2021年9月30日木曜日

サッチャーとブレア

イギリスの政策は,サッチャーとブレアの違いを押さえておきたいです。


資本主義の制度上の欠陥を補うためものが福祉制度です。


資本主義で得た利益を用いて,社会保障を行います。


国が潤っている時は,福祉に多くのお金を使うことができます。


しかし,経済が停滞すると,そうはいきません。


イギリスは,世界に先駆けて産業革命を成し遂げ,大英帝国を築きました。


しかし,今のような労働者を守るような体制はなく,貧困に陥るのは,個人に問題があるからだと考えられていました。それを改めるきっかけとなったのが,19世紀後半に実施されたブースやラウントリーが行った貧困調査です。


20世紀に入ると,救貧法が廃止され,それに代わってさまざまな制度を充実させていきます。

これができたのは,国の経済が潤っていたためです。


次第に経済の中心はアメリカに移り,イギリスはかつての輝きを失い,福祉が国を転覆させかねないようなところまで行きつきます。


そこに登場したのがサッチャーです。


国民の生活に国の関与をなるべく小さくする政策を打ち出していきます。


批判があっても新自由主義的な政策をすすめたことで鉄の女と呼ばれました。


20世紀終盤に登場したのがブレアです。


労働党の党首なので,サッチャーが登場する以前の社会民主主義な政策を取りたいところだったと思いますが,もう以前のようなお金はありません。


そこで打ち出したのが,ギデンズが提唱した「第三の道」です。


第三の道とは,従来のように,福祉ニーズに対してそのまま給付するのではなく,ポジティブ・ウェルフェアと呼ばれる就労に力を注ぐものです。


税金を払ってくれるくらいまでの就労ができればよいのですが,そこまでに至らずともお金を投入することがなくなるだけでも国は助かります。


整理できたところで,今日の問題です。


第22回・問題25 福祉を取り巻く現代社会の動向に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 ウルリッヒ・ベック(Beck,U.)は,『危険社会」の中で,現代社会は,核兵器や環境破壊などの問題が深刻化したため,個人の生活がこれまで以上に集合体に依存するようになっていると主張した。

2 アンソニー・ギデンズ(Giddens,A.)は,社会民主主義的な福祉国家でもなく,サッチャリズムに象徴される市場原理主義でもない「第三の道」という考え方を提唱して,イギリスのブレア政権の福祉政策のあり方に影響を与えた。

3 ダニエル・ベル(Bell,D.)は,『ポスト工業化社会の到来』の中で,ポスト工業化の時代には「新しい知識階級」が,金融や情報に関する新しい技術を駆使しながら「経済学化様式」に立脚した意思決定を行うと主張した。

4 ジョセフ・スティグリッツ(Stiglitz,J.)の著書の題名になった「底辺への競争」という現象は,経済のグローバル化によって途上国が一層,底辺化することである。

5 ロバート・ピンカー(Pinker,R.)は,福祉サービスはインフォーマル部門,ボランタリー部門,公共部門という3つの部門によって多元的に供給されるという福祉多元主義の考え方を示した。



たくさんの人の名前が出てきてそれだけで混乱しそうな問題です。


しかし,答えは選択肢2です。


2 アンソニー・ギデンズ(Giddens,A.)は,社会民主主義的な福祉国家でもなく,サッチャリズムに象徴される市場原理主義でもない「第三の道」という考え方を提唱して,イギリスのブレア政権の福祉政策のあり方に影響を与えた。


サッチャーとブレアの政治手法の違いは,何度も問われています。


サッチャーは,国の立て直しのために「小さな政府」を目指しました。


ブレアは,社会民主義的な「大きな政府」でもなく,新自由主義的(ここでは市場原理主義)な「小さな政府」でもなく,「第三の道」を目指しました。


ブレアに影響を与えたのが,この選択肢に出てくるギデンズです。


それでは,ほかの選択肢も確認します。


1 ウルリッヒ・ベック(Beck,U.)は,『危険社会」の中で,現代社会は,核兵器や環境破壊などの問題が深刻化したため,個人の生活がこれまで以上に集合体に依存するようになっていると主張した。


なんだかよくわからない文章だと思いませんか。


「核兵器や環境破壊などの問題が深刻化したため」という部分が妙に説明的です。


現代社会は,企業のような集合体に依存することから個人主義へと移ります。


産業革命は,大きな資本によって産業化が進みました。財を持たない人は,労働力をお金に変えます。


しかし現代社会は,資本がなくても知恵があれば,財をなすことが可能です。さらに現代ではインターネットが普及し,個人主義が一層進んでいます。


集合体に依存する人もいますが,そうでない人もいっぱい生まれています。


3 ダニエル・ベル(Bell,D.)は,『ポスト工業化社会の到来』の中で,ポスト工業化の時代には「新しい知識階級」が,金融や情報に関する新しい技術を駆使しながら「経済学化様式」に立脚した意思決定を行うと主張した。


「経済学化様式」とは,産業革命に代表されるような,より効率的なものを目指すものです。


ポスト工業化(ポスト産業化)の時代では,効率的なものだけではなく,便利なもの,生活の満足を高めるもの,などが重要になります。


ものづくりの時代から情報化の時代への変化するためです。それをベルは「社会学化様式」と呼びました。


人から「いいね」をたくさんもらうことに価値があるのは,社会学化様式だからです。


4 ジョセフ・スティグリッツ(Stiglitz,J.)の著書の題名になった「底辺への競争」という現象は,経済のグローバル化によって途上国が一層,底辺化することである。


底辺への競争は,近年の首脳会議や閣僚会議の議題に上がってきているテーマです。


法人税を引き下げることで自国に企業を誘致する戦略を取ると,その時は良いですが,さらに引き下げる国が出てくるとそちらに流れます。


底辺への競争とは,限りなくゼロに向かって競争することです。


そのため,そこに終止符を打つために,各国首脳は,法人税を一定以上にすることを話し合っているのです。


グローバル化の時代は,世界基準で判断しなければなりません。「自国ファースト」という自国がよければ,ほかの国のことは知らないという政策は不適切です。


5 ロバート・ピンカー(Pinker,R.)は,福祉サービスはインフォーマル部門,ボランタリー部門,公共部門という3つの部門によって多元的に供給されるという福祉多元主義の考え方を示した。


ピンカーが福祉多元主義の考え方を示したのは正しいですが,福祉サービスの提供主体は

・インフォーマル部門

・ボランタリー部門

・公共部門

・私的部門

・企業福祉


があると述べています。


ボランタリー部門と私的部門のどこが違うのかと言えば,ボランタリーは,非営利組織です。


日本で言えば,NPO法人のようなものです。


私的部門は,慈善活動です。


今日の日本では慈善活動はあまり発達していませんが,歴史的に見た場合は,イギリスのCOSなどが位置づけられます。


企業福祉は,従業員に対して,給与のほかに,企業が提供するものです。


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