食べ物であることを認識して胃に送り込むまでの一連の流れを「摂食・嚥下の5期」といいます。
先行期 |
目の前にあるものを食べ物であることを認識する段階です。 |
準備期 |
食べ物を口に入れて咀嚼し,食塊(しょっかい)にする段階です。 食塊にすることで,飲み込みやすくなります。 |
口腔期 |
舌を含めた口全体を使って,食塊をのどに送る段階です。 |
咽頭期 |
食塊をのどから食道に送る段階です。 ここから先は自分の意思(随意)ではなく,不随意運動となります。 |
食道期 |
食道から胃に送る段階です。 |
それでは,今日の問題です。
第22回・問題6 嚥下に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 一連の嚥下運動は,随意筋の作用でおこる。
2 高齢者において,嚥下障害による肺炎はまれである。
3 脳血管疾患は,嚥下障害の原因疾患の一つである。
4 とろみをつけた食品は,誤嚥の原因となりやすい。
5 食事でむせる場合には,頚部を後屈すると軽快する。
この問題も勉強したことがない人でも正解できるようなタイプのものでしょう。
国家試験問題は,多くの人が思っているほど,複雑ではありません。
しかし,深く考え込むと深い深い迷いの森に入り込んでしまい,二度と出てくることができなくなります。
野球に例えると,慎重になりすぎたピッチャーが,フォアボールで自滅するようなものです。
迷ったときは,シンプルに考えるのが良いです。
それでは,シンプルに考えながら問題を読んでいきましょう。
1 一連の嚥下運動は,随意筋の作用でおこる。
嚥下の5期のうち,随意筋の作用でおきるのは
先行期
準備期
口腔期
までです。
咽頭期
食道期
は,不随意筋の作用でおこります。
2 高齢者において,嚥下障害による肺炎はまれである。
近年では,高齢者の死因のうち,肺炎の順位は少し下がってきていますが,以前は「肺炎は高齢者の死因の第三位です」というテレビコマーシャルをしていたことを覚えている人もいるでしょう。
高齢者と若い人のレントゲン写真を比較するとわかりやすいですが,高齢者は加齢により,のどの位置が下がります。そのために誤嚥を生じやすくなります。
誤嚥は肺炎の原因となりますが,口腔内の雑菌が誤嚥により肺に入るからです。
高齢になると唾でさえ,肺にいることがあります。
そのため,口から食べ物を食べられなくなっても,口腔内を清潔に保つことは肺炎予防にも重要です。
3 脳血管疾患は,嚥下障害の原因疾患の一つである。
これが正解です。
脳血管疾患によって生じる口腔機能の麻痺は嚥下障害を引き起こすことがあるだろうと推測できそうです。
脳血管疾患のある人の半数には嚥下障害を生じるとされます。
理由はさまざまあると思いますが,運動機能の麻痺以外には,脳の損傷によって,むせや積などが生じにくくなることによって,誤嚥がおきやすくなると考えられています
4 とろみをつけた食品は,誤嚥の原因となりやすい。
高齢者の介護現場にいる人は,絶対に間違えないと思いますが,とろみ食は誤嚥の予防となります。
嚥下の5期のうち,「準備期」では食べ物を食塊にします。このとき,とろみがあると食塊にしやすくなるからです。
5 食事でむせる場合には,頚部を後屈すると軽快する。
のどの部分の断面図などを見てみると良いですが,気管は食道より前側にあります。
そのため,首を後屈(首を上げること)すると,気道が開いてしまいます。
誤嚥の予防には,なるべく首を引いて,食事してもらうようにします。
<今日の一言>
この問題を正解するのはそれほど難しくないでしょう。
しかし,国試会場で正解するのは,それほど簡単なことではありません。
国家試験で合格するためには,だれも解けないような難しい問題を正解することではなく,今日の問題のような誰でも正解できる問題でいかにミスしないかが重要です。
日々の勉強は単調でつまらないものかもしれません。
しかし,それは国試でミスしないためにとても重要な勉強です。