,労災保険の給付は受けられない。

5 Mさんが仕事の最中に包丁で指を切ってしまったが,Lさんが労災保険の保険料を滞納していた場合,Mさんは,労災保険の給付を受けることはできない。

正解は,選択肢3です。

労災保険には,「特別加入制度」というものがあり,タクシー運転手など個人事業主が任意で加入できる制度です。

そのほかを確認すると

1は,通勤災害になります。通常の通勤経路であれば,途中で保育所によるなどしても適用されます。近年では転勤による異動(単身赴任)などの経路についても適用されるようになってきています。

2は,アルバイト,正社員に関係なく労災は適用されます。

3は,正解。

4は,業務中のけがは業務災害です。場所は関係なく業務中のものは業務災害です。

5は,事業主が保険料を滞納していても給付されます。労災は労働者保護のための保険なので,滞納していたら給付されないのでは本来の目的から逸脱してしまいます。


<今日の一言>

 現場を知っていると法制度の矛盾などを感じることがあるかもしれません。しかし法制度の基本は,国民生活の安定を図るためのものです。

その基本を忘れると解ける問題も解けなくなるので注意が必要です。

2018年7月9日月曜日

社会保障の攻略法~医療保障の基本

日本の医療保障制度は,国民皆保険が特徴です。

基本は,いずれかの医療保険の被保険者,生活保護受給者は医療扶助により,医療を受けます。

医療保険は,

被用者保険(健康保険,船員保険,共済組合)
国民健康保険(市町村国保,国保組合)
後期高齢者医療制度

があります。

健康保険は,中小企業等のサラリーマンが加入する協会けんぽ(前身は政府管掌健康保険),大企業等が保険者の健保組合があります。

それでは,今日の問題です。

第23回・問題52 医療保障制度に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)の前身は,中小企業等で働く従業員やその家族が加入していた政府管掌健康保険である。

2 後期高齢者医療制度の被保険者は,日本に住む75歳以上の高齢者のみである。 

3 後期高齢者医療制度の運営主体は,市町村単位の広域連合である。

4 前期高齢者医療制度は,国民健康保険・被用者保険の各保険者が,被保険者の所得に応じて費用負担を調整している。

5 大企業等で働く従業員やその家族が加入する組合管掌健康保険においては,すべての組合の保険料率は同率である。

現在は,この問題は成立しません。

なぜなら,出題当時は,選択肢1が正解でしたが,現在は選択肢4も正解になるからです。

選択肢4については特に要注意です。

なぜなら,平成29年7月までは,後期高齢者支援金は,各保険者の加入者数に応じて負担していましたが,同年8月から被保険者の所得に応じて負担する「総報酬割」を取っているからです。

選択肢2は,65~74歳も一定の障害状態のある者も対象です。

選択肢3は,都道府県単位の全市町村が加入する広域連合(後期高齢者医療広域連合)が保険者となります。

選択肢5は,組合健保の保険料率は,規定の範囲内で,各保険者が決定しているので,保険料率は同じではありません。


<今日の一言>

現在は高齢者医療を現役世代から切り離されて,後期高齢者医療制度かありますが,日本の医療保険は,長く健康保険と国民健康保険の2本立てとなっていました。

健康保険と国民健康保険の大きな違いの一つには,健康保険には被扶養者があり,国民健康保険には,被扶養者という制度はなく,75歳未満の世帯員全員分の保険料を納付します。世帯主が健康保険の被保険者であっても,納付義務は世帯主に課せられています。

日本の社会保険は,社会保険料のほかに公費も使われることが特徴ですが,共済組合には国庫補助はありません。

2018年7月8日日曜日

社会保障の徹底理解~国民年金の保険料の猶予と免除

年金保険は,戦前からある制度を利用して,国民皆年金を形作っています。
その分,制度が少し複雑です。

しかし,整理すれば決して難しくないです。

今日は,保険料の猶予,免除,未納を整理してみたいと思います。


保険料猶予

 猶予は,納付義務がありますが,事情を考慮して,後払い(つまり追納)にしてくれるものです。追納は過去10年までさかのぼって行うことができます。学生納付特例制度と納付猶予制度(若年者納付猶予制度の対象を50歳未満まで広げたもの)があります。

 学生の場合は,本人の所得が規定以下であれば,申請すれば親の所得に関係なく猶予を受けられます。納付猶予の場合は,本人と配偶者の所得が規定以下の場合に申請することで猶予を受けられます。
 猶予の場合は,追納しないと将来受け取る年金額に反映されません。


免除

 失業などで保険料が納付できなくなった場合に,免除してくれる制度です。全額免除と一部免除があります。

全額免除の場合は,国庫負担分(2分の1)が年金額に反映されます。
 生活保護受給者,障害基礎年金受給者は法定免除,失業者やDV被害者は申請することで免除されます。


