自立支援は,実は自治事務に属するものと考えられています。
ケースワーカーがソーシャルワークを発揮する場面でしょう。
さて,それでは今日の問題です。
第29回・問題68 事例を読んで,生活保護制度における自立支援について,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Hさん(55歳)は,仕事中頻繁に飲酒していたことから解雇され,預貯金も底をついたので生活保護を受け始めたところ,アルコール依存症の診断を受けた。担当の生活保護ケースワーカーはHさんと話し合いの上,自立支援の計画を作成することになった。
1 抗酒剤の服用により,飲酒の欲求を抑えることができると説明した。
2 求職活動の前に専門的な医療機関での治療を優先する計画を立てた。
3 飲酒しながら自立生活を営むことができるよう自立支援の計画を策定した。
4 生活習慣を見直す必要があるため,Hさんの意に反して更生施設へ入所させることにした。
5 一度作成した自立支援の計画は,変更できないと説明した。
事例問題は現行カリキュラムでは,4回出題されています。
第24・25回は,解雇等による失業。
第26・29回は,精神障害による失業。
保護に至る理由が変化してきています。
これは,社会問題が複雑化していることを表しているように感じます。
制度とともに,クライエントの背景も考えなければならないので,事例としてのグレードはワンステップ向上していると考えられます。
それでは解説です。
1 抗酒剤の服用により,飲酒の欲求を抑えることができると説明した。
これは間違いです。
生活保護に限らず,医療判断は,医療職が行うものです。ワーカーの範囲ではありません。
このようなことは絶対にあってはなりません。
2 求職活動の前に専門的な医療機関での治療を優先する計画を立てた。
これが正解です。
Hさんは,アルコール依存症です。
仕事中に飲酒して解雇されたことを考えると仕事をしてもまた飲酒する恐れがあります。
最も重視されるのは,アルコール依存症を治療したうえでの日常生活自立だと考えられます。
就労による経済的自立がいつも優先されるものではありません。
3 飲酒しながら自立生活を営むことができるよう自立支援の計画を策定した。
これは間違いです。
Hさんは,アルコール依存症です。
治療には断酒が必要です。
医療の素人が中途半端な計画を立てるのは絶対にあってはなりません。
医療は医療の専門家に任せることが大切です。
4 生活習慣を見直す必要があるため,Hさんの意に反して更生施設へ入所させることにした。
これは間違いです。
更生施設への入所が必要だとしても,自己決定の原則に基づき,Hさんの同意が必要です。
しかしこの場合は,治療が優先されます。
生活習慣の見直しではどうにもなりません。だからこそアルコール依存症なのです。
5 一度作成した自立支援の計画は,変更できないと説明した。
これも間違いです。
対人援助に関する計画は,状況によって変更されるものです。
それは被保護者に関しても同様です。
ケースワーカーはソーシャルワーカーです。そこには自立支援にかかわる専門性があります。