この科目は,現行カリキュラムで新しく加わった科目です。
日本のソーシャルワーク4団体のうち,日本医療社会福祉協会は最も古い歴史を持っています。
医療ソーシャルワーカーのための独自の国家資格実現を目指していたためなのか,社会福祉士のカリキュラムには,当初医療ソーシャルワークにかかわる科目は含んでいませんでした。
その後,同協会が医療ソーシャルワーカーの基礎資格に社会福祉士を位置づけ,実習先にも病院が含まれるようになりました。
そして現在は,診療報酬の加算に社会福祉士が評価されるようになりました。そのため,医療ソーシャルワーカーは実質的に社会福祉士の資格を持つ者が採用されています。
さて,国試の話題に移ります。
現行カリキュラムに加わった科目なので,旧カリキュラム時代には,診療報酬についての出題があったくらいで,実質的にも現行カリキュラムから始まったと考えて良いです。
そのため,前回まで取り上げた「低所得者に対する支援と生活保護制度」とは違い,出題ポイントは安定していないのが実状です。
今振り返ってみると当初は,医療ソーシャルワークを専門とする試験委員が張り切りすぎたような内容に感じます。
ようやく近年になって,内容に安定性がみられるようになり,それに従って医療分野以外の人であっても得点しやすく変化しています。
まずは,医療保険制度を押さえていきたいと思います。
医療保険全体の枠組みは,「社会保障」で出題されます。
この科目では,主に高額療養費制度が出題されています。医療ソーシャルワーカーの業務には,経済的問題の解決が含まれるからです。
高額療養費制度とは,1か月の個人負担金が基準額を超えた場合,超えた分が償還されるものです。
同じ医療保険制度であれば,世帯合算することもできます。
それでは,今日の問題です。この問題は制度改正により成立しません。
第22回・問題63 現行の医療保険制度のうち,高額療養費制度に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 高額療養費の自己負担限度額は70歳未満の場合,所得水準ごとに3つの限度額が設けられている。
2 高額療養費の自己1負担限度額は70歳以上75歳未満の場合,高齢者であることを踏まえて所得水準ごとに5つの限度額が設けられている。
3 高額療養費の世帯合算基準額は,70歳未満の者については同一月における34,000円以上の負担が複数発生した場合はこれを合算して,支給される。
4 12月間に4回以上高額療養費制度に該当した場合,5回目からの自己負担限度額は別に定められている。
5 血友病,人工透析を行う慢性腎不全の患者等の長期高額疾病患者については,負担軽減の観点から自己負担限度額は30,000円となっている。
この問題が現在成立しないのは,自己負担限度額の区分が変更になっているからです。
それでは解説です。ちなみにすべて不正解です。
1 高額療養費の自己負担限度額は70歳未満の場合,所得水準ごとに3つの限度額が設けられている。
現在は,70歳未満の場合は,5区分です。
第31回の国試に限って言えば,自己負担限度額の区分は出題されないように思います。
70歳未満と70~74歳未満では,区分が違うことが分かっていれば十分です。
2 高額療養費の自己1負担限度額は70歳以上75歳未満の場合,高齢者であることを踏まえて所得水準ごとに5つの限度額が設けられている。
現在は,70歳以上75歳未満の場合は,6区分です。出題同時はこれが正解でした。
3 高額療養費の世帯合算基準額は,70歳未満の者については同一月における34,000円以上の負担が複数発生した場合はこれを合算して,支給される。
世帯合算基準額は,21,000円です。
4 12月間に4回以上高額療養費制度に該当した場合,5回目からの自己負担限度額は別に定められている。
高額療養費制度では,12月間に3回以上高額療養費制度に該当した場合,4回目からの自己負担限度額は別に定められています。
5 血友病,人工透析を行う慢性腎不全の患者等の長期高額疾病患者については,負担軽減の観点から自己負担限度額は30,000円となっている。
長期高額疾病患者の自己負担限度額は10,000円です。
<今日の一言>
この問題は,現行カリキュラムの第1回の国試の第22回のものです。しかも1問目です。
近年の問題と大きく違う点は,細かい数字が出題されていることです。
反省したのか,その後,二度と細かい数字を問う出題はされていません。
医療ソーシャルワーカーとしては,経済的問題の解決のためには,細かい数字を理解しておくことは必須でしょう。
しかし,社会福祉士=医療ソーシャルワーカーではないので,そこまでの知識は必要とされなかったというのが,実状ではないでしょうか。
そういう面で,試験委員が張り切りすぎたと感じるのです。