未納

 保険料を納付しないことです。

 未納の場合も追納することができますが,さかのぼることができるのは,過去5年分です。年金受給資格を得る期間が25年から10年に短縮されたときに,追納できる期間が2年から5年に拡大されました。


追納

 免除,猶予を受けていた場合,追納することで,将来の受け取る年金額を増やすことができます。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題53 国民年金制度の保険料に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 60歳以下の者が生活保護を受給している場合,生活扶助費に国民年金保険料分が加算される。

2 20歳以上の学生は,学生を扶養する親の前年の所得が一定額以下である場合,学生納付特例制度を利用することができる。

3 基礎年金の給付に要する費用に対する第三号被保険者の負担は,第一号被保険者全体の保険料負担から拠出されている。

4 障害基礎年金を受給している場合,国民年金保険料の納付は免除される。

5 若年者納付猶予制度により,保険料納付の猶予を受けた者が保険料を追納しなかった場合,当該期間の国庫負担分のみが老齢基礎年金の支給額に反映される。



正解は,選択肢4ですね。障害基礎年金の受給者と生活保護受給者の保険料は法定免除です。


簡単に解説します。

1は,生活保護受給者の保険料は法定免除です。介護保険の第1号被保険者は生活扶助に介護保険料加算が上乗せして給付されます。

2は,学生納付特例制度は,本人の所得は関係しますが,親の所得は関連しません。

3は,第3号被保険者の保険料は,第2号被保険者の保険料全体の保険料負担から拠出されています。

4は,正解です。

5は,猶予の場合は,追納しなければ,年金額に反映されません。ここが免除と違うところです。

このように,ポイントを押さえれは,決して難しくはないです。

落ち着いて覚えていきましょう!!

2018年7月7日土曜日

社会保障の徹底理解~年金保険の被保険者

日本の社会保険制度は,年金保険,医療保険,雇用保険,労働者災害補償(労災)保険,介護保険の5つです。

5つの社会保険を持っているのは,ドイツと同じです。

このうち,第二次世界大戦以前から存在していた社会保険は,年金保険と医療保険です。
そのうち,いわゆるブルーカラーを対象とした医療保険として制定された健康保険法(1922・大正11年)は日本初の社会保険となりました。

一方,年金は,戦費を調達する目的で,終戦に近い1944・昭和19年に厚生年金法が制定されています。

現在の日本は,国民皆保険,皆年金の国です。それまであった制度を整備して,国民皆保険,皆年金を実現させたために,保険者や種類が複数あります。

その中で,唯一全国民に共通した制度があります。

それが国民年金(基礎年金)です。

年金保険は,被用者を対象とした制度しかなかったため,自営業者,無職者などを対象として1961・昭和36年に国民年金法の施行をもって,国民皆年金が出来上がりました。

その後,1986・昭和61年の法改正で全国民に共通する年金の一階部分となる基礎年金となり,現在に至っています。被用者の厚生年金は二階部分です。

国家試験では,厚生年金の被保険者は,国民年金加入が免除されている,といった問題が出題されることがありますが,厚生年金の被保険者は,同時に国民年金の被保険者でもあります。注意しましょう。

さて,今日の問題は,国民年金の第三号被保険者に関する問題です。

第一号被保険者
 日本国内に住所を有する20~60歳の者で,第一号・第二号被保険者ではない者です。

第二号被保険者
 被用者年金保険の被保険者,共済組合の加入者です。共済年金は,2015年10月に厚生年金と一元化されています。少しシンブルになりましたね。共済年金はなくなりましたが,共済組合は現存し,共済年金の支払業務の代行,医療保険などを実施しています。

第三号被保険者
 第二号被保険者の被扶養配偶者です。被扶養配偶者なので,専業主夫も対象となります。

それでは,今日の問題です。

第28回・問題52 次のうち,国民年金の第三号被保険者になる者として,正しいものを1つ選びなさい。

1 厚生年金の適用事業所で,正社員として1日8時間,週40時間働いている夫(63歳)の被扶養配偶者である妻(61歳)

2 国民年金の第一号被保険者である夫(40歳)の被扶養配偶者である妻(37歳)

3 厚生年金の適用事業所で,正社員として1日8時間,週40時間働いている妻(25歳)の被扶養配偶者である大学生である夫(22歳)

4 国民年金の第一号被保険者である夫(40歳)の妻で,正規雇用の公務員として働いている者(35歳)

5 学生納付特例制度の適用を受けている妻(22歳)の夫で学生である者(22歳)


