精神薄弱児施設は児童福祉法の施設ですから,18歳になったら退所しなければなりません。
しかし成人になったからといって,地域で生活できる体制はありません。また家庭に戻ることも厳しいでしょう。
そのため,18歳を超えても精神薄弱児施設に引き続き入所する人もいました。
親がいなくなっても生活できる施設の創設を求めて,全日本精神薄弱者育成会(現在の全日本手をつなぐ育成会)が,活動を始めます。
それも契機となって,1960(昭和35)年に精神薄弱者福祉法(現在の知的障害者福祉法)ができます。
同法によって,精神薄弱者援護施設が規定されました。
つまりこの法は,もともと児童福祉法に規定される精神薄弱児施設に入所していた18歳以上の知的障害者の生活の場づくりであったと言えるでしょう。
身体障害者福祉法では,生活施設は身体障害者療護施設の創設(1972)までなかったのとは対照的です。
その後,大規模コロニーが全国につくられていきました。
1987(昭和62)年に,身体障害者雇用促進法が改正されて,知的障害者も対象となり,法律名も「障害者雇用促進法」となりました。
1999(平成11)年に,精神薄弱者福祉法が「知的障害者福祉法」に改正されます。
それでは,今日の問題です。
第30回・問題57 障害者福祉制度の発展過程に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 児童福祉施設入所中に18歳以上となる肢体不自由者が増加する問題に対応するため,身体障害者福祉法が制定された。
2 学生や主婦で任意加入期間中に国民年金制度に加入していなかったために無年金になった障害者を対象に,障害基礎年金制度が創設された。
3 支援費制度の実施により,身体障害者,知的障害者,障害児のサービスについて,利用契約制度が導入された。
4 障害者の権利に関する条約を批准するため,同条約の医学モデルの考え方を踏まえて,障害者基本法等の障害者の定義が見直された。
5 「障害者総合支援法」の施行により,同法による障害者の範囲に発達障害者が新たに含まれた。
(注) 「障害者総合支援法」とは,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。
正解は,選択肢3です。
支援費制度は,2003~2005年の3年間の制度でした。この制度で障害者福祉にも契約制度が導入されました。
精神障害者は対象ではなかったことは,しっかり覚えておきましょう。
それでは,他の選択肢も見ていきましょう。
1 児童福祉施設入所中に18歳以上となる肢体不自由者が増加する問題に対応するため,身体障害者福祉法が制定された。
児童福祉施設に入所する18歳以上の知的障害者が増加する問題に対応するために,精神薄弱者福祉法が制定されました。
2 学生や主婦で任意加入期間中に国民年金制度に加入していなかったために無年金になった障害者を対象に,障害基礎年金制度が創設された。
無年金者の救済のために創設されたのは,特別障害給付金です。
4 障害者の権利に関する条約を批准するため,同条約の医学モデルの考え方を踏まえて,障害者基本法等の障害者の定義が見直された。
医学モデルではなく。社会モデルです。この時に「社会的障壁」が加わりました。
5 「障害者総合支援法」の施行により,同法による障害者の範囲に発達障害者が新たに含まれた。
新たに加わったのは,制度のはざまになっていた難病等です。