2022年11月9日水曜日

ブース,ラウントリーの貧困調査の功績

 歴史が苦手な人は多いですが,イギリスの歴史は覚えておきたい歴史の代表です。


今回のテーマは,ブース,ラウントリーの貧困調査です。


第34回国家試験までの出題回数を調べてみると


ブース 12回

ラウントリー 16回


どちらの出題頻度も高いですが,ラウントリーのほうがより出題頻度が高いようです。


どちらも出題頻度が高いことから,ブース,ラウントリーの貧困調査はとても重要視されていることがうかがわれます。


理由は,貧困調査によって,貧困に陥る理由は怠惰であるなど個人が原因だと考えるそれまでの伝統的な貧困観から,貧困は,社会の仕組みの欠陥から生じていることが明らかにされ,ナショナルミニマム(国家による最低限度の生活保障)という考え方が生まれたからです。


ブースは,貧困の原因は環境などによるものだという当時の思想を否定するために,貧困調査を実施しました。


しかし,得られた結論は,ブースの調査の目的と異なり,貧困の原因は,雇用の問題,環境の問題であることでした。


当時は今と異なり,労働者を守るための政策がなかったためです。


歴史に「もし」はありませんが,ブース,ラウントリーの貧困調査がなければ,資本主義国家は福祉国家にならず,世界中が共産主義国家になっていたかもしれません。


〈ブースの貧困調査〉

ブースの功績は,貧困線という基準を設け,ロンドン市民の約3割が貧困線以下の生活を余儀なくされていることを明らかにしたこと,そして,貧困の原因は,雇用・環境の問題によるものであることを明らかにしたことです。


〈ラウントリーの貧困調査〉

ラウントリーの功績は,マーケットバスケット方式という科学的な方法を用いて,第一次貧困線(生きることがぎりぎりできるような貧困ライン),第二次貧困線(賭博や酒がなければ生活できるような貧困ライン)を設けたことです。


それでは,今日の問題です。


第19回・問題30 貧困研究等に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 ウェッブ(Webb,S.)は,「人口論」(初版)で人口は幾何級数的に増加するが,食料は算術級数的にしか増加せず,救貧法は貧民を増加させるだけであるとして批判した。

2 ラウントリー(Rowntree,B.)は,ロンドンにおいて貧困調査を行い,人口の約3割が貧困線以下の生活にあり,また貧困の原因は,不規則労働,低賃金という雇用の問題が大きいとした。

3 ブース(Booth,C.)は,ヨーク市において貧困調査を行い,労働者の生活は「困窮」と「比較的余裕のある生活」という経済的浮き沈みがあるということを明らかにした。

4 マルサス(Malthus,T.)は,1909年に出された「救貧法及び失業救済に関する勅命委員会」報告書(少数派報告)において,慈善組織協会の系統に属する人たちの考え方を批判し,救貧法の解体を主張した。

5 エイベル-スミス(Abel-Smith,B)とタウンゼント(Townsend,P.)は,「貧困層と極貧層」において,1953/1954年から1960年にかけて貧困者が増大しており,そのうち,34.6%が世帯主が常用労働者の世帯に属することを明らかにした。


この問題を見て「あれっ」と思った人もいるのではないでしょうか。


第34回によく似た問題が出題されています。


この問題の正解は,選択肢5です。

5 エイベル-スミス(Abel-Smith,B)とタウンゼント(Townsend,P.)は,「貧困層と極貧層」において,1953/1954年から1960年にかけて貧困者が増大しており,そのうち,34.6%が世帯主が常用労働者の世帯に属することを明らかにした。


これが,第34回・問題26に出題された

3 エイベル‐スミス(Abel-Smith,B.)とタウンゼント(Townsend,P.)は,イギリスの貧困世帯が増加していることを1960年代に指摘し,それが貧困の再発見の契機となった。


の元ネタとなっているものです。


ブース,ラウントリーの調査によって「貧困の発見」がなされ,エイベル‐スミスとタウンゼントの調査によって,「貧困の再発見」がなされました。


それでは,ほかの選択肢も解説します。


1 ウェッブ(Webb,S.)は,「人口論」(初版)で人口は幾何級数的に増加するが,食料は算術級数的にしか増加せず,救貧法は貧民を増加させるだけであるとして批判した。


人口論で,救貧法を批判したのは,マルサスです。


2 ラウントリー(Rowntree,B.)は,ロンドンにおいて貧困調査を行い,人口の約3割が貧困線以下の生活にあり,また貧困の原因は,不規則労働,低賃金という雇用の問題が大きいとした。


ロンドンの貧困調査を行ったのは,ブースです。


3 ブース(Booth,C.)は,ヨーク市において貧困調査を行い,労働者の生活は「困窮」と「比較的余裕のある生活」という経済的浮き沈みがあるということを明らかにした。


ヨーク市で貧困調査を行ったのは,ラウントリーです。


4 マルサス(Malthus,T.)は,1909年に出された「救貧法及び失業救済に関する勅命委員会」報告書(少数派報告)において,慈善組織協会の系統に属する人たちの考え方を批判し,救貧法の解体を主張した。


「救貧法及び失業救済に関する勅命委員会」(救貧法に関する王立委員会)報告書(少数派報告)で,救貧法の解体を主張したのは,ウェッブ(Webb,B.=ウェッブ夫妻の妻のほう)です。


ウェッブ夫妻は,その後「ナショナル・ミニマム」(国家による最低限度の生活保障)を提唱したことで知られます。


ウェッブ(Webb,B.=ウェッブ夫妻の妻のほう)は,ブースの貧困調査に参加しています。


ウェッブ夫妻が提唱したナショナルミニマムは,その後,ベヴァリッジ報告に組み入れられていきます。歴史はつながるでしょう。

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