正解は,選択肢3です。
大学生22歳の夫は,第三号被保険者になれます。

そのほかの選択肢も,前説で間違いポイントは分かると思いますが,一応解説しておきます。

1は,妻は61歳なので対象にはなりません。任意加入する場合は,第一号被保険者となります。

2は,夫は第一号被保険者なので,妻も第一号被保険者として加入しなければなりません。
3は,正解です。

4は,夫が第一号保険者である時点で妻は第三号被保険者にはなれません。さらに正規雇用の公務員というところから,共済組合の加入者であると考えられるので,妻は第二号被保険者となるでしょう。

5は,学生は,第一号被保険者です。学生納付特例制度は,保険料の納付を猶予してもらう制度です。親の年収などは関係なく,学生なら制度を活用できます。

しかし,猶予されているだけなので,追納しないとその期間は年金額に反映されません。
猶予と違い,免除という制度もあります。全額免除の場合は,基礎年金の国庫補助の負担分である2分の1が年金額に反映されます。

失業などで保険料が支払えなくなった場合は,申請によって免除を受けることができるので,すぐ手続きをする必要があります。

なお,基礎年金の国庫補助の負担割合は以前は3分の1でしたが,現在は2分の1に引き上げられています。

この引上げによって,免除を受けている人は,将来の年金額が少しアップすることになります。

2018年7月6日金曜日

社会福祉士は社会保険労務士とは違う!

制度が変わったところが出題される

こんな話をする試験対策講座があると聞きました。

国試を知らない人が講師を務めている証拠です。

制度が変わったところがすぐ出題されるものも150問あるうち,1問くらいはあります。

1問もない年もあります。

制度変更は,受験勉強するうえでとても気になるところかもしれません。

社会福祉士は,社会保険労務士や介護支援専門員と決定的に違うところがあります。

それは,これらの資格は制度を知らないと適切な仕事ができないのに対し,社会福祉士は法制度を取り扱う仕事ではないということです。

法制度が変わってすぐに出題されるものもあります。
それは小さな変更点ではなく,大きな変更点です。

例えば,障害者雇用促進法で雇用しなければならない障害者に精神障害者が加わったなどです。

今取り組んでいる「社会保障」は,法制度の中心的科目です。

出題範囲が広範囲にわたる科目なので,たくさんのことを覚えなければならないと思うことでしょう。

しかし,制度の根幹を学ぶ科目であるため,最新の法制度はほとんど出題されてきません。

ここが社会福祉士の国試の科目である証拠です。

何となく難しそうだな,と思う人も多いようですが,制度の根幹に注意していけば,必ず得点できる科目に変わります。

それでは,今日の問題です。

第22回・問題52 年金制度に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 国民年金の第3号被保険者は,第2号被保険者に扶養されている妻のための制度であり,夫は対象とならない。

2 国民年金の第1号被保険者は農業者,自営業者のための制度であり,被用者は加入することができない。

3 厚生年金と共済年金の一元化を図るための法案が,2007(平成19)年の通常国会に提出されていた。

4 共済年金は公務員のためだけの制度である。 

5 国民年金の第1号被保険者の保険料は,労働者の場合は報酬比例である。

この問題は現在は成立していません。

なぜなら,2015年10月に共済年金は,厚生年金に一元化されているからです。

日本の社会保険は,年金保険,医療保険,労働者災害補償保険,雇用保険,介護保険の5つがあります。

このうち,複数の制度で成り立っているのは,年金保険と医療保険です。

これらは,戦前からあった制度を整備して,国民皆年金,皆保険を作ったために複数の制度かあるのです。

そのほかの3つの社会保険は1つの制度で成り立っています。

さて,今日の問題で知ってもらいたいのは,共済年金は,厚生年金に一元化されてから3年近く経ちますが,その間にこれに関するものは出題されていないという事実です。

一元化に関するものは,制度が変わる前のこの回の出題のたった1回です。しかも法案が提出されていた,というものすごく変な出題のされ方です。

正解は選択肢3です。

年金保険は,5つある社会保険の中では最も複雑な制度です。

国民年金(基礎年金)
厚生年金
そして,それらに老齢年金,障害年金,遺族年金がそれぞれあります。

しかし,制度は複雑ですが,決して深掘りはしないので,その分根幹を押さえていけば,そんなに難しくないです。

そのほかの選択肢も簡単に解説します。


1 国民年金の第3号被保険者は,第2号被保険者に扶養されている妻のための制度であり,夫は対象とならない。

国民年金の第3号被保険者は,第2号被保険者の被扶養配偶者です。妻,夫という区別はありません。


2 国民年金の第1号被保険者は農業者,自営業者のための制度であり,被用者は加入することができない。

第1号被保険者は,第2号,第3号被保険者ではない者が加入します。農業者,自営業者のための制度ではありません。短時間労働者に対する社会保険適用は拡大されていますが,それでも週20時間未満の被用者は第2号被保険者の対象にはなりません。そのため,第1号被保険者として加入しなければなりません。


