スウェーデンは,高福祉・高負担の国として知られます。
しかし,近年の社会支出の国際比較では,実はフランスのほうが高くなっています。
<社会支出の比較>
フランス > スウェーデン > ドイツ > イギリス > 日本 > アメリカ
日本はかなり低い位置にあることがわかります。
さて,今回のテーマは「スウェーデンのエーデル改革」です。
エーデル改革は,高齢者や障害者の長期にわたる医療ニーズへの対応を日本の都道府県にあたるランスティングから,日本の市町村にあたるコミューンに権限移譲したものです。
この改革によって,医療サービスはランスティングが担い,福祉サービスはコミューンが担うという役割分担ができました。
なお,ランスティングは2019年にレギオンという名前に変わっています。コミューンは現在もそのままの名称です。
それでは今日の問題です。
第30回・問題27 各国の福祉改革に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 スウェーデンのエーデル改革は,高齢者の保健医療は広域自治体,介護サービスはコミューンが実施責任を負うとする改革であった。
2 イギリスのブレア内閣の社会的排除対策は,財政の効率化,市場化,家族責任など「大きな社会」理念に基づくものであった。
3 日本の介護保険制度は,給付に要する費用の全額を保険料の負担として,財源の安定を目指した。
4 ドイツの介護保険制度は,障害者の介護サービスを除外して創設された。
5 アメリカのTANF(貧困家族一時扶助)は,「就労から福祉へ」の政策転換であった。
保健医療,介護サービスと言い換えられているので,少し戸惑いましたが,正解は確実に選択肢1です。
1 スウェーデンのエーデル改革は,高齢者の保健医療は広域自治体,介護サービスはコミューンが実施責任を負うとする改革であった。
この問題が出題された時,なぜランスティングと出題したのかが不思議でしたが,1990年代後半から,ランスティングをレギオンに移行させる実験が行われ,2019年に完全に移行したようです。
これではランスティングと出題するわけにはいきません。
それでは,このほかの選択肢も確認します。
2 イギリスのブレア内閣の社会的排除対策は,財政の効率化,市場化,家族責任など「大きな社会」理念に基づくものであった。
イギリスの政策は,サッチャー首相によるものとブレア首相によるものが出題されます。
大きな政府は,サッチャー政権以前のイギリスです。
サッチャー首相は,小さな政府を目指しました。
ブレア首相は,ブレーンであるギデンズの政策を取り入れ,大きな政府でも小さな政府でもなく,「第三の道」を目指しました。
3 日本の介護保険制度は,給付に要する費用の全額を保険料の負担として,財源の安定を目指した。
ドイツの介護保険制度は,公費を用いず,全額を保険料で運営していますが,日本の介護保険制度は,保険料だけではなく,公費を半分使って運営しています。
4 ドイツの介護保険制度は,障害者の介護サービスを除外して創設された。
日本の介護保険制度は,ドイツを参考にして作られましたが,ドイツとの相違点はいくつも見られます。
ドイツの介護保険制度は,日本と異なり,高齢者・障害者,さらには年齢にかかわらず,介護ニーズがある人が利用できる制度です。
5 アメリカのTANF(貧困家族一時扶助)は,「就労から福祉へ」の政策転換であった。
アメリカのTANFが出題されたのは,本当に久しぶりです。
TANFは,クリントン大統領がそれまであった「要扶養児童家庭扶助」(AFDC)を廃止して導入したものです。
国家試験の出題に従えば,AFDCは「福祉」,TANFは「就労」です。
TANFは,受給要件に職業訓練を受けることなどを義務づけたからです。AFDCはこういった要件がなかったために受給者が増大したという背景があります。