2021年9月25日土曜日

都市的生活様式(アーバニズム)

都市的生活様式=アーバニズムは,都市化の進行による生活の変化を表わしたもので,近隣住民への無関心などを特徴とします。

 

近年は,あまり出題されないと思ったら,第33回国試では,以下のように出題されました。

 

 

33回・問題16 都市化の理論に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 フィッシャー(Fiscer,C.)は,都市の拡大過程に関して,それぞれ異なる特徴を持つ地帯が同心円状に構成されていくとする,同心円地帯理論を提起した。

2 ワース(WirthL.)は,都市では人間関係の分節化と希薄化が進み,無関心などの社会心理が生み出されるとする,アーバニズム論を提起した。

3 クラッセン(Klaassen,L.)は,大都市では類似した者同士が結び付き,ネットワークが分化していく中で多様な下位文化が形成されるとする,下位文化理論を提起した。

4 ウェルマン(Wellman,B.)は,大都市では,都市化から郊外化を経て衰退に向かうという逆都市化(反都市化)が発生し,都市中心部の空洞化が生じるとする,都市の発展段階論を提起した。

5 バージェス(Burgess,E.)は,都市化した社会ではコミュニティが地域や親族などの伝統的紐帯から解放されたネットワークとして存在しているとする,コミュニティ解放論を提起した。

 

 

こういった問題が出題されるとやっぱり人名を覚えなければならないと思うかもしれません。

 

もちろん覚えたほうが良いかもしれませんが,人名を入れ替える問題は,はっきり言えば駄作です。

 

知識だけを説いているからです。

 

国家試験の問題には,3種類のタイプがあります。

 

タクソノミーⅠ型(単純な知識の想起によって解答できる問題)

タクソノミーⅡ型(設問で与えられた情報を理解・解釈してその結果に基づいて解答する問題)

タクソノミーⅢ型(理解している知識を応用して具体的な問題解決を求める問題)

 

33回国試の問題は,タクソノミーⅠ型が多かったと言えます。

ボーダーラインが上がったことの理由の一つかもしれません。

 

この問題の正解は,選択肢2です。

2 ワース(WirthL.)は,都市では人間関係の分節化と希薄化が進み,無関心などの社会心理が生み出されるとする,アーバニズム論を提起した。

 

この問題の中で,手がかりになり得るのは,コミュニティ解放論です。そこに気が付くことができれば,正解できる可能性が高まります。

 

それでは,今日の問題です。

 

22回・問題20 産業化・都市化に伴う社会関係の変化に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 社会結合の型は,ゲゼルシャフトからゲマインシャフトへ変化する。

2 第二次的関係よりも第一次的関係が優位になる。

3 核家族的世帯は減少し,三世代世帯が増加する。

4 地域における隣人ネットワークが活性化し,その量も増加する。

5 親族ネットワークの量は縮小し,選択的になり,居住地も拡散する。

 

この問題は,おそらくタクソノミーⅡ型を目指して作られたものだと思います。

単純な知識だけでは解けません。さまざまなことを考えなければ解けません。

 

受験生にとっては大変ですが,出来が素晴らしいです。張り切ったなぁと思います。それに比べると第33回国試の問題は,試験委員の手抜き問題のように見えてしまいます。

 

それでは,解説です。

 

1 社会結合の型は,ゲゼルシャフトからゲマインシャフトへ変化する。

 

ゲマインシャフトとゲゼルシャフトは,社会集団の古典です。

 

ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへ

https://fukufuku21.blogspot.com/2021/09/blog-post_22.html

 

ここで述べたように,社会は,ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへ変化します。

 

2 第二次的関係よりも第一次的関係が優位になる。

 

第一次的関係,第二次的関係とは何だろう? わからないと思うと迷いの森に入り込んでしまいます。

 

タクソノミーⅡ型ですから,知識を応用させなければなりません。

 

さて,どんな知識を使いましょうか?

 

第一次集団,第二次集団というのがありました。

 

第一次集団は,対面的な関係の集団です。

 

第二次集団は,学校,会社,組合などのように,特定の利害関心に基づいて組織された集団です。

 

第一次集団をテンニースに重ね合わせると「ゲマインシャフト」,マッキーバーに重ね合わせると「コミュニティ」に近い概念です。

 

第二次集団をテンニースに重ね合わせると「ゲゼルシャフト」,マッキーバーに重ね合わせると「アソシエーション」に近い概念です。

 

このようなことを考えると

 

第一次的関係 → 第二次的関係 

 

になるように思います。

 

数字の順番も参考になりそうですね。

 

第二次産業から第一次産業へ

 

ではなく

 

第一次産業から第二次産業へ

 

です。

 

この「第一次産業から第二次産業へ」というのが,今日の問題の設問に含まれている「産業化」という意味です。「産業化」とは,つまり「工業化」という意味です。

 

 

3 核家族的世帯は減少し,三世代世帯が増加する。

 

これはないだろうとわかるでしょう。

 

三世代世帯は減少し,核家族は増加します。

 

なぜでしょう?

 

産業社会では,多くの人材を必要とします。そのため,郡部から都市部に人口が流入します。

 

親は故郷にいるので,三世代世帯を構成するのは困難です。

 

4 地域における隣人ネットワークが活性化し,その量も増加する。

 

アーバニズムの特徴の一つは,近隣への無関心です。これもあり得ません。

 

5 親族ネットワークの量は縮小し,選択的になり,居住地も拡散する。

 

これが正解です。

 

よく考えなければ,正解だと思えないかもしれません。

 

かつては,きょうだいが,5人も6人もいるような家庭は珍しくありませんでした。

 

この子どもたちが結婚すると,親族はたくさんできます。

 

現代でも子どもが多い家庭はあるかもしれませんが,それは一般的ではありません。

 

一人っ子同士が結婚すると,親族はお互いの親だけです。お年玉をくれる人は少ないです。

 

多子社会では,おじさん,おばさんはいっぱいいます。お年玉をくれる人は多いです。

 

「選択的」という意味はわかりにくいですが,結婚は,お見合いではなく,恋愛結婚だという意味かもしれません。

 

お見合いだと紹介者が知っている人に限定されるので,そんなに遠くの人とは結婚することはなさそうです。

 

居住地が拡散するというのは,郡部の親元から離れて,都市で生活することを意味します。

 

そして,その子ども同士で結婚すると,親の住んでいるところは,遠いところになることもあります。両方の親が同じ市町村に住んでいるのは,レアだということになるでしょう。

 

という思考をめぐらせて,選択肢5が正解だということになります。

 

<今日の一言>

 

社会福祉士の国家試験は,今日の問題のように,考えさせる問題はそれほど多くはありません。作るのが難しいからでしょう。

 

試験委員は,その領域の専門家ではありますが,国試問題をつくることに関しては,素人です。そう思うと気持ちも楽になりませんか? 

 

日本語的に解けてしまうような問題を見たら,「へたくそ!」と笑えるくらいの気持ちの余裕を持って国家試験に臨みたいものです。

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