年金保険が複雑なのは,国民年金(基礎年金)と厚生年金があるからでしょう。
保険事故には,
65歳になること(老齢)
障害があること(障害)
死亡すること(遺族)
の3種類もあります。
組み合わせると6種類にもなります。
老齢年金と障害年金は,給付を受ける人の背景の違いによって,制度が若干異なります。
老齢年金の受給者の多くは保険事故が発生する前は,労働者だったと思います。
障害年金の受給者は,20歳以上になってからの障害と20歳未満からの障害に分かれます。
20歳未満の20歳前傷病の場合は,被保険者期間(20~60歳)ではない時に障害となることになります。
今日は,障害年金に着目したいと思います。
障害年金には,障害基礎年金と障害厚生年金があります。
20歳前傷病の人に給付されるのは,障害基礎年金です。
障害厚生年金は報酬比例なので,保険料納付することによって給付されます。
さて,それでは今日の問題です。事例問題ですが,知識がなければ絶対に解けません。
しかし,障害基礎年金の制度理念が理解していれば,対応可能です。制度理念を理解しているのとしていないのでは,雲泥の差となります。
知らない制度が出題されたとしても制度理念に照らせば,何となく見えてくるものが多くなります。この違いはとてつもなく大きいです。
第29回・問題52 事例を読んで,Cさんの年金の取扱いに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
先天性の視覚障害で,全盲のCさん(25歳,子どもなし)は,20歳になった翌月から1級の障害基礎年金を受給している。これまでは,仕事に就かず,年金以外にほとんど収入はなかったが,今年からU社に就職し,厚生年金に加入した。Cさんの視覚障害は,今後も回復が見込めないものとする。
1 Cさんは,障害基礎年金を受給しているので,厚生年金の保険料を免除される。
2 Cさんは,先天性の視覚障害により,障害厚生年金を受給できる。
3 Cさんは,先天性の視覚障害により,労災保険の障害補償年金を受給できる。
4 Cさんの障害基礎年金は,就職後の所得の額によっては,その全部又は一部の支給が停止される可能性がある。
5 今後,Cさんに子どもが生まれても,Cさんの障害基礎年金の額が加算される可能性はない。
正解は,選択肢4です。
20歳前傷病は,保険料を一度も納付していなくても障害基礎年金の受給資格者となります。そのため,所得によって,支給額に差をつけることで,制度全体の公平性を保っています。被保険者でない者でも受給できる障害基礎年金は特別なものなのです。そこをしっかり押さえましょう。
1は,障害基礎年金受給者は,国民年金の保険料は免除されます。免除されるのは,厚生年金の保険料ではありません。
障害基礎年金受給者のうち,20歳前傷病の場合,ほとんどの人は,障害基礎年金が唯一の所得です。そこからまた保険料を納付するのは,厳しいでしょうし,すでに保険事故が起きているのに保険料を納付するのはおかしいです。
なぜなら,今後発生する可能性のある保険事故は,老齢と死亡です。
しかし,基礎年金同士は併給されません。
つまり障害基礎年金を受給している人は,老齢基礎年金(遺族基礎年金も)は受給できません。社会保険は将来の保険事故発生に備えて,保険料を納付するものです。保険事故が発生しても受給できないのに保険料を納付するのは,実におかしなことです。
それに対して,厚生年金の保険料は,障害基礎年金を受給していても納付しなければなりません。
20歳前傷病では障害厚生年金は受給できませんが,将来の保険事故に対して,老齢厚生年金あるいは遺族厚生年金は受給できます。基礎年金と基礎年金は併給できませんが,基礎年金と厚生年金は併給できます。そのため厚生年金の保険料は免除されないのです。
ここが大きな違いです。
2は,20歳前傷病の場合(この場合場合は先天性の障害)は,障害基礎年金が対象となります。
障害厚生年金は,報酬比例なので,保険料の納付額によって給付額が変わります。保険料納付がゼロの場合は,当然受給できません。
3は,労災保険の保険事故は,業務上と通勤中の事故です。
それらによって視覚障害になった場合は受給できますが,先天性の障害なので,労災保険の保険事故ではありません。
5は,しっかり押さえなければなりません。子の加算は,障害基礎年金,障害厚生年金のいずれにもあります。
整理してみましょう。
障害年金の加算
基礎年金 → 子の加算(人数によっ変わる)
厚生年金 → 子の加算+配偶者の加算
子の加算は,どちらにもありますが,配偶者の加算は厚生年金にしかありません。
配偶者の加算
基礎年金 ×
厚生年金 〇
複雑である故,引っ掛けポイントは簡単に作りやすいです。
しかも制度を覚えていないと正解できません。
出題パターンは以下が考えられます。
障害基礎年金には,配偶者の加算がある。×
障害厚生年金には,配偶者の加算がある。〇
障害基礎年金には,配偶者の加算はない。〇
障害厚生年金には,配偶者の加算がない。×
整理して覚えておけば対応可能です。