3 厚生年金と共済年金の一元化を図るための法案が,2007(平成19)年の通常国会に提出されていた。

これが正解です。この法案は廃案になっていますが,その後被用者年金一元化法で一元化が実現しています。


4 共済年金は公務員のためだけの制度である。 

今はこの選択肢は成立しません。なぜなら共済年金は現在厚生年金に一元化されているからです。共済年金があった当時を振り返ると,国家公務員,地方公務員のほかに私学共済もありました。


5 国民年金の第1号被保険者の保険料は,労働者の場合は報酬比例である。

厚生年金の被保険者は国民年金の被保険者になります。しかし,保険料負担はありません。

第1号被保険者の保険料は「定額制」です。保険料が報酬によって変わる「報酬比例」なのは厚生年金です。

<今日の一言>

社会保険の根幹

保険者
被保険者
保険料
保険事故

これらを意識して押さえていきましょう。


2018年7月5日木曜日

社会保障の攻略法~社会保険制度と公的扶助制度の徹底整理!!

社会保障制度の分類方法はいくつかあります。

社会保障制度審議会の1962年勧告では以下のように分類しています。

社会保険制度
社会福祉制度
生活保護制度(公的扶助)

社会保険制度は,社会保険料を財源として,事前の拠出を給付の要件とします。

社会福祉制度と生活保護制度は,税を財源として,事前の拠出を給付の要件としません。

それでは,細部は問題で確認していきましょう。

第28回・問題50 日本の社会保険制度と公的扶助制度の基本的な特質に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 公的扶助は防貧的な機能をもつ。

2 公的扶助は個別の必要に応じて給付を行う。

3 社会保険の給付は,実施機関の職権により開始される。

4 社会保険では原因のいかんを問わず,困窮の事実に基づいて給付が行われる。

5 公的扶助は,保険料の拠出を給付の前提条件としている。

日本の社会保障制度の中心は,社会保険制度です。

先述の1962年勧告では,社会保険制度は一般所得層を対象にした制度だからです。

社会福祉制度は,低所得者層を対象
生活保護制度は,生活困窮者を対象

社会保険制度と社会福祉制度・生活保護制度は,制度設計が違うのは,このようなところにもあると思います。

それでは解説です。

1 公的扶助は防貧的な機能をもつ。

公的扶助 → 救貧的に作用
社会保険 → 防貧的に作用

よって間違いです。その理由は後述します。


2 公的扶助は個別の必要に応じて給付を行う。

生活保護法では「必要即応の原則」があります。

個別の必要に応じて,有効且つ適切に保護を行う原則です。よって正解です。

社会保険は,その社会保険が定めている保険事故が発生することで給付されます。


3 社会保険の給付は,実施機関の職権により開始される。

社会保険の給付は,先述のように保険事故が発生したら,給付されます。

例えば,年金保険の場合は,年齢が65歳になることが保険事故です。

今ならその年齢でも働いている人もいるかもしれませんが,その年齢になれば,稼働所得はあまり望めません。

そのため,貧困に陥らないように給付します。

それが防貧的という意味です。

職権によって開始されるのは,生活保護の中でも,要保護者が急迫した場合に,行われる市町村長による職権保護です。それ以外には,申請によって保護は実施されます。


4 社会保険では原因のいかんを問わず,困窮の事実に基づいて給付が行われる。

生活保護法では「無差別平等の原則」があります。

困窮に陥った理由を問わず保護するものです。したがって,この文章は,公的扶助を述べたものです。よって間違いです。


5 公的扶助は,保険料の拠出を給付の前提条件としている。

保険料の拠出を給付の前提条件としているのは,社会保険です。

よって間違いです。

社会保険は,事前に保険料を拠出することから,受給するのに権利意識を持ちます。

それに比べると,公的扶助は,往々にして受給にスティグマを感じてしまいます。

生活保護の不正受給があると,生活保護受給者に厳しい目が向けられます。

中には,生活保護を受けることを当然の権利だと思っている人もいるかもしれません。

しかし,多くの人は,スティグマを感じながら,ひっそりと生活していることを忘れてはなりません。


(2018/11/16追記)

<社会保障制度の4つの柱(社会保障の範囲)>

1950年の社会保障制度審議会の勧告では,社会保障制度を以下の4つであるとしています。

①社会保険
②国家扶助(生活保護)
③社会福祉
④公衆衛生及び医療

現在は,これに⑤老人保健を含めて,5つが社会保障の範囲となります。

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